表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.5 【両手一杯の花束を ―WORLDS Scenario―】
121/364

121話 いざ呪いの根源へ《Combat Preparation》

挿絵(By みてみん)

龍は朝に発つ


挑むは

異端


怯えを捨て

勇気に変える


伝説級を炙りだす

その秘策

 日の出とともに胴の長い龍は空へ昇った。

 未だ藍色を残す早朝の空はどこまでも澄み渡っている。光沢を浴びた滑らかな鱗が1枚1枚朝日を反射し照り輝く。

 ブルードラグーンの不時着地点から発った一党らは、海龍の背の上ですでに戦闘の準備を整えている。


「チャンスはこの1度きりだぜ! この勝負、機を逃せば次までに犠牲がもっと増えやがる!」


 ジュンは真っ向から風を浴びながら姿勢低く構えた。

 身には薄い蒼をまとう。背には幅広い銀のだんびらを履く。

 さらに今回はイージスの盾紋章をした制服は着ていない。パラダイムシフトスーツを肌に沿わせ、完全な戦闘形態をとっていた。


「ソルロちゃんはヒカリちゃんに預けてきたよ! まだ触覚のみ残っているから不安にならないよう付きっきりになってお世話してくれてる!」


「可及的速やか。戦闘準備万全」


「ザナリア様率いるルスラウス教団もすでに目的地へ向かっています! スードラ様の到着とほぼ同時刻に到着されると思われます!」


 一党らの全員が各々のとれる最善を整える。

 昨夜ミナトによって真実を打ち明けられた一党らは、微かに動揺して見せた。

 が、すぐ事態をすんなり飲みこんだあたり場慣れしている。これしきの急報如き窮地とさえ思っていないのだ。

 この日が決戦であることを誰もが予知していた。誰の表情にも一切の迷いはなく、覚悟そのものを浮かべていた。

 覇気のない音が耳の奥へと直接響いてくる。


『ごめんね……僕が君たちを試していたばっかりにこんな事態に巻きこんじゃって……』


 海龍の面長な鼻先辺りからきゅぅ、とか細い音が漏れた。

 昨夜された説教が効いているのか、寝起きからずいぶんとらしくない。これほど言葉を選ばず謝罪する辺り本当に反省しているらしい。

 すると夢矢は突風に前髪をはためかせながら足下の海色鱗に触れる。


「まったくもってその通りだよ。それに僕は決闘のときの君のことをまだ許してはいないんだからね」


『…………』


「でもいまそれはとてもどうでもいいことでしかない。互いの進むべき道が交わるのなら成すべきことを成すだけさ」


 そしてとん、と。彼の鱗に拳をたてた。

 勇壮な笑みを作るもなお愛らしい。

 そんな彼からスードラへの正面切っての激励(エール)だった。


「まあまあ夢矢様もスードラ様も素敵です! まさに男同士の友情! そして雨降って地固まるというヤツですね!」


「……僕、聖女ちゃんのことも含めて怒っていたのを忘れてるのかな?」


「あら? 私なにかされてしまいましたかね?」


「あっ……じゃあなんでもないよぉ」


 未熟な聖女と貶されたことさえ空の彼方か。それを聞かされた夢矢さえ垂れる始末だった。

 もしかすると場の空気をよんでいるだけかもれない。だが、テレノアののほほんとした様子から察するにおそらくただ忘れているだけだろう。


「けど、そういやどうやって地中深くを移動するバケモンを退治するつもりだ? そんなヤツ地上に引っ張りだすどころか探すことさえクソ面倒くせぇだろうによ?」


 順当な疑問だった。ここに至るまでなんの説明もされていないのだから。

 するとリーリコはジュンを横目にはふ、とため息を吐く。


「呑気」


「あんだとぉ!?」


 轟々と吹く風のなかでも聞き逃さない。フレクサーは総じて耳が良い。

 ジュンが不服いっぱいににらみ返すも、リーリコは冷笑を止めない。

 


「まーまー僕らは戦闘担当ってことでそのときまで呑気でにいいじゃないか。それに発案者はマテリアルリーダーのミナトくんなんだし大船だよ」


 夢矢はどうどう、と犬をなだめるよう2人の間に割って入った。


「マテリアルのメンバーである俺は誰よりもアイツのことを信頼している! そういうこって呑気やってんだぜ!」


「ジュンだけはもう少し気を引き締めるべき」


 こちらの主力たちは――見ての通りに――やる気だけは十二分だった。

 ジュンの疑念はなにも間違ってはない。問題となるのは敵と接敵が可能であるかどうか。戦闘は2の次。

 姿さえ見せぬ敵をどうやって地上に引っ張りだすか。それから如何にして同じ戦場という舞台に立たせるかが争点となっている。


『敵の行動範囲規模から考えてかなり成長しているだろうね』


「なにしろエルフ国そのものが魔物の巣――ハイヴになりかけてますからね。そうとうな驚異固体となり得ていると予期しておいたほうが得策かと」


 気ままなノア組みとはことなって大陸組のスードラとテレノアは、若干ほど緊張の糸を張り巡らせていた。


「魔物は他の魔物と狩り場が重なり争いにならぬよう基本的に活動範囲を定めているはずです。なのにこの規模を我が物顔で巡り歩くというのは前例がありません」


 彼女の格好も本日に限っては愛くるしい奉仕姿ではない。

 キリリと引き締めた表情で聖女としての身なり。金色の鎧に身を包み、腰に細剣を履かせ、白波のスカートをはためかす。


「これも突然変異種災害という可能性も鑑みるべきでしょうか……?」


『時期尚早な早合点はやめておいたほうがいいよ。敵を想像するとそれ以上のものが現れた場合油断に繋がるからね』


 スードラは至って冷静な口調だった。

 戦闘に慣れている、あるいは経験が裏打ちしているのだろう。

 なにより急いてことをし損じれば大切なモノを失うことになる。


「ですがこれほど多くの呪いと死を振り撒くなんて不可解です。この危険度なら通常もっと早期に冒険者や討伐されてなければなりません。ならばやはり唐突に現れた突然変異種であるべきなんです」


『そうだね、通常の魔物が通常のまま生きたのなら聖女ちゃんのいうことは正しいと思う。でも敵は臆病であるがゆえに長く生きすぎてしまっている』


 スードラは一拍を置きながら獰猛な喉を「Grrr……」と鳴らした。


『おそらくは敵の本質は、小型から進化しつづけた超進化型固体……伝説級のエヴォリューションエネミーだろうね』


 同時にテレノアは「ッ!?」華奢かたを引き肩を上げた。

 両手で言葉を失った口元を押さえる。

 ふぅぅ、という長い呼吸で全身の硬直した筋肉を解していく。


「……私たち如きの実力で勝てるのでしょうか……」


『わからない……けど、僕たちでやるしかないんだ。当然ながら全力でね』


 2人は吐息のような囁きを交わす。

 しかしやはり聞き逃さない。どれほど気を使っていたとしても必ず耳に届くのがフレクサーの悪いところ。


「ってことはソイツを倒せばポイントうはうはじゃねーのか?」


 テレノアがギョッとするそのすぐ後ろでジュンがくつろいでいるではないか。

 しかも緊張もなにもあったものではない。へそ天のだらしない座りかたで流れる空を仰いでいた。

 これにはテレノアも僅かに眉尻を引き上げる。


「今回の討伐はエルフたちを救うことです! 聖誕祭の玉座争奪レースは1度忘れて挑んでください! でないと貴方がたの命でさえ危ういんですよ!」


 鉄靴でずかずか鱗を渡り大股気味に詰め寄っていく。

 幅広の腰に手を添え指を立て叱りつけた。


「いいですか! 伝説級のエヴォリューションエネミーというのはそこらの魔物とわけが違うんです! それはもう歴史上類を見ないほどに恐ろしい恐ろしいとても凶悪な敵なんですから!」


 しかしいまいちジュンには響いていない。

 なにを怒ってるんだ、とばかり。首を傾げるだけだった。

 彼女が想定しているであろう、それ以上に聞き分けが悪い。


「ジュンの期待もわからないでもないけど、でも今回は教団との共闘になるからねぇ。そうなると討伐報酬は等分の山分けになるんじゃないかな」


「かーっ! もったいねぇなぁ! この1発でがっつり稼いで、あと楽できりゃ良かったのになぁ!」


 なにしろ人間は魔物というもの自体に疎いのだ。

 テレノアは「もう!」珍しくぷんすか頬を膨らます。


「ミナト様もなにかいってあげて下さい! こんな調子で挑んでは瞬く間に魔物の餌食になってしまいます!」


 唐突に話を振られたミナトは、「……ん?」覗いていたモニターを閉じる。

 身には橙を帯びていた。はじめからテレノアの魔法、《ウォームエンチャント》をまとうことで初日より快適な空の旅を送れている。

 だからALECナノコンピューターの演算を眺めつつ作戦の最終考案に注力可能となっていた。

 そしてミナトは、ジュンと夢矢とリーリコを順繰りに見つめ、それからテレノアを見上げる。


「たぶん大丈夫だよ」


「なにが大丈夫なんですか! 気を抜いてかかれるような相手ではないんですよ!」


 ミナトはもう1度同じ声色で「大丈夫」繰り返す。


「だって死ぬより辛い思いして生きてきたんだ。このていどでそうそう油断なんてするわけがないさ」


「……え? それってどういう……」


「弱くはないってことだよ。少なくともオレなんかよりよっぽど強い力と心をもってる連中だ」


 たじろぐテレノアを余所にさも当然と、あっけらかんにいってのけてしまう。

 この自信は、信頼とか友情とかでは決してない。ここでこうして生きていることがすべてを証明している。

 すると夢矢は「あはは……」苦笑いを浮かべるばかり。

 ジュンも「弱くねーけど強いとも限らねーからな!」気っ風よくかっかと笑い飛ばす。

 リーリコに至っては「…………」どこ吹く風と反応さえしない。

 イージスのメンバーたちにとって危険こそ日常だった。このような切羽詰まった場であろうとも生きる力――蒼き力を秘めていた。


「あ、貴方たち……いったいどのような世界からこのルスラウス大陸世界にやってきたのですか?」


「それな。それをオレたちが1番知りたいんだよね。あれいったいどこの宙域なんだろう」


 胡座をかいたミナトがぱちんと指を鳴らす。

 と、テレノアは腰砕けるようへなへな鱗の上に座りこんでしまう。

 人々の浮かれた笑みに吊られながら口元をほんのちょっぴりだけ緩ませる。


「……どこからそのような自信が湧いてくるのですか、まったく……貴方たち人という種族は……」


 飛び立ってからすでに時計一回り半は経過していた。

 龍の空を駆る速度は雲さえ追い越す。さすがに垂直離着陸機(VTOL)やブルードラグーンのような星間飛行よりは遅い。しかしこの大陸世界では類を見ぬ上等な移動手段となっている。

 流れる景色を眺めている間にもエーテル国の国境なんぞは尾の向こう側に消えていた。不時着地点からエルフ国の西南西へと真っ直ぐ進路をとりつづけた。

 そうしてようやく龍の咆哮が戦場への到着を告げる。


『ようやく見えてきたよ! あそこがエルフたちを死に至らしめる呪いの発祥の地――カマナイ村さ!』

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ