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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.7 【この声が届きますように ―The Half Year War―】
199/364

199話 CRITICAL ERROR《――――――》

《応答を待機》


《接続分断》


《応答不可》


《Emergency》
















※CRITICAL ERROR※

「しかもディゲルさんまでいるよ!? どうして私たちの味方になってくれたはずの人があっち側にいるの!?」


「それだけじゃないですわ! ま、まさかあの四柱祭司の4人ともが一堂に会するなんて滅多にないことですわよ!」


 ウィロメナと久須美でさえあまりの事態に冷静さを欠いてしまう。

 それどころか広場に集められた若者たちは周章狼狽(しゅうしょうろうばい)。壇上に佇むメンバーたちへ畏怖と尊敬の眼差しを集める。

 それもそのはず彼らこそがこの船の大動脈ともいえる担い手たち。ミスティ以外にも艦長秘書や虎龍院剛山。ノアの中枢に携わる大人たちがぞろりと揃う。

 なかでも騒動の発端となっているのは、やはりチーム《四柱祭司(スクエアプリースト)》たちの存在であろう。


「喝ッッッ!!!!」


 喉から発された衝撃が慌てふためく聴衆たちの鼓膜を叩いた。

 ただそれだけで狼狽していた者たちが目を覚ますようにして姿勢と規律を正すほど。

 四柱祭司とは、いわずとしれたノア中枢決定機関のメンバーである。

 それぞれに与えられた役割は教育、研究、開発、発展と様々。持ち場がことなるゆえにこうして一堂に会するというのは前例にない。

 彼らに共通しているのは、類い希なる才と努力を重ねた最強であるということ。多芸を極めし者たち。憧れ、尊坊し、敬い見上げられる立場にある。

 それらによって構成されているのがチーム《四柱祭司》である。

 そしてその最高最強の頂点を築く男こそが、彼。


「革命を駆け巡った若獅子たちがこうしてまた集うとはな! しかも今回は敵対ではなく同じ立場という! これは大変愉快なことだぞ!」


 威風堂々たる佇まいもまた男を漢たらしめる。

 存在その者が尊敬に値するだけの度量を秘めていた。

 名は、焔源馬。


「四柱祭司、その1柱!! (ほむら)源馬(げんま)!! 推参!!!」


 アカデミー講師、実技教育担当。

 そして彼こそが本物の天才である。


「1度死闘を繰り広げて堅く繋がった君たちならば如何な相手であれ屈せず超越することが可能だろう!!!」


 そんな源馬の隣に立つのもまた四柱祭司の1柱を司る。

 情熱的な(リーダー)に対し、こちらは蠱惑。


「あの時はどちらに組みすることも叶わなかったのよねぇ。私たちがどちらかの陣営につけば歴史未来そのものが自由意志から逸脱してしまう」


 妖婦の如き微笑と旋律だった。

 美しき声は、聴く者の耳たぶをとろりと舐めとるかのよう。

 肉感的な肉体で見る者すべてを惑わし、酔わす。

 名は、柳楽紗由。


「四柱祭司、その1柱。柳楽(なぎら)紗由(さゆ)。若人のみなさまがた、どうぞ深く……お見知りおきを」


 アカデミー講師、心理教育担当。

 そして彼女こそが本物の天才である。


「人類はこれから1つとなり大きな力を得て生の喜びを歌う。ノアの民全員が運命共同体として宙間移民船を守護する1枚の盾となる」


 ばっからしい。眼鏡の向こうで狂気を孕んで笑む。

 もっとも若く、もっとも粗野に見えるだろう。しかしどれほど口汚く罵られたとして彼女に抗うものはなし。

 

「戦い生き抜くこと自体が人の習性じゃねーのか? そうやって弱肉強食という騙くらかし合いの頂点に立つのが人間って生き物だろうが」


 ぬりぃこといってんじゃねぇ。歯を剥きながら細い喉をげたげた奏でる。

 なにしろ彼女こそが四柱祭司最年少入りを果たした。未踏という偉業をなした人物である。

 肉体すべてを網羅した彼女に不治の病はないとすら語られるほど。最先端の医療医学を極め、なお未来へと獣の如く猛進する。

 名は、クラリッサ・シャルロッテ・赤塚。


「四柱祭司、その1柱。クラリッサ・シャルロッテ・赤塚。貧弱な阿呆共と語る言葉なしだ」


 研究部門のエース。

 担当は、調律。

 そして彼女こそが本物の天才である。


『……………………』


 雄弁は銀、沈黙は金。

 壇上には地で征く者もいた。

 しかし足先は地に立たず。背負ったユニットから伸びた腕でバランスをとる。

 彼女自身は、ただぶら下がっているだけに過ぎない。


『……………………』


 5感を塞ぐ専用のヘッドパーツに蒼い5つの光が灯る。

 のっぺりと円形状をしたヘルメットらしきパーツで頭部をすっぽりと覆ってしまっていた。

 だから周囲に表情はおろか感情さえ読ませない。


『らら、らーら・らら』


 ようやく告げた言葉のでどころはスピーカーを通じた電子音だった。

 年齢不詳。ただ彼女について周知されていることが1つ。担当が戦闘兵器開発の主任であるということくらい。

 あらゆる情報が不明瞭とされ、リーダーである源馬でさえ尊顔すら拝んだことがないのだとか。

 名は、ララ・ラーラ・ララ……――というらしいわね。果たしてそれが本名なのかも定かではなかった。

 そして彼女こそが本物の天才である。


「す、すごい……! 常に多忙を極めるという四柱祭司が全員揃っている……!」


「ノア創設以降最強とまで唄われる最強集団! 叡智とも称えられながら裏で人類を支えつづける4本柱!」


 ノアの民たちは彼彼女らの登場に沸いた。

 個人とならば面識もあるだろう。アカデミーに通うのであれば少なくとも源馬、紗由の2人とは会うことが可能である。

 しかし4人全員が並ぶということは類を見ない。その光景に感銘を受け祈りを結ぶ者や涙を滲ませる者もいる。

 それぞれ異なる分野においての精鋭だった。その4人の最強をチームとし一括りに束ねた。それがノア天才集団、四柱祭司の実態なのだ。

 居住局総合管理監視委員長、四柱祭司、第8代目艦長の登場である。ここまでくるといよいよ大仰といえようもの。

 そしてそこに並ぶ1人にチームマテリアルは狼狽え、愕然とする。


「で、なんであちらさんがたにアンタのところの大将がいるのよ……?」


 杏は奥歯を噛み締めた。

 1トーンほど声を落とし、満ちる怒りを抑えている。

 もしここから見えているものが事実なら寝返り。あるいは裏切りだった。

 鼻の横筋をヒクヒクと痙攣させながら相変わらず反応の薄い少年を横睨みする。


「信……アンタなんか聞いてないわけ?」


「なにも聞いていないな。それになにかがあったとしてもアイツが俺に相談するとは思えない」


「……ちっ!」


 嘘をつく理由はないだろう。

 信もまた現れた人物に静かな動揺を見せていた。

 壇上にもう1人と、佇むのは、第1次革命の英傑である。


「…………」


 雄々しく大胆不敵とばかりに男は、いた。

 筋骨逞しい源馬でさえ彼には及ばず。厳格かつ鬼面で口を真一文字に結ぶ。

 その現れた男こそが死の星アザーに追放され管理者を務めた傑物、ディゲル・グルーバーである。


「な、なんで説得して仲間になってくれたはずのディゲルさんがあっち側にいるの?」


「そんなの知らないしこっちが問いただしたいくらいだわ!」


 ウィロメナの疑問は真っ当だった。

 彼はこちらの切り札。いわばキングのような手札である。直談判という形でこちら側についてくれていた。

 彼は市民側、つまりこちらの仲間だったはず。

 なのにいまの彼は公的側、つまり公務である管理棟側に立っているではないか。


「悪い冗談はよしてもらえないかしら! なんでアナタがそっち側に立っているのよ!」


 たまらず杏は声を張り上げ直接問いただしにかかった。

 するとディゲルはおもむろに野太い指を宙に滑らせる。


『すまねぇな。事態が変わっちまった』


 脳幹がビリビリ震えるような低く静寂を模した謝罪が返ってきた。

 そのていどで杏の憤りがおさまるわけがない。

 なによりディゲルにとっても大切な人間が関わっている。


「ざっけんじゃないわよ! 死んだミナトのためにも管理棟側から真実をたぐり寄せるって約束したはずでしょ!」


 こんなコトがまかり通ってなるものか。

 杏の怒りの根源は己ではなく別のところにあった。

 1人の少年が求めた世界があった。すべての人間が願った未来があった。

 しかしいまの世界はどうだろう。隠蔽、黙殺、抑圧、圧政、縮小。蔓延るのは独断上の勝手ばかりだ。


「アイツが命懸けで求めたのはこんな世界じゃないわ! それを1番近くで見てきたアンタだからこそ私たちマテリアルも頼ったのよ!」


 杏はキッと鋭い眼差しで信を睨む。

 と、彼もまた1歩ほど前に歩みでる。


「ディゲル。それがお前にとってもっとも重要な選択なのか?」


『……ああそうだ』


「アイツが……っ。ミナトが最後に望んだ願いを繋ぐためにそこに立つんだな?」


『……』


 それで信とディゲルのやりとりは手打ちとなった。

 いまこの場にいるノアの民たち全員が足下を掬われるような状態である。

 管理棟側は、重鎮たちの登場と大本営の名を冠して公式発表があるという。

 そして民が緊張と静謐をもって渇望を求めるのは、ただ1人だけ。

 広場は耳が痛くなるほどの静けさをとり戻す。8代目人類総督の元に視線を集わせ口を閉ざす。


『おそらくみなも生活の変化に疑念や疑問を覚えている者も多くいるだろう』


 なにを戯言を。元凶はそちらではいか。

 誰しもが燻る怒りを拳の中に覆い隠す。


『私は未熟な艦長だ。ゆえに非常に長い葛藤によってしばしの停滞を余儀なくされたこと、ここに詫びさせてほしい』


 ミスティは、踵を揃えて頭を垂らした。

 長い髪が細身の肩を撫でてカーテンのようにしな垂れる。

 それは腰から90度ほど曲がってする誠意ある謝罪の形だった。

 だがそれで許せるものは恐らく皆無。ここに集う人々の多くはいまではい先を求めて彼女に縋っている。

 それから時を待って如何ほどか。頭を上げたミスティは、民の1人1人に目配せをした。


『冷静さと平静さを乱さぬよう心して聞いて欲しい。これは我々人類にとってもっとも重要で認知しなければならない事象だ』


 そしてようやく淡い紅の引かれた唇が、とつとつと語りはじめる。


『現在我々人類の乗る船は数多のアンノウンにより襲撃を受けている。その結果、そちらへの対応を余儀なくされているのだ』


 滴が垂らされるかの如くざめきが波紋となって広がった。

 迷う若者たちは周囲に戸惑いを巡らせながら答えを求める。


「襲撃……? いったいなんのはなしをしているのよ……?」


 杏はきょとんと目を丸くした。

 そんな話は聞いたことがなかった。

 当然ウィロメナも、久須美も、似たような反応である。


「え、だってここ……宇宙だよね? アザーならまだ原生生物がいるからわかるんだけど……」


「宇宙を飛来する敵がいるということですの? いると言うことを前提としても、なぜ我々の船が狙われているとわかっていて反撃をなさらないのです?」


 ざわめきの源流は、疑問だった。

 襲撃を受けている、なんて。あまりに唐突すぎる暴露ではないか。

 ひとしきり言葉を交わした若者たちは、揃ってまた無垢な瞳で親鳥を見上るのだった。

 するとミスティはたまらずとばかりに顔を伏せて目を逸らしてしまう。


『いま……この宙間移民船は未曾有の危機に晒されている……!』


 ALECナノマシンごしに声が伝わってきた。

 美貌を伏せていても辛そう。腹から震えるみたいに声が震えて、刻む吐息さえ吐き切れていない。


『それも……幾度会議を重ねたところで完全打開する術が見つからぬほどに絶望的なのだ……!』


 そしてミスティは勢いよく顔をあげた。

 戸惑い狼狽える人類に相まみえる。

 羽織った白裾をマントのように流して見得を切った。

 

『第8代目艦長ミスティ・ルートヴィッヒの名の元に! いまここで人類へ真実を公表する!』


 ハリのある良く通る声が半球体のガラスに包まれた区画へと打ち上げられる。

 その瞬間。閉ざされて幻影を映していた空がじょじょに開いていく。

 偽物のスカイブルーがじょじょに色褪せるかのよう。微生物の集合体である生体ガラスが透けていく。

 人類にとっては久方ぶりに明かされる飽くなき空である。期待を籠めた人々の瞳は壇上のミスティさえ通り過ぎて空を仰ぐ。

 星々たゆたう宇宙空間が広がっている。常に同じではあるが遠くまで遮るもののない煌びやかで偽証ない本当の空が広がっている。


「……え?」


「なんだ、よ……これ?」


 広場の数人がそう力なく喉を震わせた。

 誰もがそんな理想を抱いていた。昼が開けた空には再び夜が訪れる。そんなただ抑揚のない平穏を心の底から望む。

 しかし唐突に理想を奪われた人間が。真実を垣間見せられた人々ができたのは、時を止めることのみ。


「…………」


 あるものは動きを止めた。

 失望の果てに脳が考えることを止める。


「…………」


 あるものは表情筋を引きつらせた。

 真の絶望を前に現実を受け止めきれずにいる。


「…………」


 あるものは立つことさえ忘れて座りこむ。

 生より死が違いコトを悟った。

 そして若者たちは一様に口を開け広げ、瞳を剥くのだ。

 指先さえ、どころか呼吸さえも忘れて棒立ちとなる。

 これだけ多くの人間が集まるというのに場にもたらされるのは、変化のない悪夢だった。

 未だここは鳥籠のなかだと自覚する。先代艦長が人を縛りつけていた革命前のころとなにもかわることはないのだ。

 否、もっと酷い。空は閉ざされた。夜を透かすはずだったガラスの向こうには、無数の、なにかが詰められている。

 1つ、2つ。100か200でさえない。数えることさえ馬鹿らしい。おびただしい量。

 人々は心を抜かれるようにしてそれらが蠢くさまを漠然と垣間見る。


「ノア防衛機構であるフレクスバリアーがあれば敵はこちらに近づけない! 余剰フレックスがあるうちは敵は船に立ち入るコトさえ不可能だ!」


「私たちに残されたタイムリミットは100日ほど、約3ヶ月ちょっと。ノア船内に貯蔵されているフレックスが尽きしだいあれらはノア内部へ雪崩れこむことになるわ」


「だが血にフレックス籠めてをノアに蓄えれば現状維持は可能だがな。消費量と貯蔵量が常に一定ならばの話だぜ」


『ら……らら、ら……ら……』


 誰かが現状のせつめいをしていた。

 そう、人々は四柱祭司の声でさえ遠いものとなる。

 現実が苛烈すぎて己等の存在でさえ希薄となった。人々はいまや現と夢の境に立つのみ。

 偽りの向こう側にあったのは、大量の眼球だった。

 どす黒い。それは人や動物のものとはまるで異なっている。赫赫(あかあか)として巨大でおどろおどろしい。

 なによりそれらは甲虫の如き羽で、飛ぶことの不可能な無酸素空間を自由に羽ばたく。

 群れる目的は定かではない。ただそれら赤き瞳のすべてがこちら――人類を見つめていた。

 叫び惑い逃げ自死する。この場にいる者がそのような無作為行動にでなかったのは、きっと……心が痩せていたから。

 本来の幸せも知らず、未来も望まず、打ちのめされつづけていたから。願うことも望むことも罪であるといまここで学んでしまったから。

 若者たちは青ざめながら次々に力なく膝を落としていく。阿鼻叫喚地獄絵図でさえ描くだけの気力は残されていない。


『すでに船全体がヤツらアンノウンにとり憑かれてしまっているためバリア外にでることは死を望む行為に等しい!!』


 いまやいまだ闇のなか。

 何処からか現れた光はすでに遠く、遠く。


『このままの状態がつづけばいずれ我々人類はあらゆる物資が枯渇し絶滅することになるだろう!!』


 ミスティが拍車をかけようと張り上げるも、誰かの耳に届いているようには思えない。

 四柱祭司たちも痛ましげに目を背ける。ディゲルでさえ頭を抱えて首を横に振った。

 だがミスティは艦長としての振る舞いを止めることはない。


『止まるんじゃない!! どれほどみすぼらしくとも立ち上がって歩きつづけろ!! 我々は生きて生きつづけるしか道はないのだ!!』


 光がないのは彼女だって同じこと。

 それでも涙をこらえながら演じつづける。

 若者たちに光を灯すために諦めず声を裏返す。

 

『我々人類は蒼き力をより強めて反攻しなければならない!! 来るべき時に向けて装備と精神を研ぎ澄ます工程に入る!!』


 ミスティは人類のために鼓舞を発した。

 直後だった。


『な、に……――グゥゥッ!!?』


 光ったのだ。世界がまるごと白色になるほど白く神々しく。

 慟哭するような彼女の叫びを塗りつぶしたのは、強い、強烈な明光だった。

 そう、人類は確かに光を見る。夜とは別の闇に閉ざされた空がいっぺんに白ける。

 その刹那に身を切り裂くが如き衝撃がノアという人類の大地を揺らがした。


「紗由いまの攻撃はなんなのか出所の特定は可能か!?」


「いま船外エネルギー反応を計測中よ!! 光の軌道から見るにアザー方面からの直射だわ!! 超巨大なエネルギー反応の残滓が真っ直ぐノアに向かってつづいている!!」


 即座に源馬が動く。

 紗由はそれを受けて迅速に応対する。

 しかし2人であっても冷静とはいえない。


「なんだってんだよ!? これはよォ!?」


「どうした!? なにかがわかったのか!?」


 クラリッサは画面から目を逸らすと、首を軋ませながら源馬のほうを見た。

 天才である彼女の表情は土気色と形容するしかない。


「いまの1撃で……船内の私らが数年間溜めつづけていたはずのフレックスが――2割ももっていかれたァァァッ!!」


「なっ!? なんだとッ!?」


 急転する。あまりにも早い。

 その速度に追いつくことなど出来るわけがない、不可能である。

 杏だって――どれだけ虚勢を張り慣れていても――ダメだった。

 糸の切れた人形の如くぺたんと尻から崩れ落ちる。目を霞めながら虚空を見つめるだけ。


――誰か……誰か……!


 ことのき人類はようやく知ることになる。

 もう滅びゆく未来に向かって収束を開始してしまっていたのだと。

 光なき航路の末に辿り着いたのは絶望の果て。


――私たち人類を助けてっ!


 人が母なる大地に根ざしていたころからわかっていたこと。

 科学の世界に神は降臨しないし、現実からかけ離れるほどの奇跡は起こらない。

 英雄を求むか弱き少女の祈りは、届かない。



 Half year war bigining






Chapter.7 【この声が届きますように ―The Half Year War―】END


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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