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4.組合(ギルド)

「さあ、見えたぞ。あれがハーマーズの街だ」


あれから特にトラブルもなく、途中何度か食事と休憩を挟みながら、俺はイベリスの道案内で無事に森を抜けることができた。

イベリスの指さす方向には街がある。遠目から見ても賑わっていそうな、大きな街だ。海岸に面していて、港があることが伺える。海には何隻か船が出ていた。漁だろうか、それとも冒険の始まりだろうか。そう考えるとワクワクした。

まだ街までそれなりに距離はあるが、街道沿いに歩いて行けば一人だったとしても迷うことはなさそうだ。


西日が眩しい。この世界に来て初めて見る太陽だ。ずっと暗い森にいたから太陽の光を全身に浴びるのも、広い平原を見渡すのも、何もかも新鮮でならない。

じんわりと実感する。この空気感。知らない匂い。俺は今、異世界にいるのだ。


「行こう」


イベリスに声をかけると先導してくれる。

道すがら、色々なことを聞いた。俺を記憶喪失だと思っているイベリスは、この世界の常識を知らない俺の質問に丁寧に答えてくれた。


イベリスの言う組合(ギルド)は、俺が認識しているものとそう変わらないようだった。

街の人たちなどからの依頼を組合(ギルド)に所属している人間に斡旋する組織。この世界の組合(ギルド)に所属するもの――冒険者の仕事には二種類あるらしい。


一つは、ハンター。魔物を狩ることを主とするもの。


もう一つは、サポーター。探し物や作業の手伝いなど戦闘以外を主とするもの。


やはりというか、人気があるのはハンターとして名を挙げた者のようだ。人々を脅かす魔物を懲らしめる、“強さ”を持ったもの。冒険者の花形だ。倒した魔物によっては換金すれば依頼料よりも稼げる。金と名声。ハンターに憧れるものも多いだろう。


一方で、サポーターは地味でハンターに比べると人気がないが、人々にとってはより身近な仕事だ。知らない街へ行ったときにサポーターの仕事をすれば早く馴染めると言われているほどで、人脈作りにはもってこいらしい。スキルを獲得できることもあるので、次の仕事へのつなぎでサポーターの仕事をする人もいる。


イベリスはハンターの仕事をメインでやっているようだったが、手が空いていればサポーターの仕事もしているらしい。依頼があるということは困っている人がいるということなので、例え報酬が低くても仕事をこなす……イベリスらしいと言えた。


組合(ギルド)では身分証となるギルドカードを発行してくれるようだから、登録するのもいいかもしれない。というか登録するべきだ。身分証はもちろんだが、何をするにも先立つものが必要だし、そしてなによりせっかくの異世界転生なのだから。


危険も大きいが得るものも大きいハンターか、華やかさはないが安定しているサポーターか。


俺がやるとしたら……サポーターの仕事がメインになるかな。

チートはあるんだけど。レベルも上がりやすいし全属性魔法も使えるんだけど。

正直、魔物と戦うのは怖い。絶対に死なないスキルと痛みを感じないスキルと何の攻撃を通さない無敵の身体を手に入れたとしてもこちらを襲わんと牙を向く猛獣に立ち向かっていく勇気はない。デスボアのときのようにいざとなれば戦うが……できるだけ回避したい。チートがあっても恐怖で身体が竦んで抵抗できないまま殺されてしまう可能性もある。それは勘弁してほしい。適材適所なのだ。俺のチートは戦闘スキルだけじゃないわけだし。


とりあえず、街についた後どうするか決まった。

組合(ギルド)までイベリスの獲物を運ぶ。俺の角ウサギとデスボアも買い取ってもらえるなら売ろう。その後俺は組合(ギルド)に冒険者として登録し、身分証と仕事をもらう。お金を稼いで……そうだな、【ショッピング】を使ってみるのをひとまずの目標にしよう。あれはお金がないと使えないから。


この世界に生きる種族、通貨、街の構造、様々なことをイベリスに教わった。気になったところや、聞きなれない単語について尋ねてもイベリスは嫌な顔一つせずにわかりやすく説明してくれる。本当に頭が上がらない。


そうして話しているうちに、街の入口にまで辿り着いた。


イベリスはギルドカードを門番に見せる。その後俺を差して何やら言ったようで、門番が俺に近付いて来て手のひら大の水晶を差し出した。


「私がやったものと同じものだ。触れるだけでいい」


犯罪歴を調べるやつのようだ。イベリスのは小さかったから、門番が持っているこれの簡易版とかなのだろうか。

水晶に触れてみる。白く光った。それを見た門番は頷くと街に入れてくれた。よかった、お金取られるやつじゃなかった。そうだった場合俺は一文無しだからイベリスに借りることになってしまう。


すっかり日は暮れ、街灯が大通りを照らしている。灯りのついた建物はそう多くないのに、人通りはそれなりにある。冒険者だろうか。


「ではこのまま組合(ギルド)に行こう。登録せずとも素材の買取はしてもらえるが、登録していたほうが買取額が上がる。先にメイスケの登録を済ませよう」


イベリスには冒険者登録がしたいと言ってあったので、そういう風に話が進んだ。頼もしい先輩だ。何も教えてくれないのに少しでも間違ったら責める自分ルールでものを語り責任は押し付け手柄は横取りのあの先輩とは大違い……いややめよう。思い返してイライラするのはよくない。俺はこの世界で自由に元気にやっていくのだ。


俺の表情が暗くなったのをイベリスは緊張していると捉えたのか、安心させるように大丈夫だと囁く背中をぽんと優しく叩いてくれた。あったかくて涙が出そうになる。最初に出会えたのがイベリスで良かった。高い運ステータスのおかげかな。


組合(ギルド)の建物の中に入る。

多種多様な恰好をした人びと。大きな掲示板に張り出された依頼の数々。受付カウンター。すごい。漫画で見たギルドがそこにあった。


「ええと、冒険者登録がしたいのですが」


空いている受付に行き、登録をお願いする。すぐ後ろにはイベリスが控えていた。ちょっと気恥ずかしい。


受付の狐獣人のお姉さんは頭の上の大きな耳をぴこぴことさせて俺を見た。


挿絵(By みてみん)


か、かわいい。


獣耳美少女だ。ビバ異世界って感じだ。街を歩いている最中には見かけなかったし、ついまじまじと見てしまいそうになる。いかん。いかんぞ俺。ひとさまをジロジロと見るのは失礼だ。

でもこれだけ可愛かったら人の視線なんか慣れっこなのかもしれない。だからといってジロジロ見ていい理由にはならないけど。イベリスとは違う色の金髪がさらさらと揺れるたびにキラキラ光って綺麗だ。透き通るような肌に小ぶりな唇が控えめな印象を与える。濃い金色の目も自然光の下で見たらまた印象が変わりそうだ。


と、俺がそう考えている間も受付のお姉さんは固まったままでいた。


「あの……?」

「冒険者登録ですね。了解しました」


何か作法を間違えたかと不安になって呼びかけると、受付さんは平然として対応してくれた。のんびりしてる人なのかな?


「はじめに登録料をいただきます」


あっ。

失念していた。わたわたと身体を探ってみるが当然そんなところからお金が出てくるはずもない。無一文なので。

イベリスが一歩前に出て俺の代わりに登録料を払ってくれた。もしかしてイベリス、こうなることを見越して俺の側に控えててくれたの。


「ごめん、すぐ返すから」

「気にするな」


やさしい。


「それではこちらに名前をお願いします」


受付さんが差し出したカードに名前を記入する。この世界の文字……と考えながら書くと、〈言語〉スキルが作用したようでカードには俺の知らない、いや知らなかった文字で俺の名前がしっかり記入されていた。


「名前の横に血をお願いします」


針が差し出される。怖い。

人差し指の先を針で刺して、ぷっくりと血が出てきたところをカードの名前の横に押し付ける。パァッとカードが小さく光って押し付けたはずの血はきれいさっぱりなくなっていた。


カードを手に取る。

カードには、俺の名前とハンターランク/サポーターランクがそれぞれ記載されている。インクに浸したペンで名前を書いたはずなのに、魔法の力でコーティングされているのか擦っても文字が滲んだり消えることはない。

これが、この世界での俺の身分証になる。大事にしないと。


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