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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.4 【エニシの異界&ルスラウス大陸 ―The Perfecty WORLD―】
100/364

100話【VS.】大陸最強種族 母なる海龍 スードラ・ニール・ハルクレート

挿絵(By みてみん)

決闘

怒濤

激動


圧倒的な

身体能力


残酷なまでの

種族差


人種族の領域へ

 空気が凍える、大気が荒ぶ。

 ここにあるのは雄と雄。雌雄を決する対面勝負のみ。


「さいしょは、ぐー……」


 握られる拳。秘めたるは勝利を得んとする欲望のみ。

 大陸最強種族と名高き龍へ、愚かにも人は挑む。虎龍院夢矢は100度目の勝負をけしかける。


「じゃん・けん・ぽんっ!」


「ほい、っと」


 こちらの切った札は、グーである。

 対するスードラは、パーだった。


「く、ぐはぁっ!?」


 これにて100度目の敗北を喫す。

 人間側の完全なる敗北という決着だった。

 1秒、2秒、と。僅かに間を開けて夢矢の膝小僧が石畳の上へ落ちていく。


「君、ジャンケン弱いねぇ~?」


 すでに満身創痍の彼に尾ひれが揺らいだ。

 滑らかなシルクの如き光沢のある龍の尾が敗者をおちょくる。

 いっぽうで夢矢は魂なき芯のとれた動作で立ち上がった。

 アテもない足どりでとぼとぼ。雲の上をあるくかのような頼りなさ。


「ごべん……ぼぐやぐたたずだった」


 悲しみを両肩にうな垂れながらこちらへ帰ってくる。

 負け、負け、負け。ジャンケン勝負は負け越しすぎて挑戦者から闘志という意思を刈りとった。挑む気力すらないといった調子だった。

 100戦100敗0引き分け。黒星の味は心すら削ぐほど酸い味となっている。

 そんな負け犬、もとい半べそで腰砕けの夢矢を2人は酸い顔で迎えて肩を叩いてやった。

 ヒカリはむむむぅ、と口を山なりヘソを曲げる。


「う、うーん……これは絶対ズルしてるでしょうねぇ……」


「そりゃぁなぁ。コレがマジモンの奇跡なら無駄すぎて逆に尊敬する」


 ミナトは同意しつつも大きく空を仰いだ。

 この勝負ズルや偽証はわかりきっている。しかしジャンケンという刹那のゲームで如何な怜悧狡猾を仕組んだかが争点となりうる。

 対戦相手はたかがジャンケンゲームでまさかの100戦100勝をやってのけた。1勝負約33%の確立。それを100回連続で繰り返すとなれば天文学的確立となる。

 おそらく運の要素は一切絡んでいないのだろう。その証拠に勝っている側も、さも当然とニヤニヤと人を喰った笑顔を貼りつけていた。


「僕ら龍族の動体視力と反射神経ならキミたちがなにをだすのかくらい予測するどころか直前で目視すれば簡単さ。そりゃ相手の手を見てから勝つ手をだすんだし負けっこないよね」


「動体視力と反射神経の100戦100勝後だしジャンケンしたってこと!? そんなこと普通できっこないでしょ!?」


「だからそれが僕ら龍とキミたち人間との種族差ってやつだよ。こと早さに関していえば僕ら龍は尋常じゃない」


 ヒカリがギョッと眼を見開くも、スードラは余裕綽々とローブの裾をゆらりゆらりと流した。

 これには絶句するしかない。なにせ相手は夢矢相手に100戦100勝の完封試合を現実にやってのけている。こちらにはその彼の発言を否定する弁を持ち合わせない。


「僕もう飽きちゃったからジャンケンはオシマイでいいかなぁ。勝つとわかっていてやる勝負事って退屈なんだよね」


 ふわぁ、と。スードラはさもありあんと大口開け喉奥をこちらに見せつけてくる。

 どこまでも中身のない、それでいて気概も気合いも抜けた態度だった。

 対してこちらは決闘の条件を再び考え直さねばならない。

 ルールはとても安直だ。スードラはこちらを傷つけない、殺さない、危なくない。そして人間側は何度挑んでも1度勝てば勝利となる。

 条件としては人工甘味料より遙かに甘いものとなっていた。だが、それほど安くはない。

 ミナトは敗色濃厚を察しながらも招集をかける。


「くっそー……このままじゃ勝機が一生見えてこないぞ」


「で、ですけどジャンケンはいままでで1番時間はかけられてます。善戦といえるのではないですか」


「いやいや聖女ちゃんは酷なことおっしゃいますなぁ。そのせいで夢矢くんが襤褸雑巾になっちゃってるってなわけですよ」


 寒々しい視線が地べたに丸を書いていじける夢矢へと注がれた。

 スードラの身体能力が人のそれとかけ離れすぎているのが元凶である。

 そして数々のレクリエーション的考案さえこれで5敗目だ。ケイドロでの大敗以降体育会系の選択肢はなくなっている。


「ではいったいどうすれば……」


 テレノアは表情を曇らせ形のよい眉を不安そうにしかめる。

 薄く膨れた金のプレートに手を添え、おろおろ。足踏みをするたび百合のような白いスカートがゆらゆら揺れた。

 いまのミナトに彼女の不安を拭ってやれるだけの策はない。なにを挑んでも負ける未来しか見えなくなっている。


『で、どうするの? あんなちゃちなゲームとはいえ受けちゃったからにはもう勝ちか負けかで決める正当な勝負だよ?』


 そろそろ爪でも噛もうかというときに頭のなかで声が響く。

 しかしそれは決して救済というものではない。ただの文句。


『だから僕は最初に注意してあげたんだからね。龍族と関わって良いことなんてないんだ』


 悠長な少女の声がよりミナトの焦燥に火をつけた。

 こちらが焦っているというのに頭のなかに住み着いた居候ときたらまるで協力しようという気さえない。

 種族的格差というものを――幽霊なだけに――魂レベルで理解しているのだろう。

 深刻な空気が人気の少ない喫茶店手前の路地に立ちこめる。

 観客はいない。無観客の寂れた決闘場。ときおり通り過ぎる聖都の民が物珍しげに足をとめるくらいなもの。 


「はいはーい! ちょっとスードラさんもう1度こっちが勝ったときの条件聞かせて貰って良いー?」


 ここで活気良くヒカリが挙手した。

 するとスードラはぱちくりと瞬いてからにんまり目端を細める。


「んっ。キミたちが僕に勝ったら僕の身体をキミたちの好きに使ってくれていいよ」


「それを絶対に守るっていう保証はどこにある?」


 ミナトが割って入ると、こざかしくも色気のある笑みが咲く。


「龍は決闘で決した約束を絶対に違えない。というのがこの大陸の道理(ルール)さ」


 少年らしくない含みのある小悪魔的微笑だった。

 少女といわれれば信じてしまいそうな美麗な顔立ち。それも相まってか、より心が読めず、悍ましい印象をこちらへ与えてくる。

 もとよりこの大陸種族にとって年齢という概念はないに等しい。おそらく彼も50や100といった人と比べてかなり生きている部類なのだ。

 都の美麗たる風景を見たからこそわかるものがある。この世界の拗くれた世界観は人の考え得る範疇から大いに逸脱している。


「この大陸には本当にそういう道理があるのか?」


 ミナトはたまらずスードラから視線を移す。

 目を合わせているだけで気が滅入りそうだった。

 あのマリンブルーの瞳はまるでこちらの心を見透かしているかのよう。美しくとも恐ろしい。

 テレノアは、ハッとしてからこくりと浅く頷く。


「はい。龍族は決闘で敗北した場合必ず相手に付き従います。これは神より与え賜ったものではなく龍という強き者たちが従う制約の如き別種の道理です」


 ミナトは不快そうに眉をひそめて「制約……?」と、彼女の言葉をオウム返しした。

 大陸新人の人間たちにとってそれは初耳の情報である。

 ようやく立ち直った夢矢含めミナトとヒカリも含め、人間たちは詰め寄るみたいに彼女の声に耳を澄ます。


「龍族は数多くいる上、そのすべてに強大な力が与えられています。だからこそ龍たちは些細ないざこざであっても戦えば確実に大地を破壊し相手を殺めてしまう。だからこそ決闘という枠で勝敗を決することにより相手の命を保護するようとり決めているのです」


 語られる龍の生態は、理に叶っていた。

 相手を殺めないため決闘という方式にあえて囚われる。そして勝ちをとった者に従うという点もまた勝者と敗者を色濃く反映していた。

 その上、大陸先輩のテレノアがここまで断固として言葉にするのだから人にそれを疑う余地はない。


「それだけに負かすこと事態かなりの難度を強いられます。過去龍を負かした種族は……大陸広しといえども本当に僅か。凄まじい幸運と大きな結束なくばまず勝ち目はありません」


 突きつけられる事実に4人は、ひとかたまりになって静まりかえってしまう。

 すると遠くから本人直々に補填を入れてくる。


「でももし勝てたら僕のことを戦いに使おうが慰めに使おうがなんでもいうこときいちゃうよ。もしキミが望むなら僕と結婚して愛を紡ぐことさえ出来ちゃう」


 ほどほど離れていても聞き逃さない辺り聴力も並みではないらしい。

 しかもすでに勝ったとばかり。スードラは自信満々かつ余裕綽々といった様子だった。負ける未来を欠片とて思考していない。

 勝てばなんとやらとは良くいったもの。甘い条件に惑わされ安請け合いした後悔がいまになって重くのしかかる。

 なにせこの勝負はいまもなおつづいているのだ。受けた時点で流すという選択肢が削がれた。

 相手の狙いに気づいたときにはもう遅い。敵はこちらを己の卓に座らせることですでに勝利を確信していた。


「じゃあさ相撲とかどうかな? ローブの下は華奢そうだしもしかしたら?」


「それいいわね! 勝負にかこつけて美少年の身体を触りたい放題とは夢がありますなぁ! とはいえ正直いっちゃうとたぶん身体能力差で負け確よ」


「じゃあ神経衰弱なら? こっちは4人いるわけだしハートやダイヤを分担して覚えれば勝てるかも?」


「こっちの予想を全部へし折ってくるような相手だぞ。なにせケイドロで全員がよーいどん直後に捕まったしな」


 あーでもない、こーでもない。議論は巡る。

 しかし3人寄っても文殊も知恵も降ってはこないし、過ぎるのは時間ばかり。


「決まらないなら僕の勝ちってことにしたいところだけど、それじゃあつまらないよねぇ?」


 こちらが苦悩しているというのにスードラは我関せずといった感じ。

 彼にとってはあくまで暇潰し。遊びにつきあってやってるというのが本心なのだ。

 龍という存在を見くびっていたことは認めざるを得ない。その上でリスクを最小限に仲間に引き入れというとした報いを人間たちは味わわされている。


「じゃあさじゃあさっ。キミたち考案の勝負も受けたんだし、ちょっと僕の提案にも付き合ってよ」


 乾いた音を鳴らした指がくるくると幾重の円を描き結ぶ。

 その小癪な表情が見る者すべてに嫌な予感を彷彿とさせてくる。

 そしてスードラはおもむろにわあ、と両手を広げる。ローブの裾を扇状にうんと広げた。


「この狭いフィールドのなかで僕の身体の一部を僕から奪えたらキミたちの勝ち。もちろんこっちは限界まで手加減はするし、僕からの痛手となる攻撃はなしってことでさ」


 遊び、ゆらゆら尻尾が揺れる。

 一同視線を合わせ、それからいっぺんに四散し路地の観察を開始した。

 スードラの提案は、ここ。閑静な喫茶店前の細路地を指している。


「仕合する広さはおおよそ10かけ10ってところか?」


 両端には建物がそびえており左右およそ10mていどの幅しかない。

 自由に動けるスペースはかなり限られていた。


「うん、たぶんだけど。それに人数差もあるし、そこそこの範囲を単身でカバー出来そうかな。逃げ道を塞ぎながら追いこめるかもだね」


 しかもあちらは1人に対してこちらは3人もいる。

 能力の使えぬミナトは置いておくとしても、夢矢、ヒカリ、そしてテレノアがいた。


「ならそろそろ私たちも本気だしちゃおうかしら。さっきのケイドロは一瞬過ぎて力を使う暇もなかったし」


 なによりこちらは奥の手を隠し持っている。

 蒼き力――フレックス――という切り札は未だ敵に見せていない。

 こちらとて敵に合わせて遊んでいたわけではなかった。最後の手段を使うまでもなく、別の手段がないかを模索していただけに過ぎない。

 そろそろこちらも遊びを終えて全力をだしても良い頃合い。ミナトは味方全員に視線を巡らせる。

 するとテレノア、夢矢、ヒカリの3人は力強くこくりと首を縦に揺らす。


「じゃあその分厚いローブを剥がせばいいってことだな? 例えば裾を掴んで破けてもオレらの勝ちでいいかい?」


「髪を抜くとか鱗を剥ぐとかとにかく色々なんでもありっ。まあとりあえず身体を動かしたいからこの暑苦しいローブは脱がせて貰うけどね」


 飲む条件としてはなかなか悪くなかった。

 なにより相手がこちらを見くびってくれている。龍という絶対的な存在であるからこそ高をくくってくれる。

 こちらがそのために小さく小さく積み重ねてきたということさえ思慮せず。己が圧倒的優位に立っていると思いこむ。思いこまされていることさえ気づかず。


「…………」


 ミナトは最後の締めとして熟考した。

 スードラの召し物を掴めさえすれば、勝ち。

 どれほど素早く動けようとも衣類の耐久は変わらないから破くのは容易。

 つまり相手はこちらに尾すら掴ませることは出来ないハンデを背負う。


「その勝負、受けて立とう」


 ミナトは人類を代表して堂々と決断を下す。

 それほどまでに十分な下地が整っていると判断した。

 夢矢とヒカリも薄い笑みを浮かべて奮起する。


「じゃあここから本気だね。さっき負けたぶんやり返してやるぞー、おー」


「こうみえて私ってば戦闘は苦手だけどスポーツはけっこう得意だったりするのよね。相手がイケメンでなおかつ仲間に出来るっていうのならちょっち本気だしちゃおうかしら」


 それぞれ身にまとっている盾印の制服をひと思いにばあ、と脱ぎ捨てた。

 肉体を浮かしかつ相応に動きやすい流動生体繊維のスーツを披露する。

 するとスードラもまた先ほどとは異なる浮かれるような表情を顔いっぱいに広げる。


「いいねいいねっ! やっぱり遊びとはいえ本気でやらないと昂ぶってくるものがないもん!」


 活きの良い獲物を前に舌なめずりをした。

 裾から伸びた青色の美しい尾っぽも根元から波打つように先端を大きく揺らす。

 そしてはらり、と。彼のまとっていた黒い革のローブがなびいて石畳の上に横たわる。


「ひゃっ!?」


「いぃっ!!?」


 その直後だった。

 夢矢とヒカリがほぼ同時にボッと頬を赤くする。

 そのままあろうことか対戦相手から思いきり顔を背けてしまう。

 晒された龍の肢体はあまりにも露骨すぎた。臆面もなく肌を晒すとは、まさにソレ。

 レザーの如き胸巻き1枚、それと脚部の根元までを隠し切れていないショートパンツが1枚のみ。他にもいちおう着ているもののすべてが肌を隠すのに不十分だった。

 身にまとっているというよりは辛うじて隠しているに過ぎない。ほぼ半裸どころかクオーター裸のようなもの。歩くセクシャル。

 ミナトはローブを脱いだスードラを見て愕然とした。またもアテを外したことを己の浅さを恥じる。


「そんなもん――ッッ! ハナからなんも着てねぇようなもんじゃねぇかァァ!!」


「でも僕ら龍族って巣の中では基本裸だよぉ? いちおう隠してるだけ余所行きの格好ってヤツだよぉ?」


 スードラは、真っ赤になった人間たちを嘲笑うようにして、白い腰をくねりくねりと左右に揺らす。


「あ、でもスードラ様のいうことは正しいですよ。龍族が衣服をまとうのはつい最近になってからと聞きますし、たまに裸でお空飛んでたりするので日常茶飯事です」


「通りでテレノアだけ嫌に澄まして見てるなと思ってたよ! あと猥褻物が空飛んでる部分にお前ら大陸種族は違和感を覚えろォ!」


 たいていの場合後悔とは遅れてやってくるもの。

 気づいて叫んだところで結果は変わらず悲しみに塗れ、木霊するばかり。

 もう遅いのだ。きっと1匹の龍に人如きはすべてを見透かされている。


「さあ……それじゃあ……熱く滾り心昂ぶる決闘をはじめようじゃないかぁ!」


 スードラはぽぅ、と熟れた頬を手で包み込む。

 汗ばむ人間たちを前にし、うっとり目を細めながら唇に指を添えた。



   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

挿絵(By みてみん)







※注意※





※オスです※






※男です※






※ついてます※






※プールとかで良く見る光景です※























【以上のことを理解した上でお進み下さい】



































挿絵(By みてみん)

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