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24.おもてなし

「おお……先程馬車が到着したばかりと聞きましたが、もう」

「来る途中で魔ジカの群れに遭遇したので」


村長の前にずらり、討伐証明である魔ジカの額の石が並ぶ。

それを見て、村長は手早くサインしてくれた。


「少し聞かせてもらっても? 我々が遭遇した魔ジカの群れは興奮した様子でしたが、村の畑を荒らした魔ジカはどのような様子で?」

「ああ、はい。確かに、いつもとは違ったように思います。いつもは畑に来ても一頭二頭ほどで、少し脅かしてやればすぐに山に帰っていくのですが……」


そうではなかった、と。


「先日は追い払おうと近付いた我々を見た瞬間に襲い掛かってきました。大怪我を負った者もいます。興奮した様子、と言われれば確かに。尋常ならざる様子でした」

「そうか……」


イベリスは呟く。何か……引っかかることがあるんだろうか。

確かに、普段はそこまで凶暴じゃない魔ジカが急に襲い掛かってくるなんて、そうなった原因があるはずだよな。


「付近の魔ジカは狩りましたが……原因がわからない以上、しばらくは気を付けた方がいいでしょう」


イベリスが俺を振り返る。


「魔ジカの石をいくつか渡しても構わないか」

「ん、いいよ」


魔ジカの石は組合(ギルド)に持っていけば結構な金額になる。魔力を含んだ石、ってことで冒険者向けのアクセサリーへと加工されることが多いらしい。魔ジカの石の他に魔力を含んだ鉱物もあるにはあるが、それらはお貴族様向けの宝石になるってことでかなり高級になっているので、冒険者には魔物素材であるこっちのほうが馴染みが深いようだ。


「これを売ればいくらか足しになるでしょう」

「そ、そこまでしていただくわけには……!」


魔ジカに荒らされた畑の手入れだとか、柵の強化だとか、これから入用になるだろう。

イベリスは村長に魔ジカの石を渡すが、村長は当然のように遠慮した。

組合(ギルド)への依頼料が返ってくるほどの金額だ。討伐をお願いした立場なのに、何も損がないのが申し訳ないと、そう考えているようだ。

必要なのは、形だけでも対価を求めること。聖女サラと俺のやりとりを治めたイベリスのように、そうすることでこちらにも利益があるのだと示すこと。


「そういえば……ここは野菜が自慢だと、馬車で乗り合わせた方に聞いたのですが」

「は、ええ、はあ……そうですね」

「どうでしょう。自慢の野菜料理を振舞ってくれたらこれをお譲りするというのは。ちょうど昼飯時ですし、お腹も空きました」


きょとんとした村長は、しばらく考え込んだのち眉を垂れさせながらも笑顔で頷いた。


「ええ。ええ。それでしたら、ぜひ。村一番の料理上手に用意させましょう」

「それは楽しみです」


しばらくしたら呼ぶと言われ、俺たちはその間村を見て回ることにした。

昼食の準備が終わるまでに回り切れそうな気がするほどの、小さな村だ。民家と畑くらいしかないが、雰囲気はいいし空気も美味しい。畑が――荒らされてなければもっと良かった、と思う。これからの被害を減らせただけいいと思おう。

日差しがやわらかくて暖かい。木陰で昼寝したりしたら気持ちよさそうだなと思う。


「ふふ」


隣を歩くイベリスが、ふと笑い声を漏らした。

どうしたのだろう、と伺うと、イベリスは優しげな瞳で俺を見ていた。


「ど、どうしたの」

「いや。すまない。気が抜けた君の顔が面白くて」


イベリスは強くて、体格がよくて……だから印象がそっちに行きがちだけど、こうして微笑む彼女は、その……綺麗、って感じなんだよな。

太陽の光を反射する金髪がきらきら光って、青い瞳は海のようで。これもギャップというやつなのだろうか。

二人きりだから見れる姿。いや変な意味じゃなくて。戦闘時や、守るべき、助けるべき相手がいるときの頼もしい姿とは違う、また別の――魅力を持った表情。


「悪い意味じゃない。なんというか……のんびりしていて可愛らしいな、と」


可愛らしい。

確かに、その言葉がしっくりくる。


「イベリスも――」

「ん?」

「――いや、何でもない」


おおおおおおお俺今何言おうとした? イベリスに向かって、か、可愛らしいって、君も可愛いよだなんて、そんなまるで口説くみたいなことを言おうとしてなかったか!?

危ねえ、怖え、自分が怖え。そんないきなり俺みたいなのが言う言葉じゃないぞ気持ち悪いだろそんなん急に言われたら。危ねえ。

なんかすっげー顔が熱い。恥ずかしい。俺が横で百面相してるせいかイベリスも気まずそうにしているような気がする。ごめん。


挿絵(By みてみん)


馬車で乗り合わせた村人が俺たちを呼ぶ。準備ができたから呼んでくるように村長に言われたらしい。ついていくと、少し坂を上った先にある民家に案内された。庭には木製の大きなテーブルがあり、所狭しと料理が置かれている。


「ささ、どうぞ。村一番の料理上手である私の妹と妻が作りました。お召し上がりください」

「いただきます!」

「いただきます」


どれもこれも美味そうだ。そんなに長い時間かけているわけでもないのにこの品数。長年料理をやっている人間の手際の良さ。味にも期待できるぞ。

俺はまず、テーブルの中央に置かれたグラタンを取り皿に盛った。湯気が上がる。チーズの焦げた匂いが香ばしくて食欲を誘う。

一口。


「おいひい!」


ホクホクの根菜が濃厚なクリームソースと絡んで最高に美味い。あと熱い。肉の類は入っておらず、野菜だけだというのに満足感がすごい。これが……この村の野菜と村一番の料理上手の力……!

ソースをパンに付けて食べるのがまた美味い。イベリスも静かにパクパクと食べ進めている。花屋のおばさんの言葉を思い出す。うん、良い食べっぷりだ。


細かく刻んだ葉野菜のスープも、少しピリ辛のトマトとナスのパスタも、おやきのようなものも、全部美味い。夢中で食べる俺たちと村長たちはニコニコと見守っていた。


「ごちそうさまでした……全部美味しかったです」

「ごちそうさま。村の野菜も、料理の腕も、見事でした」


満腹だ。食べ過ぎた。まあお腹壊すことはないけど。

俺と同じくらい、いやそれ以上に食べていたイベリスも平気そうだ。胃が丈夫なんだな、というか体格があるからそもそも食べる量が人よりも多いのだろう。

約束通り、魔ジカの石を渡して今回の依頼はこれで完了だ。お土産に野菜を持たされたので、ありがたくいただいた。【アイテムボックス】に入れておけばいつでも新鮮で美味しい野菜が食べられる。嬉しい。


ちょうどよくハーマーズに向かう馬車がなかったので、帰りは徒歩だ。まあ、行きは馬車だったとはいえそこまでハーマーズと遠く離れた村というわけでもないので、普通に夕暮れ前に街には帰れるだろう。

急ぎの用事もないし、イベリスと話しながらまったりと街道を歩く。


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