28話 着地
よろしくお願い致します。
シジフォスは暗闇の中を落下していた。
子供の頃に見た悪い夢のようだ
本当に夢なら良かった。
だけど自分に纏わり付く"影"から感じる焦りや苛立ちは、シジフォスを現実に引き戻し、さらにその現実の中での居心地を悪くさせる。
体や心を影に覆われたシジフォスは、このまま体と心を地面に叩き付けて、それが自分だけのモノである事を証明してしまいたかった。
そんな後ろ向きな気持ちと、右腕から感じる生々しい痛みはシジフォスに罪悪感を抱かせる。
死んでしまえば母親は泣くだろう。
仕事の迷惑を引き受け、冒険者として送り出してくれた先輩にも顔向けが出来ない。
それにカヌーは無事なのだろうか?
落下するシジフォスの心が申し訳のなさで一杯になる。
すると影から感じていた焦りや苛立ちは他人事として、どうでも良い事になっていた。
シジフォスが落下しながら、その無力感と向き合っていると、突然シジフォスの体は暗闇を抜けた。
体はまだ影に包まれていたが、自分を包む影の隙間から光を感じる。
直後、銀色の眩しい塊の上に落下すると、体はグニャリとした感触に包まれた。
自分を覆っていた影が散り散りに消えて行くのを感じる。
肩から落下していたシジフォスは銀色の塊の上で体を倒し、グニャリとした感触は背中に移る。
遅れて自分の四肢が接地し、自分が仰向けに転がっている事を理解した。
焦りや苛立ちは何処かへ行っていた。
体は重く動かないが、意識は魔導回廊に勝手に繋がっている。まるでミスリルの幹線の上に居るようだ。
体が重く酷く眠い。魔導回廊の雑念がやかましい。
シジフォスの意識は、泥の中にでも紛れて雑念から逃げてしまいたかった。
このまま目を閉じてしまおうか?と思ううちに、遠く天井の先から重々しい衝撃音が響き渡る。
重い低音が何度も連続的に鳴っている。まるで地面が唸っているようだ。
視線の先の天井が大きく揺れると粉塵が零れる。地面も歪み、シジフォスが身を預けていた銀色の塊かドロッと斜めに傾くと、シジフォスの左半身は銀色の塊から滑り落ちていた。
滑り落ちた左手が感じた地面は、ゴツゴツとした岩のようだった。
右半身はドロリとした柔らかい物の上に残り、魔導回廊には、まだ繋がれている。右腕にはジャブジャブと何かが溢れ、流れていく感触がある。
魔導回廊は相変わらずの喧騒に満ちていて、情報を読み取る事は難しかった。
シジフォスはあれこれ考える事は止めて、こちらから自分の無事を知らせる通知を送った。
今のありのままの自分を伝える事が出来ると、シジフォスの申し訳なさや罪悪感は少し軽くなった。
その直後、シジフォスは、何か冷たい影が”すれ違って”地中に降りていくような感覚を覚える。
一瞬の間に過ぎ去っていたそれは、自分に纏わりついていた影にも似ていた。
すると魔導回廊に溢れていた喧騒が嘘のように引けていった。
シジフォスの頭には雑念が全く入ってこない。不思議な解放感も感じる。
シジフォスは静けさの中に取り残され、やっと疲れ果て動かなくなった自分の体と、眠気に包まれる自分の頭に戻って来る事が出来た。
シジフォスは銀色の塊に体を傾けると、そのままゆっくりと目を閉じた。
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ティトは粉塵の舞う中、シジフォスからの通知を感じていた。
聞いた事の無い轟音や徐々に傾く南の塔に恐怖も感じたが、自分を守ってくれる兵士は頼もしかった。
粉塵が落ち着くと、ティトは恐怖を振り切り、気になる通知の内容を確認するために南塔のミスリル柱に触れてみる。
だけど魔導回廊には繋がれなかった。南塔が傾いた際に、ミスリル柱が断線したのかも知れない。
軍の南塔は東の丘の崩落の影響で大きく傾き、その階段も使えなくなっている。
ティトは防護版として使い損なったミスリルインゴットの余りを梯子に加工し、塔の最上階の傾いたバルコニーに固定すると、そこから地面に向かって投げた。
直ぐに地上に降り、近くの幹線から魔導回廊に潜りたい所だが、空中で揺れる梯子には流石に躊躇する。
すると兵士が当たり前のように揺れる梯子を先に降り、地上から梯子の端を支えてくれた。
ティトが後ろ向きに梯子に足をかけ、体重を預けると、まだ空中で梯子は揺れる。
ティトが足を滑らせても兵士が受け止めてくれるだろうが、頼ってばかりいるのも気が滅入る。
ティトは梯子に魔力を流すと、足をかけた梯子の踏み桟をゆっくりと滑らせ、そのまま地面に着地した。
着地の際に身を引いていた兵士が話しかけてくる。
「一旦、王城へ退避しましよう。お送り致します。」
「ありがとう。お願いするわ。でも少し時間をちょうだい。」
ティトは兵士を待たせると、ひしゃげた南塔の入口のミスリル床の上に立った。
やはり魔導回廊は無かった。正確に言えば全く動いていない。
今までは幹線に触れてさえいれば、望む情報は直ぐ側までやって来たし、望まない情報も向こうから集まって来たはずなのに、
今はまるで地中深くに埋められた書庫のようだ。
死んだ魔導回廊の網の中を自分の魔力だけで進み、通知を拾ってくる事が出来るのだろうか?
ティトにはその作業に現実感が無かった。少なくともマルフェオの助言が必要だ。
シジフォスの通知を感じたのはミスリルゴーレムの落下の後だった。
おそらくシジフォスはあの落下の衝撃に直接殺されている事はない。まだ生きているはずだ。
ティトが兵士の方に振り返ると、兵士もミスリル床の上に立ち魔導回廊を探し、不安そうな顔は汗と塵にまみれていた。
ティトは兵士と自分に浄化の付与魔法をかけると、兵士の顔を見直す。
「こうなったら仕方ないわ。王城に戻ってからにしましょう。」
兵士はティトの言葉に無言で頷いていたが、事の重大さには気が付いているように見えた。
ティトが周囲を見回すと、王都の南門の先に、外部からやって来た行商達の視線を感じる。
ティトは南の塔の下に戻り、傾いたバルコニーから下がったミスリルの梯子に再び魔力を流すと、それを鋭い一本の刃物に変化させた。
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兵士を先頭に、二人は南の大通りを王城に向かって歩く。
そこは何度も通った、王都で最も賑やかな目抜き通りだったはずなのに、人通りも、そして魔導回廊の反応も静まり返っていた。
疲労で重たくなった二人の体の中には、そこにあったはずの繋がりを見失って小さく縮んでしまった、慎重で鋭敏な心が転がっている。
二人はその心を細々と通じあわせながら、初めて訪れる旅先から感じるような疎外感と高揚感を共有していた。
初めての小説でしたが、なんとか一章分書ききれました。
プロットや書き出しを考えるのは得意なのですが、それを膨らませる(特に明るく楽しく)技術が未熟なので、複数のプロット自体を並列させて一つの小説に出来ないか?を試してみました。
でも、この形を取ると、一つの”あらすじ”を書くのが難しいですね。
この後、横着して後回しにしていたフリガナ等の細部を調え、多少手を入れて、キャラクター一覧を作り章立てにまとめてみます。
続きを書くか?次作を書くか?は検討中です。




