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31.不老長命

偽勇者一行はまだ街には帰っていないようなので、アルジェンも一緒に組合(ギルド)へ依頼達成報告に行く。

フォレストウルフの素材も買い取ってもらい、一度宿に帰って食堂で少し遅めの昼食をとることにした。


「わあ、すごい、美味しそうです……!」


偽勇者から逃げる生活を強いられていたアルジェンは店に入ってゆっくり食事することもできなかったようで、テーブルに並べられた温かな料理に感激していた。普段は保存のきく食料を多めに買い込んでいたり、出店で買った食べ物を急いでキャンプまで戻ってから食べていたそうだ。


昼食はアウリちゃんおすすめのピラフ。細かく刻んだ野菜とボア肉のベーコンが入っている。食欲をそそる良い香りだ。

俺とイベリスがいただきます、と手を合わせるとアルジェンも合わせてくれた。いい子だなあ。

ピラフを匙で掬って一口。うん、美味い。スープで炊いた米はもちもちとしていて、噛むたびに口の中に旨味が広がる。塩気のあるベーコンと野菜のバランスがまた良い。白米や炒飯と比べて食べる機会はそう多くはなかったが、ピラフも良い物だ。米は元気が出る。


この食堂に来る客は身体が資本な冒険者が多いのもあって、一品の量は多めだ。俺も今は問題なく食べ切れるが、日本にいた頃の二十九歳の身体だったらちょっとキツいだろうなあという量。周りと比べると小柄に見えるアルジェンだが、しかし出されたものをしっかりと綺麗に食べ切っていた。成長期の食べ盛りか。若者がいっぱい食べるのって見てて気持ちいいな……。


混んできたので、昼食を終えた俺たちはおかみさんとアウリちゃんに挨拶をしてから足早に食堂を出た。


「さて、今日はこれからどうする。まだ日も高い。追加で依頼を受けるか」

「あー……ごめん、俺、ちょっと用事が出来ちゃって」


用事、というか確かめなければならないことが出来た。

俺も力をつけるために依頼という形でバンバン実戦をこなしていきたいところではあるが、アルジェンのことはイベリスに任せ、俺は一人教会へと向かう。


解放された教会には誰もいない。俺は以前と同じように手を組み、神に祈りを捧げた。


(神様に聞きたいことがある)


曖昧な人影が神の姿になる。夢でもうつつでもない、俺の頭の中、目を瞑って祈りを捧げたときにだけ訪れられるまぶたの裏の世界。そこに俺と神様だけがいる。


(聞きたいことって?)


神様はいつも通り、柔らかく美しい声で俺に話しかける。今俺が感じているこのどうしようもない気持ちとのギャップに、俺の胸は余計にざわついた。


(不老長命って、何。何でこんなスキルがあるんだ)


神様は少し考え込んで、それから口を開く。


(だって、茗助には少しでも長く生きてほしいから)

(それは)


そうだ。俺は、俺の存在はこの世界を安定させるためのもの。生きているだけでいい――生きていなければならないもの。俺が死ねば、また新たな魂を呼び寄せる手間が増える。

だから、出来るだけ生きさせようと。


(君たち人間は長い寿命に憧れを持っているだろう? 前に呼んだ子ではエルフや吸血鬼(ヴァンパイア)になりたがった。ああ、竜に転生した子もいる。君は別の種族として生まれることを選ばなかったから、せめて長く生きられるようにスキルを渡したのだけれど)


つまり――良かれと思って、だ。

人間は長い寿命を欲する。長い寿命を持つ種族ではなく、比較的短い人間として転生した俺にはそれらと同じだけ生きられるスキルを、ということなのだろう。


(俺は、人並みに生きることしか考えてなかった)


使命、というものを考えたらこのスキルは重要なものだ。俺はこの世界のマナを安定させるいう使命があるから、この神の温情で様々なスキルを貰い、この世界に転生した。

だから、本当はこんなこと言うべきではないのかもしれない。だけど俺は、今の俺は、それがどうしても怖かった。


(……こんなスキル、いらない)

(どうして?)

(同じ時間を、過ごしたい人がいるから)


百年後の世界。千年後の世界。

俺のことを知る人が誰もいない街で俺は生きていく。新たな出会いだってきっとあるだろう。長く生きてれば、漫画みたいな出会いや冒険だってあるかもしれない。その頃の俺は強くなって、スキルも完璧に使いこなせるようになって、主人公みたいに活躍できるかもしれない。


でもそこに、イベリスはいない。


挿絵(By みてみん)


彼女は強いけれど、ただの人間だ。怪我や病気をせずとも、数十年後に寿命を迎えれば当たり前に、他の人間と同じようにこの世から消えてしまう。

百年後の俺は、それに耐えられるだろうか? 勿論、人間の考えなんて変化するものだ。俺も長命であることが当たり前になって、人間の生き死にについて重く考えなくなっているかもしれない。

でも、今ここにいる自分は、はるか遠い未来を考えたときに心臓が握り潰されるような想いを抱いたのだ。

まるでずっと前から彼女と共にあって、今更彼女がいない世界など考えられないかのように。今まで生きてきた時間で考えたら1パーセントも一緒にいないのに、俺の中には彼女の存在が深く根付いている。


(スキルを取り上げることはできない。ごめんね)

(……そう、か……)


現実は重くのしかかってくる。

……仕方のないことだ。俺の使命を思えば。


(ただし、新たなスキルを授けることはできる)


スキル? これ以上増やせるっていうのか。今所持している分でも扱いきれてないっていうのに。

それに、〈不老長命〉を無くす代わりになるスキルって一体、何だ?


(覚醒石(かくせいせき)、というものがある。それを三つ持ってまたここに来なさい。そうしたら、新たなスキルを授けよう)


神様の声が遠ざかる。意識が浮上する。目を開けると、ステンドグラスから入ってくる光が眩しい。


つまり、新たなスキルを得るためにアイテムが必要なわけね。普通一つ二つしか持っていないスキルを増やせるわけだから、そう簡単に手に入るアイテムではなさそうだが……。

とにかく、それを手に入れるのが俺のサブ目標となった。

それで貰えるスキルがどのようなものかわからない以上、〈不老長命〉が消せない可能性は常に考えておかなくてはならない。

俺に出来るのは――今を大切に、何でもない一分一秒も思い出に出来るように生きていくことだけだ。


俺の用事は済んだ。

イベリスたちは依頼に行っただろうか? 組合へ向かうことにした。


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