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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.7 【この声が届きますように ―The Half Year War―】
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195話 ノアの呪い2《Darkness of the Abyss》

挿絵(By みてみん)


艦長の席


もたらされる

狂乱


闇に蠢く

苛烈なる真実


探求せよ

光無き未来に道を

 語られたのはノアの民によってまことしやかに囁かれる、噂だった。

 ノアの艦長になったものは以前までの主義主張を裏返すかの如く狂う、というもの。

 2度の革命を経て先代先々代ともに倒閣されている。ノアの民にとっては、まさにおぞましき記憶であろう。

 先代、先々代とおよそ2名もの前例があるため事実無根とはいい切れぬ。そういった経緯もあって悪しき噂としてまことしやかに囁かれている。


「ノア艦長の呪い、ね。いわれてみれば確かにミスティさんも現状8代目艦長になった直後よね」


「でもあれだけ強かなミスティさんがそうそう変わっちゃうとは思えないけど……」


「先代、先々代と2代に渡って狂ってしまったというのも不思議な話ですわよね」


 呪いの話がでた途端少女たちは一様に声をワントーンほど潜めた。

 呪いは先々代の6代目艦長から急激にはじまっている。そんな6代目艦長こそ犯罪者たちをあざーという死の星に追放するという政策を推し進めた人物だった。

 そして東光輝率いる革命軍によって倒閣されている。なのに6代目が革命によって倒閣された後にも、7代目艦長長沢晴紀(ながおかはるき)という超越者(サイコパス)が発生してしまった。

 なにが彼らを狂わせたのかは誰にもわかっていない。どちらも革命時に命を落としているため死人に口なしとはまさに、だ。

 複雑な感情を抱えてどんよりと空気が滲むなか。杏はハッ、と思いだしたかのよう指をぱちりと鳴らす。


「そういえば信、アンタ長沢晴紀と管理棟でずっと一緒だったのよね?」


「四六時中というわけではないがな。ともに過ごしていたというのは事実だ」


 暁月信は長沢晴紀ともっとも時を共有していたといっても過言ではない。

 ディゲル・グルーバー、チャチャ、ミナト。この3人をアザーから救いだすため信は長沢晴紀の手足になっていたと聞く。

 なにかとっかかりでもあれば、と。杏は改めて尋ねてみる。


「ならなにかオカシな点とか気になったところとかあるんじゃない? 変なこと口走っていたーとか?」


「オカシな点……?」


 すると信は腕を組んで顎を引く。

 パラダイムシフトスーツに浮かぶ細身ながらに発達した腕と胸筋がこんもりと隆起する。


「長岡晴紀の記憶か。……記憶……記憶……」


 しばし眉根を寄せながら瞼を閉ざし、考えこむ。

 そうやっているとやけに様になる男だ。少女たちも興味津々っぷりと隠そうともせず前のめり。黙って彼の端正な横顔を眺めながら胸を躍らせた。

 と、信はたっぷりとした沈黙の後にゆっくり表を向く。


「わからない」


 期待が落胆に180度裏返った瞬間だった。

 3人の少女はほぼ同時に肩を落とし、頭を抱え、苦く笑う。


「なんでわかんないのよ!? さてはアンタフレックスの扱いが1番上手いから周りに気づかれてないだけでポンコツ!?」


「まーまー杏ちゃん抑えて抑えて。信くんにとっても辛い記憶かもしれないしさ、責めちゃったら可哀想だよ」


 立ち上がって捲し立てる杏を、ウィロメナは素早い羽交い締めで取り押さえた。

 体格的にひと回り小さいほうが抱えられてしまう。さながらぬいぐるみであるかのよう。

 久須美は、暴れる杏をせせら笑うかの如くやれやれと首を横に揺する。


「あわよくば呪いというブラックボックスにメスが入る瞬間に立ち会えるかと思ってましたのに……期待して損しましたわ」


 肩を落として期待するほうが悪いのだと自覚せざるを得ない。

 なにより信も呪いの被害者なのだから辛く当たっても気の毒というもの。

 それでも杏はようやく見つけたとっかかりを執拗に責め立てる。


「なにか1つくらいあって然るべきでしょうがぁ!? いくらコミュ症だからって周りに気を向けなさすぎよ!?」


「違うよ杏ちゃん! 信くんの場合コミュ症じゃなくて人間嫌いだから! オートで知り合い以外は視界に入れないっていう凄いワザをもっているだけだよ!」


「なおのことたちが悪いじゃないのよ! チームメイトとして1回頭の医者に連れていくことを検討するレベルだわ!」


 食ってかかろうとするもウィロメナに後ろからひょいと軽く抱き抱えられてしまう。

 元より鋭角な目尻をより引き上げて小顔を真っ赤に憤慨した。

 しかしまるで大人と子供。ウィロメナに抱きすくめられると両足が浮いてしまいばたばたさせるしかない。

 ぎゅう、と。小さな身が強く抱かれると、頭がすっぽりと彼女の母性に埋もれて沈静化するのだった。

 久須美は、大騒ぎする杏を尻目にすんと澄ましている。


「なら長沢晴紀がなにかおっしゃっていたなどの発言に関する疑問はございませんでしたの?」


「アイツの発言……か」


「同意するわけではないのですが彼の慈悲ない一貫した行動の裏には蛇の如き執念を感じます」


 信は再び背を丸くしてうつむいた。

 長岡晴紀の行った政策は、およそ独裁といえる。民の意思を無碍にし己の欲求を推し進めるという暴挙だ

 しかし未だ理解に至らぬ点も多い。意に沿わぬ相手をアザーへ追放しただけならば、慎重な身の保全という目的も理解できよう。

 だがおそらく長岡晴紀の目的は身の保全などではない。虐げることで快楽を得るにしては不可解な異常行動がつきまとっている。


「あー……そういえばアイツって私たちから抜いたフレックスと血液をなにに使っていたのかしら」


 ようやく解放された杏の髪は揉みくちゃにされてボサボサだった。

 ふるふると子犬のように焦げ色の頭を振る。それから女性にしてはショートな髪を手櫛で大雑把に整える。


「何年もやりつづけていただけにかなりのフレクスバッテリーが完成していると思うんだけど……けっきょくあれってなんだったの?」


 いまさらといえばいまさらな疑問だった。

 なによりこの件に関していえばだいぶ古くから意見が飛び交っている。

 ノアに住まう民である以上あの拷問のような採血に疑問をもたぬ者はいまい。

 

「人々の抑圧と恐怖による服従が目的とか専門家の人がいっていたよねぇ。逆らったらもっと酷いことになるってわかってたから私たちも従うしかなかったわけだし」


「それにしたって行動に明確な理由が見えてこないのよね。本当にサイコパスだったってオチならまあ無理矢理納得するしかないけど……」


 事実こうしてウィロメナと杏で語り合うのだってはじめてではなかった。

 しかしやはり長岡晴紀が死んだ今となっては憶測が憶測を呼ぶだけ。結論に至る可能性は低い。


「……あれ? よく考えるとソレって変じゃないかしら?」


 だが杏は微かな綻びを見つけてしまう。

 脳に電流が弾けるような錯覚とともに視界で僅かな明滅を覚える。


「い、かんせい……? 長岡晴紀のもつ……一貫性?」


「どしたの杏ちゃん?」


 異常を察したウィロメナが身体を傾け杏を覗きこんだ。

 しかし杏は応じない。すでに己の思考の海へ深く陶酔している。


「ねえ久須美? さっきアンタは長岡晴紀の行動に一貫性があるっていったわよね?」


「? おっしゃいましたけどそれがなにかございまして?」


 きょとん、と。目を丸くしながら首を傾ける。

 久須美はぱちくりと長いまつげを羽ばたかせた。


「あのサイコパスでクズを煮詰めたような行動のどこに一貫性があると感じたのか聞かせて貰えないかしら?」



(区切りなし)





挿絵(By みてみん)



最後までお読みくださりありがとうございました!

(ちょっと低気圧で更新の文字数が滞ってます

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