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13.南西の森①

今日の朝食は魚のフライが挟まったパンとかぼちゃのポタージュ。豪華だ。元気が出る。でも昨日の夜もサンドイッチだったから夜には米が食べたいな。夜にここの食堂を使ったことがないので、ここで食べるのも有りか。あるといいな米料理。なかったら部屋で買って食べよう。


食堂を見回すがやっぱりイベリスの姿は見えない。まだ帰っていないようだ。

なんだろう、おかみさんもアウリちゃんもリジーさんも良くしてくれるし、依頼人も良い人ばかりで不安はないんだけど、イベリスに会えないことで胸に変な突っかかりがあるというか、もやもやするというか……。

ああ、うん。なんというか、これは。

――寂しいんだな、俺は。

照れくさい気持ちになった。


組合(ギルド)に来て、探し物の依頼を探す。あった。依頼の紙は少し傷んでいて、それなりに前から張り出されているにも関わらず受ける人間がいないことが察せられた。これにしよう。


「おはようございます、リジーさん。これ、お願いします」

「……おはようございます」


リジーさんが挨拶を返してくれる。いいな、こういうの。


「これ……」

「この依頼がどうかしましたか?」

「いえ。何でもありません。失礼しました」


依頼の紙を見たリジーさんがいつもと違った反応を見せる。

何か気になることでもあったのだろうか、声をかけるといつものリジーさんに戻った。


「では、いってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


リジーさんに見送られて依頼人のもとへ行く。北東の入り組んだ場所にある家が今回の待ち合わせ場所、依頼人の家だ。ノックすると、女性の声が返ってきた。


「依頼を受けて来ました、冒険者のメイスケです」

「……依頼を……そう……本当に……?」


出てきたのは獣人の老婦人だ。灰褐色の犬耳が頭から垂れている。

そういえば、この世界は獣人がいる世界だけどあんまり数は見ないな。リジーさんと、街を歩く冒険者に一人二人見たかな、というくらいで。珍しいのかな?


「はい。こちらギルドカードです」


依頼に来たというのが信じられない様子だったのでギルドカードを見せる。身分証にもなって便利だ。

カードを確認した依頼人は俺を家の中に案内した。

カップに注がれた水を出されたのでありがたくいただいておく。


「依頼を出したのが……何週間前だったかしら。結構……前のことだし……。ちゃんと、受けてくれる、なんて……驚いたの。ごめんなさいね」

「いえ」


依頼人は俺が来たことに驚き、俺の言うことを信じられなかったのを謝罪した。この世界で出会ったことはまだないが――世の中にはもっと恐ろしいクライアントがいるので彼女の態度は気にするほどでもない。謝罪するのは彼女が真面目な人だからなのだろう。


依頼人の話を聞く。


探し物は依頼人の亡くなった旦那さんからの贈り物のネックレス。

チェーンが切れて、鞄に仕舞っていたところを鞄ごとひったくられたらしい。

最近巷を騒がせている例の盗賊団のしわざかと一瞬思ったが、さすがに違うか。依頼人の話では単独犯だったようだし、親方から聞いた話だと盗賊団は複数人で固まって行動してるみたいだからその線は薄い。


「もうかなり時間もたってて……盗んだ人の顔もわからなくて……返ってこない可能性が高いことは、頭ではわかってるのよ。それでも……あのネックレスだけは……」


依頼人の瞳が潤む。胸が痛い。


「探します。俺が必ず」

「……ありがとう。よろしくお願いします」


探し物の依頼は基本的に無期限だ。いつまでに探せという制限はなく、依頼が達成できずキャンセルするときの罰則もない。一応、一ヵ月が経つと組合(ギルド)側から依頼を続けるかどうかの確認があるが、それくらいだ。

それくらい、依頼が果たされること、探し物が見つかるのは稀だという。組合(ギルド)に依頼を出して、見つかったらラッキー。そのくらいの軽い気持ちで依頼するものだ。

だから本当に、依頼人は藁にも縋りたい思いで組合(ギルド)に依頼を出して、それでも受ける人がいなくて、諦めて、諦められなくて。


俺には〈探知〉がある。無機物でも反応するのは確認済みだ。

この人に必ず、旦那さんとの大事な思い出のネックレスを届ける。

俺は気合を入れて、依頼人の家を後にした。


「さて」


やるか。


依頼品のネックレス。

小指の先ほどの大きさの青い宝石が嵌った、銀細工のネックレス。依頼人の旦那さんが手ずから彫ったメッセージ入りの、一点もの。

〈探知〉にかける。

ひったくりに遭い依頼を出したのが数週間前だから、ハーマーズの中にはもうないだろう。盗品をその街で売るなんてすぐ足が付きそうだし……いやあるのか? ひったくり犯の考えなんて分からん。念のため、範囲を街中にするが反応はなし。

MP節約のため街の外側、街全体をぐるりと囲う大きな壁まで歩き、外に〈探知〉を向けながら、壁に沿って歩いてみる。ひったくり犯が街から逃げる時に街道に落とした、とかそういう話だったら簡単なのだが……。そう上手くはいかないだろう。別の街に足を運ぶことになるかもしれない。


「……ん」


〈探知〉に反応があった。ここから南西の方角だ。確かあのあたりには森があったはず。俺が落ちた森とは別の森だ。ネックレスの反応は移動しない。誰かが持ち歩いているわけではなさそうだ。既に売られたなら何もなさそうな森の中にあるのはおかしな話だし、ひったくり犯が逃げる時に森に入って落としたか? いや、追われて森に入ったなら落としたネックレスを追う誰かが拾っていてもおかしくない。追われていないなら南に延びた街道を行ったほうがいいだろう。

うーん、わからん。とりあえず行ってみよう。

門番にギルドカードを見せて街を出ると、南西の森に向けて歩き出した。


〈探知〉を依頼人のネックレスと襲い掛かってくる可能性のある魔物に反応するように設定しておく。

空が昼前だというのに薄暗い。雨が降りそうだ。


「カミィ、天気予報」

【現在地の天気は曇り。三時間後に雨が降るでしょう】


三時間か。何もなければ雨が降る前にネックレスを回収して宿に戻るまでいけそうだ。何もなければ、だけど……。


森に足を踏み入れる。暗くて不気味だ。……うん。思い出した。暗い森を一人で歩くのはめちゃくちゃ怖いってことを。異世界初日に歩いたあっちの森はデスボアとの遭遇でそれどころじゃなくなったのと途中でイベリスと会えたというのがあるけど、今はひとり。茂みがガサガサと音を立てたり頭上でなんか変な鳥っぽい鳴き声が聞こえるのがすごく怖い。懐かしささえある怖さだ。さっさと行ってさっさと帰ろう。魔物を避けながらネックレスまでの道を最短で歩く。


前方に小屋を見つけた。ネックレスの反応はあそこからしているようだ。

……嫌な予感がする。

スキル〈隠密〉で気配を消してそっと小屋に近付いた。声がする。


「だから、どうすんだよ。また問題起こしやがって」

「しかたねえだろ。コイツが悪い」


男の声だ。複数人いる。


「お前のせいで俺らチームがボスに見切りつけられたのわかってんのか。たいして金も持ってなさそうな獣人のババアから荷物ひったくって怪我負わせて、騒ぎのせいで動き辛くなったって」

「でもよ、このネックレスは金になりそうだろ」

「だから、ボスに捨てられた俺たちには足が付かない売り方なんてわかんねえんだよ」


三人……だろうか。話す内容から依頼人を襲ったひったくり犯で間違いなさそうだ。ネックレスがこの位置から動かなかったのは、安全に売る方法を知らないから。ここはこいつらの拠点のようだ。ネックレスの他にも盗んだものが溜め込まれていそうだが……。


さて、どうしよう。

こいつらはおそらく件の盗賊団の一味だろう。トップに見捨てられたようだから正しくは元・一味だ。こういう場合は組合(ギルド)に報告したらいいかな。領主とか(えらいひと)に報告するにせよ組合(ギルド)を挟んだほうがいいだろう。こいつらにネックレスは売れなさそうだし、売れそうなネックレスを破壊することもないだろうから、ここは一旦依頼のことは置いておいて、落ち着いて、そっとこの場を離れて報告を――。


「このガキも無事には帰れねえ。俺らのアジト見ちまったんだからよぉ」

「うっ……うっ……」


子供が呻く声。

駄目だ。

帰れない。


「本当にお前はいつも、厄介ごとばっか持ち込みやがって」

「埋めちまえばいいよ」

「バッカ、捜索隊が出されんだろ。ちょっとばかし怖い目に合わせて、クチが聞けないようにしてから帰してやるんだよ」


イベリスなら。イベリスなら。こんなやつらを放置しない。

危ない目に遭っている子供を助けずに、ここを去るなんて絶対しない。


落ち着け。俺。

小屋の中を〈探知〉する。大人が三人。子供が一人。

小屋には入口が一つ。窓はない。突入、するなら正面からだ。深呼吸。イメージ。


小屋の正面に周り、扉をノックする。

相手が警戒したままゆっくりと扉が開く。突然の訪問者に、おそらく相手は武器を構えている――から、先手必勝!

こちらから扉を思い切り開き、呪文を叫ぶ!


挿絵(By みてみん)


「〈拘束(バインド)〉ッ!」


魔力で構成された鎖が地面から生えて男たちの身体に巻き付き、動きを奪う。一瞬のことに男たちは焦り怯えた様子だ。これで抵抗もできないだろう。後は【ショッピング】で縄でも買って一人ずつ縛り上げればいい。


「もう大丈夫だからな」


子供に優しく声をかける。両手両足を縛られ、猿轡を嚙まされた子供はそれでも怯えた様子で俺を――否、俺の後ろを見ていた。


「がっ……」

「んだコイツ、正義の魔術師気取りか? オイお前ら、大丈夫か」


後頭部に衝撃を感じ、俺の意識は遠のいた。


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