15.報告
門を抜けて街に入る。雨が降るまであと一時間ないくらいだろうか。無事に――帰りつけて、よかった。
孤児院へと向かう。シスターは突然の冒険者の来訪に怪訝な表情を浮かべたが、イベリスに背負われたロンの姿を認めると速足で近寄ってきた。
「ロン! どこへ行っていたの。心配しましたよ」
「……ごめんなさい」
「ああ、こんなに服を汚して。貴方がたが連れてきてくださったのですね。ありがとうございます。私はこの孤児院で子供たちの面倒を見ています、ムエットと申します」
イベリスがロンを下ろす。ロンがおずおずとシスター・ムエットに近寄ると、シスターは優しくロンの肩を抱き寄せた。ロンも安心したようにシスターに寄り添っている。怖いと言っていたが、シスターからたくさんの愛情を貰っているのだろう。
「ロンは森に迷い込んだところ盗賊団の一味の拠点を見つけてしまい、奴らに捕らえられていました」
「まあ……なんてこと……」
イベリスの言葉にシスターは立ち眩みを覚えたが、何とか堪えたようだ。
「ロンを捕らえていた一味は捕縛しましたが、盗賊団そのものの問題はまだ解決に至っていません。どうかお気をつけください」
「ええ……ありがとうございます。この子が無事に帰ってきてくれて、何よりです……」
シスターはロンを力強く抱いた。
「ロン。それはそうとあなたはこれからお説教です」
「う……はい」
「まあ、珍しく素直ですね」
「シスターに、心配かけたのは本当だから……」
ロンはひどく反省した様子だ。あれなら、お説教もそう長くはかからないだろう。
組合に向かう前に、依頼人にネックレスを届けることになった。
イベリスを待たせることになるが、盗賊の件とまとめて依頼達成の報告もしたらいいだろうとの判断だ。
「依頼品のネックレスは盗賊が持っていたのか?」
「うん。少し前に街中でひったくられて、ひったくった盗賊……アイツらはそのせいで盗賊団のボスとやらに見捨てられて、売るに売れなかったみたい」
売られなかったのは不幸中の幸いというやつか。どこに売られたかおおまかでもわからないと探知のしようがないし、売られた先によっては返ってこないかもしれない。
依頼人の家の扉をノックする。すぐに扉は開いた。
「冒険者さん……。あの、もしかして、やっぱり依頼は……」
「見つかりましたよ」
ネックレスを手渡す。受け取った依頼人は、唇をわなわなと震わせ、瞳を潤ませて大切なそれをぎゅうっと胸に抱いた。
「ありがとう。ああ……夢みたい。これだわ。間違いなく、私の……」
ほろりと涙の雫が零れ落ちる。
……よかった。予定外のことが起きたけれど、ネックレスはちゃんとこの人の元に返せた。
「あっ、そうだ。これに依頼完了のサインお願いします」
「ええ。……あなた、」
サイン紙を渡すと、依頼人は俺の姿を見て目を見開いた。
「服に血がついて、ああ、そんな。怪我をしたの? 私の依頼で……」
「いやっ、これは! 大丈夫です! ちょっと転んで派手に鼻血出しちゃって、アハハ……。ね、ほら、怪我なんてしてないですよ。だから気にしないで」
顔を指さして怪我がないことをアピールすると依頼人はほっとした様子を見せた。
危ない。そうだよな。俺が怪我したりすると依頼人は自分の依頼のせいでと気に病んでしまうかもしれない。気を付けなければ。ここに来る前に服に〈清浄〉をかけておくべきだった。
サインを受け取り、依頼人の家を後にする。次は組合に報告だ。
やっぱり、リジーさんのところには人が少ない。
二人でリジーさんのところに並ぶと、すぐ対応してくれた。
まずは俺の依頼達成の手続きだ。サインを渡し、報酬を貰う。
次に、イベリスの依頼報告。
「盗賊の拠点の小屋を見つけた。だが盗賊団のものではなく、はぐれだ。数は四人。小屋の中に縛ってある。場所はマーカーを立てておいた」
イベリスが懐中時計のようなものをカウンターに置いた。場所を示す……レーダーみたいなものかな?
リジーさんはそれを受け取る。
「直ちに人を派遣します。報酬は確認後となりますがよろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
これで二人とも依頼完了だ。盗賊もちゃんと回収されるようだし、一安心だ。盗賊団そのものは残っているみたいだけど……。
それじゃあ、と立ち去ろうとしたとき、リジーさんに声をかけられた。
「あの……」
「はい?」
「……お気をつけて」
今日はもう依頼を受けてないしなんだろう。あ、もうすぐ雨が降るからかな。宿に帰りつくまでは多分大丈夫だと思うけど。
そう考えてるとイベリスが目で合図をくれた。あっ、服の血。
「気を付けます!」
冒険者……ハンターの任務なんか戦いばっかりだし、血まみれで組合に来る人も多いんじゃないかと思うんだけど、リジーさんは血に慣れているという感じでもなさそうだ。それとも、ハンターではなくサポーターの任務に行ったはずの俺の服に血がついてるっていうのが気になったのかな。いずれにせよ、心配をしてくれたんだ。優しいな。心配かけないように〈清浄〉を徹底しよう。依頼人と、リジーさんのために。
決意を新たに組合を後にする。
「それでは後で君の部屋に行く」
「わかった」
宿に帰りつくギリギリで雨が降り出して身体が濡れてしまった。放置して風邪をひくわけにもいかないので、俺とイベリスは一度それぞれの部屋に帰り、後で合流することにした。
最初は着替えが済んだら部屋に来てくれとイベリスから言われたが、流石に女性の部屋に行くのは気が咎めたので丁重にお断りして、しばらく後にイベリスのほうから俺の部屋に来てもらうことにした。いやでもどっちにしろ個室に女性と二人きりなのには変わりないんだけど。別に借りてる部屋でどうこうとかイベリスに対してどうこうとかはないんだけど気持ち的に遠慮してしまう。俺はプレイボーイでもなんでもないので……。
身体全体に〈清浄〉を。宿屋のおかみさんが雨に濡れた俺たちを見かねて貸してくれた手拭いで髪や身体を拭いた。
窓の外では雨が激しさを増している。濡れてしまったけど、もう少し帰るのが遅かったらこんなものじゃ済まなかったかも。
ざあざあと降りしきる雨の音を聞きながら、考える。
冒険者になったのは失敗だったのだろうか。
俺にはスキルがある。日本のものを【ショッピング】で仕入れて売る商人になる選択もあったし、人のいない場所で自給自足スローライフだってできたはずだ。
誰にも迷惑をかけずに。神様に言われたように、ただ生きているだけでいい。




