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劉弘逝く

劉弘たちは洛陽の役所に乗船の許可を取りに行った。理由は行きと同じで、変な船に乗って強盗にあってもたまらない。彼らはとにかく腕っぷしに自信がない。

城下にいるのでそれほど難しいことはなく金銭を支払うことで乗船の許可を得ることができた。

そして、北門から洛陽を出て孟津港への道は思っていたより遠かった。洛陽から虎牢関までとどちらが遠いだろうか。賭けに負けたやつは

「これじゃ船じゃなくてもよかったんじゃないのか?」

と不平を言う始末。

「負けたら従うもんだよ。」

劉弘はさらっと返す。

決まったことを後から言われても困る。同僚じゃなかったら付き合わないかもしれない。と思う。

そんなことも言いながらも、港には着いた。

出航まではあまり時間がなく、むしろちょうどいいタイミングで到着できた。

乗船の順番は特に決めていなかったが、劉弘が先頭になった。

劉弘が受付の者に許可書を見せると、受付の者は劉弘の腰に下げてある土産物の剣を見た。

(劉氏でこの剣・・・。失礼のないようにしておいた方がいいな。)

「どうぞこちらの方へ。」

受付の者はかなり丁寧な感じで船内の係に劉弘たちを引き継いだ。

「船室を用意してありますのでどうぞ。お連れの方々も。馬はお預かりします。」

「それはご丁寧にありがとう。」

劉弘はそういうものなのかなと思いながら案内に従った。

船室は他と壁によって仕切られている、文字通りの部屋になっていた。庶民が簡単に利用する部屋ではなさそうだ。係のものがいなくなってから、

「どうなってるんだ?」

張何某は言った。

「よくわかんねぇな。」

「後から金を払えと言われても困るぞ。」

「向こうが勝手に案内したんだからいいんじゃねーのか?」

劉弘はあっさりと状況を受け入れることにした。

横になれるベッドがあるので、4人はさっそくゴロリと寝そべった。

「寝ちまえば酔わねぇよな。」

船酔い君はそういって眠ることにした。

ほかの面々も特にやることはないので同じように眠ることにした。

眠って移動できるのはとても贅沢だ。

まるで疲れないで目的の渡し場までたどり着いた。

「ありがとう。とても快適に過ごせたよ。」

劉弘は受付係に伝えた。

「ありがとうございます。馬は先におりていますのでどうぞ道中お気をつけて。」

結局、丸ごと特別待遇で移動することができてしまった。

船酔いグループも眠っていたせいか、元気にしている。

「ほらな、船にしてよかっただろ。」

「ま、まぁな。」

素直に認めたくはないが、認めるしかない。

ここからの行程は来た道を戻るだけ。街道に沿って進むだけなので別段難しいこともない。


それから2年くらいしたころ政変が起こった。

司隷校尉の李膺などいわゆる「清流派」と呼ばれる者達が朝廷に、中常侍の専横を批判し告発した。

中常侍たちが逆に「党人どもが朝廷を誹謗した」と反訴した結果、李膺ら清流派党人を逮捕した。

逮捕者は豪族達の運動で死罪にはならなかったが、終身禁錮ということになってしまった。

中央が乱れると野党が増える。住むところを追われるものも出た。

比較的劉備の住むあたりは平和だったため、流れてくるものが多かった。

劉備の家に身を寄せた中の子に、田豫、士仁、などがおり、劉備の遊び仲間となった。特に士仁はなぜか劉備のいうことにすべて賛同するほど懐いた。

そのほかに親戚の子、劉燃、劉展も劉備の遊び仲間になっていた。

また、遊び仲間にはなれないが、弟の劉亮が生まれた。

劉家では子供が生まれてめでたいのだが、劉弘は体調を崩して寝込むようになっていた。

官職も辞して過ごすようになり、劉家は金銭的な余裕がなくなってきた。

それは幼い劉備にも感じ取ることができた。

「父上、私が大きくなったら必ず楽をさせて差し上げますから、辛抱してください。」

「お前に心配かけて情けない。お前はお前の生き方をするんだ。」

「はい。わかりました。夜ご飯を食べてきます。」

「・・・。ああ、そうしなさい。」

最期の話をしているわけではないので、劉備も言ってる割に淡泊だ。

病床に臥せっている者にしてみれば少し堪える。言っても始まらないが。

そんなことから1年くらいが経っただろうか。劉弘はいよいよ具合が悪くなり、最後の時を迎えることになった。ここのところ食事ものどを通らない。

「あなた、しっかりしてください。」

「・・・。すまぬ。けほっけほっ。」

劉弘は渇いた咳をする。

「こんなことなら、賭け事ばかりしないでお前たちに残せばよかったな。」

「本当にそうですよ。」

「病人に手厳しいな。」

「まさか、ここで終わりにして逃げるつもりではないでしょうね?」

「・・・。けほっ。そのまさかかもしれん。」

「そんなこと許しませんよ。」

劉備の母はもう劉弘の残り時間がないことを理解しているが、どうにか覆したくてそういった。

「ちょっと眠らせてもらえないか。敬を呼んでおいてくれ。」

「・・・。わかりました。少し休んだら何か食べてくださいね。」

劉弘は話しにつかれたのかそのまま眠りについた。

次に目を覚ました時には、傍らで劉敬が見守っていた。

「兄上、目を覚まされましたか。」

「ああ、敬か。私はもう駄目なようだ。あとのことはお前がいるから心配はしていない。任せたぞ。」

「そんな弱気なことを言わないでください。」

「見たらわかるだろう。もう最期だ。子供たちの将来を見られないことが残念だ。」

「大丈夫です。立派に育っていますから。」

「・・・・。」

「兄上?」

「・・・・。」

こうして劉弘は息を引き取った。


劉弘の葬式は思ったよりも弔問客が多かった。対応は大変だったが最終的に大きな黒字になり、今後の生活にいくらかの余裕をもたらした。

「備よ、困ったことがあれば何でもこの叔父に相談するのだぞ。」

「はい叔父上。」

一族で集まっているため路頭に迷うことはない。

耿家もそれなりの力がある。最悪でもなんとかなるだろう。

それから数か月したころ、劉備の母は突然旅立つと言い出した。

「劉備、叔父上のいうことをよく聞いて正しく育ちなさい。私は少しの間家を空けますが、必ず戻ります。」

「母上、いつ戻るのですか。」

「1年くらいで戻るつもりだよ。苦労を掛けますが心配しないで待ちなさい。」

「・・・。」

劉備は気持ちを言葉にできなかった。

劉備の母はそのまま使用人を数人連れで出かけて行った。


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