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ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
47/73

46話 獣道

よろしくお願いします。

 海からの潮風は随分と(ぬる)くなってきたのに、ラトロの帰りが少し遅い。


 馬は一日に4度も食事をする。

ラトロが馬の世話を始めたのは、まだこの数日の事だけど、10回近くも繰り返されれば、その行き帰りの時間は把握できたし、帰りに合わせていた朝食は、とっくに仕上げてしまった。


私はラトロよりも強い人間を見たことはない。だけど、あれだけの怪我だ。

何かあったのかも知れない。



実際に、あの怪我では森の獣の相手もできない。

姉は生き生きと狩りを楽しんでいるように見えるけど、今日はまだ寝ている。

狩りは体に疲れも残るんだろう。


姉を起こすと思うと申し訳のない気持ちになる。

だけど、私一人ではラトロの様子を見に行く事も出来ない。


そうやって悶々としながら、古い木こり小屋に残されていた麻袋の中身を引っ掻き回す。


ここで暮らしていた木こりは、鍋や包丁、石鹸などの生活用具を麻袋に詰めて残していった。

戻って来るつもりだろうけど、その麻袋の梱包の厳重さからは、木こりの帰郷は随分と先のものに感じる。


私は麻袋の中から、薪割り用の手斧を見つけると、胸に抱え、姉を起こす前に、もう一度外の様子を伺った。



 遠目にラトロの姿が見えた時、隣には頭から毛皮を羽織った大きな騎士の姿が見えた。


小屋から見下ろせる寂れた街道に、森の獣道(けものみち)から二人が現れた時、私は手斧を腕の間から落としてしまった。


危うく足の指を切り落とす所だったが、騎士の鎧は陽の光をギラギラと跳ね返しながら、今も一歩一歩

と木こり小屋に近付いて来る。


私は先程までの遠慮はかなぐり捨てて、姉を必死で起こした。

姉が慌てて準備をしている間に、煮炊きしている火を止め、外に出て手斧を拾いなおす。


そして準備を終えた姉が矢をつがえた時、盗賊ラトロは、あれ焚け逃げ回って来た騎士の目の前に居るにも関わらず、動かないはずの右腕を大きく、ゆっくりと振って、私達に微笑んでいた。


 ラトロが小屋の前の緩やかな坂を登ってくる。 


後に付いて来たのは、毛皮を羽織った騎士とは逆だった。

乞食のような獣人が、窮屈そうに古めかしい騎士鎧に足を通していた。


 獣人が肩からかけているローブは遠目には優雅にも見えたけれど、側では酷い臭いがして、私は手斧を構える力が抜けてしまった。

だけど姉は剣の踏み込みの間合いに入っても、引いた弓を降ろさないままでいる。


獣人は、私達の仲間を擂り潰した、あの首の無い猫のような魔物に少し似ていた。



 夜の王都の暗闇の中、ジェリマリガンは隠蔽の外套から右腕を出し、素早く手首と指の角度で散開の手信号を見せると、また右腕を外套の中に戻した。


背後からは、了承を示すような土を蹴る音が聞こえる。

少し先に見える、夜の中を歩く小柄な黒い影からは、こちらに気が付いた素振りは感じない。


 その小柄な黒いミノタウロスの姿は、夜の中でも際立つように真っ黒で、瓦礫に変わったミスリルが足下から月明かりを照り返す中、ジェリマリガンの位置からも細部を見る事ができた。

黒いミノタウロスの腹からは、まるで食後の黒猫が優雅に振るっているような、長い尻尾が生えていた。


 ジェリマリガンは、戦場で幾度となく、腹から滑り落ちてしまった敵兵の内臓を見て来たが、尻尾はそんな醜さや儚さとはまるで縁のない、夕刻の運河の脇道を散歩する黒猫の尾っぽのように、プラプラと左右に踊っていた。


そして腹から伸びる尻尾の先が(たお)やかに揺れるのとは対象的に、ミノタウロスの背中の上部では、千切れた尻尾の根本のような太い部分が、痛みを訴えるように激しく暴れ、黒い粉をまき散らしている。


その黒猫の尻尾のようなものは、まるでミノタウロスの背中から腹に向けて、硬い槍が空から打ち下ろされたように貫通していた。



 黒いミノタウロスの両拳にはべっとりと血液が付着していた。夜でも遠目にでも、したたる血液には存在感があった。

ジェリマリガンにはミノタウロスの素性は解らなかったが、その獣人の歩んできた道が、人の道から外れた獣道(けものみち)であった事は想像出来る。


 ただ、今のジェリマリガンには想像に浸る時間は無く、異形のミノタウロスの拳についた血液は、ジェリマリガンに冷や汗と不快感だけを残した。

頭にこびり付く不快感を薄めるように、部下の意見や報告を聞きたい所だったが、耳にはもう部下の足音も聞こえない。

魔導回廊のないダンジョンでの戦闘は、本当に面倒だった。


ダンジョンの戦いでの手信号は、出したタイミングでの敵との距離が重要だった。

散開中は、今、ジェリマリガンが手信号を出した場所から敵までの距離感を維持しながら、部下は左右に展開する。

左翼の端は、おそらく屋根の上に跳び、高所から狙いを定めているだろう。


こちらに進んで来るミノタウロスに合わせて、ジェリマリガンも少しづつ後ろに下がる。

隠蔽の外套を使ったままの戦闘で最も避けるべきなのは同士討ちだ。

ジェリマリガンの次の指示があるまで、誰も攻撃を行わないはずだった。

にも関わらず、夜の王都には銃声が響いた。


そして弾丸はミノタウロスてはなく、ジェリマリガンの足元に着弾し、甲高い音と土煙に変わった。



 銃声はジェリマリガンの右後方から響いた。

散開中に背後から襲われたのでは敵わない。これでは各個撃破の標的だ。


ジェリマリガンは、自身も左手にある貴族の邸宅の屋根の上に飛び乗ると、ミノタウロスと射撃を行った敵の両方を視界に収められる位置を取り、再び隠蔽の外套の外で散開の手信号を出した。

訓練通りであれば、部下の全員が貴族邸宅の屋根に乗り、ジェリマリガンの左右に広がり、敵を見下す距離を取り直せるはずだった。

この時、一番移動の距離が長く、負担がかかるのは右翼の端だ。それでも相手から姿を消せる隠滅の外套の魔力があれば、無理な指示ではなかったはずだ。

だけど右翼の端の騎士は、背後から迫って来た敵に引き留められた。


「動くな!!」


背後から襲って来た敵は、冒険者のような軽装の女性で、その声には意志の強さが感じられた。

兜もかぶらず、柔らかく短い髪が夜風になびいている。

彼女の構える銃は騎士団の銃騎隊の物に似ていたが少し形が違う。他国の物か?と嫌な考えが頭を(よぎ)る。


 女性の銃は虚空に狙いを定めていたが、その先には部下の騎士がいるのだろう。

ジェリマリガンには理由は解らなかったが、この敵は隠蔽の外套を来た伏兵を視認出来ているのだ。



 混乱するジェリマリガンが考えをまとめ、頭を整理出来るより先に、視界の逆側でミノタロスが夜空に向かって雄たけびを上げた。

ジェリマリガンの眼前で、ミノタロスは仰け反った姿勢のまま、短い髪の女性に向かって、その腹を突き出す。

ミノタウロスの腹から生えた尻尾のようなものが捻じれるように鋭く尖ると、ミノタウロスは激痛に耐えるように再び叫び声をあげた。


ミノタウロスの腹から生えた尻尾の先端が弾けるように千切れると、撃ち出された尻尾は鋭く旋回し、虚空の部下に銃を構える女性の側面を襲った。




 陽の光が届かない王都の地下を探索する足取りは、すっかり軽くなっていた。

シジフォスに怖さはなく、好奇心に背中を押されるように進んでいく。

 

 小さな(うさぎ)を仕留めて以来、狩りを行う事は無かった。

崩れた岩盤の下敷きになった魔物を何頭か干し肉に変えて、食料の備蓄には余裕がある。

ナイフに変化させていたミスリルは、今は布地のように薄く伸ばされてから付与魔法で縫製され、バックパックの形に変わり干し肉で満たされている。



 地下の暗闇の世界を進むシジフォスの目的は、はっきりとしていた。地上に戻るのだ。


 家族の事、カヌーの事、元の職場の仲間の事、気にかかる事は山積みだったが、人の心配をしている場合でもない。

自分が皆にかけている迷惑の方が余程に重い。


 それでも、シジフォスの足取りは軽かった。

魔導回廊に何度試しても繋がらない事も心地が良い。

連絡が途絶えている母親には申し訳ない気持ちもあるが、シジフォスは、何事も決まり切ってはいない時間や場所の中を進む事を、心の底から楽しんでいた。



 魔導回廊からの接続が消えてしまい、鑑定の魔法は使えなかったが、暗闇の中の地下の間取りは、シジフォスにとって想像の付きやすい物だった。


 地下の空間の大部分は、人口的に区分けされ、人が掲げた目的をもってデザインされていた。

天井の高い大きな空間から短い廊下が伸び、それぞれの天井の低い空間に繋がっている。

低い天井の空間は、おそらく何らかの作業を行う部屋なのだろう。

シジフォスが最初に目覚めた部屋も同種のものだ。


 大きな空間から最も広い間口を抜けて通路を進むと、一端、円形の空間に出て、そこから再び広い間口の通路を抜けて次の大きな空間につながる。

大きな空間に生活感は残ってはいなかったが、何かの資材を集積しながら、人が集団で暮らしていたような形跡も所々に伺えた。

いくつかの家具や機材も形を残していたが、その素材はミスリルではなく相当に古い物に思える。


 そうやって人口的な空間は規則性をもって続いていたが、その隙間を縫うように、細く歪な獣道(けものみち)が縦横に走っていた。

獣道の入り口は壁の穴として並んでいたが、一部の壁や天井は崩落し、獣道の内部も露わになっている。


 地上から伝わった衝撃の影響は、この細い獣道の方が大きかったようで、落盤も目立ち、既に潰され死んでいる魔物も多かった。

この細い獣道を魔物が走り回っていたのは容易に想像ができるし、魔物が姿を表すルートを特定出来るのはありがたい。

シジフォスは壁を穿(うが)つ獣道の入り口に、背を向けないように進んで行った。



 そうやって4つ目の大きな空間に出ると、様子は一変していた。

大きな空間は明らかに戦闘の形跡があり、空間自体が(ゆが)んで見える。

次の円形の空間に繋がるはずの間口は、重厚な金属板で硬く閉ざされて進むことが出来ない。


そして硬く閉ざされた扉の脇から、今までの物とは比べ物にならない、大きな獣道が口を開けていた。

事務作業に追われ、現実逃避がてらの更新が息抜になってます。


今回も手直しが入ると思います。


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