11.迷子の迷子の
組合に報告をして、依頼料を貰う。銀貨二枚。荷物運びと同じ値段だ。割のいい仕事なのに埋もれていたのは掃除の仕事自体が人気ないからなのだろうか。本当は人気の仕事なのに俺の運が良くて一番に見つけられたのか。サポーターの一番人気な仕事ってなんだろうなあ。
まだ日が高いので、もう一つ依頼を受けることにする。
探し物――というか、探し猫の仕事だ。
待ち合わせ場所に行くと、小さな子供が二人、不安げに立っていた。依頼人はこの二人らしい。一人は男の子で、もう一人は女の子。顔立ちが似ていることから二人は兄妹なのだろうと推測された。
「冒険者の人ですか? えっと、ウチの猫がいなくなって」
「ミヤちゃんって言うの」
「色は黒くて、しっぽの先だけ白い猫の、男の子です。目は青くて、首にオレンジ色のリボンを巻いてます。鳴き声が、にゃあじゃなくて、みゃあだから、ミヤって」
お兄ちゃんのほうが一生懸命説明してくれる。二人とも眉を垂れさせて、今にも泣きだしそうな顔だ。可愛がっている猫がいなくなったらそりゃ心配だよな。
「依頼、承りました。ミヤちゃんを探してきますね。きっと見つかるから、安心して」
「……はい」
兄妹は小さく頷いた。早く見つけて二人を安心させてあげよう。
ここは俺の〈探知〉の出番だ。
この街の中の、黒猫を〈探知〉する。範囲が広いから結構MPを持っていかれる。黒猫、だけだと結構な数がいるな。全部歩き回って確認できないこともない数だが、別の条件にしてみるか。そういえば〈探知〉は無機物でもいけるのだろうか。試しにやってみる。オレンジ色のリボン。反応があった。無機物でもしっかり探知してくれるようだった。
だが、ミヤちゃんがつけているリボンを探すには反応の数が多い。今回は素直に条件を増やして数を絞る。
黒猫、オス。オレンジ色のリボンを着けている。三匹まで絞れた。一か所ずつ当たってみよう。
一匹目、目が茶色い。はずれ。
二匹目、人に飼われている。足先が白く、尻尾の先は黒い。はずれ。
三匹目、目が青くて、尻尾の先が白い。特徴が一致している。あれだ。
ミヤちゃんは宿屋街にある木の上にいた。まだ小さい猫だ。
さてどうしよう。見つけたはいいが、捕まえるときのことを考えていなかった。
警戒、されるよなあ。
木の上にいる猫が人を見つけて近寄ってきたなんて話は聞いたことがない。むしろ、助けようと木に登ったところで威嚇されたり……猫が足を滑らせたり……猫が怪我するのはよくない。依頼もあるが、そもそも俺は犬猫の類が好きなのだ。
考える。新しい魔法を。
「〈浮遊〉」
その辺の小石に魔法を使う。小石はふよふよと浮かび上がった。念じれば、上下左右にも動かすことができる。それを自分にもかけて、空中で動けることを確認した。これなら、猫が足を踏み外しても助けられる。猫は着地が上手いというが、まだ小さいし、万が一のこともあるからな。
「……よし」
そろりそろりと木を登る。あまり猫を見過ぎず、しかし決して意識は外さないように。
猫の近くまで来た。もう少し向こうから寄ってきてくれたら、手が届きそうだが……。
「みゃ、みゃあ~」
猫語で対話を試みる。返事はない。誰も見てないと思うが恥ずかしい。
「こわくないよ~。ミヤちゃ~ん……。みゃ~~みゃ~~~ん……」
本当か? 本当に木に登って猫に語り掛ける成人男性は怖くないのか?
ミヤちゃんが俺をじっと見ている。人間から見れば怪しいかもしれないが猫から見たら怪しくない怖くない、危害を加えるつもりもない善良な生物だから、こっちにおいで~……。
「みゃ~~? みゃあみゃあ~~~~」
「ミャァ」
ミヤちゃんが小さく鳴く。そして、ゆっくりと近付いてきた! 俺の勝ちだ! 何に勝ったかは知らん!
そっと、掬い上げるようにしてミヤちゃんのふわふわな身体をを抱っこした。〈浮遊〉を使ってゆっくり下りる。
「もう大丈夫だよ~。お兄ちゃんとお姉ちゃんのところに連れてくからね~」
「ミャア」
「はいみゃあ~みゃあだね~かわいいね~」
ミヤちゃん可愛すぎる。小さくて可愛いしシルエットが可愛いし鳴き声が可愛いし存在が可愛い。大人しくて良い子だ。ここで暴れて逃げられたら俺も兄妹も困るので大変ありがたい。賢くて可愛くて良い子だ。
ちなみに俺は犬派か猫派か聞かれたらどっちも派である。可愛いものは何でも可愛い。
ミヤちゃんにデレデレしつつ、ふと視線を感じて顔を上げると少し離れたところからこちらを見ている宿屋のおかみさんと目が合った。
……いつから見られてたんだろう……。とてもつらい。
依頼人にミヤちゃんを渡す。二人はとても喜んでいた。ミヤちゃんも安心したように少女の腕の中でウトウトとしていた。一件落着、よかったよかった。
お兄ちゃんからサインを貰い、笑顔の二人と別れた。いい仕事をしたな。
ミヤちゃんを助けられてよかった。そう噛みしめながら爽やかな気持ちで――宿屋のおかみさんに恥ずかしいところを見られたのを記憶から消しながら――組合に戻った。
「確認お願いします」
「はい。少々お待ちください」
いつもの受付さんのところに行く。なんだかたまに視線を感じるのはなんでだろう。
「こちらが今回の報酬となります。お受け取りください」
金貨一枚。金貨一枚!?
かなりの高額だ。子供二人に払える金額じゃないだろうし、結構裕福なおうちなのか。まあペット飼う余裕があるくらいだもんな。
依頼を受ける時は俺にできそうなのを選んでいるから金額をあんまり気にしてなかった。
この広い街中を探すのは大変だし、一日二日じゃ見つからないこともあるから報酬が高めに設定してあるのかな。そう考えると〈探知〉が有用すぎる。探し物依頼は積極的に受けていったほうがいいかもしれない。〈探知〉がなかったら難しい仕事だし、受ける人も少ないんじゃないかな。
今日はこれくらいにして、宿に帰ろう。……おかみさんとは顔を合わせづらいけど。
「それじゃあ、受付さん。お疲れ様です」
「あの……」
挨拶をして立ち去ろうとすると、受付さんが声をかけてくる。何か……逡巡した様子だ。どうしたのだろう? 落ち着かない様子は、テストの点が悪かったことを親に報告しなくてはならない子供のようにも見えた。あの、ともう一度小さく呟いて、受付さんはフゥと息を吐く。長い睫毛に縁どられた瞳が、意を決したように俺を見た。
「私の、名前……は、リジー、です」
「リジーさん」
今まで受付さん受付さん言ってたけど、そりゃ受付さんにだって名前はある。
日本でも……大学のころ通っていた美容室の担当の美容師さんのことは名前で呼んでたな、とかそういうことを思い出した。
確かに組合に登録してからこの受付……リジーさんのところに毎回お世話になっている。これからもそのつもりだから、名前で呼んでもいいだろう。というか、向こうから名乗っているのだから呼ばない選択肢はない。
「リジーさん。また明日、よろしくお願いします」
「……はい」
少しだけ、リジーさんの雰囲気が和らいだ気がした。




