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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.5 【両手一杯の花束を ―WORLDS Scenario―】
128/364

128話【VS.】超進化固体 石食いの怪魚 エヴォルヴァシリスク 5

挿絵(By みてみん)

勇ましき

闘志たち


蒼をまといし

枠外の勇者


恐れを捨てよ

勝ちを執れ

「「照準、収束!」


 脱兎の如く駆る。

 稲光を足にまとわせ地を蹴れば身はやがて雷光と化す。

 引き絞った弦にはすでに双矢を番えた。閃光とともに猛々しい雷撃の光輝が弾ける。


「射出!」


 夢矢は、とん、と身軽に飛翔した。

 逆しまになった体勢のまま矢を放つ。

 放たれた矢は吸いこまれるかのよう。矢は精確な直線を描きながら敵の背びれを撃ち貫く。


「HEEEAAA!!?」


 轟くような奇声とともに怪魚はのたうった。

 被弾とともに雷光がより顕著にパァンと弾けたのだ。その雷撃が全身を巡って神経を焼き焦がす。


「HHHHHHEEEE!!」


 大団扇の如き背びれで波打つ大地をひっ叩く。

 怪魚は、空に残された敵へと飛びかかる。

 あまりにも凶暴な歯牙。返しの如くすべてがかぎ爪のように先端に弧を描く。

 そしてエヴォルヴァシリスクは、残心にいる夢矢に食らいつかんと大口を解放した。


「そうやすやすと喰わせっかよッ! 《ライト・β》!」


「HEA!?」


 唐突に現れた六角形の水晶によって狙いを阻まれる。

 ジュンによる不敵(プロセス)が敵と夢矢の間に障壁を作った。

 そうして戦闘の影となった視覚からリーリコが銃口を上げる。


「…………」


 声はない。ただ淡々と。

 奏でるのは弾丸が放たれる予兆と風裂く先鋭された高音のみ。

 高圧によって撃たれた弾丸は初速のまま敵の鱗を破砕していく。


「つっ、銃じゃ敵の体格に対して質量が明確に足りてない。これじゃ豆鉄砲を当てているようなもの」


 精密射撃を加えるも効果は今ひとつ望めそうにない。

 なにせ敵は体長10mはあろうかという大捕物だ。想像するなら路線バスに銃弾をばら撒いている感じか。


「効きはする。けど後押しが必要不可欠。なら、私はサポート」


 リーリコは持ち前の状況判断能力によって即刻役回りを切り替えた。

 持ち回りの良いカービン銃を抱えて駆けだす。敵の背後をピタリとつけ狙う。位置を変えながら細かに援護射撃を入れる。


「夢矢くん。アナタがメインアタッカー。やれる?」


「聞かれるまでも! 僕の2の矢はもう完成している!」


 リーリコに問われるまでもなかった。

 夢矢は地上に降り立つと同時に膝を落とし片目を閉じる。

 降下中すでに仕上げておいた雷撃の矢を引き絞って、放つ。


「H――GEEEEEEEE!!?」


 横から胴に異物が潜りこむ。

 これにはたまらずエヴォルヴァシリスクも地上のうえでひっくり返りながらのたうった。

 ずどん、ずどん。半身のひねりと尾が地を打つたびに花畑と森を鳴動させる。

 もし尾に当たれば生命があったとしたら1発で死に至るであろう。そのうえ大柄から繰りだされる攻撃はどれも致命的でしかない。


「決定打に欠ける。失血死を狙うのは非現実的」


「表面の皮が固いんうえに内側も筋肉の塊みたいなヤツだ! 僕の矢でも胴を狙うと貫けない!」


 夢矢とリーリコは連携をつづけながら憂慮した。

 やはり体格差が大きいとダメージが通りにくく苦しいものがある。人の体格と敵の大柄さはそのままディスアドバンテージとなっている。

 そこへ天空より飛来するもう1人の影があった。


「ジュン!? 危ないよ!?」


 夢矢がぎょっとするもすでにジュンは振りかぶっている。

 彼の装備しているのは幅広の銀剣。リーリコや夢矢とは異なる近距離特化のもの。

 それをジュンは上空から振りかざす。重力と体重をフルに乗せて上段に構える。


「俺の剣は他よりちぃと重ぇぞ!!」


 敵の鋼色をした皮膚に銀のだんびらが振り下ろされた。

 次の瞬間。ごうん、と。鈍い音が火花とともにはじける。


「GIIIIIIIIIIIII!!?」


「チッ! ()っせぇ!」


 蒼い残光とともに強烈な1撃が皮膚に切れ目を作った。

 傷口から腐臭のする体液がしどと噴きだす。敵の肢体がより大きく脈動し大地を割る。

 ジュンは刺さった銀剣を決して離そうとしない。どころか全身を振り回されながらニヤリと口角を引き上げた。


「ならテメェの自慢の硬さと俺らの科学をぶつけ合ってみようじゃねぇか!」


 《スイッチ》! 唱えたそれはルスラウス世界の魔法ではない。

 意味ある言葉。それでいて科学を作動させる指示。

 司令を受けた銀の剣は途端に両翼を広げるようにして刃を可変させた。

 それによって敵の皮膚に食いこんだ刃がもう1つさらに奥側の肉へと押しだされる。


「HEEEEEEEEEE!!?」


 より深くを貫いた剣はいくら藻掻こうとも抜けることはない。

 敵を蹴って距離を空けたジュンは、くるりと空中で身を翻す。


「夢矢! 直接内側に流しこんでやれ!」


 指示された先は、敵に刺さった銀剣だった。

 傍観していた夢矢はハッとなってからすぐさま弓を構える。


「そういうことか! ずいぶん無茶するね!」


「無茶かはどうかはやってみねぇと匙加減がわからねぇぜ!」


 ジュンの着地と同時に雷光の矢が放たれた。

 矢はそのまま精確かつ予測を踏まえて見事、銀剣を射貫く。


「AAAAAAAAAAAAA!!?」


 いっそうより悍ましい悲鳴が森中へと響き渡る。

 外側から効かぬなら内側から。銀剣が導体となり直接体内に電流を流しこんだ。


「私は援護と陽動。矢を作成する時間を稼ぐ」


「ありがとう! こっちもせっかく作ってもらったウィークポイントをなるべく狙ってみる!」


「防御は任せて好きに動け! お前らがしくじってもオレがぜってぇ守り抜いてやるから安心しろ!」


 それぞれ3角を描くようなフォーメーションを築くことで敵を囲いこむ。

 通信で指示、危機、激励をつぶさに行って連携を(くわだ)てていく。離れた場所にいても声ははっきりと届くため、聞き逃す心配もない。


「これが彼らの本気、決闘のときは見せなかった本来の力……!」


「伝説級の成長個体相手に引けをとらない!? あの蒼き力はいったいなんなのです!?」


 テレノアとザナリアは圧倒的連携術に魅せられている。

 呪いの届かぬ戦場の外側で蒼をまとう3人を見守っていた。


「なんというバトルセンス! 各々が孤立した独自の思考をもちながらもそれらすべてが噛み合ってます!」


「あの若さでどれほどの研鑽を積んでいるというのですか!? 巨大な魔物相手に均整のとれた行動は熟練の兵でさえ難しいというのに!?」


 乙女たちの驚きをよそに戦いは目まぐるしく進んでいく。

 フレックスは個の長所がなにより秀でる。蒼き力を芽生えさせた瞬間個はその特性を理解させられる。

 これが彼らのいう人種族の戦いかただった。個と個を重ね合わせることによってより強力な力と成す。

 巨大な相手にも引けをとらない、対巨大(ジャイアントキリング)。フレックスの真髄は重ねることにあった。


「EeEeEeEeEeEeEeEeEeee!!!」


 いい加減にしろ、とばかりに百ある瞳から一斉に光が放たれる。

 エヴォルヴァシリスクからの呪いという洗礼だった。

 だがエルフたちを襲った忌々しき光を浴びても止まらない。

 ジュンは、より活き活きとフィールドを駆け巡る。


「効かねぇ効かねぇ! んなもん効きやしねぇ! こちとら無重力無酸素空間でも昼寝できんだからなァ!」


 狙い通りだった。まとう蒼は5感を塞ぐ呪いさえ無効とする。

 フレックス第1世代による防衛能力。身体に沿わせた蒼は偉業となる敵の呪いさえも無効化した。


「うわぁ……半信半疑だったけど本当に無効化してくれるんだねぇ」


「長時間の紫外線どころか宇宙放射線さえ防げるという報告があがっている。考えてみればあのていど防げて当然」


 ある種の賭けではあった。

 しかしジュンが身を挺してまで行った賭けは、こちらの勝ち。

 再度リーリコと夢矢も戦闘に加わる。エヴォルヴァシリスクを――少しずつ――追い詰めていく。

 敵にとっては恐怖であろう。いままで勝ちのみを得てきた力が、今回の相手にのみまったく効かないのだ。

 それどころか払っても払っても追いかけて痛烈な打撃を与えてくる。


「……zeeeeee……」


 勝ち目が薄いと悟った獣はいったいどうするのか。


「あっ! このやろっ!」


「尾を翻した!? まずい!?」


 惜しいことをした。

 せっかく仕留めたのに獲物を食いそびれた。

 それでも生きてさえいれば次がある。


「ZEOOOOOOOOO!!!」


 そう、エヴォルヴァシリスクは戦いを放棄した。

 人を無視して地中へと潜りこんだのだ。

 慌てて夢矢が矢を放ち、ジュンが後を追うも、判断は敵のほうが速い。すでにヒレさえださず地鳴りを響かせながら森の側へと遠ざかっていく。

 しかしどうだろう。姿の見えぬ敵はいったいいまなにを考えながら尾を揺らすのか。

 進めども、進めども。その身は進まず。泳げども決して戦場から身は遠ざからぬ。

 どころか進んだぶんだけ己を留める力が加わる。反発する。


「ッッ!? ZEEEEEGOOO!?」


 大柄な怪魚の身体が地を割って勢いよく天に舞った。

 獰猛な猛獣は気づけただろうか。否、気づかなかったから野放しになっていた。

 通常であればもっとも危惧すべきは逃走である。なにせ敵にとって時間は味方、こちらには猶予がない。

 ならば戦場に隠れ、潜む。機会を窺いながらそっと静かに対応する。


「ふぅぅ……今夜は魚のアラ汁だな」


『お、いいねぇ! でも魔物だから毒抜きとかしないとヤバいよー?』


「呪いの治ったエルフ連中に頼めばやってくれるんじゃないか?」


 森の揺らぎから声はすれども形はなかった。

 光学迷彩を身にまとったミナトの姿は、戦場にあって、戦場にはない。

 そして枠組みとなる森と荒野の境目の木々には蒼き線が至るところに組み、巡らされている。

 それらワイヤーの複雑な絡み合いが収束する位置は、尾。

 ワイヤーの網は、エヴォルヴァシリスクを幾十もの木々の弾力で繋ぎ止めていた。


「EEEE!!? ZEHEEEEEEE!?!」


「もうお前は逃げられない」


 後悔する暇さえ与えないほど憎んでいた。

 とはいえ敵に果たして後悔するという機能が備わっているかすら定かではない。

 しかしこの恨みくらいは伝わっているだろう。他者を、友を、命を弄んだ罪は、容易にへし折った木々の根ほども根深いのだ。


「KEEEEEE!!? GYAAAAAAAAA?!!」


「いまここでオレの世界を返してもらう」

挿絵(By みてみん)

「ゲフー」

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