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ようやく洛陽につきました。

邑をでてから南下し、ようやく黄河にたどり着いた。

「汚ねぇ水だなこりゃ。」

張何某は余計なことを言った。

「めったなことを申すでない。この辺りでは洛神様が住むと伝えられておる。この辺の者がきいたら何をされるか分かったものじゃないわい。」

旅の中で打ち解けた一行は軽い話をしながら津に向かった。信用できる渡し守を使わないと、岸から離れたときに何をされるかわからない。馬も載せなければならない。

使者がいるので公的な渡しを使うことが簡単だが、津まではまだ陸路を進まないとならない。黄河沿いに進むのは山野で暮らしていた者には少し落ち着かない道だった。

 突然バシャン!と大きな水の音がした。驚いて見てみると大きな魚が飛び跳ねている。

「で、でかいな。あれはいくらで売れるんだろうな。」

劉弘は誰彼ともなく言った。

「捕まえる道具も何もない。つまらないことを考えるのはよせ。」

陳隊長にたしなめられた。


津につくと兵士に身分証を求められた。そんなものはないぞ、と劉弘ら4人は焦ったが使者の爺さんが全員分を持っていた。

「船は揺れますからお気をつけて。」

兵士は次の順番の者の方を向きながら無表情で言った。用事が済んだらさっさと乗れ、ということだ。

船に乗ってほかの乗船客を見ると、同じような要件と見受けられる者ばかりだった。

「こんな大きい船に乗るなんて初めてだよ。」

「そうだな、なんだか罰じゃなくて褒美のような気になるよ。」

脇役2人がそう言って大きな船に感動していた。しかし船が出てしばらくすると

「助けてくれ、吐きそうだ・・・。」

「だめだ。もう俺は賭け事なんかしねぇ。」

船酔いでぐったりしてしまった。


対岸についたときにはすでに陽も斜めになってきていた。

「もうひと頑張りだ。ここから速度を上げるぞ!」

陳大将は急ぎたいようだ。

「ちょっとだけ休ませてくださいよ。」

船酔いグループが抗議の声を上げるが

「わしもここは急いだ方がよいと思うぞ。ほれ、行くぞ。」

使者の爺さんも急ぐ気だ。

周りを見ると、同じように急いでいる者たちもいる。そうなるともう急がないといけないような気分になる。

地面が固いので気分が安定してきたのか、なんとか頑張る気も出てきたようだ。

いままで馬に鞭を当てて走ることはなかったのだが、ここへきて鞭を打った。

訳も分からず追従する劉弘たち。

あたりはだんだん暗くなってくる。

野営するなら今のうちから準備しないと見えなくなってしまう。薪を集める最中に野犬に襲われたらたまったものじゃない。

しかし陳大将は速度を落とさない。

しばらく進むと遠くに明かりが見えた。邑があるようだ。

「あの村で宿を取りたい。遅れたら部屋が埋まってしまうぞ!」

陳大将が言った。

そういうことか、とやっと合点がいき急ぐ価値を知った。よく見ると戦闘は使者の爺さんになっている。これじゃ護衛も何もない。

結局馬の能力の違いもあり、かなり早く使者の爺さんは宿に到着した。そして6人分の受付をした。

船酔いグループはいくらか遅れて到着したが、その時にはすでに部屋は残っていなかった。

「久しぶりの、うまい飯と温かい寝床だ。これを逃す手はないからな。」

「「「「さすが隊長!」」」」

「部屋を取ったのはわしなんじゃが。」

(だんだん扱いが雑になってきたような気がするぞ)と使者の爺さんは思った。

朝まで安全に眠れるのはとてもありがたいことで、一行は泥のように眠った。


「あとは関所を抜ければ洛陽だ。もうひと頑張りするぞ。」

陳隊長は全員にそう言って出発を促した。

それからしばらく進むと、陳大将が大きなあくびをした。

「ふあー。おっといけねぇ。」

昨夜の急速で緊張がすこしほぐれてしまったか。

「陳隊長、下馬せい。」

張何某が言った。

「何か言ったか?」

そう答えながら、陳隊長と張何某は馬を降りた。

そしてお互いが殴り掛かった。

張何某の攻撃は受け止められ、陳隊長の打撃は命中する。書生が武官の隊長にかなう由もない。

数発いいのが当たったところで、

「それまでじゃ!」

使者の爺さんが一喝した。

張何某はそこで戦いをやめたが、陳大将はさらに攻撃を繰り出した。

「ハァッ!」

使者の爺さんが横から陳大将を突き飛ばした。

なんと陳大将は転がるほど吹っ飛んだ。

「「「え?」」」

「張、上官に逆らうでない。殺されることもあるんじゃぞ。兵でもないおぬしにはわからんかもしれんが。」

「・・・。」

「陳大将、この度はお主が悪いんじゃないのか。相手は文官じゃぞ。」

「使者殿、ついカッとなってしまいました。それにしても使者殿、すごい力ですな。」

「不意打ちなれば、誰でもこのくらいの勢いは出るものじゃよ。ほれ、張さんに詫びなさい。」

「張殿、それがしが悪かった。どうか許されよ。」

こうなっては張何某もごねられない。すでに毒気も抜かれてしまっている。

「私も立場をわきまえず失礼いたしました。」

「よしよし。これでお互い水に流したということでよいじゃろ?」

使者の爺さんは微笑みながらそう言ったが、目の奥が怖い。

二人はこれで手打ちということで納得するしかなかった。もともとそんなに恨みを抱える性格でもない。張何某もちょっとふざけるつもりが大事になってしまっただけだ。数刻もしない間に二人ともすっかり心に平穏を呼び戻した。


虎牢関についた。虎牢関の前は広く土がむき出しになっている。木は切られ、草は定期的に刈られるようだ。関所から見える範囲には隠れられないようにしているようだ。

一行が到着したのはすでに陽が落ちた後になってしまった。虎牢関は日の出から日没までしか通れない。周りを見ても夜明けを待つために野営をしているかその準備をしている集団ばかりだ。文句を言う者はいない。

「ようやくここまで来れたの。明日には洛陽に入れるじゃろう。」

使者の爺さんはそういって一同に野営の準備を促した。

準備をしているとき、陳隊長の動きはぎこちなかった。

「どこか痛めましたか?」

劉弘が聞くと

「いや、何でもない。」

と言った。

(あばらが折れているかもしれんな。使者殿は何者なのか?)

そう思いながら彼はごまかして作業を続けた。


日が昇るころ、あたりは出立の準備をしている者たちの音で騒がしくなった。馬のいななきも聞こえる。おかげで眠ってもいられないのでどの集団も次々と準備を進めている。

虎牢関を通る際、番兵が身分証を要求してきた。しかし劉弘たちは持っていない。どうしたものかと思っていると、使者の爺さんが全員分持っていた。どうやら郡主から預かっていたらしい。それぞれに渡しておいて逃げられるといろいろと面倒なことになるので、渡さないのが普通らしい。

使者の爺さんに続いて一行は関を抜ける。関内に入れば治安がかなり良くなる。夜盗などほとんど出ないだろう。ましてや今の司隷校尉の李膺は不正を見逃さないで天下に名を売っている。ここまでの治安の良さは今まであっただろうかと思われる。

何の問題も起こらず洛陽の東門へ着いた。やり取りは虎牢関と同じだ。

城門を抜けると、いきなり街がある。人が歩いている。たくさん。やはり都は違うな、と4人は思った。

そのまま役所に行くのかと思っていたが、その前に使者の爺さんは知人に会うといった。

そこそこの邸宅の前で使者の爺さんは門をたたく。出てきた下男と何かを話したのち中へ入っていった。

(ここで待ってるのか?)と劉弘たちは思った。

「しばらくここで待機だ。」

陳隊長が言った。使者の爺さんに打たれたところをさすりながら。

いつまで待つのはわからないのは辛い。人々の行きかうのを眺めて過ごすほかはなかった。

が、ほどなく使者の爺さんは出てきた。

身なりがきれいになっている。

「旅の姿のままというわけにもいかぬのでな。」

(言ってから行けよ。どいつもこいつも言葉が足りぬわ)

とだれもが思った。


役所の前で使者の爺さんは言った。

「ここまでご苦労じゃった。帰りは自由にするがよい。これで帰りの支度を整えるといい。」

そういっていくらかの金を4人に渡した。

「陳隊長、行きますぞ。」

「は。」

使者の爺さんと陳隊長は役所に入っていった。4人はここに置き去りになった。

「ど、どうする?」

劉弘は言った。

「帰りも護衛の任務があると思っていたからな。」

「飯でも食いに行くか。」

4人は腹ごしらえに向かうことにした。


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