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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.7 【この声が届きますように ―The Half Year War―】
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176話 聖女の友たち《Your Shine》

挿絵(By みてみん)

再び潜る

聖なる都


装備の更新

気さくな贈り物


縁結ぶ

友情の道筋

 遅めの朝食を食べてからは聖都へ買いだしという流れとなった。

 いちおうの気分転換という名目での出発ではあるのだが、長期的な森籠りの用意という意図もあるのだ。

 ミナトとしても久方ぶりの人影を求めての外出。聖都の煌びやかさと種族の行き交う大通りに感慨深いものを遠目に見つめる。

 そして周囲から浮いていないかと、着慣れぬ服装を憂慮した。


「さっき渡されたこれなんだけど……」


 農夫御用達という厚手の胴着素材の上にもう1枚ほど。

 心臓と肺などの上半身上部を守る胸当てをまとう。その上、腰の左側にも中途半端な長さの(ブレード)がぶら下げられている。

 左腕には帯びたワイヤー射出装置、もといフレクスバッテリー。蒼い流線型の先鋭化されたデザインと比べれば剣も鎧も酷くローカルな組み合わせだった。


「なんでオレがこんな物々しい恰好をしなきゃいけないんだい?」


 これでは回りの冒険者たちと差し障りない恰好ではないか。

 ミナトがくたびれ顔で装備を見回していると、リリティアはぴんとよく反る指を立てた。


「それはビッグヘッドオーガの骨盤で作られた胸当てです。弱々さんのミナトさんでも帯びられる軽い素材です」


 だいぶん聞き慣れた名が意外なところから飛びだす。

 とはいうもののなにも不思議なことではない。東が回収した魔物の死骸の買い手がリリティアだったというだけのこと。

 珍しい魔物の肉だったため即買いつけに走ったのだとか。その骨やら革は彼女にとって副産物であり、持て余していたらしい。


「刀のほうもヴァリアブルヴァシリスクの柔軟な背骨を鋭いヒレで研いだ骨剣です。筋肉の必要ない軽さと特殊な魔物特有の頑丈さを秘めています。まあ鋭く軽いぶん破壊力はロングソードに劣ります」


 ミナトは説明を受けながら刀身を軽く引き抜いていみる。

 鏡面の如く仕上がった白き刃が鋭利さを物語っていた。

 しかも陽光の角度を変えることでときおり虹色に輝いて見える。美しき刀。

 

「ちなみにこれらを精錬したのは元伝説級の鍛冶師であるヨルナなので品質は折り紙つきですね。骨を料理のお出汁にしようと考えていたところ急に頼みこまれてしまいました」


 リリティアにいわれて隣を見れば、ふいと顔が逸らされた。

 ヨルナは後ろ手を組んで明後日の方角へわざとらしい口笛を吹く。


「おいこら。露骨に顔を背けるんじゃない」


「危険な森で武器やら防具がないよりはマシかなぁ~、と思って……ね?」


 ミナトに睨まれても、なんのその。

 ヨルナは視線を右往左往とおどけながら桃色の頬を指で掻く。


「ちょっと君のために腕を振るって作ってみたんだけど……お気に召さなかったかな?」


 細身の肩をすくめ、へにゃりとした意図の読めぬ笑みを作った。

 これだけのモノを用意されてはさすがに気に入るいらないという話ではない。

 どう見ても胸当てと刀はお世辞抜きで高級品の様相を放っている。そこいらの収集家が振るうなんてもったいないと箱に詰めるような1級品だった。


「お気に召すとかそういうレベルじゃないだろこれ……。こんな凄いモノを作るなんていったいどれくらいの時間をかけてこさえたんだよ……」


「えっと……君がレティレシアに殺されかけたあの日以降だから……3日くらい?」


 本人はさも当然と、そつのない表情でそう答えた。

 つまるところ先ほどミナトの胃を満たし、いまなお身を守護するのは、突然変種である。

 熟成ビッグヘッドオーガ肉と熟成ヴァリアブルヴァシリスク肉。巡り巡って討伐した本人の元へと還ってくるなんて奇異な事態に発展していた。


「しかしまさかオレたちで倒した突然変異種の死骸とこんな形で再会することになるとは思わなかったなぁ……」


 明かされたときはさすがに驚いたが、すでに胃の腑の底だ。

 聖女を巣に連れ帰り孕ませようと考えていた魔物と、エルフたちを呪い食おうとしていた極悪な魔物。同情の余地はないが不思議な感じだった。

 討伐した者の元へ戻る。突然変異種の魔物が文字通り己の血肉となっていく。


「でももともとの見た目はともかく美味しかったよねっ」


「食べる前にディティールがわかってたら躊躇ったかもだけどな……」


 苦難を乗り越えた2人ともが味の感想は美味の1択であるのが救いか。

 しかし3~4日ほどで簡単にこしらえられるとは思えない出来映え。きっと尋常ではない苦労をして制作したのだろう。

 ミナトが分不相応な装備に戸惑っていると、ヨルナは不安そうに彼を見上げる。


「もしかして余計なお世話だったかな……? 鍛冶仕事くらいしかしてこなかったから贈り物って慣れてなくって……なんかごめんね?」


 気遣わしげな上目使いだった。

 吸いこまれそうなほど澄んだ黒い眼が怯えを含んで僅かに揺らぐ。


「あー……そうじゃないんだ謝らないでくれ。高級品をもらったから少し驚いただけだから気にしないでいいぞ」


 ミナトは鼓動の高鳴りを感じ、慌てて体裁を整える。

 忘れてはならない。幽霊なれど男慣れしていない生粋の鍛冶師であり、少女なのだ。

 そんな彼女からの贈り物に疑いを入れる、なんて。友としてあるまじき行為。

 だからこそミナトは、正直な気持ちを真っ直ぐ伝えることにする。


「とにかくありがとう。大切に使うっていうのは変かもしれないけど、この刀と胸当てに頼らせてもらうよ」


 それだけで「うんっ!」不安は一変し安らぎと大輪の花が咲いたのだった。

 前合わせと麻のパンツによる農夫服。その上に革と骨の胸当てと、腰には打ち刀。こうなっては周囲の珍妙な恰好の異世界種族からでさえ浮くこともあるまい。

 人も種族もあまり多くは変わらない、2手2足。恰好を順応させるだけで聖都を絶え間なく行き交う種族たちと溶けこんでしまう。

 そうしてしばらく先頭で揺らぐ金の三つ編みを眺めながら聖都の雑踏に交じってぽくぽくと歩く。天高い空には双月が陽炎の如く浮いてどこまでも澄んだ青が広がる。

 すると唐突にリリティアの足が止められた。ミナトたちのほうへくるり、と三つ編みを揺らして振り返る。


「そうですそうです。ミナトさんとヨルナは聖城に向かってテレノアのところに行ってあげて下さい」


 ふと思いだしたかのように手を打つ。

 ミナトとヨルナは互いに丸い目を見合ってからリリティアを見返す。


「そういえばあっちはあっちで大変なことになってるんだったっけ?」


「聖誕祭でハイシュフェルディン教と聖女ちゃんの2人のどっちがか生け贄になるんだよね?」


 バタバタと忙しかっただけに頭からすっぽり抜けてしまっていた。

 あちらもこちらとあまり変わらない多忙状態へ陥っているはず。

 というより聖誕祭に敗北した側が聖火の贄となるらしい。ある意味こちらの決闘よりテレノアたちのほうが救いはない。


――さすがに任せろとはいわれてるけどそうもいかないか。ザナリアとテレノアの間をとりもてるヤツがいない。


 ミナトはしばし忘れかけていたことに脳を巡らせる。

 こちらも楽観視出来るような状況ではなく、暇ではないのだ。

 しかしテレノアをこのまま放っておけるほど、他人というわけではない。


――なにより急にリリティアとユエラの2人が動いたのも……まさかな?


 やるべきことはわかっている。しかし水面下で蠢く他の意思の存在も忌避していた。

 強くなって決闘で勝つ。簡単な話だがそれほど単純ではない。聖女を聖誕祭に勝たせることで王に仕立て上げフルードラグーン船の修理を進めなくてはならないのだ。

 イージスのメンバーたちにはやることが山積み同然である。もし1つでもとりこぼせば元の世界に帰れなくなるだろう。

 リリティアはミナトとヨルナを交互に見据えてから姿勢を正す。


「きっとあの子にはおふたりのお力が必要になります。それは強さと別の心にある不定型なもののはずです」


 背は一本鉄の入ったかの如く真っ直ぐで、下腹の当たりに手を添えた。

 青いリボンの乗ったチャーミングなブロンドを、ぺこり。2人に向かって慎ましやかなお辞儀をくれる。


「そして真なる聖女へと歩む彼女は、きっとミナトさんの成長にも繋がると思うんです」


「とはいえオレがテレノアにやってやれることなんてタカが知れてるぞ?」


「心が不安定なときは近くに親しい存在がいるだけで浮かばれるモノです。それが友で、命の恩人である貴方ならば必然的に、です」


 リリティアはたやかな笑みを浮かべてちょいと身体を傾ける。

 そうしてミナトが返事を返すまでもなく、聖城とは別の方角に足先を向けた。


「ここからミナトさんとヨルナは自由行動にします。あの子に会いにいくのでもいいですし、のんびり聖都を探索して暇を潰しても構いません」


「あくまでリリティアからオレに強制をしないってことかい?」


「貴方の道は貴方自身で選ぶモノです。ここから半年の間に起こる事象すべて貴方が選ばなければダメです。そして結末は貴方のとった選択によって未来を定めていくでしょう」


 悪戯めいた感じで片側の金色がぱちりと、閉じた。

 唇の前に指を立てウィンクをする。


「あといっておきますけど便宜上森に籠もっていることになっているので都の外にでることは避けてくださいね」


 魔物も多いですし。いちおうとばかりに聖都の外にでぬよう釘を刺すあたりこなれていた。

 それだけを言い残してリリティアは白い裾を翻し、雑踏のなかにしずしずと消えていってしまう。

 とり残されたミナトとヨルナはしばし呆然と、彼女の背が見えなくなっても佇んでいた。


「テレノアのいる聖城とザナリアのいる神殿。それからおっぱいの大きい可愛い店員さんがいる喫茶店。どこにいくのが正解だと思う?」


「実質1択の質問を3択にしてだすあたり君って捻くれてるよねぇ。どうせ行くところなんてとっくに決まってるくせさ」


 2人はどちらともなく同じ道を歩きだす。

 遠間には高々と天を衝くほど巨大な建造物が顕現している。

 城は、聖都に群れる種族たちを睥睨するかの如くそびえ立つ。


「お土産とか買っていったほうがいいかな? どうせ女子だし甘いものとかもっていけば大体喜ぶんだろう?」


「じゃああんころ餅で決定だよ! あれなら甘くて美味しいから聖女ちゃんも喜ぶはずさ! なにより僕の大好物でもあるから万々歳だねっ!」


「さっきあれだけ食べたのにまだ食べるつもりなのか……」


 リリティアと別れたミナトとヨルナは、もう1人の友がいる場所を目指す。

 友は天使たちによって聖誕祭の真実を知らされてしまった。勝つも負けるも死の付随する死闘(デスマッチ)の開幕という過酷な真実。

 2人は、聖女テレノア・フォアウト・ティールが住まう聖都エーデレフェウスの聖城へと向かうこととなった。



●  ●  ●  ◎  ◎

挿絵(By みてみん)


いつもお読みくださりありがとうございます!



※おっぱいの大きい可愛い店員さん

挿絵(By みてみん)

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