25話【五芒VS.】希望なき超過兵器 宙間移民船『NOAH』 2
「チェックB到達! カウント誤差修正-4!」
夜を連れて闇を斬る。
新車のバイクはアクセルを軽く捻るだけで吹けるほどに反応が良い。しかもフレーム剥き出しのトライクとは違い流線型のカウルが風を受け流してくれていた。
サイズが僅かに大きいフルフェイスヘルメット。ノアの作り出す人工的な空気がマウスガートから猛烈に吹き込んでくる。
「正規カウント更新! 5、4、3、2、1!」
愛のハキハキとした声が風と駆動音を縫うように鼓膜をかすめる。
ここはまるで森だ。人工的に作られた建造物たちの生えそぼる密林。
少なくともミナトにはこの景色が現と夢の混在した幻想であるかのように見えていた。
似た形をしたビルがそびえ立ち端々まで連綿とつづく。
クォーツの如く透明な窓ガラスを透かして奥にあるのはオフィスだろうか。あちらには外に晒したテーブルや椅子が置かれておりフードコートのような感じだ。
――ここが……宙間移民船ノア? 天上人の住む理想郷なのか?
空には星が無限に瞬き、地にもまたアスファルトに植えられたライトが輝く。
なのになぜ。瞳だけを動かして周囲を確認してみるも、人っ子1人いやしない。
眠れぬ夜に出歩く人も、盛り場で夜を満喫する若者も、仕事帰りにくたびれ果てた男でさえ存在していない。
日の落ちた街はさながら未来のゴーストタウン同然だった。まだ死の星アザーのほうが活気づいている。
「よそ見しちゃダメだよ! 次の50m先を右折して!」
「ッ! 了解!」
ミナトは愛の指示通りに反動を付けて体重を右へ流す。
十字路を鋭角に右折してなお速度が衰えることはなかった。
「とっても上手! そのまま速度の維持をつづけて!」
よそ見などするものか。生きることに関して言えばこちらは熟練。多少内容は異なっていたとして集中力が乱れることはない。
しかも大地は砂でないためタイヤが持って行かれる心配もなかった。整備されきった平坦な土瀝青にゴムが食らいつく。
――アザート比べて走りやすい! これならどんなことがあっても転ぶ心配はない!
ここまではおおよそ順調というミナトの評価は間違っていないはず。
見飽きるほど同じビル群の景色が流れていくばかりで迷いそうになるが、そこは愛がサポートする。
「カウントに誤差修正なし! このまま直進指示をしプランイレブンを続行! 5、4、3、2、1!」
彼女は先ほどからずっと空間に浮かべたモニターにかかりきりだった。
画面上に忙しなく指を滑らせながら地図と思しき面にチェックを付けたり、拡大縮小を繰り返す。
そうやって絶え間なくこちらの情報をどこかへと伝え、出先不明な回線に指示を与えていく。
――どこの誰と会話しているんだ? チームごとに指示役がいるらしいけど、それにしても相手の数が2つ3つとは思えないぞ?
飛び交う情報の羅列にミナトが入りこむ猶予なんてなかった。
当然ALECナノコンピューターからも愛の声が。現実の声と重なって聞こえてきている。
――っていうかこの革命ってどれほどの規模の……ッ!!
意識が思考の海から現実へと引き上げられた。
ミナトの視界が異変を察知する。
傷ひとつないシールド越しに暗黒の向こう側に灯る赤い光を認識した。
そしてその姿は画面向こうで見たものと遜色ない姿形のまま現実に降り立っている。
「あれは、っ!? 執行者か!?」
ミナトは、ハンドルのスイッチを親指で弾いてハイビームに切り変えた。
照らされた道の先およそ200mほど。直線へ上がった先で人型の模型のような物体が棒立ちになっている。
それからALECナノコンピューターへ耳馴染みのない音が響き渡った。
『規定時間外ノ外出ハ禁止サレテイル。タダチニ停車シ、執行者ノ指示ニ従ッテ厳罰ヲ受ケナサイ』
人へ寄せてなお機械だとわかるくらいに不気味な音色だった。
しかも物騒なことに執行者はすでにこちらへ構えている。手にした突撃銃と思しき筒の出口が、しっかりとこちらを捉えている。
その佇まいから考えるに、執行者は待ち受けていたのだ。この時速50kmをキープしつづけているバイクの順路をあらかじめ予測しあそこに立っている。
ミナトが焦りと恐怖を同時に発症するだけの環境が整っていた。
「あちらさんはあんなこと言ってるぞ!? なんで警告の段階で銃を向けられなきゃならないんだ!?」
「すり抜けてもいいし突っ込んでもいいよ! 速度を50kmにキープさえしていてくれさえいればそっちの好きにしちゃっておっけー!」
そう言って愛は腕に力を籠めてミナトの背に引っ付いた。
薄く華奢な身体の全体が骨の浮いた背に密着する。じんわりと体温が伝わってきてほのかに柔らかく温もりを教えてくる。
だが愛の言うとおりにこのまま進めば追突する以前の問題だった。間違いなく到達する前に銃の餌食にされる。
「じゃあ今すぐ左折して逃げてもいいかね!?」
ミナトが荷重移動の動きを見せると、2つの声が重なる。
「お願い! 僕たちを信じて!」
『警告ヘノ応答ナシ。コレヨリ強制的ニ停止サセル』
感情の籠もった叫びと、抑揚のない音色が、同時に耳へ飛び込んできた。
選択する権利はこちらにある。しかし思考する猶予はもう1秒足りともありはしない。
「くッ――そォッ!!」
ミナトは腹を括った。
機械に従って死ぬよりは、女子に言われて死んだ方がまだマシ。
そして無思考の末とった行動は、正面から突っ込んで黙らせる、だった。
執行者の構えるライフルの銃口が無情にもマズルフラッシュを吐く。
『反抗ヲ確認――射撃開始』
確実にレーザーサイトがミナトの肩付近を狙っていた。
こちらは時速50kmで、あちらの銃弾の初速は控えめに見ても初速で800m/sほど。
どう足掻いても発射された鉛玉は人の肉を抉る。
――こんな場所で死ぬッ!? なにも、オレはなにも出来ないまま終わるのかッ!?
トリガーが引かれたことで襲い来る死を予感し、片目を瞑った。
銃弾は確かに放たれた。なのに痛みさえ感じない。
ミナトは恐る恐る顔を上げる。
「蒼い――球体!? これもフレックスか!?」
蒼い膜が赤く灯る敵の目を透かす。
いつの間にか半球体状の光がバイクを丸ごと包み込んでいた。
そして今なお乱射される敵の銃弾のことごとくを防いでいく。
形勢逆転。あちらの攻撃が届かぬのであればやるべきことは決まっている。
「邪魔だガラクタがァ!!」
蒼い光をまとったバイクが50kmを保ったまま執行者の身体を跳ね飛ばした。
ぐしゃぁ、というどこか爽快感すら覚える音とともに機械の身体が宙へ投げ出される。
質量カケル速度イコール力。2手2足如きの人並みな体重では100kgを超えたバイクの衝撃に耐えきれるはずがない。バックミラーに映るころにはとうに火花を上げながら事切れていた。
「ナーイス! ちなみにあれ1体でそこそこなお値段と素材を使うけどね!」
「それ今言う必要あったか!? っていうかこのバリアみたいな膜はいったいなんだ!?」
愛の屈託ない声を聞くだけで死にすくんだ全身から力が抜けた。
なおも半球体状のバリアは、バイクと同速度で移動し、守りつづけている。
「このバイクに積んでいるフレクスシールドが発動したんだよ! フレクスバッテリーに貯めたフレックスを使って壁を作る機構だね!」
「ホウレンソウって知ってるかね!? そういうハイテクなもの積んでるなら先に言っておいてくれない!?」
ごめんっ! そんな真っ直ぐな瞳で謝られたのなら「許す!」しかないではないか。
「バッテリーの残量が速度メーターのところに表示されているよ! それがなくならない限りはバリアが守ってくれるから!」
言われて見れば、速度表示の端の当たりに『F.L.E.X.残量93%』という文字が書かれている。
未来様々だった。しかも彼女の発見したバッテリーという機構がまたも命を救ってくれた。
――裸同然で放り出されたってわけでもなかったか。
バリアのおかげでミナトも――少しだけ――心に余裕を持つ。
だからといって執行者に見つかれば問答無用で発砲してくるのだから油断できる状況ではない。
「……ん?」
と、なにかが闇を横切った。
ミナトにははっきりと見えなかった。だが視界の端に映るビル群の屋上辺りになにかが動いた。
しかも1度や2度ではない。複数の影がときおりビルの上で動いたかと思えば、一瞬だけ通り過ぎた路地を挟んだ向こう側でも動く。
明確な人の気配だった。闇の落ちたこのゴーストタウンのなかになにかがいる。それも複数、かなり多い数。
「……なんだ? なにかがオレたちの進む両側をバイクと同じ速度で併走している?」
「次は左! そのあとの十字路でも左!」
「お、了解!」
愛の指示に引き戻され乱れた集中を研ぎ澄ます。
これではまるでゲームだ。すべての路地を走って巡り網羅すればゲームクリアーとなるローカルゲーム。
蜘蛛の巣のように張り巡らされた道をひたすらにバイクで駆け巡りつづける。体力の消耗こそないが、死と隣り合わせる精神的消耗はかなりのもの。
しかし死神の異名を持つ少年にとっては日常の範疇でしかない。死を踏みながら臓物の山の上に佇むことには慣れている。
『標的ヲ確認』
「――また敵かッ!?」
どちらが死神だというのか。
その音色を聞くだけでドクンと心臓が跳ね上がった。
『犯行ニ及ビ執行者ノ破壊……――処置ノ対象』
『処置ノ対象、確認。発砲ニ寄ル無力化ヲ許諾』
『無力化ヲ承諾。以降アノ人間ノ生死問ワズ――刑ヲ執行ス』
先ほどのはどうやら本当の警告だったらしい。
……あらら。絶望的な光景を前にミナトは意図せず片側の口角を引きつらせる。
2つ、4つ、6つ。これ以上は数えない方が脳の健康に良いだろう。数えることさえ面倒な数の機械生命体が正面道路を完全に封鎖していた。
左右にあそこを避けられそうな大路地もない。かといって速度を落とし反転すれば銃弾の雨を受け続けることになってしまう。
1分ぶりに絶体絶命の危機が待ち受けていた。なのでミナトはいちおう愛に尋ねてみることにする。
「どうする!? バッテリーとやらはあれに耐えられるのか!?」
「たぶんバッテリーはもつはず! 僕たちを信じて!」
9割方予想通りの回答だった。
愛は口を開くたびに幾度となく信じろ信じろ、と繰り返す。
そしてその際、ミナトの腰に回した明らかに震えた手へぎゅうと力を籠めるのだ。そうやって凍えているかのような身体を押しつけながらしがみつく。
半球体をまとったバイクが敵のバリケード目前にまで迫る。雨あられとばかりに精密な射撃がミナトたち目掛けて降り注ぐ。
「っ!? 屋上の上に人影がいるぞ!?」
ミナトは限界まで研ぎ澄まされた集中力によってとある影を認識した。
視界の端。それも立ち並ぶビル上に複数ほど。
『リベレーターを目視した。これよりチーム《キングオブシャドウ》は、リベレーターの排除任務を敢行する』
次々と現れる。ビル上の少女たちは身体にまとっていた透明な夜のヴェールを脱ぎ捨てる。
現れたのは肉体を浮かすパラスーツに身をまとった天上人たちだった。
しかも手には長物――ロングバレルの銃を手にし、こちらに向かって構える。
「うそっ!? 東の計画通りなら《キングオブシャドウ》は別のチームと競り合っているはず!?」
ここにきて愛が初めて動揺して見せた。
するとまるでこちらの声が筒抜けであるかのように平坦な音が回線に割り込んでくる。
『こちらの指揮官はミスティ・ルートヴィッヒ。このていどの策略を張り巡らせたところで彼女の前には目くらましにもならない』
次いでバリケードへ突入すると同時にバリアの右斜め前方の屋上でマズルフラッシュが瞬いた。
ロングレンジによる精密な射撃だ。執行者たちは跳ね飛ばしたものの弾丸を受けたバリアが波紋を作ったまま固まっている。
弾丸の衝撃が内部へと襲いかかりミナトの全身を音の圧が叩く。
「ぐぅッ!? バリケードは突破したけど今ので10%近く持っていかれたぞ!?」
「フレックスで強化した弾丸を飛ばしてきてるんだ! だから音と衝撃に注意して!」
音に脳を揺すられ目がちかちかした。
バリケードに突っ込み無事突破したとはいえあまりにフレックスの消費が激しすぎる。
無事に関門は突破したがもう数発食らっただけでバリアはなくなるだろう。このままでは近い未来にバイクのゲージがEを指すことになる。
「それ以上撃つのをやめて! 僕たち人間同士が争う必要なんてもうないんだよ!」
愛が射手に悲痛な叫びで訴えかけた。
対して相手からの返答に感情はない。
『バカなことを言う。始めたのはそっちが先』
声は恐ろしいまでに淡々としていた。
そして2発目もバリアを直撃し、ゲージをもっていく。しかも初弾と同じミナトの頭にぴたりの位置だった。
人をスコープに捉え慣れているとしか思えない。それでいて感情までも熟練者顔負け名冷淡ぶり。
「始まったのは今じゃないよ! 本当は我慢していただけでもっと昔からずっとつづいているのを無理して無視していただけなんだ! だから僕たちは今からその未練に終止符を打たなきゃダメなんだよ!」
『だからそれが勝手だと言っている。望まない人々に夢を押しつけるのはただの傲慢』
ぷつり、と。慈悲無き音の後、返答は途絶えた。
悲痛な愛の叫びは届かなかったらしい。まさに聞く耳持たずといった様子だった。返答をくれただけでも感謝すべきなのかもしれない。
しかももう隠れる必要はないとばかりだ。ビルから堂々と身を晒した蒼き光が複数こちらへ射撃を繰り返す。
「で、どうするんだ!? 予定変更とかプランBとかなんかあるんだろうな!?」
ミナトは射撃の圧に耳をやられつつ姿勢を低く保つ。
こうなっては誰にだって作戦が上手くいっていないことくらいわかるというもの。
いちおう左右に車体を揺らしながらよける動きを交えつつ、愛へ問う。
「……じて」
「ああ!? なんだって!?」
返ってきたのは蚊の鳴くような声だった。
バイクやら風やら射撃音で容易にかき消されてしまうほどか細い声、否。そのどちらでもない。
愛は縋り付くようにしてミナトに震えた身体を押しつける。
「お願い……! 信じてぇ……!」
「さっきっからそればっかだな!? もっと具体案とか解決策とか――またバリケードかッ!?」
次に見えた要所は、これまた手が込んでいた。
道を塞ぐよう物体のバリケードが並ぶ。しかも機会生命体だけならまだしも今度は人まで付いている。
『く、くるなァ!! ただ俺たちは生きていたいだけなのにどうしてまたお前らは過ちを犯そうとするんだァ!?』
しかもどう見たって戦える装いではないのだ。
白衣をまとった細身の男たちが足をすくませながら必死に守っている。
携行に向いた小型銃を構えて哀れに泣きじゃくっていた。
『お前があの男のところに辿り着けばノアの民はもっと苦しむことになるッ!! だからもうここで因縁は断ち切るべきなんだァ!!』
敵側が用意したのか、はたまた慟哭に咽ぶ彼ら自身がこの戦いに身を投じたのか。
どちらにせよだ。ミナトはあそこに突っ込むことが出来ない。
「上手いな……もし狙ってやってるんだとしたら最高にクソだよ」
救うためにこの場にいるのだ。決して殺すためではない。
これ以上自身の手で骸を作れば壊れる。きっと心が音を立てて崩れる。
たとえそれが見ず知らずの人間でも、こうして世界を巡り合わせてしまった時点で記憶してしまっている。
「なあ、愛……いや東聞いてるんだろ? ここからどうやって裏返す?」
ミナトはこの場にいない人間へと問いかけた。
もはやバイクは蜂の巣に近い状態だった。ロングレンジからの射撃の乱射に加えてすでに四方八方といった感じ。
ここにきてフレックスゲージもレッドラインを迎えようとしている。なかなかに絶望を這う光景となっていた。
「お願いアクセルから手を離さないで! この作戦は鍵を失いながらも僕たちが希望を繋いでようやく実現した夢でもあるの!」
なんとも滑稽ではないか。
信じろ信じろ、なんて。そんなこと言ってるくせに信用していないのはあちらのほうではないか。
この場に及んで愛はなおもミナトに縋り付きながら信じろ信じろと言い続ける。
それはこちらだって同じだとなぜ気づかぬのだろう。もう信じることでしか道はつづかない。
「そう何度も言われなくてもやってやるよッ!」
ミナトは緩み掛かったアクセルに籠める力を戻しながら叫んだ。
背に密着した愛の身体がぴくっ、と跳ねる。
「――み、なとくん!」
「はっ、オレには守るべき家族が待ってるんだ。だからお前らがオレを信じてくれてさえいれば地獄の果てまでだって付き合ってやるさ」
ミナトは脇の下越しに見上げてくる愛へ向かって大いに笑ってみせた。
息苦しい汗臭いし恐ろしいし今すぐにでも逃げ出してしまいたい。それでも口角さえ上げられていれば笑える。
ミナトは啖呵を切って突撃のために姿勢を低く低くとった。
「備えろォ!! 小さい身体なんだから衝撃で振り落とされるなよッ!!」
「……っっ!」
こちらが信じ切れていないのだから、あちらだって信じられるはずがないのだ。
こんな出会って間もない希薄な間柄では互いに寄りかかることさえ難しい。それくらい人というのは不便な生き物だ。
だがお互いが志している。向かうべき未来を渇望し手を取り合い進もうと躍起になっている。
これほど意味ある生はない。死に向かって歩み続けた死神にとっては光る石如きよりよっぽど価値ある瞬間だった。
「オレを信じられないって言うならこっちから先に思い切り体重を掛けて寄りかかってやるッ!! そうすればお前らだって全力で支えなきゃ受け止めきれないだろッ!!」
「う――うんありがとう!! ずずっ……大丈夫、絶対だから、だから……僕たちを君の後ろについていかせて!!」
愛からの返事は、ひどい鼻声だった。
しかも鼻を啜る音まで。ALECナノコンピューターが高音質で拾い上げてしまう。
この間にもすでに執行者からの銃撃ははじまっている。水の代わりに横殴りの鉛が降り注ぐひどい天気だった。
半球体に銃弾が触れるたびメーター端の数値がみるみる減少していく。すでに1体目のときに消耗した数値すら忘れるほどの減少量だった。
――ディゲル、チャチャさん! シン! イージス!
「おおおおおおおおおおおッ!!」
それでもミナトはこの残酷な世界にある小さな希望のすべて信じつづけた。
なにせ吐いた唾は呑むな、と。親元の屈強な男によって享受していたから。
「カウントォ! 5、4、3――」
再び愛によるずぶ濡れたカウントが刻まれていく。
ミナトは姿勢を低くし風防に隠れてバリア切れを覚悟する。
進む道は直進あるのみ。アクセルはなお同じ位置で固定し50kmを保ちつづけた。
「――零ッ!」
そして愛のカウントが終わる。
フレックス残量の数値が口にした零という数字と重なった。無情にもバイクを包む蒼き膜が収縮を開始する。
その直前だった。蒼をまとった影が流星の如くミナトたちの横に降り立つ。
「《不敵・ヘヴィ・α》!!!」
さらには途切れたはずの蒼が再び発現する。
しかも現れた蒼き六角連鎖体は、バイクどころか広い道路を丸ごと塞いでしまうほど広域だった。
隔たるようにして機械人形たちの射撃をすべて弾き飛ばしていく。圧倒的なまでの壁がミナトと愛たちの周囲に発現しそそり立つ。
彼の者が駆ける足の動きに合わせて銀のだんびらが硬い地面にがりがり触れて火花を散らす。
「いよっしゃ待たせたなァ! 今回ばかりは時間ぴったり約束どおりだぜェ!」
《マテリアル5》。
滑り込みで現れたジュン・ギンガーによる《不敵》が夜の街を蒼く照らし尽くす。
しかも突撃の際に待ち構えていた研究員たちでさえ、別個の蒼で包むことにより守り抜いている。
『なっ、そんなバカなこと!? ジュンの足止めについていたチームはなにをしているの!?』
これには敵側の少女も平静を崩さずにはいられないらしい。
声に明らかな動揺が入り交じる。
最高のタイミングだった。まるで狙い澄ましたかの如き瞬間で盾の到着である。
「時間と約束を守るなんてジュンお前って滅茶苦茶いいやつだな!」
「なあ俺の言ったとおりだったろ! それにミナトの覚悟もきっちり俺らに届いてんぜ!」
友の軽快な笑みに合わせ、ミナトも満面かつ最高の笑みで友を迎えた。
…… …… …… …… ……
前回のイラストの絵師様紹介のコーナー
※私事が有りますのでご注意を
目隠し用Twitter記念イラスト
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ということで前回イラストを発表させていただきました
こちら『羅鳩』様に描いていただいた『ウィロメナ・カルヴェロです』
ローブ有り無しの2パターンとなっています
むっちむちのどちゃんこボンバーナイスバディです
お気づきかわかりませんが、控えめにある胸元のほくろがより煽情的さを加速させてますね
ちなみにパラスーツのデザイン自体は各々自由なんで杏やジュンが同じデザインというわけではなく個性です
以降も順繰りキャラクターデザインが発表されていくのでどうぞお楽しみくださいませ
それではっ!




