18.ジュリアお嬢様の依頼
「さて、メイスケ。どこから探す? 二手に分かれるか」
「いや、その必要はないよ。俺、探し物は得意なんだ」
腕の見せ所――〈探知〉の見せ所だ。
〈探知〉スキルが使えることは昨日イベリスにも話したが、実際に使うのはこれが初めてだ。
意識を集中させる。ジュリア・カルクールお嬢様のイヤリング。金色の台座。黒い石……。
「ついて来て」
歩き出す。セバスチャンさんはついて来ていない。お嬢様のいる部屋に残ったのだろう。
本当に……人を見る目に自信があるようだ。俺たち二人を勝手に歩き回らせても問題がないと判断したのだろう。俺たちが変なことをしないだろうというのと、最悪の場合彼女の選んだ使用人――主に執事のセバスチャンさんが処理してくれるだろうという。
階段を上って、まだ歩く。広いなこの屋敷! それにあちこちピカピカのキラキラで平民風情の俺は目が潰れてしまいそうだ。壊したり、汚したりしないかも心配ではやく任務を終わらせてここから出たい。宿に帰りたい。宿がボロって意味ではなく俺の日本人の魂的に木造のおうちが落ち着くのだ。
「この部屋かな」
〈探知〉の反応はこの先だ。しつれいしまーす、と人の気配はないが一応声をかけて、扉を開く。扉の先は倉庫のようだった。新品のシーツや生活用品が並べられている。使用人用の倉庫かな?
「この部屋のどこかにイヤリングがあるはずだ。俺はてっきり」
「てっきり?」
「ドレスルームかお嬢様の私室にあると思ったんだけど」
お嬢様の信頼する使用人はお嬢様の婚約者から貰ったという大事なイヤリングをそれはそれは丁重に扱うだろう。失くしたのがお嬢様本人だとすると、着替える時……ドレスルームか私室かだと思ったのだが。なんだってこんなところに。使用人の生活備品を見に来る……こともあるのかなあのお嬢様だったら。
〈探知〉の反応が大きいところに近付く。クローゼットの奥に、見るからに高級そうなオルゴールがある。怪しい。そっと蓋を開いてみると、中にイヤリングが入っていた。……何故こんなところに。
一応、これが本当にお嬢様の探しているイヤリングなのか〈鑑定〉してみる。
黒受石のイヤリング
持ち主:ジュリア・カルクール
間違いなさそうだ。これをお嬢様に渡せば任務完了だ。
イベリスのほうを振り返ると、考え込んだような仕草をしていた。
「どうしたの?」
「いや……そのイヤリング、妙だと思ってな。黒受石は光を浴びると真っ黒になる性質があって、それで……葬儀の際のアクセサリーに使われることが多い石だ」
葬儀。葬式。あれ、これってお嬢様が婚約者から貰ったイヤリングなんじゃ?
婚約者にあげるアクセサリーってもっとこう、煌びやかで、石言葉とかも“永遠の愛”“私の初恋”みたいなハッピーなものじゃないのかな。
まあそういうのは貰い飽きて実用的な物も貰ったという可能性があるけど、そうすると今度はこのイヤリングのデザインが気になってくる。葬式の時に着けるものにしては台座が派手だ。綺麗と言えば綺麗なんだけど、なんというか……やらしい感じの金ぴかで、慎みがないというか……。
「イベリスはこのイヤリング、どう思う?」
「正直、ちぐはぐだな……という印象だ。これを着けて葬儀に参列する者はいまい」
イベリスから見てもそうなんだ。
うーん。
「……まあ、考えても仕方ないか」
「ああ。我々の仕事はこれを依頼人の元に返すことだからな」
頷いて、部屋を出る。
お嬢様のアクセサリーを素手で掴むのは憚られたため、【ショッピング】でちょっと上等そうなハンカチを購入し、それに包んで持ち運ぶことにした。
元来た道を帰ると、お嬢様がいるであろう部屋の前にはセバスチャンさんが立っていた。
お嬢様に確認を取り、扉を開けてくれる。
「どうしたの? もしかして、依頼を諦めるのかしら」
「いえ、ご依頼の品を持ってきました」
ハンカチを開いて、イヤリングをお嬢様に確認してもらう。
お嬢様は大きな目をパチリと瞬かせて、それから口元をニンマリと美しく歪めた。
セバスチャンさんが恭しくイヤリングを受け取り、派手な柄の宝石箱にそっと仕舞うのを見て、俺もハンカチを仕舞った。
「これだわ。随分早かったのね。まるで場所を知っていたみたい」
疑われているのだろうか。
いや、お嬢様は自分と、自分の選んだ使用人に信を置いている。俺――外部の人間がイヤリングの場所を知っているとした場合、使用人が外に漏らしたことになってしまうから、それはありえない。これは彼女の軽口だ。
「さて、貴方たち。何か気になったことはあるかしら。特別に質問してもよろしくてよ」
「気になったこと?」
イヤリングのことかな。でもお嬢様と婚約者の間のことに外野が首を突っ込むもんじゃないし。傍から見れば違和感のある行為でもその人にはその人の事情があるわけだし。
気になったこと……。セバスチャンさんは何者なのか……この豪邸を維持するのにどれだけの人数や手間がかかってるのか……お嬢様ってガチのお貴族様ってことでいいんだよねとか……。
あ、そうだ。
「任務完了のサインなんですけど二枚書いてもらっていいですか」
同じ日に達成した同じ依頼人の任務なのにサインは依頼の個数もらわなきゃいけないんだよな。まとめてくれてもいいのに。難しいのかな。
ポケットからサイン用の紙を二枚取り出し、お嬢様に渡す。
「――ええ。そうね。それはとても大事なことだわ」
お嬢様は上機嫌に、さらさらとサインをした。達筆だ。
「確かに」
「ふふ。貴方たち、面白いわ。また何かあったらお願いね。陽だまりの花さん?」
玄関までセバスチャンさんに見送られて、屋敷を後にする。
お嬢様のあの感じ……もしかして、試されていたのだろうか。
「ジュリア・カルクール……カルクール家の令嬢はあの若さでありながら事業を立ち上げ、ドレスや化粧品、紅茶を販売する店を経営していたはずだ」
「貴族のお嬢様ってみんなそうなの?」
「いや。そこは……家によるとしか。だが彼女のような例はあまり聞かないな」
ふむふむ。
やり手の経営者である彼女は使えるコマ――もとい、優秀な人材を発掘するために使用人にやらせれば済むようなことをわざわざ組合に依頼として出しているのか。
それならば、あの奇妙なイヤリングも納得がいく。
黒受石が葬儀の際のアクセサリーによく使われる石だという常識があるか。デザインがふさわしいものであるかどうかという目利きができるか。その上で、込み入った事情に首を突っ込むのか否か。
俺たちがどの程度お嬢様のお眼鏡にかなったかどうかはわからないが、もし気に入られたのならいつかお嬢様から直々に依頼が来たりするのかなあなどと思った。指名依頼なんて制度があるかは知らないが!




