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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.6 【世界選択 ―Choice make your world?―】
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162話 神の麓《Count UP》

挿絵(By みてみん)

散らばった

欠けた



7色に集う

出会いの種


縁の世界


エニシノ

セカイ


前触れ

 ジュンの口からブルードラグーン船員たちの現状を知らされる。

 どうやら向こうでも一悶着あったようだった。


「で、ミナトがいなくなってから俺たちで帰るか帰らないかを真剣に話し合ったんだ」


 久しぶりに会った友は、変わらずのまま。

 てっきり船に帰らぬ自分に少しくらい嫌悪感を抱いているかと思えば、微塵も感じさせない。

 ミナトにだって逃げだしたという後ろめたさは、当然あった。

 しかし彼はひとことも言及しようとしない。どころか久しぶりの対面を終えて事細かに現状説明をしてくれる。


「そんで俺らがいまより上まで強くなれたならノアに帰るってことになったんだぜ」


 どこまでいっても敵意のない。友に向ける表情は常に一緒。

 無邪気とは別の晴れやかさこそが、ジュンの秀逸な点であることは間違いない。

 誰彼構わず励まし、力づける。もしかしたら彼が嫌う人間なんてこの世にいないのではないか。そう、相手に思わせるほど、流暢。

 それだけにミナトは長椅子に隣り合う彼を真っ直ぐ見つめ返せないでいた。


「全会一致でいまやメンバー全員が第2世代主導でフレックスの向上鍛錬を毎日欠かさずやってるって感じだ。だからお前も――」


「もし強くなれなかったと判断されたらどうなる?」


 1歩だけ深みへ切りこむ。

 と、ジュンは途端に視線を逸らす。


「あ、あー……まあ? そんときゃ……そんとき?」


 嘘がつけぬ性格もあってか、目がきょどきょど挙動不審に宙を踊った。


「全員が第2世代への格上げ。それと前人未踏の第3世代への到達……正直、正気とは思えないな」


 ミナトは、大聖堂最前列にいる小狡い大人を睨みつけた。

 どうやら東は、ザナリアを標的に入れたらしい。挨拶という名の口説きに走っている最中だった。

 ザナリアからすれば唐突に現れた中年である。気安い男が迫るたびお付きの騎士に隠れてフーッフーッ猫のように荒れている。


「で、でもよ!? だからっつってここで諦めちまうってのは違うだろ!?」


「そうだな……諦めたくはないよ。オレだってさ……」


「ミナトだってこの間フレックスを使えてたじゃねーか!? ならもっとがんばりゃいけっかもしれねーじゃん!?」


 ジュンからの必死の訴えは、おおよそ響いていない。

 なにより本質は、そこではないのだから。


――一見して無茶苦茶に聞こえるけど、違う。


 いま見るべきなのは全容の本質ではなかった。

 ジュンの話を聞いて色々とわかることがある。

 いまミナトがここにいる理由と、ブルードラグーン船員たちの動向。それとetc……。


――東は船員たちのメンタルを上手く調節したんだ。そのおかげで帰る帰らない派閥の衝突は避けられているか。


 東光輝という男の裁量は、計り知れない。

 ノア革命の計画をまっさらな状態からやり退けた男だ。綴り手としては1流の実力をもつ。


「しっかし最近は魔物狩りとかにも繰りだしてるから忙しくてたまんねぇよ。ま、ノアで血ぃ抜かれているときよりゃ充足感のある毎日が送れてるけどな」


 しかも彼のような熱くなりやすい性格の少年を騙すくらい朝飯前だろう。

 ミナトは、大あくびを横目に問う。


「ジュンやみんなは最近よく眠れてるのかい?」


 ジュンの口が閉じると同時にカコン、と歯が鳴る。

 それから「あん?」浮いた涙を拭う。


「そりゃクソ忙しいから夜は大体全員爆睡だなぁ。第2世代の夢矢と俺なんかとくに出突っ張りよ。狩りやら指導に引っ張りだこだぜ」


 珠はいつも通りだけどな。晴れやかな笑みでそう語った。

 ジュンのあっけらかんとした表情からでもわかる。大陸にきたばかりの緊張や不安が見事なまでに消えている。

 チームシグルドリーヴァは――東以外――肉体的にも精神的にもかなり若い。

 つまり若者たちに成すべき使命を与えることで目標に向かう充実感を与える。そうすることで心の安定(トランキライザー)としたのだ。

 そうやってミナトが推察、もとい邪推をしていると、当の本人が靴音高くおでましである。


「ずいぶんとご無沙汰だったな反抗期の家出は冒険じみて楽しかっただろう!」 


 革靴を繰りだして歩く素振りでさえ、わざとらしい。

 演技じみているというか大仰というか。とにかく裏があることを認めさせない。


「それにしても男子3日会わずば刮目してみよというがお前は相も変わらず……ふむ? 少し肉づきが良くなったか?」


 ミナトも1度思考を閉じることにする。

 そうやって無精髭を撫でさする中年を下から()め上げた。 

 煩わしい前置きは必要ない。単刀直入に斬りこんでいく。


「魔物の肉や皮はさぞ高く売れただろうな。骨と皮は武具に、肉は珍味に。希少な魔物の残骸は捨てるとこなかっただろ」


 ミナトが手持ちの札を公開しても東は眉ひとつ動かすことはなかった。

 呼吸ひとつ乱さない。ニヤけた笑みを閉じることさえしない。


「この世界の通貨は金でもいいがラウスと呼称するべきだ。郷に入っては郷に従うのが流儀だからな」


「時間を稼ぐことと大金を工面すること。この2つが繋がってないわけないよな?」


 話を逸らそうしたところで、こちらも引くものか。

 東の狙いは、ただ1つ。時間を稼ぎたいのだ。

 それが結論をだすまでの猶予か、それともすべてが手遅れになるのを待つためかはわからない。

 ただミナトからも東へ、1つだけいえることがあった。


「第3世代への到達って条件だけはやりすぎだぞ」


 一瞬だけニヤけた笑みが凍った。

 しかしそれもすぐに破顔し、元通りになってしまう。


「はっはァ。俺だってたまには奇跡に頼りたくなることもある。だいいち帰るという行動そのものが世界でもっとも馬鹿げた行動だということを忘れるなよ」


 口で容易く誤魔化そうとしているが、この男が望みは強欲が過ぎていた。

 なにせ望むのは、 次世代ネクストジェネレーションへの転化(コンバーション)である。

 前人未踏の第3世代サードジェネレーション。未だかつて総人類の1人とて辿り着けぬ未踏の領域。

 東は、ミナトの隣にどっかと腰を落とすと気安く肩を絡めてきた。


「それとお前は俺たちのことを気負わずに己のことのみを考えていろ。期待をしているというのは嘘ではないからな」


 甘く、声の太い大人らしい囁きだった。

 しかしミナトには清涼感のある香水の香りが鼻についてならない。

 これがザナリアやテレノア――女性だったら鼻の下くらい伸びる距離感だっただろう。


「良くいうよ、体良く人を船から叩きだしやがって。その上でどの面下げてオレの前に現れやがるんだか」


 ミナトは唇を尖らせながら東の手を振り解く。

 それから距離を適正に離して背もたれに体重を預ける。


「なかなかに全盛期を保てている色気ある顔だろう? こう見えてシワが増えないよう肌にも気を使っているんだぞ?」


 対して東は肯定もしなければ否定すらしようとしない。

 無精髭の顎を撫でさすりながらフフン、とキメ顔をしておちゃらけた。


「だったらまずはその使い古した雑巾のような髭を剃ったらどうなんだ」


「髭は男に許されたダンディズムの象徴だぞ。否応なしに女性へ色気を香らせるアクセサリーの1つだと覚えておくといい」


 中身がないとはまさに、だ。

 まるで薄く透けた紙に棒を振っているような無駄な時間がただ流れるだけ。

 はっきりしているのは東の意図通りにミナトがここにいるということくらいか。

 男3人ぼんやりと。神々しき聖堂の傍らで暇を持て余す。これほど絶景が視界いっぱいに広がっているというのに色気もなにもあったものではない。

 そうしてしばらく管を巻いていると、ようやくザナリアたちの祈りが済んだらしい。

 どうやら月下騎士も早朝に祈りを捧げるのが日課となっているようで。最前列にある十字架の麓に敵対者同士が居並びながら祈りを済ます。


「そういやあの子って服装が違うからはじめは気づけなかったんだけどよぉ、怪魚のときの子だよな?」


 ジュンは長い足を組み替えながら目を細めた。

 瞳に視力を上げる蒼を灯し、月下騎士たちと対話するザナリアのことを遠方から眺める。


「なんか出で立ちが違わねぇか? しかもツンケンしてねぇしよぉ?」


「彼女はザナリア・ルオ・ティールっていうルスラウス教団教祖の娘だよ」


 ミナトが紹介すると、ジュンは「はぁぁ……」感嘆の吐息を交えた。

 確かにいまの彼女を見て、別人と思っても仕方がない。なにしろまったく逆位置にいるといっても過言ではないのだ。

 服装も可憐ながら元より帯びていたのは、剣や大鎧である。いまとなってはその果敢な姿の影すらなく、乙女。


「元からべっぴんさんだったけど鎧を着てねぇだけであんなに可愛くなるもんなんだなぁ」


「武闘派とはいえ磨けばいくらでも光るタイプのお嬢様だったからなぁ。まあ鎧でも磨けば違う意味で光っただろうけども……」


 そうやって品定めするような視線で2人が観察していると、あちらも視線に気づく。

 ザナリアは、別れの挨拶とばかりに月下騎士たちへ慎ましやかな一礼を送った。

 それからエナメルの靴で小走り気味に、スカートを流しながらこちらに向かってくる。


「お待たせしてしまいましたね。というより待つくらいならばともに祈りを捧げていれば良かったのでは?」


「そういうのはいいや。冗談でも本気な連中に紛れると逆に失礼な気がするし、きっと神様だって望んではいないだろ」


 ミナトがぞんざいにしっしと手を振った。

 ザナリアは困ったような笑みを浮かべる。


「それは残念です。ともに同じ神へ祈りを捧げられたのなら素敵なことでしたのに」


 冗談っぽく言ってから華奢な肩をすくませた。

 このような精錬された場なのだ。どこぞの薄汚れが穢すわけにもいくまい。

 そもそもミナトは信仰なんてしていない。いまのところ神は宇宙まで助けにきてはくれないことを知っていた。

 しかしこのように畏まるべき場であっても変わらない人間がいる。その人物は彼女が祈りに入る前すでに標的に定めている。


「おおっ! 可憐な妖精さんがようやく俺という花弁に向かってやってきてくれたらしい!」


 東は唐突に立ち上がるとダンスにでも誘うような恭しい礼を送った。

 するとザナリアは礼を返すどころか、苦々しく奥歯を噛み締める。


「お黙りくださいませ! 私は貴方ではなく友を迎えにきただけです!」


 すでに乙女としての防衛反応が出来上がっていた。


「先ほどからなんなのですか貴方は!? 私の周囲をうろうろしながら歯の浮くようなセリフばかりをおっしゃって小馬鹿にして!?」


「これはこれは大変な失礼を。俺の思う感情の僅かながらをお伝えしただけだったのだが、どうやら可憐な貴方には刺激が強すぎたようだ」


「刺激どころか迷惑極まりないですッ! それといちいち可憐などという心にもないことを付け加えるのは謹んでくださいなッ!」


 東アレルギーへのアナフィラキシーショック症状は深刻だった。

 はじめは丁重な態度だったザナリアでさえ東にはほとほと手を焼いている始末。

 なにしろ口説きにかかるのが即断即決なのだ。しかも相手の都合なんてまったく意に返そうとしない。

 そんな軟派者とは正反対の男が鱗鎧を奏でながらこちらへと合流する。


「とりあえずお戯れはそのへんでお止めになっては如何か」


(区切りなし)





お読みくださりありがとうございます


次回を

挿絵(By みてみん)

お楽しみください

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