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36.街歩き

挿絵ナシです

「特に異常は見当たりません」


朝から街の北にある診療所に向かいアルジェンの状態を診てもらったが、医者の出した結論はこうだった。アルジェンの身体に病気などは見つからず、いたって健康体だという。

実際に症状が出たときに来てもらえれば何か分かるかもしれないとも言われたが、それはつまりマックスたちにも病院に来てもらうってことだからなあ。流石に無理だ。

普段は健康そのもので、特定の状況下で症状の出る病気……ストレスによるものなのか……医学薬学に精通してる系転生主人公ならなんとかしてやれたのだろうか。俺のこの自分でも把握しきれていないほどの大量のスキルの中に何か役に立ちそうなものがあるといいんだけど……。


「すみません、わざわざお医者さんにまで診てもらったのに」


診療所を出て考え込んでいるとアルジェンが申し訳なさそうにそう言った。

アルジェンはマックスたちの前で症状が出る理由を自分の心の弱さだと捉えている。健康体であると医者の口から決定づけられたことで、余計に自分を責めさせる結果になってしまった。


「いや、俺の方こそごめんな。こんな朝早くから連れ回して。実際にアルジェンが体調悪そうにしてるの見たら不安になっちゃったんだ。元気で安心したよ。若いと回復も早くていいな~」


アルジェンが気負わないよう、軽い口調で言うとアルジェンは眉を垂れさせたまま少しだけ微笑んだ。


「メイスケさんも若いじゃないですか」

「あ……そうだった」

「あはは、変なの」


今は健康そのものだが、日本にいた頃……前世では一日の疲れを翌日に持ち越し続けるような年齢に入っていたので、ついその癖で喋ってしまう。記憶はそのまま持ち越してるから、肉体年齢が二十歳でも自分のことをピチピチの若者だとは思えないんだよなあ。


俺たちが診療所に行っている間、教会の孤児院に顔を見せていたイベリスと合流する。

あれから俺たちは時折こうして孤児院に顔を見せている。ここハーマーズは冒険者の街だから、子供たちの中にも冒険者に憧れる子は多い。サラねえちゃんを守れるように強くなるんだ、と意気込んでいる子もいる。ロンを助け、サラさんを送り届けたことで信頼を得た冒険者である俺たちは、子供たちに懐かれ空いた時間に孤児院を訪れるようになったというわけだ。


子供たちに手を振って、孤児院を後にする。

今日は王都へ旅立つ準備のために買い物をする予定だ。


資金は十分あるので、武器や防具を整えることにした。

特に剣士である二人は前に出てもらうことになるので良い装備を身につけてもらいたい。

アルジェンは何本か剣を手に取って、一番手に馴染むものの値段を確認し目を剥いていたので説き伏せてその剣を購入した。振りやすさと鋭さを兼ね揃えた良い剣だ、とイベリスが言っていたのでそうなのだと思う。アルジェンは一撃の重さよりもスピードで攻めるタイプの剣士なので、防具は重い金属鎧ではなく魔力を込めることで防御力の向上するインナーがいいだろうとそれも購入。こっちもお高めだが、それでアルジェンが戦いやすくなるならそれでいい。本人は金をかけられることに抵抗感があるようだが、新しい装備にはワクワクしているようだった。


イベリスのほうはというと、どうやら先のモフモフとの戦いにおいて俺が彼女の剣を〈修復(リペア)〉してから剣の調子が良いみたいだった。なので、剣を新調することはせず、代わりに大剣を一本購入する。アルジェンが剣士として前衛を一人で任せられるようになれば戦術の幅も広がり、イベリスも小回りの利く剣からより重い一撃を放てる大剣へ武装を変えることもできるだろうとの考えだ。

しかし防具については彼女の身体にぴたりと合うものがなかった。イベリスは長身で筋肉もあり、重い鎧でも変わらず動けると思うが、店に置いてあるものだと男性用は、その、胸に合わせるとウエストが合わず、女性用は肩や丈が合わず窮屈になってしまう。手直ししてもらうにも時間がかかりすぎるので、今回は見送ることになった。

〈身体強化〉があるとはいえできればイベリスにもしっかりした防具を身に着けてもらいたいのだが、どうしたものか、王都の店になら良い物があるだろうか。


俺は弓を購入した。魔力を込めると矢を生成できる魔法の弓だ。柄の部分が白銀で模様が入ってて折りたたむこともできて格好いいから買った……わけじゃなくて、二人が近距離で戦うので俺は遠距離から援護しようという理由だ。俺のスキルなら剣も使えると思うが、剣士三人はバランスが悪い気がするし。


その他にも道具や食料なども買い足して、とりあえず王都へ向かう準備は整ったと言っていいだろう。必要なものがあれば向こうで買えばいいし、【ショッピング】もある。


ということで、ここからはしばらくお別れとなるハーマーズの街を楽しもうのターンだ。

思えばイベリスとパーティを組んでから、やれることが増えるのが楽しくて依頼ばかりこなしてこの街をあまり探索できていないような気がする。誰かの役に立つのも、鍛えるのも楽しいのだが、ここを離れると思うと街の魅力を味わい尽くしていないことが惜しく思えてきた。これが最後ではないにせよ、この街にもう少し触れておきたいのは事実だ。マックスのことで気分が落ち込んでいるアルジェンにも楽しんでもらいたい。〈探知〉をオンにして奴らの動向に気を配りつつ、レッツ街歩きだ。


「おう」

「ん?」


さてどこから回ってみるか、と思ったところで声をかけられた。

日に焼けた肌の大柄な男だ。その顔には見覚えがある。初めて受けた依頼の先で見たあの顔だ。あれから何回か荷運びの依頼を受けたりもしたから、相手も俺の顔をしっかり覚えているようだった。顔見知り、というやつだ。


「親方」

「兄ちゃん、こんなとこで会うなんて珍しいな」


若いんだからもっと遊んどけよ、と言いながら親方は大きな手のひらでバシバシと俺の背中を叩く。服のおかげでノーダメージではあるが、思わずよろけてしまいそうな勢いがある。

親方は片手に骨付きの太いソーセージのようなものを持っている。ところどころ焦げて皮が破けて、そこから肉汁が滴っている。香ばしい匂いとそのビジュアルに胃が刺激された。昼飯というには少し早い時間だが、買い食いに興じるのも一興か。

親方から屋台の場所を教えてもらい、そこに向かう。


屋台通りは賑わっていた。親方おすすめのソーセージに、串焼き、茹でた魔物肉を細かく刻んで辛いソースと共に薄い生地で包んだもの、よくわからないゼリー状のものをパンに挟んだやつ、凍った果物に別の種類の果物のソースを纏わせたスイーツ、味が想像できるものからそうでないものまでさまざまだ。

近くの広場には食事スペースがあるので、その一角に座りテーブルの上に買ったものを並べてみる。主食、肉、肉、肉、主食、肉、スイーツ、スイーツ、などなど。なかなか壮観だ。

アルジェンは自分からあれが食べたいこれが食べたいと言ってくれないので、アルジェンの視線の先を注意深く探って買っていたら結構な量になった。完全にお節介な親戚のおじさんと化している。

まあイベリスは健啖家だし、俺も若返ったおかげで普通に食えるし、アルジェンも育ち盛りなので難なく食べ切れるだろう。


「楽しいです」


流れる人波を眺めながらソーセージを頬張っていたアルジェンが、最後のひとかけらを飲み込んでそう口にした。


「色んな人がいて……それぞれの暮らしがあって。でも、同じ空気を吸ってる」


視線の先には早足で歩く男がいる。ゆっくり歩く老人がいる。子をあやす親がいて、駆け回る少年がいて、休憩中の職人がいる。立ち止まって空を見上げる女性がいて、楽器を奏でる詩人と、それに耳を傾ける客がいる。


「魔物の素材を卸したり、困ってる人を助けたり、そうやって誰かの暮らしに少しだけ関わらせてもらえてるんだなって、そう考えると嬉しくなるんです」

「うん」

「きっと、僕一人だったらそう考える余裕を持てなかったと思うんです。まだ……解決してない問題、も、あるし……」

「……そうだな」


アルジェンはマックスの顔を思い浮かべたのだろう、表情に翳りを見せる。それでも、一瞬だった。


「二人が一緒だから。一緒だったら、この先も頑張れます。こんな気持ちを思い出させてくれる二人となら、僕、勇者として頑張れます!」


イベリスと目が合って、頷く。


「ああ。頑張ろうな」


盗賊団に、偽勇者一行。魔王、邪神……。ひとつだって解決していないが、この先、この二人となら俺も頑張れる気がする。

イベリスの優しげな瞳も、同じ想いだと語っていた。


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