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ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
50/73

50話 部下

初めての作品なので、投げ出さずに完成させるのが第一…という事で、

現時点での解りやすさよりも、エンディングから逆算したタイトルに変更しました。


今後ともよろしくお願いします。

 

 王都の大通りに血を流し倒れる騎士の姿には、まるで現実感がなかった。

 騎士鎧から華奢(きゃしゃ)な四肢が伸び、兜からは長い髪が流れていた。体を覆っていた隠滅の外套には黒い穴が開き、その魔力を失わせている。


その肩は、黒い尾から放たれた槍に貫かれ、右腕は今にも千切れそうだ。


 ジェリマリガンの位置からでも、倒れる部下の傷の重さは見て取れた。


 ジェリマリガンは、部下が倒れた現実を受け止めると、直ぐに隠蔽の外套を脱ぎ捨てて、右手で黒い魔物に短剣を投げつけていた。

そして、投擲に振り下ろした右腕で、返しざまに腰に指した長剣を抜き放つと、同時に左手で”左翼は背後から奇襲”の手信号を送る。

左側に並んでいる二人の部下は姿を隠したまま、ミノタウロスの背後から斬りかかるだろう。


 投げつけた短剣がミノタウロスに突き刺さった隙を見て、同じように隠蔽の外套を脱ぎ捨てたもう一人の部下がジェリマリガンの右に立つ。


「銃撃は”巫女もどきのジル”からのものだったようです。私やリオリタとは面識があります。」


部下は報告の間も、血を流し倒れるリオリタから視線を外さない。自身の妻なのだ。当たり前だろう。


ジェリマリガンは部下の目を見ると、何も言わずに長剣の柄でその背中を押した。

部下の騎士は振り返り、ジェリマリガンと目を合わせると、飛び出すようにリオリタの下に駆け寄って行く。


 ジェリマリガンに、その部下の背中を見送る暇は無かった。ミノタウロスは、体に刺さった短剣を引き抜き投げ捨てるが、声の一つも上げない。

ジェリマリガンは、全身の気脈に魔力を(みなぎ)らせ、ミノタウロスの視線の先に踊り出る。

貴族の邸宅から跳躍し、そのまま魔物の肩口に体重を乗せ斬りつけた。

ジェリマリガンは、切り下ろした長剣を持ち上げる間も惜しんで右肩から着地すると、そのまま地面を前転して、倒れる部下とミノタウロスの間に立つ。


そして右足を引き、剣を平清眼に構えると、左肩に装備しているガントレットに魔力を流した。


 王都に残る兵士は、全て自分の部下なのだ。 

ジェリマリガンは真っ先に王城に向かわなかった事を悔やんだが、その悩みを打ち消すように左の脇を絞りこみ、切っ先を魔物の眼球へ狙い定める。


そして腹の底から声を出し、新しい部下に指示を出した。


「ジル! 負傷者の手当は任せる!」



 肩口から斬り付けたはずのミノタウロスの傷は既に塞がっている。異様な回復力だ。


 ジェリマリガンは、これから背後に隠れた部下が、魔物の背中を切り付けるタイミングを待つように、長剣を握る手に力を込め、土を蹴ろうとする右足に魔力を溜め続けた。





 照りつける太陽が姿を消しても、王都北部の荒野の乾きが収まる事はなく、砂粒混じりのザラついた風は要塞の壁にぶつかって、暗がりの中に味気ない音を立てていた。


北の要塞の最上階では、騎士団長ガデュロン・フッサートが信頼の置ける部下に囲まれ、長い軍議を続けている。


 ガデュロンはあれこれ頭を使い、計画を練り上げる事は得意ではなかったが、人の意見を受け入れる度量はあったし、その決断の責任を負う事が、自らの鍛錬にもなると考えていた。


 ガデュロンにとっては、頭を鍛える事も体を鍛える事も、どちらにしても同じ事。

それは精神力で真正面から立ち向かい、打ち勝つまで繰り返されるべきものだった。

だけれどガデュロンの精神がいくら苛立ちに耐え続けても、長い会議はまとまらない。

そもそも騎士たちには、会議のやり方が解らなかった。


 騎士の発言には秩序がなく、同じような意見が繰り返される。反論は誰のものかの区別もなく、結輪はいつになっても見えてこない。

そして、騎士の声はとにかく大きかった。議論の声は要塞の最上階で反響し、それは地上で食事を用意する使用人にも、地下に拘束された闇ギルドの犯罪者たちの耳にも届いていた。


 不慣れな騎士団の会議は延々と続いたが、それでも騎士たちには体力があり、ガデュロンには誰よりも強靭な忍耐力があった。


 ガデュロンは不毛な言い合いに耐えながら、魔導回廊が存在した頃を思い出していた。

魔導回廊の中では会話の内容は記録され、適時ジェリマリガンのようなベテランの士長や、南の騎士団長ジェリウス・ムールスの意見を聞く事もできた。

今はその無くなってしまった魔導回廊の代わりになる伝令網を作らなければならない。

でも、その会議には、魔導回廊の代わりになるものは何も無かった。




 騎士団の議論が喧々囂々(けんけんごうごう)と響き渡る。

そんな中では、食事の用意を終えた使用人が要塞の最上階まで登って来る足音に、気が付ける騎士は一人も居なかった。

それでも最上階に夕食の香りが広がれば、騎士団の皆が声を抑え、直ぐに席を立つと手分けをして食事の準備を手伝い始めた。

騎士たちの喉は乾き、腹は空いたままだった。


 大きな会議用のテーブルには料理とランプが並べられ、騎士たちは野営用のランプの明かりを灯しながら、静かに食事を楽しんだ。


 ガデュロンは食事を運んできた使用人を(ねぎら)うと、その後、使用人に指示を与えた。


「地下に拘束している闇ギルドの者にも適切な食事を与えるように。」


 使用人は頷くと、直ぐに準備に走って帰った。


すると、その使用人の背中を目で追いながら、一人の騎士が口を開く。

ガデュロンと一緒に、東の森から帰還した4人の部下のうちの一人だ。


「…闇ギルドの連中は、昔から魔導回廊のない東の森の奥で活動していたのですよね?」


部下の視線はガデュロンに集まっている。


「…そうだな。」


ガデュロンが短く答えると、話の流れを察した何人かの騎士たちが視線を交わす。でも誰も自分からは話をしない。

結局、話を最初に振った騎士が、自分の考えを語り始めた。


「闇ギルドは魔導回廊の外...ダンジョンである東の森で組織を作り、そこから王都まで組織を広げて活動を続けていた訳ですよね。」


騎士団の面々は食事の手を止め、話の続きに固唾(かたず)をのんでいる。


「…そうなると、彼らには魔導回廊に頼らずに、ダンジョンの中で情報をやり取り出来る手段があったと考えられませんか?」


騎士の話がガデュロンへの問いかけで終わると、再び食事を囲む全ての騎士の視線がガデュロンに集まる。

するとガデュロンは一呼吸(ひとこきゅう)沈黙した後、残る食事を一気にたいらげた。


 ガデュロンの意図を察した騎士たちも、急いで食事を胃袋に収めていく。

味気ない格好で食事を終えると、ガデュロンを先頭に食事を終えた騎士たちは皿を木箱に戻していく。

そして食事を終えたガデュロンは立ったまま部下に指示を与えた。


「…闇ギルドで情報のやり取りを(にな)っていた者がいるはずだ。ここまで連れてこい。…騎士団への協力を願うのではない。ここで尋問を行い問いただす。」


ガデュロンの指示を受け、共に東の森から帰還した4人の騎士が最上階を離れると、彼らは地下牢へ向かい階段を下りて行った。



 4人の騎士に連れられて、手足に枷を付けたまま最上階に上がって来たのは、両の角を切断されたミノタウロスの男だった。

ミノタウロスはまだ壮年に見えるが、体は(ひど)く痩せていて、まるで毛を刈られた後の羊のようにも見える。

それでも立ち上がった背丈は大きく、背筋を伸ばせば要塞の最上階の天井にも頭が付きそうだ。


 ガデュロンには、この細く大きな角無しのミノタウロスが、魔導回廊の代わりになるとは思えなかった。

だけどガデュロンには人の話を聞ける度量があった。


その相手は敵でも味方でも構わなかった。





 王城の地下の厨房では、仕事を終えた料理人たちが思い思いの場所を寝床にし、コックコートのまま寝転がっていた。

厨房にあった食材は、あらかた使い切ってしまったようで、寂れてしまった厨房の床はいくらでも空いていた。


 マルフェオは、もう少し麦俵(むぎだわら)の上で思索にふけっていたかったが、改めてやって来た料理長ファリナムは既にコックコートを脱ぎ、おまけに帯剣までしていた。

コック帽の中から現れたファリナムの髪は銀色で、ランプの光をぼんやりと照り返している。

ファリナムの表情は明るかったが、語る内容は暗い話だった。


「いやな、井戸の水に勢いが無くてな。」


ファリナムはスッと背筋を伸ばした。


「久しぶりに動かしている手動ポンプが錆び付いている事も考えられるが・・・地下水道に何かあったと考える方が筋が通りそうだろう?」


そう言ってファリナムはマルフェオに手を差し出す。


「このファリナム・モーリスが王都の地下水道を調査してこよう。」


 マルフェオは混乱していた。頭の中では半裸の豊満な獣人が踊り狂っている。

モーリス家と言えば、タチの悪い”中間派”の上級貴族の代表格だ。

王に実力を認められ、前線の辺境で活躍するわけでもなく、かと言って、王都の中で腐っているわけでもない。

中間派は、王権と適度に距離を取りながら、自分たちの力を蓄えていた。


その中間派を束ねるモーリス家の長男に、世界を旅する放浪癖(ほうろうへき)があるとは聞いてもいたが、どうして王城の地下で料理長をやっているのだ?

マルフェオはなんとか頭の中から半裸の獣人を追い出すと、ゆっくりと言葉を絞り出した。


「…どうしてモーリス殿が?」


ファリナム・モーリスは答えた。


「さっき付与魔術師のお嬢ちゃんに見せていた羊皮紙…あの魔導具は新しい賞与のような物なんだろ?俺もあれが欲しいんだ。」


 マルフェオはファリナムの手を取りながら諦めていた。これだから上級貴族は面倒なのだ。

新たな通貨は大きな利権にもなるだろう。風来(ふうらい)を気取っているようで、このファリナムも骨の髄から貴族なのだ。

さりとて、もしも王都の地下水道に何かがあれば、この混乱は収拾がつかなくなる。あれだけの陥没が東の丘陵地帯で起こったのだ。

今は(わら)にもすがりたいのが、マルフェオの正直な気持ちだった。


「モーリス殿、お一人で向かわれるのですか?」


ファリナム・モーリスは左手で腰に下げた鞘の位置を直しながら、マルフェオに答えた。


「仲間のあてはある。今も空堀り町で暇を持て余しているはずだ。」


マルフェオは視線を下に向けると、ガッチリと皮ひもで編み込まれたファリナムの具足を見た。


「これから向かわれるので?」


マルフェオの問いにファリナムは答える。


「もちろんだ。水の出ない厨房に用はない」


マルフェオはファリナムの手を取り立ち上がると、二人で地下から中庭へ続く階段を上り、中庭を囲む回廊から王城前の大通りに向かった。



 マルフェオは王城の回廊の途中で、部下の役人クーリエが魔法の明かりを灯しながら、通路に野積みされた荷物の確認を行っている姿を見止めた。

忙しなく羊皮紙にペンを走らせるクーリエは、こちらには気が付いていないようだ。


 マルフェオは部下が(うらや)ましかった。部下は確かに上官に決められた範囲でしか仕事が出来ないのかも知れない。それでも、何も決まっていない範囲(テリトリー)も曖昧な場所で、何も解らないまま仕事に(おもむ)く事は無い。


 そんな物思いにふけるマルフェオの前を、上級貴族ファリナム・モーリスは速足で歩く。

そしてマルフェオの耳には、何処か遠くからか、夜風に乗った銃声が聞こえた。


 王都の混乱は増していた。マルフェオは、自分にも余裕が無くなっている事を自覚していた。

だけど今の自分の役割を投げたところで、誰に任せられる訳でもない。


 ファリナムとマルフェオは、銃声のした王都中央を避け、王都の北側から東の空堀り町へと向う。

前を歩くファリナムに躊躇はなく、速足の勢いが鈍る事はなかった。

50話ぐらいで終わる予定が、まだ半分を少し過ぎた所…。

なんとか年内にはめどをつけて、次の作品を書きたいですね。

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