『※新キャラデザイン有り』224話 双天使と人間《Third Class Angels》
背に生やした羽毛の如き白翼はまるで神話に描かれる天使をそのままくり抜いたかのよう。
帯びている純白のシーツだって清楚で穢れ1つとしてありはしない。
跳ねひとつない金色の頭髪は西洋白人のものとよく似ており、薄く透けるような肌も艶やかで若々しい。そう、まるで西洋人形のように愛らしく、触れがたい存在だった。
そんな天使たちをミナトは名指しで指名する。
「うーん……ちょっと困っちゃうね? ミーナ?」
「そうねぇ……とっても困っちゃうわ? カーナ?」
隣り合ったカナギエルとミナザエルは、丸い眼で互いに向き合う。
唐突に指名された天使たちはミナトを見上げながら青き瞳を瞬かせた。
するとザナリアが「お待ちなさい!」対話の間に割って入る。
「如何な理由があろうとも種族が天使様のお手を煩わせるわけにはいきません!」
果敢に気勢を上げてミナトを睨みつけた。
だが頬に伝う涙が引っこんだわけではない。ただそれこそが大陸種族として当然の行動なのだ。
感心さえ覚えるほどの心がけである。しかしミナトにとっては、やはり知ったことではない。
「手を煩わされてるのはこっちだぞ。あと質問するだけなんだから別に良いでしょ」
「天より決定づけられ大陸へもたらされた道理を変えることは許されざる行為なのです! こればかりは貴方であってもなりません!」
両手を広げて頑なに通さぬ構えだった。
ベソをかきながらも信仰だけは一貫している。
このまま面倒だからと押しのけようものなら1寸の勝ち目すらないだろう。エーテル族の腕力で組み伏せられるのがオチ。
ただ1点ほど。ザナリアには大きな油断が存在した。
本日の彼女は重厚な板金をまとっていない。可愛らしいネグリジェというどうしようもないほど少女の恰好をしている。
そんな薄布ていどの恰好で見せつけるように身体を開いているのだから、とる手は1つきり。
「せいっ」
強敵であったが、武器なんて必要はない。
ただ無心で両手を前に伸ばすだけでよかった。
躊躇なんて勿論ない。わがままなほどに手からあふれる房へ優しく力を籠める。
「な、にを……――~~~~ッッッッ!?!?」
「退かぬなら退くまで待とう、いや――揉もうッ!! ホトトギス!!」
ザナリアのそれはあふれるほどの感触と弾力で張り詰めていた。
指を軽く曲げるだけで沈む。薄布の内側は容易に形を変えてしまうほど、まるで温水を注いだ風船のよう。
手に伝わる彼女の体温は高く、それでいて僅かに汗ばんでいる。
「ひ、ひひ――っっっ、ひあああああああああああ!!!?」
理解から爆発まで一瞬だった。
ザナリアはガラスを砕くような悲鳴とともにミナトの手を振り払う。
そして顔どころか全身に血色を浮かしながら両腕を閉じて胸を守護する。
「そこまでしますか普通ッ!? じょ、女性の胸へなんの躊躇なく触れるとはなんなんですかいったいッ!?」
抗議の声もなんのその。けんもほろろにとはまさにこのことである。
ミナトは悪びれる素振りすらない。悠々とした足どりでザナリアの横をするりと通り抜けたのだった。
そして2人の天使たちの前にまで辿り着くと、片膝を落として視線の高さを合わせる。
「オレの大切な友だち2人をどうすれば救えるのかを教えてほしい」
真顔でもう1度はっきりと言葉にした。
しかしカナギエルとミナザエルの2人の天使たちは首を傾げるばかり。
いまいち状況を理解していないらしい。
「天使様たちに無礼を働くのはお止めになってください! もしそれが私たちのためだとして変えられないこともあるのです!」
ショックから復帰したザナリアがミナトの元へ駆け寄った。
肩に掴みかかりながらも、もう片側の手でしっかりと胸を防御している。
「道理を強引に変えることは世界へ敷かれた決まりに背くのと同意義なのです!」
「なんでそんなに頭が硬いんだよこの世界の連中は! 誰かに強引に敷かれたレールの上しか走らないのが信仰だっていうのか!」
もはや喧々諤々だった。
ミナトもザナリアも互いに引く気はない。
唾を飛ばしながら捲し立てるよう怒鳴り合う。
「そうはいっていません! 天から与えられるものの1つに自由があるというだけなのです!」
「だからオレはそれを不自由だっていってるんだ! そのくせ天界とやらのほうは不干渉を貫いていたわりにこうして大陸へ急に干渉してきてるだろ!」
「わけあってのことです! 天界が理由もなく私たちに接触してきているわけでは――」
「それ以上御託をこねるならもう1回を胸こねるぞォッ!! チャチャさんを相手に培った熟練の技術を見せてやろうじゃないかァ!!」
ミナトがザナリアの胸目掛けて手を伸ばす。
すると彼女は「――ひぃっ!?」と、反射的に不埒な手を弾いた。
すでに子供の喧嘩じみている。どちらも折れないのだから平行線を辿るいっぽう。
そんな様子を天使たちは黙ってじぃ、と眺めていた。
あどけない無垢な青き空色の瞳が争うミナトとザナリアを見上げる。
「ボクたちになにかを期待しているようだけど、ボクたちには聖誕祭の道理を変える権限はないよ?」
「ね、ミーナ?」そういってカナギエルは隣の少女のほうに身体を傾けた。
それを受けてミナザエルもまた少年のほう向く。
「ワタシたちは調停役だから聖誕祭に直接関われないわ? ね、カーナ?」
似た顔を見合わせて手を繋ぐと「ねーっ!」「ねーっ!」と、くすくすと細い喉を奏でた。
似た顔だが中性的な色合いは別にある。
カナギエルのほうは男にしては長めの短髪で少年の体をしていた。
ミナザエルのほうは、逆。キューティクルの美しい長い髪をしており、僅かばかりローブの内側から隆起する箇所がある。
そしてどちらも等しく愛らしい。そのままの姿を飾ってしまいたくなるほど理想的に整っていた。
「だからお願いされても道理を変えることは無理だよ! ボクたちに唯一許されているのは大陸に降り種族に伝えることだからね!」
「ワタシたちの役割は聖誕祭がきちんと成立するかを見守るだけよ! だからどちらの派閥にも絶対に加担しないことを約束するわ!」
2人は仲睦まじげに手を繋いだまま前後に振った。
つまり天使に縋るという策自体が意味を成さないということ。
いがみ合う姿勢のままで、ザナリアとミナトはピタリと制止する。
やり合う理由がなくなってどちらともなく喧嘩を放棄し、手放す。
「天使様たちのお話を聞きましたか! だからこれ以上は無駄だといったのです!」
ザナリアは勝ち誇ったようにふんと高い鼻を吹く。
「天使だからといって聖誕祭を変えるほどの権限はないってことかぁ」
ミナトはへなへなと崩れ落ちて床にへたりこんでしまう。
理想通りにはいかぬもの。この場ですべてまるっとおさめてしまおうなんて虫のいい話しすぎた。
「はぁ……。じゃあ参考までに誰だったらこのクソみたいなルールを変えられるんだい?」
これではお手上げだった。
だから最後の足掻きとばかりに縋るしかない。
だが、返答は意外なものだった。
「んー……選定の天使様なら可能かしら? きっと出来るわよね、カーナ?」
「うん、ミーナのいう通りあの御方なら道理をねじ曲げる権利をもつのかも知らないね?」
ミナザエルとカナギエルは揃って眉間にシワを寄せた。
背に生えた白翼をわあ、と広げながら思案に耽る。
「うーん……でもどうかしら? あの御方は常に完全な中立というお立場を崩そうとしないのよね?」
「その中立という枠内であればもしかしたら? 道理を変えることに協力してくれるかもしれないけど、やっぱりちょっと難しいかもね?」
なにやらもごもごとはっきりしない。
どうやらその選定の天使とやらは2人よりも格上。上の立場であることが窺えたる
ミナトは思案する天使たちに音もなく這い寄っていく。
「その選定の天使っていうのはいったいなにをしている天使なんだ? 聞く感じだともの凄い権利を持っているみたいだけど?」
この機を逃す手はなかった。
現状を打開できるならばたとえひとつかみの藁さえ縋る。
カナギエルとミナザエルは息を合わせたかのように壁の一角を見上げた。
「ソコのレリーフ描かれている御方よ。ワタシたち第3等級天使よりも遙かなる顕現をもつ第1等級の天使様なの」
「世界でもっとも中立かつ平等を司るのが選定様だね。ルスラウス様直属の2大天使であって魂の善悪を天秤で量る偉大な天使様なんだよ」
2人は同時に部屋の壁へと飾られたアンティーク風なレリーフを指さす。
そこには古めかしい色合いに塗られた石膏が飾られていた。
宗教チック、性的欲求が湧かぬ特別な美しさ。レリーフのなかには大きな翼を複数生やした天使が2人ほど描かれている。
どうやらその天秤を胸に掲げて祈りを捧げているほうの天使を選定と呼ぶらしい。もう片側の天使は猛々しく剣を天に構えていた。
ミナトはしばしレリーフを眺めてから天使たちのほうに向き直る。
「ちょっとここにその選定の天使とやらを呼んだり出来ないかな?」
「なにを戯けたことをいっているんですかあ!? 選定の天使様といえばルスラウス様のお膝元に必ずといっていいほど描かれれる最上位天使様なのですよ!?」
ソワソワ指を揉んでいたザナリアが怒鳴りかかった。
どうやら天使と直接話すことを――この期に及んで――避けているようだ。
だからかミナトに対してだけ非常に当たりが強い。
「選定様をお呼びだてするなんて無礼千万! 大陸の民たちから疎まれる生活をお送りしたいのですか!」
「えー……でも偉い人だったらそれくらいの心の余裕とかあるでしょ~」
「それは貴方のもつ詭弁です! 偉いからこそ王は玉座に鎮座し民へ威厳を示すのです!」
ザナリアの焦りようは今日一番といってもいいほど。憤慨していた。
よほど降臨を避けたいのか怒りというより焦燥のほうが強くでている。
とはいえミナトだってそう簡単に事が済むとは思っていない。ため息交じりに地べたに足を組んで胡座をかく。
「やっぱダメかぁ……ん?」
肩を落として頭を垂らす。
と、絨毯の上に長い影が落ちたいることに気づく。
いつからそうしていたのかはわからない。が、部屋の出入り口のところに子供ではない大人の影が伸びていた。
「おやおやおや、娘の元気がないと聞いていたのできてみれば。まさかお友だちが遊びにきてくださっているとは思いもよりません」
素晴らしい。いつもながらに胡散臭い声とツラだった。
悪意というのが1mmとして香らぬ無臭に近いもの。蚊も殺さぬという慈悲に満ちた微笑みだった
逆にそれがミナトにとってずっと胡散臭くてしょうがなかった。
だからこそこの男ははじめから気に食わないのである。
「やあいらっしゃいよくきてくれましたね、ミナト殿」
「どうもお邪魔してます……ハイシュフェルディン教」
果たして笑えていただろうか。
否、憎しみが浮かんでいなかっただろうか。
聖女を誘拐した罪を押しつけていなかっただろうか。
「良いお茶と美味しい菓子を食べながら少しだけ私とお話をしましょう」
「ええ喜んで。ご一緒させていただきます」
ミナトは下手くそに笑みを模造する。
目を剥き口端を歪めながらハイシュフェルディン・ルオ・ティールと対面したのだった。
この男は敵である。元いた世界へ、ノアへ帰ろうとするその障害でしかない。
――さて、祭りの前にちょっとした余興と洒落こもうか。
導かれ、案内されるがまま。
ザナリアの私室をあとにするのだった。
…… …… ……
最後までお読みくださりありがとうございました!
※下に新規デザインがございます
閑話休題用 せせせ、聖女様!?
というわけでそろそろみなさんも見たいと思っているころだと予想して用意しました
あのキャラクターのデザインが完成です!
『絵描まぐ』様にデザインしていただきました
教団騎士
人間のお友だち
『ザナリア・ルオ・ティール』です!!
歩くたびガチャガチャしながら
むちっ、むちっ、とするイメージです
あとルスラウス大陸のシスター服などは過激だったりするのでこういうのがわりとメジャーな騎士の様相だったりします(フィナ子とかもそう
あとオフアーマー版も置いておきます!
キャラ紹介は1枚絵が出来てからですね
まだ作成には入ってませんがのんびりお待ちくださいませ
ここから佳境と転機が怒濤の如く迫ります!
それではっ!




