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9.肉を食う

今日は無事に仕事を終えた。この達成感のまま気持ちよく一日を締めくくるのは……そう、肉でしかありえない。俺は今肉屋にいる。

色々な肉が所狭しと並んでいる。この世界にも家畜はいるようで、見慣れた牛や豚、鶏肉があった。故郷との違いは、そこに魔物の肉と思われるものも並んでいることだ。結構メジャーな肉らしく、目の前で魔物の肉が買われていく。


さて、どうしよう? 今日は肉だと心に決めていたが、何肉かは決まっていない。見慣れた肉もいいし、せっかくだから魔物の肉にするのもアリだ。どうしようかな。

俺が悩んでいると、店主が声をかけてきた。オススメを聞くとやはり魔物をすすめられた。ボア肉。そういえばデスボアは食べずに売ったから味を知らない。ここで売っているボア肉はグラスボアといって、草原に住む比較的おとなしい種類のボアらしい。比較的、なので多分全然おとなしくない。ボア種は凶暴なのが基本なのだろう。

オススメされたステーキ用ボア肉を銅貨二枚分買う。そこそこの量になった。まあ食べ切れなかったらアイテムボックスに保存しておけばいいし。


宿に帰り、部屋の扉をしっかり閉めた。

さあ、やるか。誰にも見られてはいけない。宴の始まりだ――!


まずは【ショッピング】でカセットコンロとガスボンベ、蓋つきフライパン、フォーク、サラダ油に塩コショウ、パックのお米を購入する。そこそこの買い物になったが肉のためだからしかたない。そこまで買うなら肉も通販すればよかったじゃんと思う心の中の俺は投げ捨てておく。ロマンなんだこれは。


いざというときに素早く水魔法が出せるようにシミュレーションしておいて、さっそく調理に取り掛かる。


まずはカセットコンロに火をつけ、油を敷いたフライパンを温めている間にボア肉に塩コショウをふっておく。コショウの良い匂いがする。くしゃみも出そうだ。

フライパンが十分に温まったら肉を投下! ジュウウ、とみんな大好きな音がして肉が焼けていく。焼き目がついたら火を弱め、肉の色が変わってきたあたりでフォークを使って肉をひっくり返した。いい色だ。今回は節約のためにフォーク一本で戦うことになったがそのうちちゃんと調理器具は揃えたいな。こっちで買ってもいいし【ショッピング】でもいい。

反対の面もしっかり焼く。最初は強火で、途中からは弱火で。蓋をして、中まで火を通す。早く食べたい。

もういいかな。火を止め、蓋を開ける。


――美味そう。

思わず息を呑んだ。圧倒的なビジュアルだ。これこそまさにステーキというようなものが出来上がってしまった。俺は天才だったのかもしれない。


パックごはんを手に取る。当然だが、冷え切っている。だがこんなときのために創り出した魔法があるのだ。ぺりっと少しだけパックの蓋を剥がす。そして呪文を唱えた!


「〈温まれ(レンチン)〉」


お米から湯気が立った。そう、日本にいた頃は手放せなかったあの電化製品と同じ性能の魔法である。〈魔法創造〉スキル、最高。電子レンジ、【ショッピング】で買うには値が張るし同時に発電機も買わなきゃいけないから……。


パックごはんの蓋をべりべりと勢いよく剥がす。あっつい。

だがこれですべての準備が整った。


「いただきますっ……!」


ぱぁん、と小気味よく手を合わせて俺はフォークをステーキに刺した。そしてそのままごはんの上に引き摺り乗せる。ナイフなんてものはないので、かぶりつくしかない。でっかい肉にかぶりつく夢があったとかそういうのじゃなく! かぶりつくしかないのだ!


挿絵(By みてみん)


「う……」


うまい……。

かぶりついた瞬間に肉汁が溢れてくる。肉は柔らかく、簡単に噛み千切れた。ボア……イノシシの肉と聞くと臭くて固そうなイメージを持っていたが、そんなことはない。牛と豚の中間のような味だ。甘みのある脂身の触感がサクサクで楽しい。日本でイノシシを食べたことがないからこれがイノシシの特徴なのかグラスボアの特徴なのかはやっぱりわからない。

ごはんも進む。どこか乾いていた俺の身体が肉汁で潤っていくようだ。肉、米、肉、米、交互に食べ進める。子供の頃よく家族で利用していた地元の弁当屋のカットステーキ弁当に入っていた付け合わせの漬物のありがたさを、三十歳が近付くにつれて肉だけを食い続けることが困難になった頃にようやく知った俺だが今は漬物も必要ない。若く健康な体は肉だけを永遠に食らい続けることができる。肉。肉の脂。肉。肉。肉。


「はあ……」


最後の一口を十分に味わってから飲み込む。部屋に備え付けの水差しからグラスに水を注ぎ、喉を潤した。

ああ……最高の……夕食だった……。


使った道具を〈清浄(クリーン)〉で綺麗にしてから大事にアイテムボックスに仕舞う。また頼むよ。

ボア肉は半分残ったが、今日はもう満腹満足なのでこれもアイテムボックスに仕舞う。持っててよかったアイテムボックス。ボックス内は時間が止まるから消費期限とか気にしなくていいのが本当にありがたい。腐ったとしても〈健康〉スキルがあるから食べても害にはならないが、それはそれとして腐ったものは普通に食べたくない。味も美味しくないだろうし。

ごみも片付けて、部屋全体にも〈清浄(クリーン)〉をかける。肉の臭いや跳ねた油もこれで綺麗になったはずだ。証拠隠滅、完了……。


なんとなしにステータスを開いてみると、メニューに【料理】が追加されていた。

タップすると、先ほど作ったボア肉のステーキが画像付きで表示されている。詳細を見てみると、材料、手順、それから“料理効果”が書かれていた。


「魔力を込めて作ると一定時間体力、筋力増加……」


ゲームの料理システムみたいだ。今回は魔力を込めるなんて意識はなかったから普通のステーキだったが、依頼をこなす前は自分で料理したら依頼が楽になりそうだ。まあ料理の準備するの面倒だし朝飯は宿で出るし〈身体強化〉魔法で事足りるから使わなさそうだけど。


俺は画像の下に「作る」ボタンがあることに気が付いた。もしかして、とタップしてみる。


「ボア肉のステーキ」を作りますか?

材料が手元にない場合、MPを消費して作成します

はい/いいえ


はいを押す。

ぽん、と皿に乗ったステーキが現れた。MPが減っている。

アイテムボックス内にある具材は手元にない判定のようで、手つかずのままだ。


「……やっぱこのスキル使うかも……」


一度作ったものなら簡単に作れてしまうなら便利すぎる。魔力で出来ているので、料理効果も付いていた。MPはそこそこ持っていかれるが、どうせ食事したら回復するし気に留めるほどでもない。〈身体強化〉と食事がまとめてできると考えたら場合によってはこっちのほうがいいかも。

MPで作った料理もアイテムボックスにちゃんと仕舞える。MPに余裕があるときは適当に料理作ってボックスに放り込んでおけば食べるのに困ることはないのではないだろうか。

料理は面倒だしそんなに好きではないが、レシピ登録するためにやってみるのもいいなあなどと思う俺だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。挿絵が見事に雰囲気を盛り上げてますね
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