27話 砲撃
よろしくお願いいたします。
ティトは埃まみれの塔を登っていた。埃にまみれたミスリル線は性能を落としがちだが、
入り口のミスリル床から連なる南の塔の軍用ミスリル線は流石に太く、ティトの魔力を一気に通してくれた。
もう一度、塔の全体に魔力を走らせ構造を把握する。
柱のような太いミスリル線が最上階まで通してある。おそらく最上階にある砲塔の制御に遅延などが出ないようにするためだろう。
階段を上りながら構造を確かめていくと、最上階の床の下にはミスリルの層が敷き詰められていた。
外壁の石材の積み方も、一度ここで途切れていて、最上階とその階下は別の構造物になっているようだ。
要するに、最上階の床下のミスリルを” 滑らし”、そして塔の中心のミスリル柱を” “ねじる”ように変化させてやれば、最上階そのものが丸ごと向きを変えられるように作られている。
ティトは魔力を湯水のように考える仰々しい塔の構造を知って、マルフェオが軍の仕事を毛嫌いしていた理由を察した。
わざわざ階ごと回転させるために、何十万ゴールドの魔力が取られるのか?
ティトは後で経費として請求できるように、手持ちの魔力ではなく、魔導回廊を通しての魔力の支払いにする事に決めていた。
ティトの段取りはスムーズに進んだが、階段を上る足は遅かった。
登りながら、商店街の十字路で倒壊した酒屋と、その原因を作った黒い尻尾を思いだしていた。
ティトは二階の居酒屋を利用した事は無かったが、一階では良く安酒を購入していた。
酒屋を瓦礫の山に変えたような反撃は来ると思っておいた方が良さそうだ。
”身代わりの鎧”のような爆発反応装甲の防護板を作ろう。
材料のミスリルは、最上階を回転させた後、塔のミスリル柱から少し拝借すれば良い。
ティトの頭では、これから作る魔道具のイメージが膨らんでいたが、華奢な体は既に息をあげ、階段を上る足は重くなっていた。
すると背後から魔力の反応を感じる。
ティトが振り返る間もなく、後ろを付いて来ていた兵士の強化魔法がティトの下半身に届いた。
一言のことわりもなく強化魔法をかける無粋な兵士に苛立ちも感じるが、兵士にしては魔力を豊富に持っているようだ。
これなら射手を任せても大丈夫だろう…となると、自分の魔力も射撃と並行して使えそうだ。
ティトは最上階の砲に施す改造と、新しく作る砲弾へ、自分のイメージを膨らませていった。
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鎧を捨てた体は軽かったが、長くなった銃を背負いながら登る階段は普段よりも面倒で、ジルは軽く汗をかき始めていた。
ジルが塔の階段を上りきると、先に付与魔術師が待っている。
既に手を塔の中心を走るミスリル幹線の上に置いていた。
ジルは、あの太いミスリル幹線は、王都の防衛用に飛行型のミスリルゴーレムを呼び出すために使う物だと聞いていたが、8年間、軍で働いていても、そんなゴーレムは見た事は無かった。
ジルが最上階の床の上に立つと、その床が回転を始め、ジルはよろめいた。
魔導士の手と中央のミスリル幹線が強く光っている。最上階のバルコニーの向きは変わり、視界には突然、至近距離に黒い両足と担がれたミスリルゴーレムが見えた。
黒い両足は、ちょうど南の塔の眼前を通過していた。
ジルは塔を作った過去の魔術師や、その仕事を一瞬で理解した目の前の付与魔術師に怖さも感じたが、
目の前を通り過ぎる黒い両足や銀色のゴーレムの巨大さに、魔術への畏怖は麻痺してしまっていた。
「腕に強化魔法をかけて」
黒い両足を睨みながらの付与魔術師の言葉に、ジルは直ぐに、その腕へ強化魔法を施す。
その後も付与魔術師の仕事は速かった。魔導回廊に繋がると、光の精霊を模した印章と、火の精霊を模した印章を大量に引き落とした。
そして、ジルが軍に入隊した時から、ずっと塔の最上階にあった大砲は一瞬で光に包まれ形を変えてしまう。
砲身はより長く分厚くなり、尾栓はなくなり空洞のままだ。砲身を支える脚には複雑な関節がある。
銃のような引き金ではなく、砲から突き出た印章が発射のスイッチになっているようだ。
そして付与魔術師は中央のミスリル幹線に触れると、それを粘土のように引き千切り、二つの大きなミスリルインゴットを作った。
その一つは不思議な砲弾になる。
砲弾はその物の長さが長く、その前後に火の精霊の印章が並べられていて、それぞれを細いミスリル線が輪になって繋いでいた。
細くなった先端に並んだ火の印章の方が数は少ないが、それでも相当な量だ。
付与魔術師は、ジルの強化魔法で得た腕力で軽々と砲弾を運ぶと、その砲弾に魔力を込めた。
付与魔術師の魔力が弾丸の前後のミスリルの輪に沿ってクルクルと回っている。
そしてそれを砲身に詰め、その後、改めて大砲に尾栓になる閉鎖機を作った。この尾栓にも火魔法を模した印章が見える。
「時間がもったいないわ。早く片付けちゃいましょう」
ジルは自分が射手である事を直ぐに受け入れ、大砲の脇に立つ。
「そこの印章に魔力を流すと照準を合わせられるはずよ」
そう言いながら魔術師はミスリルインゴットを千切り、ジルに投げる。
ジルの手の中でミスリルの光が収まると、それは耳当てに変わっていた。
魔術師の方を見ると、魔術師の髪飾りも形を変え、その耳を守っている。
相当に大きい音がするのだろう。
ジルは自分も直ぐに耳当てを装備すると、大砲の傍に腰を落とし印章に魔力を流してみた。
すると、自分の視界に”砲口が見ているような視界”が混ざって来る。
ジルは驚くが、直ぐに手を動かし砲の向きを調整してみる。
砲身を支える脚の関節は滑らかに動き、砲身は黒い両足の上で暴れるミスリルゴーレムを捉えた。
「照準合いました」
「撃つわよ」
耳あてから直接響く付与魔術師の発射の合図を聞いた時、ジルの視界には突然走り始めた黒い両足が映っていた。
直後、耳当てを装備してもなお、凄まじい衝撃音がジルの耳に響く。
そしてジルが見ていた砲口の視界は、まるで中和されてしまったかのように掻き消えてしまった。
突然変わった視界に戸惑った後、南の塔を振動させる爆発音にジルは起き上がる。
そして黒い両足が走り去った東の丘を見た。
向きが変わったバルコニーからの景色はジルにも目新しいが、見慣れぬ東の丘は爆炎の残り火に覆われている。
ジルは振り返り、撃破したのか?と付与魔術師の顔をみるが、その視線は空を向いていた。
ジルも空を仰ぎ、上空高くにその視線を止める。
青い空の中でミスリルゴーレムは溺れているように見えた。
そこからは全ての時間が引き伸ばされたように感じた。
空からミスリルゴーレムが近付いてくる。
その右手は半ばで弾け飛び真っ黒に焦げていた。
砲弾は着弾していたようだが、状況は変えられなかった。
ミスリルゴーレムが東の丘の地面に激突した瞬間から、ジルは粉塵と振動、度重なる轟音に包まれた。
地中から新しい轟音が響く度に南の塔は傾いていく。
傾く足元、粉塵に塗れる視界の中で、ジルが真っ先に考えたのは付与魔術師の身の安全だった。
ジルが粉塵の薄い足元に視線を走らせると、床に倒れる姿を見つける。
ジルは斜めに傾いたバルコニーの欄干や役目を終えた砲台を蹴るように床を這い上がると、付与魔術師の上に覆いかぶさった。
次回、28話で一章が終わるかな?という感じです。
27話に少し追加し、サブタイトルに変更が入るかも知れません。




