13話 怯え
よろしくお願いします。
昨夜パーティーが壊滅した。二人の仲間は、黒い獣にあっという間に殺されてしまった。
王都で最も仕事をさばいていたパーティーは無くなってしまった。
隠蔽の外套で姿を消し、眠らずに走り続けて、やっとスラム街の定宿までたどり着いたが、まだ生きている心地がしない。道中の記憶も所々、飛んでいる。
自分の魔力の非力さは自覚している。
だから人一倍慎重に、丁寧に活動してきたが、そんな冒険者はいくらでもいる。
上級冒険者として騎士団に印章を納める事が出来たのは、全て仲間のおかげだった。
その仲間の一人、トーマックは隣国の工作員だったのだと思う。
騎士団に遺体の回収を願うためにも、トーマックの遺品を整理していると、彼の荷物からは、砂漠の国の言語で書かれたメモ書きが大量に出てきた。
あの物静かな男が何を探っていたのか?詳しくは解らないが、メモの挿し絵を見る限り、港を中心に調べ回っていたようだ。テネブリス家の私邸も細かく描かれている。
私の仲間になっていたのも、カモフラージュの飾りとして考えていたんだろう。
定宿をスラム街に決めたのもトーマックだった。
そしてもう一人の仲間、セルジュは南の要塞の騎士だったようだ。おそらくトーマックを監視していたんだと思う。
何も知らなかった自分に頭を抱える反面、二人があれだけ優秀だった事にも納得できた。
そして、二人の仲が良かった事は嘘ではないとも思う。
魔導回廊が作る平和の中で、役割として仕事をして、商売仇として相手に一目置き、一方で相手の実力や人柄は認め合っていたんだと思う。
その二人をして、あの平原の大穴の事は何も知らなかった。
南の要塞への届け物の依頼…あれもセルジュの報告業務を兼ねていたんだろう。要塞から出発する時、セルジュは珍しく機嫌が良かった。
そして王都に帰る途中、偶然見つけた大穴の調査では、三人でパーティーを組んで以来、初めて感じる緊張感があった。
工作員と監視者の間の予定調和は崩れていた。
そして、二人はあっけなく殺されてしまった。
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上級冒険者アリッサは、保存食でお腹を満たし、軽い仮眠を取った後、整理した二人分の遺品を皮袋に詰めた。
未だに二人が死んだ実感や悲しみは無かった。
二人の仲間として必要な雑務を追う度に、思いもしなかった事実に突き当り、アリッサの感情は置いて行かれた。
アリッサは心が折れぬよう雑務に集中する。
この件の報告と提出は、やはりギルドよりも南の要塞の騎士団に行う方が筋が通るだろう。大穴を迂回すれば一人で南に進むのも問題はない。
用意を終えたアリッサが定宿を出て狭い路地を歩くと、井戸の側に見た事のない大柄な冒険者が立っていた。仕事中のようだ。おそらく、あの廃墟になっている商家のミスリル線だろう。ここ2ヶ月、魔導回廊から切れたままだった。
大柄な冒険者が腰に下げる"誘引の剣"を見るとセルジュを思い出した。アリッサの胸は締め付けられた。
冒険者が水位計からの接続を終えたようなので一旦身を隠す。
そして冒険者の足音が無くなると、向かいの角から、あの"巫女擬きのジル"が出てきた。
アリッサは驚き、再び息を潜める。
アリッサは身の程を知る分別を持っていた。
そしてジルの足音も無くなると、アリッサは急いで定宿に戻り、自分の荷物も整理して宿の店主に別れを告げた。
井戸の周りには近付かずに、港側に迂回をした後、魔力で馬を借りて王都を出た。
二人の仲間を失って、アリッサは今まで以上に慎重に、そして臆病になっていた。
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「マル、私スゴい物を作っちゃったわ。」
夕暮れ時、マルフェオが仕事を終え帰ろうとすると、ティトから話しかけられた。
目が座っていたが、今までのティトにはない自信が満ちていた。
見せられたのは量産品に手を加えられた大型のミスリル銃だ。
「人は二つの魔導具を同時に使えないでしょ。だからミスリル銃には火力を上げたものか?遠視で遠くを狙えるか?のどちらかの型しか無かったわけ。」
ティトの目は興奮と睡眠不足で、爛々と輝いているようだ。
「でも、どれだけ遠くが見えても、火力が足りなきゃ届かないじゃない。だから同時に使える仕組みを考えてみたの。」
マルフェオは話が始まった時点で嫌な予感がしたが、話を聞いているウチに確信にかわる。
マルフェオはティトの話を聞き、その仕組みを整理した。
まずこの兵器は弾丸と銃身を別の魔導具としていた。
通常、火力増強のミスリル銃は、銃身に火の精霊魔法を模した魔方陣が付与されているが、ティトの作った新型は、火力増強の効果を小さな3つの魔方陣に分割し、弾丸の底に並べていた。その3つの魔方陣を細いミスリル線が輪となって繋いでいる。
使用者は、まずこの弾丸に魔力を込める。すると弾丸の魔方陣には着火せず、このミスリル線の輪の中を魔力が回るのだ。
その間に、使用者は照準に込められた光の魔法を模した魔方陣で遠視の効果を使い狙いを定める。
そして引き金をひくと、撃鉄が弾丸の底で魔力を回しているミスリルの金輪を物理的に切断し、弾丸の底の火の精霊の魔方陣に魔力が流れ、高火力、長射程の弾丸が発射される。
これだけでも、今の魔導回廊が定めた平和な睨み合いの射程を乱す発明だ。
でも、それだけに留まらなかった。
驚く事に、弾丸の発射の際に、光の精霊の魔方陣と火の精霊の魔方陣が中和し、火の精霊の魔力が魔導回廊に反応しない事がある…確かにティトはそう言った。
二つ以上の精霊魔法 で"魔力の中和"が出来るのは王都でもラスキンだけ。
大陸全体でも片手で収まる魔術師しか使えない。
その技術を魔導具で量産してしまうのでは、秩序も治安も全てが作り直しになってしまう。
マルフェオには、それは容認出来なかった。
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ティトには臨時の報酬と恒久的な昇給を約束し、厳重な口止めをした後、宿に帰らせた。
ティトが帰った後、マルフェオは商会の地下に作られた魔法防護室で預かった新型の銃を試射し、魔力の中和を確認した。
そして細部まで一度分解しながら手早く特徴を書き留めていく。
一人で残った静かな商会の地下に、羊皮紙に裾が擦れる音がいつもより大きく忙しなく響く。
その音を聞いて、マルフェオは自分が変化に怯えている事に気が付いた。
怯えたまま判断を進めてしまうのではなく、怯えている事を自覚出来た事には安堵したが、心は縮んだままだった。
マルフェオはラスキンに通知を送ると、商会から日の暮れた王都に出て、街外れの塔に向かった。
薄暗い王都の表通りに、もう人影は無かったが、魔導回廊から魔力を掠める街灯は、大通りの両脇を点々と照らしていた。




