表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
39/73

38話 到着

よろしくお願いします。


 北軍区の騎士団長ガデュロン・フッサートは、自身が王から預かる要塞に到着するなり、まずは馬と部下、そして部下に引き回されて来た闇ギルドの犯罪者に水を飲ませ、休息と、そして地下牢での拘束を与えた。

その間にガデュロンは要塞の最上階にある自室に向かう。

背後から部下の視線も感じるが、ガデュロンは自分の中の怒りや動揺が、まだ収まっていない事を自覚していた。


 元々は剣に身を預けた一人の騎士だったのだから、魔導回廊を通して騎士団を見渡せなくなった所で、元に戻るだけとも言えるのだ。

だけどガデュロンは、目を塞がれ、耳を塞がれ、手や剣を奪われたような気分に(おちい)っていた。


 義父から譲り受けた魔導回廊の与えてくれた視野の広さは、今もガデュロンの自意識を広げたままだったが、その視界の(ほとん)どが黒く塗り潰されているようで、ガデュロンは自分が酷く小さくなったように感じていた。

こんな感覚は騎士団長の任を解かれるまで味わう事はないと思っていた。でもこれからは、この狭く小さい意識を使って、広い王都の北部を守っていくのだ。ガデュロンは、この狭さや小ささを体に馴染ませ、身の程を知る時間が欲しかった。


 最上階への階段を登る度に、ガデュロンの怒りは恐怖に変わっていった。

魔導回廊が止まり、使えなくなった事を認めるのが、ガデュロンはとにかく怖かった。


 ガデュロンが最上階に着くと、自室の前には大きなテーブルが置かれた部屋があった。

以前は軍議を行う部屋として使われていたそうだが、今の騎士団にそんな習慣はない。

ガデュロンにとっては、たまに義父と会食を行うためのテーブルだった。

 生前の義父は会食の最中、こんなテーブルはお前の代で捨ててしまって良いと笑っていた。 

義父も自分の父親にそう言われて、結局は捨てられなかったそうだ。

その木製の大きなテーブルには、王都の北部一体の地図が細かく彫り込まれていた。


 ガデュロンは、椅子が間引かれてスカスカになったテーブルの前に進むと、その引き出しから虫食いの目立つ麻袋を取り出す。

ボロボロに崩れそうな麻袋には、騎士の形をした木製の小さな駒がいくつも入っていた。

ガデュロンは、その駒を手に取ると、テーブルに彫り込まれた地図に向かい、自分が「現場での待機」を命じ騎士を向かわせた地点へ駒を配置していった。

偵察の指示を受けた騎士は要塞に戻って来るだろうが、待機の騎士は、魔導回廊のない中、不安に身を持て余しているだろう。彼らには追加の指示を与える早馬を回す必要がある。


 ガデュロンは、これから増えて行く余分な人手に目眩を感じると、喉に冷たい紅茶が飲みたくなるが、以前のように魔導回廊で使用人を呼ぶ事も出来ない。

一度地下の厨房まで降り、また最上階まで登って戻る事を考えると、喉の乾きは後回しで良い気もして来る。

すると、階下から慌ただしく階段を登る音が聞こえて来た。

やって来たのは冷たい紅茶を持った給仕ではなく、鎧を着たままの若い騎士だった。騎士は息も乱さずにガデュロンの前に膝を付き、いつものように大きな声で要件を伝える。


「お伝えします!王都より特級冒険者キャトス様が面会を求め、広間にいらしております!」


 普段であれば顔も見たくない相手ではあったが、今のガデュロンにとっては、地に足を付けた一人の剣士として、稲妻のキャトスと相対(あいたい)するのも悪い気はしていなかった。

ガデュロンが要塞の最上階から荒野を見下ろすと、既に日は傾き、乾いた黄色い大地に赤い夕日が差し込んでいた。



 王城の執務室で事務作業に追われていたマルフェオの耳にも、ティトが無事に王城に到着したとの声は聞こえていた。


 魔導回廊が止まってから、役人や付与魔術師たちの声はどんどん大きくなっている。

まるで訓練中の騎士団のように汗臭い雰囲気だが、今はこれで都合が良い。


 マルフェオがティトの無事を喜ぶ同僚の騒ぎ声に振り返ると、羊皮紙の束を抱えたままの、別の要件の二人の役人と目があった。

緊急時の魔力の強制徴収について、その法的な根拠を示す資料を集めさせたのはマルフェオだし、王が不在時の外交の権限について調べさせたのもマルフェオだ。

でも、調べ物を終えた二人の役人が、その資料を下ろす空間がマルフェオの執務室には(すで)にどこにもない。

魔導回廊の広さに慣れた仕事をしていると、部屋や机はどれだけ広くても足りなかった。


 マルフェオは、窓の外を隠している薄いミスリル布のカーテンに軽く魔力を流すと、その四隅にバネ式のクリップを作った。

部下に指示をし、そのクリップに洗濯物を干すように羊皮紙を張ってもらう。

役人たちが自分でもクリップを追加しながら、慣れない手付きで羊皮紙を張り終え、退出していく。すると、入れ替わるようにティトがマルフェオの執務室に入って来た。


「疲れたわ。」


 ティトは執務室に入ってくるなり愚痴を(こぼ)し、自分の座る場所を探している。

マルフェオはティトの顔色を見ると、言葉を返した。


「お疲れさま。飯は食べたのか?」

マルフェオは言葉を続けながら席を立ち、散らかった机から何枚かの羊皮紙のメモを集め、ティトに視線を返す。


「朝起きてから何も食べてない。」

 そう言うと、ティトの着る服が青白く光り、似合わない官服から、いつもの仕事着に戻った。


マルフェオは周囲の部下にも食事休憩の指示を与えると、羊皮紙の束を持ったままティトに歩み寄る。


「食べながら話をしよう。食堂も避難民で埋まってるから、一階の厨房の隅で食べる形になるが、構わないか?」


 ティトはマルフェオの話が終わる前に振り返り、とっとと一階に進み始めている。

「座って食べられるのなら、何でもいいわ…」


 マルフェオはティトの背中から返事を聞くと、早足になってティトを追い越し、彼女を一階の厨房の勝手口に案内した。



 ガデュロン・フッサ―トが要塞の一階の広間に降りると、大柄な男が仰向けになって床に寝ていた。

そしてその側で、特級冒険者のキャトスが立ったまま何かを食べている。

キャトスがフッサ―トの姿に気が付くと、食べていたパンのような物を外に投げた。

投げた物には鳥が群がり、騎士たちの視線が集まる。


 フッサートには剣士としての手応えは望めそうもない光景だったが、そんな現実の上にも、騎士団長として二本の足で立つ事は出来ていた。


 一階の広間は要塞の角地にあり、その南面と東面に壁はなく、何本もの円柱で天井を支えていた。

円柱は馬留めも兼ねていて、金具には見覚えのある白い大きな馬が停められている。馬の消耗は激しいようで、部下が世話をやいていた。


 広間は野営地の天幕のような無駄のない(しつら)えで、床にはミスリル床が敷き詰められ、そのまま外の王都へ向かう通商路と繋がっている。

フッサ―トは椅子に座る事もなく、そのままキャトスに話かけた。


「よく来てくれた。元気そうで何よりだ。」


 キャトスは無言のまま、地面に転がる大柄な男の懐へ手を突っ込むと、そこから2枚の羊皮紙を取り出し、フッサ―トに手渡した。

「これ。」


 獣人の寿命は人よりも長く、キャトスにしてもフッサ―トよりも長く生きているはずだったが、その応対は少女のようだ。

フッサ―トは足元に転がる褐色の肌をした男も気になったが、まずは先にこの羊皮紙を読んだ方が話が早い事を理解した。


キャトスから受け取った羊皮紙には、無能な貴族が送り付けて来るような蝋の封もしていない。

確かに彼女から羊皮紙を奪い、改竄(かいざん)なりを行える者など居ないだろう。


 それは宰相ラスキンの書いた書面だった。フッサ―トはラスキンの書いた文字を始めて見た。一国の宰相に相応しい美しい文字とは言えなかったが、ラスキンらしさは感じる事が出来る。

そもそも、誰の依頼も受けない特級冒険者が持って来ている書面であれば、王か宰相のどちらかの物でしかない。疑う余地などないのだ。



 宰相からフッサ―トへ与えられた要件は二つあった。

一つは、目の前で倒れている中級冒険者カヌー・テネブリスを北の要塞に連なる上級冒険者として受け入れ、この冒険者の ”闇の精霊を見る能力”を使って、魔物に襲われた王都の損害を立体交差(ジャンクション)(もぐ)って調査して欲しいとの事だ。

フッサ―トは、もちろんテネブリス家の事は知っていた。良くも悪くも有名な家だ。

魔導回廊の無い今、血と羊皮紙の契約を行ってくれ・・・とあるが、わざわざ本人を寄越しているのは、そんな形式じみた話だけではないだろう。


 フッサ―トは床に倒れる冒険者の装備を確認した。こんな壊れかけた市販品の魔導具で王都の地下を探索すれば、直ぐに死んでしまう。

フッサ―トは部下に指示を出し、直ぐに古い契約の準備を始めさせると、同時に冒険者には要塞に残る斥候用の装備として最高の物を揃えさせる事にした。


 鎧は冒険者の物をそのまま使い、新たに”隠滅の外套”と”消音の靴”、そして冒険者の装備する反動の盾の上位互換とも言える”反射のガントレット”を与え、部下を使って着替えさせた。

冒険者の着る鎧はちょうど左肩の肩当が破損していて、”反射のガントレット” は上手く収まった。

また、冒険者の装備する”誘因の剣”は、市販の物では明らかに長さが短かった。

大柄な冒険者の体格に合うように、要塞直属の付与魔術師に長さを調整させる事にした。



 そしてもう一つの要件は、騎士の中から選抜して、北の要塞と、王都、そして軍務卿が滞在する国境沿いの砦を結んで、早馬を使った伝令網を作れとの話だった。

それはフッサ―トも必要性を感じていた物だった。宰相の後ろ盾があるなら話は早い。

フッサ―トは一階の奥にあった席に座ると、宰相への返事を急いでしたため、それを一応の封をして部下に持たせた。


そして、キャトスの元に戻り話しかける。キャトスは退屈そうに、騎士たちに着替えさせれられる冒険者を見下ろしていた。


「キャトス殿、要件は理解致しました。これからこの返信を部下に持たせますが、馬車で一緒に王都に戻ってはいかがですか?夜のうちに寝て起きれば、もう王都に着いてますよ。」


キャトスはフッサ―トの話を聞き、子供のように顔をほころばせる。


「そうさせてもらうわ。食事も積んでおいてもらうと助かる。」


フッサ―トは直ぐに部下に指示を出し、またキャトスに話しかける。


「あの白い馬はどうなさいますか?」


キャトスは面倒くさそうにフッサ―トに答えた。


「あんな馬いらないわ。お尻が痛いのよ。」


 名馬”アルブレプス”の扱いは、フッサ―トにしても政治的にデリケートな物だったが、王の妹から下賜されたのであれば筋も通る。

伝令隊は新しい部隊になるが、隊長に与えれば職責に張りも出るだろう。


 士長のジェリマリガンが、王都に立つ前に補給部隊の編成は済ませていたようで、その一隊に馬車を一台足すだけで直ぐに王都行きの追加部隊は準備出来た。


 配下が馬車の支度を整えると、キャトスはとっとと荷台に乗り込み、もう先に寝てしまっている。

新たに任命された上級冒険者にしても、結局、儀式や着替えを済ませた後も意識を取り戻す事は無く、そのまま荷物のように馬車に積み込まれた。


 王都に向けて追加部隊は要塞を出発したが、フッサ―トはその姿を見送る事もなかった。

最上階の一室のテーブルに戻ると、そこに部下を集め、人数分の冷えた紅茶を用意させると、新たな伝令部隊を選抜する軍議を始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ