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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.9 【盾の救世主 ―MESSIAH―】
275/364

275話 命の灯火《Count UP》

挿絵(By みてみん)


残された人類

苦痛を伴う


虚空の


 艦橋地区管理棟作戦司令室。

 薄暗い部屋の中にはひりつくような緊張感が敷かれている。


「シックスティーンアイズなおもエネルギー増幅中です!」


「ノア内部エネルギー充填率67%! 次弾装填完了までおよそ8時間です!」


「フレクスバッテリー低出力維持から高出力に切り替えます!」


 ノア管理棟職員たちが慌ただしく駆け回っていた。

 モニター群の浮かぶ一室には性急な気配が満ちて呼吸さえままならぬほど。

 多事多忙。多くのエリートたちによって作られる物々しい様相があふれかえっている。

 元凶は語るまでもない。大型モニターには、禍々しく巨大な暴力が映しだされていた。


「圧縮型惑星間投射亜空砲シックスティーンアイズ……!」


 ミスティ・ルート・ヴィッヒは周囲に悟られぬよう奥歯を食いしばる。

 艦長として毅然と振る舞うことが強制されている。しかし堅く握られた拳には恐れと怒りを秘める。

 焦がれる。いま現在宙間移民船は、焦燥感と攻撃に晒されているという口惜しさの狭間にあった。

 一方的な暴力がついぞこの人類を乗せた最後の希望に超長距離攻撃を行いつづける。

 35万km先の惑星から放たれる超高密度のレーザー。人々に為す術はなく永遠とも錯覚する恐怖に藻掻き苦しんでいた。


「星間探査ドローンの完成によって現在常時明確な視認が可能になっただけでも進歩といえるでしょう」


 険しくモニターを睨む彼女の隣には、秘書が追随していた。

 藪畑(やぶばたけ)笹音(さざね)は、掴みどころの笑みを広げてモニターを仰ぐ。


「しかし……あれではまるでB級映画(ホロ)にでてくるエイリアンですね」


 より最新となった機材によって敵の姿は克明に映しだされていた。

 目を背けたくなるようなおぞましさが画面いっぱいにあふれているといっても良い。

 上体を反らすような斜面を支える2本の支柱。そして天空の先端におどろおどろしい赤目が16ほど、ひしめく。


「16の瞳は遙か彼方の宇宙をたゆたうノアを見つめている。数万の人類を乗せた希望を死の星から見上げ、そして理由もいわずに狙う」


 藪畑は歌うように囁いた。

 儚げな微笑によって細められた目は、笑っているようで、そうではない。


「もし連中全員との対話が可能だったとして応じたいと思うか」


 ちら、と。彼は別モニターを一瞥する。

 ノアの船外カメラにはうじゃうじゃ蠢く異形がびっしりと六角連鎖体のバリアに群れていた。

 と、藪畑は深いたっぷりに眉をしかめ、肩をすくませる。


「それは、是非ご遠慮願いたいところです」


「私もそうだ。敵は対話する口をもたない。我々人類にとって唯一の救いだろう」


 差し迫っていた。逼迫と言い換えても良いほどに。

 オペレーターたちがそれぞれの計器に張り付き24時間体制で敵の監視を行っている。

 しかしそれも今日という日を迎えるための前段階でしかない。

 起点たり得るか。ノアひいては人類の未来を決める運命が本日決まろうとしていた。


「定刻です。ご指示のほうを」


 時刻を確認した藪畑が腕章に手を添える。

 軽妙な所作で身体ごとミスティのほうへ向き直りながら敬礼を送った。

 それにミスティは浅く顎を下げて応じ、開いた手をかざす。


「それではこれより敵勢存在に対しテスト射撃を敢行する! ここがターニングポイントとなり得るかもしれない! 職員たちは持ち場にてデータのとりこぼしのないよう収集に務めよ!」


 勇ましく雄麗な鶴の一声がオペレーションルームに響き渡った。

 これによって冷水を巻いたかの如くいっぺんに空気が引き締まる。


「人類がただ壁に籠もって震えているだけではないことを連中に見せつけてやろう!!」


 「一斉射開始ィ!!」雲霞の如く時動く。

 司令塔からの発付される。天下あまねく未来への強行。

 これにより管理棟の制服に身を包んだオペレーターたちが一斉に行動を開始した。


「機関砲1番から10番までオールグリーン!」


「ロックオン完了! 過電圧までの到達を確認! 大型電熱砲もいけます!」


「弾倉内部に1発も弾を残すなッ! 炸薬以外は全部くれてやるつもりで撃ちまくれェッ!」


 ノア外装が解放されて無数の武器が出現する。

 新装した銃火器や砲塔らが白き船体からハリネズミの如く突き立つ。

 フレクスバリアに張り付く有象無象の粒たちへと一斉に射撃を吐きだしていく。

 人如きの造りだした人を破砕するための兵器たち。これらすべてが英知と紙一重な殺戮兵器に他ならない。

 そして着弾と同時に在った命がかき消えていく。粉々になった敵の残骸が霧散し、宇宙の藻屑となって消え失せる。

 およそ10秒にも及ばぬ一斉射。オペレーターたちは片時も画面から目をそらすことはない。


「成果のほうはおおよそ上々ですね」


 藪畑がいつもの調子でそう告げた。

 誰もが自信を持てなかったであろう場面。

 しかしこの優秀な男がそう表するのであれば、視界は正常だということ。

 ノアによる射撃によってバリアに張り付いていたはずの異形たちは散り散りになっていた。

 成果上々。これにはミスティでさえたまらず肺に溜めていた酸素を吐ききる。


「これでまずは肩の荷が1つ下りたな。我々の兵器はひとまず敵に効くことが判明した」


「実証と結果ばかりはなににも勝る現実ですからね。絵に描いた餅はしょせん絵空事ですので」


 舞いこんできたのは朗報だった。

 準備期間が長かっただけにオペレーションルーム全体の空気が和らぐ。

 それは艦長であるミスティも同じこと。気を引き締めつづけるというのは存外応える。


「これでアザー強襲に向けての枷となる小型どもを払いのけることが出来る。人類総出撃を迎えるにあたってもっとも懸念していた部分が解消された」


 ここでD-dayと口にしなかったのは、責任のある立場を弁えていたから。

 正式名称は、Landing on the Planet of Death――死の星アザーヘの降下作戦を意味する。

 作戦の内容は至って単純かつ明快。主目的は、死の星へ降り立ち16瞳を討伐撃破すること。

 つまり人類のやるべきことは1人でも多くの戦士を死の星に降下させねばならぬ。そのため小型たちは作戦の障害とみなされていた。


「いまの射撃だけでかなりの数を減らすことが出来ましたね。当日はこれに加えてミサイルなど銃火器もアクティブになりますから殲滅も見えてくるでしょう」


「だがすぐにまた敵の源泉である亀裂が現れることも想定すべき懸念だろう。敵の最大数が未知数だからこそ油断出来ん」


 ひとまず力が抜けたとしてなおも予断は許されていない。

 亀裂から発生する敵の数は未だ底を知らない。無限に湧きつづけてはノアに群がるのだ。

 これを悪夢と呼ばずしてなんと形容できようか。終わらぬ悪夢に惑う人類の精神状態は限界に近づきつつあった。

 苦悩を噛みしめるミスティの傍らでは、藪畑が密かに安堵の笑みを深めている。


「それにしても先代艦長の置き土産が早速必要になるとは思いもよりませんでした」


 彼はいついかなるときでさえ笑みを絶やさない。

 同僚たち曰く人を食ったような性格と揶揄されることも多いなのだとか。

 しかしミステリアスさをまといながらも整った風貌に、転じて女性たちからの人気も高いという。

 藪畑は、アレクナノマシンから出力されるモニターを指でスライドさせていく。


「船倉をひっくり返せばノアに換装可能な連装砲、機関砲、そして膨大な電力を造りだす巨大太陽光パネルまで。まるで彼はこの宙間移民船を強襲揚陸艇ならぬ揚星艦にでもしたがっていたかのようですな」


 眼前に浮いた半透明のモニターには、ノアの簡略的な全体図が映されている。

 と、そこへ後方待機していた1人が勇ましく前へ歩みだす。


「したがっていたのではなくするつもりだったの間違いだろう! なにもかもが気色の悪いほど整いすぎている!」


 焔源馬の気合いの乗った声が轟いた。

 現最高権限をもつチーム四柱祭司(スクエアプリースト)もまた総指揮の立場にある。


「ばちくそ野郎が造ったにしてはばっちクールじゃんっ! 天下の回り物ってことで有意義に使っちゃおうっ!」


「でもアザーとの物流が止められている現在となっては資源に限りはある。弾薬等の素材を船内から掻き集めたところで膨大な敵の数には及ばないわ」


 彼の背後では、チームメンバーであるクラリッサ・シャルロッテ・赤塚や柳楽なぎら紗由さゆも待機していた。

 クラリッサの首に掛かったヘッドフォンからはついぞリズムが漏れでている。

 それを紗由は神経質そうな眉を寄せながら怪訝げに横目で睨む。


「ここは厳粛な場よ。こんなときくらいもっと慎みをもちなさい」


 パラダイムシフトスーツが沿う幅広い腰に手を添え、ふんすこ頬を膨らせた。

 クラリッサは眼より大きい眼鏡の奥でほくそ笑む。

 どころかヘッドフォンを小柄な頭に被ってしまう。


「ウチはノーミュージックノーライフだから死んでも音楽は切らさないもんねー! おかげで説教臭い声とかなにも聞こえなーい!」


「んもうまたそうやって場をかき乱そうとするんだから! 貴方も由緒あるアカデミーの講師に選抜されているのだからもっと模範になる態度を示さなきゃダメよ!」


 まるで姉と妹のように気の抜けたやりとりだった。

 とはいえ彼女たちが四柱祭司である。現状の人類でもっとも優秀であり、F.L.E.Xの頂点にいるということに変わりはない。

 作戦まであと3ヶ月を切っていた。人々のアップグレードを図るためには優秀な人材はいくらいても足りない。

 これから来たるは人類の存続か、あるいは種として生きた過去と未来の抹消。どちらにせよ眼前の敵とは戦う以外の選択肢はなかった。

 源馬は計器を眺めながらシャープな輪郭に手を添える。


「これが改修を終えた最新式の戦闘用ノアか。……幾度ならば放てる?」


「作戦の期日までには全砲門を解放できるくらいには弾薬が揃う予定です」


「ならば1度きり敵を抑圧することが可能というわけだな」


 ええ。藪畑は淀みなく首を縦に揺らす。



(区切りなし)

最後までご覧くださりありがとうございました!!!!!!!



挿絵(By みてみん)


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