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ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
21/73

21話 生贄

よろしくお願い致します。

 平原の大穴の闇の中で仕返しに来る人間を待っている間に、デミゴブリンの右腕は肩まで真っ黒になっていた。

肩まで闇に染まった事で、デミゴブリンに染み込んだ闇は黒い体を持つワームと繋がり、その力を繋げていた。

肩から流れ込む闇の力は溢れ、人間の指のような小さな触手になり、デミゴブリンの背中や頭から、まるで生まれ持っての羽毛のように生い茂る。


人間の指のような羽毛は風に揺れる事はなく、ウネウネと無秩序に黒い粉のような闇をまき散らしては、大穴の闇をさらに深く濃いものに変えていた。


 肩まで闇に染まり、黒い右腕の力を満たした事で、人間を倒すのは簡単な事になっていた。

地面は外から見れば土や岩で出来ていたが、穴の内側から見れば闇の延長でしかない。

デミゴブリンは地中の闇の中を自由に動き、人間を背後から襲う事が出来た。

力を得たデミゴブリンからすれば、人間は遅く、脆く、愚かだった。


 デミゴブリンは平原の大穴の前で大勢の人間を殺した後、死体を大穴に投げ込み、まとめて生贄に捧げた。大穴は次々と死体を飲み込むと、遠くの地中で機会を待つワームをさらに大きく太らせる。

全ての生贄が大穴から闇に飲み込まれると、準備を終えたワームが動き出した事が伝わって来た。


 ワームが巨大な力を黒い体に蓄え、遠くの場所で眠る黒い頭の強い意思に押されて動き出すと、デミゴブリンにも黒い頭の強い意思が混ざり始めた。


 デミゴブリンが目を閉じると、頭から生えた人の指のような触手がザワザワと伸びる。

頭部から生える触手に引っ張られるように、デミゴブリンの背筋は伸び、頭部に力が吸われるように、デミゴブリンの体は小さく軽くなり、老いるようにシワが増えていった。

デミゴブリンは目を開き、自分の体と状況の変化を確かめる。体は軽く頭は重くなっていたが、どちらも今まで以上に素早く動いた。

そして大穴の中に戻ると今までよりも暖かく、自分の体の中に入ったような不思議な錯覚を感じた。

デミゴブリンの体は大穴と同じ闇そのものになり、その大穴がワームの黒い体と遠くにある黒い頭を繋げている。

大地の下に広がる闇の世界の大きな体の中で、デミゴブリンはその右腕であり、一本の小さな触手でもあった。



 平原の地下に血管のように伸ばされた大穴の闇の中を、デミゴブリンは流れるように進む。

ワームの勢いに引っ張られるように追いかけると、背中を押すように黒い頭の意思も流れ込んで来る。

次はたくさんの人間の中から、デミゴブリンが黒い左手を与える相手を探すのだ。

その相手はデミゴブリンの目では探せないだろうが、闇が導いてくれる事は解っていた。



 巨大なワームが目的地に着くと、大穴には大量の海水が流れ込んで来たが、デミゴブリンは新たな縦穴を作ってやり過ごしていた。

すると、振動と共に地中に鈍い金属音が響く。


 巨大なワームは力を存分に発揮したようだ。

既に両足と尻尾を与えて、地中に戻り最後の目的地に向かって進み始めている。


 デミゴブリンは大穴の中で夜を待っても良かったが、地中の闇を進み、ワームが新たに開けた穴から地上に出ることにした。

デミゴブリンはワームが変えた世界を見てみたかった。自分も世界を変える事が出来るのか、それを試して見たかった。





 いつものテミスなら、大声を張り上げ、逃げ惑う港の仲間を恐怖や混乱から守っていただろう。

テミスを頼りに周囲に集まり、言葉を待つ人間も一人や二人ではなかった。

だけど、港の労働者や船乗りが見たものは、青い顔のまま固まるテミスの狼狽した姿だった。

待っていた彼女の言葉や行動的な姿はなく、彼女はこの場の誰よりも自分を見失っているように見えた。


テミスは海から現れた黒い闇をまとった巨大なワームを見たとき、大切な仲間を失った時の事を思い出していた。

あの時と同じように全く突然で、圧倒的に理不尽だった。


 昼の水面には太陽が光り、夜の水面には月が光る。

嵐の水面にだって雷が光った。


だけどあの時、水面には黒い砂に覆われたような闇が敷き詰められていた。

確かに嵐の夜だったが、風は吹きすさぶ事もなく音はない。波の飛沫が飛ぶ代わりに、黒い粉のような闇が飛び散っていた。

船は波の上を滑っていたはずだったのに、気が付けば船もテミスも他の船員も、みな空に浮いているようだった。

そんな中、船長のテネブリスの体だけが重さを持ち、斜めに傾いた船の甲板を転がって行く。

そして簡単に外に投げ出されると、音もなく黒い砂のようになった海に吸い込まれて行った。


 テミスは忘れられなかった。海の中に沈むテネブリスの褐色の体が、海面の黒い砂を引っ張り込むように吸い込んで行く…

遠く海の底に沈んで行くテネブリスの体は小さくなっていくはずだったのに、テミスの目にはテネブリスの体が大きく膨らんでいくように見えていた。



 頭目のテミスが自分を失っていても、信頼で繋がれた自警団は港の治安を守り始めた。


 港には高度な自治が認められていた。海にはミスリル線を自在に引くわけにもいかないのだ。

通信用の細いミスリル線が他国に引かれ、船はその通信線を感知する事は出来るが、地上のように王都の民が自由に接続し利用できる物ではない。

荷揚げ後の取引は魔導回廊の管理下に置かれたが、船上や荷下ろし直後の物品の管理は古くからの信頼の下に成り立っていた。


 港は騒然としていた。多くの者が船で他国に逃げようとしている。

食い千切られたミスリルゴーレムの右足も、まだ広場には横たわっていた。

まだ遠くに大きな足音が響いていたが、自警団は広場に集まると型どおりに整列し点呼を取る。

長い訓練で培った通りに体は動いたが、すぐ側に転がるミスリルゴーレムの片足は自警団の心を搔き乱した。


 恐怖と混乱の中、時間は過ぎていく。

誰もが我を忘れていた中、ワームが逃げた巨大な穴から、一匹の魔物が現れ、倉庫街の影へ消えた事に周囲の誰もが気が付かなかった。


加筆修正し、22話と順序を入れ替えました。


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