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ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
34/73

33話 隠蔽

よろしくお願いします。

 ティトは王都の目抜き通りを王城に向かって歩きながら、新しい魔導具の図面を思い描いていた。

誰も居ない大通りを兵士と二人で歩いていたが、ティトに周りは見えていない。

ティトの頭を占める課題は、魔導回廊が無くなってしまった今、どうやって光の魔法へ対処できるのか?



 姿を隠す”隠蔽”、遠距離から敵を狙う”遠視”、強い輝きで敵の目を眩ませる”光弾” …

光の魔法と呼ばれれば、その印象は輝かしいが、実際の効果はどれも陰湿でセコいものばかり。

ティトはどうにも、これを考え普及させた人間の性格の悪さが反映されているような気がしてならなかった。浮かぶ顔は、残業中に見ていた”放映”の魔導士だ。


 あの放映を行っていた魔導士が、光の塔の住人…王都を取り仕切る宰相である事はティトだって知っていた。

国務に追われながら毎夜の放映とは呑気なものだ…とも思うが、宰相ラスキンは人の半分も眠らないと、そうマルフェオからも聞いていた。


 王都で唯一、魔法の同時詠唱が出来る魔導士"埃のラスキン"。さぞや魔法に係る者の尊敬を集めているのだろうが、ティトは好きにはなれなかった。

もともと気にくわなかったが、今回の惨事を経て大嫌いになった。


 セコく陰湿な光の魔法でも、魔導具になり賊が使えば、民の生活は成り立たない。

特に"隠蔽の外套"に関しては、物流へ与える被害は甚大だろう。

前を歩き、王城までの護衛をしてくれている兵士の緊張感がティトにも伝わってくる。兵士も既に、この問題には気が付いているはずだ。

今歩くのは、たかだか南軍区の塔から王城までの大通りだ。本来なら買い物に興じる貴族の子女が溢れているような場所。

そこを一人では安心して歩けない。魔導回廊がない今、もうこの通りもダンジョンなのだ。


 ティトの頭の中では、この状況に対処する魔導具は出来上がっていた。

弾丸の底に作っていたような小さなミスリルの輪で耳飾りを作る。そこに”光の魔法に反応して切れるような印章を挟む。

そして切れた時に逃げる魔力を…例えば音を出すような風の印章に拾わせれば、危機感知のような魔導具が作れると思う。


 問題なのは、必要な”印章の引き出し方”だった。魔導回廊があった頃であれば、付与魔術師は安価な魔力でいくらでも印章を引き出す事が出来た。

印章は樹脂のような質感で出来ていて、ミスリルよりも加工しやすく、ミスリルよりも魔導回廊の中を速く動いた。

使いたい初級精霊魔法の効果の印章であれば、直ぐに魔導回廊から引き出せたし、手元に引き出してしまえば加筆・修正や複製も簡単だった。

少し魔力を込めすぎると、ドロドロの粘土のようになってしまうのが難点だったが、そうやって失敗してしまったものは、直ぐに魔導回廊に捨ててしまって、新しい物を引き出せば良かった。


 ティトは王城への道を歩きながら、自分の出来る事が減ってしまったかも知れない不安やストレスを宰相への八つ当たりに変えていた。

だけど魔導回廊が止まってしまった今、もうあの放映も見る事が出来ないのかと思うと、ティトは少し寂しい気もしていた。



 クーリエは王都の北にある役所の一室で、動かなくなってしまった魔導回廊への接続を諦めると、自分たち役人が積み上げてきた羊皮紙の束に目を移した。


 役所は王都の中でも古く大きな建物で、書庫はかなりの部屋数があったが、働く役人は少なかった。

役人が顔を合わせてはたらく事務室のようなものはなく、各々の役人が関連する羊皮紙が眠る書庫に足を運び、そこから魔導回廊を通して連絡や報告を行っていた。



 正直な所、魔導回廊があれば、書くのにも読むのにも手間がかかる紙への筆記は必要ない。

それでも王都の役人たちが、綿々(めんめん)と羊皮紙への筆記を続けるのは、”王都の伝統を守る”という建前とは別に、実務として、自分たち役人を管理・監督する貴族に対して、仕事を隠蔽(いんぺい)するのが目的だった。


 役人たちは、騎士団のように魔導回廊の中で独立した回路を要求する事は無かった。

そもそも王都の民への管理・監督を貴族に代わって代行するのが役人の仕事であり、管理・監督の結果を、上役に管理させないというのは筋が通らない。

だから役人たちは、貴族の管理を続ける気持ちが萎えるような習慣を作った。


 そして役人は、相手の有能さに応じて、羊皮紙に(つづ)る文章の内容を変えていた。

勿論(もちろん)、有能な貴族には簡潔に、無能な貴族には無駄な美辞麗句でたっぷり飾った難解な文章を提出した。

無能な貴族を相手にしたくないのは、有能な貴族にしても同じ事だったようで、有能な貴族は何も文句を言わなかった。

役人は、その文章がどれだけ単純で解りやすく洗練されているか?を見れば、いつの時代の文章であっても、それが書き手にとって、どれだけ重要だったのか?を判断する事ができた。



 クーリエは、もうくだらない宮廷言葉に(まみ)れた難解な文章を作らなくて済む事が清々しく思えた。難解な文章なんて貴族も将来の役人も読みはしない。

だけど同時に、魔導回廊が復旧するまでの間、羊皮紙に書かれる情報は確実に増える。

カーディナル王の時代、魔導回廊が作られた事で、役人の仕事は飛躍的に少なくなり、以降、役人は少数の精鋭のみで構成されるようになったと聞いている。


 クーリエは自分が暮らす宿舎のさらに裏手に続く安宿の列に思いを巡らせた。

あの安宿は、過去に王都に使えていた下級役人の宿舎だったという話だ。だけど今の王都には下級の役人など居ない。


 魔導回廊が動かない今、羊皮紙への書き手は足りるのだろうか?納税や収税の仕事をどうやって行うのか?そもそもこういった決定を、どうやって公正に決めるのか?

クーリエには、それは貴族の決める事なのだと逃げてしまいたい気持ちもあった。

でも、もしも貴族任せにして酷い仕組みが出来上がってしまうと、それを押し付けられるのは自分たち役人なのだ。


 クーリエは官服のボタンを開き、白紙の羊皮紙の束と筆記具が入る箱を抱えると、王城で奮闘しているはずの上司の下に向かった。

まだあの巨大な黒い両足への恐れがあったが、全てが落ち着いて無能な貴族が騒ぎ始めてからでは手遅れだ。

それが癒着(ゆちゃく)であろうが、公正ではなかろうが、今はまともに機能する仕組みが必要だった。

魔導回廊がない今となっては、既に王国の全ての公務は、隠蔽されているようなものなのだ。



 クーリエが役所を出ると、通りの脇では、いつもの屋台がサンドイッチを売っていた。

流石に人通りは少なく、客足は途絶えているようで、店主は煙草をふかしながら、粉塵の上がる東の丘陵地帯の方向を眺めている。

クーリエはいつも通りにサンドイッチを一つ注文した。

作り置きの分は無かったようで、店主は手早くパンを切り、獣肉の塩漬けに火を通しサンドイッチを仕上げてくれる。


 クーリエは一旦、筆記具の入った箱を路上に置き、 いつもの通りに魔力証を差し出す。

店主もいつもの通りに魔力証を出すとクーリエの魔力証に重ねた。

いつものように魔力証は控えめに光り、何の問題もなく支払いは終わる。

店主から受け取ったサンドイッチは、筆記具の入った箱に投げ込めるよう、しっかりと封がしてあった。


 クーリエは店主に礼を言うと王城へ向けて歩く。

クーリエは人気のない通りを進みながら、クーリエが塩気の多いサンドイッチを食べる度に文句を言っていた婚約者の事を思い出していた。

彼女は間違いなく、魔導回廊の繋がらなくなった王都に大急ぎで帰ってくるだろう。そしてか細い体で黙々と働くだろう。

クーリエは気の進まない古い儀式のような結婚式の準備は放っておいて、また昔のように彼女と仕事に邁進(まいしん)出来る事を思うと嬉しかった。


 クーリエの目にも、王城に集まる難民の姿が見えて来る。もう王都裏通りの託児所の庭にも避難民向けの仮り住居が建てられている。

クーリエは少し浮かれた心を押し隠すと、難民の列に頭を下げながら割って入り、王城の中心へ進んで行った。


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