表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

28.勇者

小鳥のさえずりで目を覚ます。いい朝だ。


「おはよう、イベリス」

「ああ、おはよう。メイスケ」


昨晩、宿に帰り夕食をイベリスと食べた後、俺は部屋に帰り一人魔法の練習をしていた。

そう、〈瞬間移動(テレポーテーション)〉だ。これがあれば依頼での移動がぐっと楽になる。日常使いしたら運動不足ですぐ筋力とか体力とか衰えていきそうだけど。移動の時間を節約できるというのは大変にありがたい。戦闘でも回避に使えそうだし。ということで部屋でコッソリ練習していた俺である。

部屋の端から端へ。部屋の中から街の外へ。一言で言うと成功だ。移動する距離に応じて消費するMPが増えたり、行ったことのない場所へは飛べないという欠点はあるがそれはまあ当然そうだろうという感じなので気にはならない。

問題はこれ人に使えるかどうかなんだよな。失敗した時に移動できないだけならいいけどなんか……こう……時空のはざま的なところに取り残されたり……身体がばらばらに弾け飛んだりとか……そういうことが起きたらと考えると恐ろしい。自分で使うぶんには大丈夫という謎の自信があったから(魔法はイメージだ)上手くいったが、ちょっと今はまだ軽々しく他人に使うなんてことはできないな。パーティの移動には使えなさそうだ。


そんなこんなで、ちょっと寝不足である。〈健康〉スキルで身体には何も問題はないが気持ち的に。昨日は色々あったから精神的な疲れが残ってるのかも。

と言いつつ、朝ご飯はしっかり食べる。今日のメニューはパンとベーコンエッグ、トマトと豆のスープだ。パンをスープに浸しながら食べる。イベリスはペーコンエッグをパンに乗せて食べていた。いいなあそれも美味しそう。俺もパンの半分をそうして食べた。


さて、いつもならここで組合(ギルド)に行って依頼を受けるところだが、今日は予定を変更して昨日の少年――アルジェンに話を聞きに行こう。彼は街の外にキャンプを張っている。北門から街を出て、西の方角へしばらく歩くとそれらしきものを見つけた。


「あ! お二人とも、来てくれたんですね……!」


小さな簡易テントの側に座り込んでパンを齧っていた少年はこちらの姿を認めると立ち上がり駆け寄ってきた。


「ごめん、飯の途中だったか」

「いえ! 来てくれて嬉しいです」


時間の指定はしていなかったから朝食の後まっすぐアルジェンのテントまで来てしまったが、もう少しずらすべきだったか。パンを片手に持ったままのアルジェンに食事を続けるように促すと、アルジェンは照れたように笑ってもそもそとパンを頬張り始めた。

ちょうどいい場所に倒木があったので、そこに腰掛けて待たせてもらう。


「……ふう、お待たせしてすみません」


最後の一口を水で流し込んでアルジェンは俺たちに向き直る。


「そういえば自己紹介がまだだったよな、俺はメイスケ」

「私はイベリスだ」

「メイスケさん、イベリスさん。あ、僕はアルジェン・ライヒトームと言います!」


知ってる。

立ったままでは話がしづらいだろうと言えばアルジェンはぺたんと地面に体育座りをした。素直すぎて心配になる。というか俺さっきから飯食えって言ったり座れって言ったりなんかちょっと偉そうじゃない?


「あー、それで。俺たちは今日、どうしてアルジェンがそこまで強くなりたいのか、その話を聞きに来たわけだけど……」

「はい。そうですよね。ええと……どこから話したものか……」


アルジェンが口元に手を当てて考え込む。


「僕、勇者なんです」

「へ?」

「勇者?」


勇者?

イベリスも不思議そうに少しだけ眉根を寄せている。

まあ……聖女がいるわけだし、勇者もいてもおかしくないか。勇者。いるんだな。やっぱり魔王を倒す使命とか、そんなのがあるのかな。


「聖女がいるパーティの、赤毛の彼が勇者だったように記憶しているが」

「嘘ぉ」


イベリスのまさかの言葉に驚く。

あれが? あの赤毛の暴言クレーム小僧が勇者? 嘘だろ夢も希望もねえ。あんなのが世界を救う勇者だとか言われてもお先真っ暗だわあんな奴に世界が救えるわけがねえ。


「そう……なってます」


アルジェンの声は深刻だ。アルジェンが勇者で、赤毛も勇者……何か事情がありそうだ。


「勇者の予言をご存じでしょうか」


イベリスは頷き、俺のほうを見て予言について教えてくれた。


「『魔王蘇りし時、約束の地に生まれし赤き血の勇者が剣を取る』……というものだ」

「はい。今から五百年前に魔王を封印した勇者の仲間であった、魔術師ローレライ様が残した予言です」


マジで勇者とか魔王とかいる世界なのかファンタジーだな。今更だけど。ていうかもしかして勇者がいるってことは魔王……目覚めてんの……? この世界ってそういう滅亡の危機があるヤバめの世界なわけ……?


「約束の地、というのは五百年前の勇者が魔王を封印したあと、終の棲家と決めたスズヤ村のことで、僕と……今、勇者ということになっているマックスの故郷です」

「約束の地に生まれし、赤き血の勇者か……」


血……が血縁を指しているのなら、アルジェンと赤毛、同じ村の人間には五百年前の勇者の血はどこかで混ざっていてもおかしくないか。

赤き、というのが見た目を指すなら、まあ、アルジェンよりもあっちのが勇者と言える。全く腑に落ちないが。


「勇者っていうのは何人もいるものなのか?」


俺の問いかけにアルジェンはふるふると首を横に振った。


「じゃあ、アルジェンからするとアイツ……マックスとやらは偽物の勇者なのか?」

「……はい。そう……なります」


アルジェンはぽつぽつと語り始める。


「僕たちの村に、ある日、王都からの使者が来ました。魔王復活の日に備えて、勇者を探していたようで。使者は村のはずれに倒れていた複数のウルフの死体を見て、これをやったのが勇者だろうと。そしてそれは誰だと聞きました」

「それがマックスだった?」

「はい。でもウルフを倒したのはマックスじゃなくて、僕なんです。たまたま戦闘になって……。僕はそのときウルフと戦ったときの傷が原因で寝込んでて、両親もつきっきりで看病してくれてたので、村のはずれにある家までは使者が来たなんて話は聞こえてこなくて」


結局、マックスが赤き血の勇者として王都に迎えられたのを知ったのは、村を出てからだったという。


「僕の家には……一般に知られているものとは違うローレライの予言が伝わっているんです。父が言うには、ライヒトーム家は古く五百年前の勇者一行と関わりがあり、予言を守る役割があるのだと。予言の内容はこうです」


いずれ魔王は蘇り、世界は混沌に覆われる

約束の地に生まれし子、朝焼けに生まれし勇者よ

君は優しさを以て剣を取り、光にて魔王を祓うだろう


「……さっきのやつと結構違うんだな」

「どちらが正しい予言かとかは、ないはずなんですけど……」


一般に知られているものは短く簡素だ。

反対に、アルジェンの家に伝わるものは――なんとなくだけど、柔らかく聞こえる。

そのせいか、アルジェンの家に伝わる予言のほうを信じたい気持ちになる。(赤毛の小僧が勇者だということに納得したくないせいかもしれないが)

だが、これはどちらもローレライが残した予言に間違いないようなので、ローレライが嘘の予言を残すような人物でない限りはどちらも本当ということになる。うーん。


「アルジェン。君が“赤き血の勇者”かはともかく、“朝焼けに生まれし勇者”には当てはまったのだな?」

「はい。僕には聞かされてませんが、勇者が生まれる時の星の位置だとか、そういう細かい予言が残っていて、それらすべてに僕が当てはまったので、僕が勇者なのだと」


アルジェンが生まれたとき、息子こそが魔王を打ち倒す力を持った予言の勇者であると知った両親は彼を、いずれ世界を救う勇者として育てた。

予言を守る一族として育てるわけではないので、詳しいところは聞かされなかったのだろう。勇者が魔王を倒してしまえば予言を守る必要もなくなるからな。


「だから僕は十六の誕生日に、魔王を倒す勇者として村を旅立ったのですが……」

「王都ではマックスが勇者として崇められていた、と」


アルジェンは頷く。

王都……そういえば、イベリスは聖女のことを「王都に知り合いがいるから知っていた」と言っていたな。ハーマーズでは聖女のことも、勇者のことも知る人はそういなさそうだったけど、王都では有名な話なのだろう。


「マックスは……勇者ではない、から……。このまま勇者として魔王と対峙することになったら、魔王を倒せず取り返しのつかないことになるかもしれない。だから僕は予言の勇者は自分なのだと、お城に行ったんですが……」

「信じてもらえなかったと……」

「はい……お城の前の兵士さんに首根っこ掴まれてぽいってされました……」


まあ、急に自分こそが予言の勇者だ! と言われても怪しさ満点だよなあ。


「勇者を迎えたことは王都で大々的に発表されていた。聖女を含む数人……あのパーティが世界を救う英雄になるだろうとパレードもしていたから、そこで自分こそが勇者であると言っても、取り合ってはもらえないだろうな」

「パレード?」

「予言の勇者はずっと待ち望まれていた存在だからな」

「それなら、ハーマーズにも勇者を知ってる人が多そうなもんだけど」


組合(ギルド)ではそんな様子はなかった。傍若無人な振舞いをするマックスに、勇者の癖にとかそういう野次は飛ばなかった。ただの駆け出し冒険者が調子に乗ってんなあ、くらいの反応だったように思う。


「パレードは貴族連中を楽しませるものだったからな。庶民にも遠巻きには見えたかもしれないが、顔立ちをハッキリ認識できた人間はハーマーズという冒険者の街にはいないと思う」


そうか。世の中にはジュリアお嬢様みたいな変わった人ばっかりじゃないから、勇者や聖女の顔を知っている貴族は基本的に王都から動かないのかな。王都。言葉だけでなんか煌びやかなイメージだし。仕事や用事で王都と別の街を移動するような庶民はそもそも彼らの顔をハッキリとは見れていない、と。

ん? じゃあイベリスがサラさんを聖女だと分かったのは話を聞いた王都の知り合いとやらがもしかして貴族だからなのか? 貴族慣れしてんならそりゃあのジュリアお嬢様の豪邸を前にして怯んだりもしないわな。


「王様に会うのは無理そうだったので、今度は直接マックスを訪ねたんです」

「結果は、まあ」

「はい。話は聞き入れてもらえず。それに……その、」


アルジェンは辛そうに顔を顰めた。


「マックスの仲間の魔術師のひとが、しつこい僕に魔法を打って。それで僕は吹っ飛ばされて……それから、彼らに近付くと恐怖から体が震えて、吐き気がするんです」


挿絵(By みてみん)


ああ、だから偽の勇者一行が現れる可能性のある街にはなるべく近付かないようにしているのか。


「この震えは、吐き気は、僕の弱さなんです。僕が弱いから、間違ってるって言えない。危ないことをやめてって言えない。魔王だって、こんな弱い僕より、強い彼らのほうが倒せる可能性が高いのかもしれないけれど」


アルジェンは顔を上げ、俺とイベリスをまっすぐに見つめた。


「それでも、僕は勇者だから」


強くなりたい。

そう言うアルジェンは、紛れもなく本物の勇者のように思う。

恐怖を抱えながら、それを乗り越えようとする。壁にぶつかって、それでも諦めずに自分の使命と向き合おうとしている。


「だから僕は強くなりたいんです。改めてお願いします。僕を、鍛えてくれませんか……!」


イベリスと顔を見合わせて、頷く。


「承った。どこまでできるかはわからないが、手を尽くそう」

「俺も強いわけじゃないけど、サポートする」

「あ……ありがとうございます!!」


アルジェンは満面の笑みで俺たちの手を取ってぶんぶんと振った。本当に、人懐っこい子犬のようだ。外見も整っているが、愛嬌だけで生きていけそうでもある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ