劉備学校
劉備は最近やることがない。この前までは毎日盧植のもとへ行っていたのだが、それがなくなってしまった。
本当に短い間だったのだが、劉備はとても賢くなったと思い込んでいた。そこで思いついたのが、郷里の子供に勉強を教えることだった。ちょうど弟の劉亮や使用人の子たちで幼いものがいる。
(一丁やってみるかな)
面白いかどうかはわからないが、退屈しなくてよさそうだ。
さっそく仲間を使って子供たちを集めた。集まった中には隠し子の張飛もいた。劉備は彼に対して何も思うところがない。当然だ。知らないのだから。
劉備が幼い時に最初に教わったのは文字だった。しかし劉備は文字から始めないで、盧植に教わった子牛の
最近やることがない。この前までは毎日盧植のもとへ行っていたのだが、それがなくなってしまった。
本当に短い間だったのだが、劉備はとても賢くなったと思い込んでいた。そこで思いついたのが、郷里の子供に勉強を教えることだった。ちょうど弟の劉亮や使用人の子たちで幼いものがいる。
(一丁やってみるかな)
面白いかどうかはわからないが、退屈しなくてよさそうだ。
さっそく仲間を使って子供たちを集めた。集まった中には隠し子の張飛もいた。劉備は彼に対して何も思うところがない。当然だ。知らないのだから。
劉備が幼い時に最初に教わったのは文字だった。しかし劉備は文字から始めないで、盧植に教わった孔子の話から始めた。教科書になるようなものはなく、劉備の話すことを聞かせるだけだった。その話は物語の体系をとっており、娯楽のない子供達にはなかなか面白いものだった。しかし劉備はそれほど話が上手いわけではない。
「兄貴、その話は私に替わってもらえませんかね。」
見かねた簡雍が言った。
「そうか? じゃあ頼むわ。」
劉備はあっさりと交替した。
簡雍は抑揚のある話し方と優しい言葉遣いで物語を紡いだ。ときおりフィクションを混ぜた。
(こんな話だったかな?)
劉備はそう思いながらも簡雍の話に子供たちと一緒に引き込まれていった。
数日それを続けると、子供たちはそれぞれ子路が好きだとか顔回が好きだとか、そんな話をするようになっていた。講義はもっぱら簡雍の担当だった。劉備は傍らで聞いているだけ。自分がやるより良いと思っているのだ。
20日くらいたつ頃には劉備は飽きてきてしまった。簡雍もそろそろネタ切れだ。
ここにきてようやく字を教えることにした。ところが
「お前たち、明日からは字の読み書きだぞ。いい先生を連れてくるから頑張れよ。」
そういって自分で教えない宣言をしてしまった。
「兄貴、誰に頼むんですかい?」
「そりゃ、うちのババアだろ。おれたちもそうだったんだ。」
「勝手に決めちまっていいんですかねぇ。」
「大丈夫だろ?」
家に帰った劉備は最近機嫌のいい母に言った。
「おい、明日から子供たちに字を教えてやってくれよ。」
「え、私がかい?」
「他に誰がいるんだよ。」
「そんなことは知らないけど、わたしゃ忙しいんだよ。」
「徘徊して出会う人で会う人に管を巻くのに忙しいも何もねーだろ。」
「馬鹿だねお前は。そんな毎日だったら苦労しないよ。」
「まぁ、とにかく頼むわ。もう子供たちには言ってあるから。」
「明日だけだからね。替わりにおまえ、そこに作ってある奴全部売ってきな。安売りするんじゃないよ。」
劉備の母が指したのは藁で作ったいろいろなものだった。どこの家でも作るやつだ。
「これ売れるんか?」
「売れるんかじゃなくて売るんだよ。街に持っていけば作っていない人が買うだろ。」
「そうか街か。ここじゃ売れないもんな。」
「言わなきゃわからないなんて情けないね。」
劉備は街の通りで適当に露店を開いた。
しばらく黙って座っていたが通行人は見向きもせずに通り過ぎて行った。
(つまらねぇな)
座ったまま通行人を観察していると、通行人のいろいろが気になってくる。劉備はある通行人に声をかけた。
「なぁなぁおっちゃん、草鞋がちぎれそうになってるよ。貸してみな、直してやるよ。」
「おお、悪いな。」
劉備はできの悪い売り物をほどいてその藁を使って修復した。
「ほらよ。なおったぜ。」
「にいちゃん、器用だね。いくらだい?」
「暇だったから声かけただけだから、お金なんかいらないよ。」
「そうか、ありがとな。じゃあそこの何かを売ってもらおうかな。」
「なんか売りつけたみたいで悪いな。どうもありがとう。」
それから劉備の露店に人がのぞくようになり、なぜだか修理を依頼する人が増えて行った。
(なんだなんだ? 修理屋って言った覚えはないんだけどな。)
だんだん忙しくなり、お客の顔もろくに見ないで修理ばかりになってしまった。
物を売る方が適当になって値段も適当になった。すごい安く買っていってしまったものもいれば、余計に払っていくものもいた。劉備は修理に夢中で気が付かない。結局売り切れた時には予定よりも儲かっていた。
幽州の人の気質だろうか、修理代はいらないと言われた恩にはしっかり報いてくれた人が多かった。おそらくほかの地域だったらこうはいかなかっただろう。
劉備はまとまった現金を手に、飯屋へ向かった。そして、酒を飲んだ。酔っぱらった。半分使った。
家に帰って母に怒鳴られた。
「飯代を飲んじまってどうするんだい。自分で何かして稼いで来い!」
「うるせえなぁ。そんだけあればいいじゃねーか。」
「私が作った分がこんな扱いされちゃ頭くるに決まってるだろ。」
「稼いでくりゃいいんだろ稼いでくりゃ。」
「できるもんならやってみな!」
酔いがさめないまま劉備は出かけて行った。
そして数時間後、ボコボコになって帰ってきた。
「どうしたんだお前?」
「金持ってそうな奴に分けてくれと言ったら仲間が出てきてやられた。」
「よく殺されなかったね。」
「偶然士仁が通って助けてくれたんだよ。」
「情けないところをみせたね。だけど、次盗賊まがいなことをしたら私がお前を殺すからな。恥を知しりな。」
「ああ、今日はもう寝るよ。」
次の朝、劉備は子供たちのことを思い出した。
「あー、替わりをみつけてなかったな・・・。」
独り言を言って集まるところへ行った。
着くとすでに子供たちは文字を教わっていた。劉備の母に。
「劉備か、しばらくはわたしがやるよ。耿雍は借りるからね。」
劉備の母は教えることが楽しいらしい。簡雍に今まで教えたことを聞いて、そこから字を教えているということだ。楽しく聞いたことを字に書けて、子供たちは嬉しそうだった。
(出番なしか。どこ行こうかな)
劉備が立ち去ろうとすると、子供たちは口々に
「劉先生!いつもありがとうございます!」
と大声で言った。ぎこちない拱手をしながら。
どうやら子供たちは序列のトップが劉備だと認識ていたらしい。
(わるくないな)
「しっかり勉強しろよ!」
劉備はそういって出て行った。
「わからなかったら何回でも聞くんだよ。私が教えられることは教えてあげるから。お前たちが大きくなったら劉備の助けにならないといけないんだからね。」
劉備の母は劉備の子分を作る種を蒔きながら教育を施すことにしたのだった。
午前中は子供たちの教育、午後は領地の確認と売り物づくり。劉備の母は多忙だった。
母は多忙だが劉備は暇だった。街に出て例の服屋へ行ったり公孫瓚の所で過ごしたりしていた。
しかし劉備の母の教育方針で子供たちは感化されて、劉備の名声は上がっていった。普段村にいないで出かけているのでかえって好都合だった。