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8.買い物

「どうも。依頼を終えて来ました」

「はい。確認します」


サイン紙を受け取った受付さんはそれをなにやら機械にかけた。魔道具……なのかな。台座があり、そこから伸びたアームに台座を照らすライトが付いている。台座に置かれ、ライトを浴びた署名がぼんやりと不思議な色に光った。


「確かに。では、こちら報酬となります。お受け取りください」


ちゃんと依頼した本人に貰ったサインかとか、無理矢理書かせたものではないかとか、そんなのを調べられるのだろうか? 当たり前だけどサインに問題はなかったようだ。


報酬を受け取る。

銀貨二枚。最低ランクの冒険者が受けられる仕事にしては結構いいと思うんだが、どうだろう。しかし期限ギリギリまで依頼が貼りだされているほど受ける人が少なかったということだ。やはりサポーターの仕事は人気がないんだな。荷運びを軽くこなせるような力と体力を持っている奴はハンターの仕事をやっている気がする。


「はい。ありがとうございます。それじゃ、受付さんもお疲れ様です」

「……はい」


組合(ギルド)を出た。

さて、街を歩いて色々見てみよう。

欲しいのは夕飯用の肉と、ちゃんとした服、あとは【アイテムボックス】隠蔽用の鞄かな。ポケットに何でも入れるわけにもいかないし。服屋から探すことにした。


大通りには人が多い。屋台や、路上で商売している人もいる。賑やかだ。子供の声もする。じゃあね、と聞こえたからもう家に帰る時間なんだろう。


服屋は、組合(ギルド)からそう探す手間もない場所にあった。武器屋、防具屋、服屋と並んでいる。組合(ギルド)に登録した冒険者が装備を整えるにはもってこいの並びだ。しばらく戦闘する予定はないので武器防具は置いといて、服屋に入る。それなりに広い店内には数人の客がいた。


いらっしゃいませ、と店員の声が響く。

服屋の店員は異世界でもグイグイ話しかけてくるのだろうか。昔は店員に話しかけられるのは別になんともなかったんだが、いつからか苦手になってたな……。いつからかって言うか、入社してから……? アレ、俺、そんな初期からあの会社にメンタルやられてた?


……とりあえず、一通り見てみることにする。

力仕事や作業をするから、丈夫で動きやすい服がいいな。この世界には日本のような四季はなく、地域によって安定した気候をしているから夏服冬服などは考えなくていい。暑い地域寒い地域には行かずこの辺りで活動するだけならシャツ一枚二枚とズボン一着あれば十分だ。


靴は……俺がこの世界に来たときの初期装備であるこいつがなかなか履き心地がいいんだよな。歩きやすいし。

それを言うと今着ているこの村人Aみたいな地味なシャツとズボンも着心地はいいんだが……。


……ふと、初期装備を〈鑑定〉してみた。


神より与えられし服一式

神から雨海茗助に与えられた、決して破壊できない服。他人に良い印象を与える。衝撃吸収。疲労軽減。着心地が良い。リメイク可。


いいやつだった。

慣れない山歩きに戦闘で「ちょっと疲れたな……」くらいで済んでたのも、親方に体格でひょろっちいと思われながらも仕事はしっかりやってくれそうだという評価を貰えたのもこれのおかげか。

というか衝撃吸収で破壊不可能なのにリメイクはできるの? 例えば刺繍を入れるために針を通すのって“衝撃”“破壊”に入らないのか。ダメージを与え元々の形を壊すことになるが。……深く考えるのはよそう。


俺が求める丈夫で動きやすい服はすでに着ていた。〈清浄(クリーン)〉があるから汚れや臭いも気にしなくていいのでヘビロテ確定である。問題は見た目だな。神様ももうちょっとカッコイイ見た目にしてくれたらいいのにという我儘を抱く。リメイク……についてはあとで考えるとして、これに何か羽織れるものでもあったら見た目の印象も変わるんじゃないだろうか。魔術師風のローブとか。


店内を探すと丁度いいのがあった。紺色の、フード付きの外套。形としては前開きのパーカーに近い。生地は薄手で、今の服に羽織るくらいなら暑くもならなさそうだ。ゆったりとした袖口にフードが……魔術師っぽくてとても良い。これしかない。買おう。銅貨四枚。ついでに【アイテムボックス】隠蔽用の腰に付けられる鞄も買った。これは銀貨一枚。上から下まで一式揃える予定だったが必要なくなったので出費がかなり抑えられた。


挿絵(By みてみん)


買ったばかりの上着と鞄を装備し、ウキウキ気分で服屋を出て、少し歩いてみる。

武器防具屋の近くには薬屋、魔道具屋……。冒険者に喜ばれそうな店が更に並んでいた。魔道具屋は気になるがああいうのはお値段が張るというのが基本なので、もうちょっと稼げるようになってから覗いてみたいと思う。


大きな噴水がある広場を西に抜けると商店が立ち並んでいる。西は俺が来た方向だ。俺たちが歩いてきた街道はどこかの街と繋がっているのだろう。人の行き来が盛んで、この通り沿いに店を出せると儲けも大きいのではないかと思った。

西の商店街には道具屋、雑貨屋、食事処、それから組合(ギルド)そばのものより規模は小さいが武器防具屋もある。

売ってあるものを見るとファンタジー世界に来たんだなあと新鮮でどこか実感の湧かないような気分になるが、この賑わいには懐かしさを覚えた。商店街の空気感というのはどの世界も似たようなものなのだろう。


イベリスに何かお礼の品を買いたいな、と思う。

菓子折り、なんてものを取り扱っている店はこの世界にあるのだろうか。少なくとも、この辺りにはなさそうだ。街の東側に住居を構える富裕層向けの高級店もあるから、もしかしたらそっちにならあるかも。今の俺には手が出せないが……。

そもそも、だ。イベリス、お菓子などの甘いものは得意だろうか。アレルギーなど食べられないものはないだろうか。出会ったばかりの俺はイベリスの好みなんて何一つ知らない。どうせならイベリスが喜ぶものをあげたいよなあ、と俺は社会人のマナーなんてものではなく、単純にイベリスに贈り物がしたいんだなと気付いた。


初仕事を終えた帰りにそんなことを思うなんて、なんだか少し、初任給で両親に温泉に行ってもらったことを思い出す。県内のそう大きな温泉施設ではなかったけれど、最初遠慮していた両親が温泉を楽しんでいる様子を見てすごく嬉しかったことを覚えている。


保護者、かあ。

イベリスは俺がこの世界に来たとき初めて出会った人間で、俺の知らないことを教えてくれて、色々と世話を焼いて、見守ってくれて……。

と挙げていくと確かに保護者のようだが俺とイベリスは他人だ。それに、今の俺の肉体年齢はハタチとはいえ中身は二十九歳なのだ。二十六歳……年下の女性であるイベリスをそう見てしまうのは良くない。と思う。俺がもっと小さい子供の姿で転生してたら違ったかもしれないけど。見た目も中身も成人男性なので。


とにかく。

イベリスは出会ったばかりの他人である。そして、他人でありながら俺に親切にしてくれた恩人である。なのでお礼がしたい。それだけ。


食べ物にしろそれ以外にしろ、お礼するからにはある程度イベリスの好みをリサーチしてからがいい。

俺は商店通りの人ごみを後にした。


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