表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエイジ・ジャンクション   作者: プラベーション
11/73

11話 短い話

よろしくお願いします。

 本来、患者も犠牲者も居なければ軍医のジルに仕事はない。

それでもジルは、これだけ趣味の悪い犯罪が単純な手法で見過ごされ、全く見えていなかった事が腹立たしかった。


 獣人の奴隷は魔法で仮死状態にされ、食肉という扱いで王都に搬入されていた。

しかも国外からではなく国内からだ。


 運搬用のゴーレムに倫理は無いのだ。なぜ港で使われていたゴーレムが突然貴族街で使われたのか?

何を運ぶためだったのか?を考えれば、貴族を疑うのは自然な事だった。


 その疑いを得るきっかけを掴めたのは、昨日の朝の事だ。



 激突で故障したゴーレムを確認した後、ジルは直ぐに街外れの塔に向かい、そこで宰相に出会った。


「丁度良い所に居た。兵士よ、獣人の子供の介抱を手伝ってくれ。」


 宰相が不在の塔の輝きは鈍く、太陽の光を避けるベールのように見える。

先に街外れの塔に付いたジルは物陰に隠れて宰相を待っていたのだが、宰相はそのジルの背後から突然現れた。

予想しなかった登場と提案にジルは動揺した。きっとジルの気脈は乱れていただろう。

宰相の話は短く的確で、ジルはなすがままだった。


 そして塔に案内され、ジルがミノタウロスの子供に回復魔法をかけ話を聞く。

ミノタウロスは落ち込んでいたが、命の気脈の動揺もなく、全ての質問に答えてくれた。

時折挟まれる、宰相の短い質問も的確だった。


 奴隷を隠す容器には、王都の港でも過去に使われていた魚を塩漬けにする大壺が使われていた。

まだまだ王都のそこら中にあるため紛れやすく、古い物のため魔導回廊にも繋がらない。

壊して埋めてしまえば、証拠も残りにくかった。



 ミノタウロスの子供は宰相に任せる事になった。宰相と礼を交わすとジルは塔を出る。

結局、ジルは宰相に付き合わされ、宰相の潔白を身をもって証明する事になったが、ジルが塔で過ごした時間はジルの潔白を証明はしなかった。

宰相に会った事を含めて、塔を出るまでの、その一切の履歴が魔導回廊に残っていなかった。

何より、あれだけ塔の中で魔法を使っても、外の魔導回廊には何も残らない。

あの塔はダンジョンの一種であると考えた方が自然だが、魔導回廊の中でダンジョンとして表示が欠ける事すらない。


 全ては宰相の魔法の中で中和されてしまったようで、既にジルには触れられない物になっていた。


 ジルは、おそらく宰相もミノタウロスの子供も、もう証人や証言としては使えないのであろう事を悟った。

そして、自分を招き、ミノタウロスから話を聞く機会を与えてくれたのは宰相の好意なのだ。



 ジルは驚きと困惑の中、幹線の上を歩きながら南軍区の医務室に帰る。

兵士になって以来、魔導回廊の勤務履歴に穴を開けるのは初めての事だったが、上官への報告はどうでも良かった。

すると、その上官から、短い通知が入る。


 通知の内容は、今回の事で貴族の不祥事を暴くだけではなく、宰相に加えて北軍区の警備隊や、それを監督する北の砦の騎士にも貸しを作る事が出来たそうで、簡素な短文の中に上官の機嫌の良さが滲みでていた。


 素早く根回し出来る政治力は、明晰な事実を上回るようだ。

ジルは何件もの事件を解決しても、上官からこんな通知をもらった事は無かった。

ジルにしても、このクワリテ士長という上官の顔も覚えていない。


 街外れの塔は北軍区の管轄で、確かにジルの捜査は越権行為だったかも知れない。

でも、いつもの事なのだ。ジルは北軍区からは相当に嫌われている事には気が付いていたが、北軍区と折り合いを付けると上官が喜ぶ事は知らなかった。

ひょっとすると陰で迷惑をかけていたのかも知れない。


ジルは、ふと、以前親しく付き合っていた北軍所属の女性兵士を思い出した。

彼女は突出した才能を持ち、北軍兵士の中では頭一つ抜きん出ていたが、ジルの同僚である南軍の兵士からは嫌われていた。

彼女は北の要塞の騎士団に嫁ぎ、家名を得ると、その後自らも騎士となった。

彼女は鎧から伸びた細腕で長剣を振り回し、今も王都と北の要塞を行き来し、ジルの仲間からは嫌われている。


 ジルは王都の北軍区から南軍区へと続く大通りを歩きながら、宰相によって手際よく段取られた通知の文面を眺める。

ジルは、それを何処か他人事のように読んでいた。

だけど、孤児として育ったジルからすれば、今回得た情報は、他人事に出来る話ではなかった。



 奴隷の搬入に関係した肉屋には、朝一で北軍区の兵士が踏み込んでいた。

兵士を率いていたのは、騎士となったあの古い友人だ。

ジルにも今回の礼と、報告を兼ねて一度北の要塞に戻る旨の短い通知が来ていた。

魔導回廊越しに触れた彼女は、相変わらずに忙しなかった。


そして、今朝からギルドに提示されている「密入国の獣人の子供の護送依頼」は、宰相の今回の事件への解釈であり、誰から見ても王国側の仕掛けた罠だろう。



 ジルにしたって、流石にこれだけ単純な餌にひっかかる犯罪者はいない事は解っていたが、万が一の可能性を考えて、魔導回廊を通して、その公開依頼には注意を払っていた。


 しかし、誰も触らないと思われたミスリル札が手に取られ、直ぐに戻された。

ミスリル札に触れたのは聞いたことのない名前の冒険者だが、装備は新人離れしている。

そして、その冒険者は仲間と二人でスラム街に向かった。大壺が大量に破棄されているスラム街にだ。

スラム街には魔導回廊の接続の切れたダンジョンがあった…ここで何をされても魔導回廊からは何も解らない。


 依頼としてスラム街のダンジョンに行くようだが、依頼以外の何をやっても、何も残らないからダンジョンなのだ。

ジルは自分の銃を手に取り、塔の二階から干されていたローブを飛び上がってひったくると、駆け足でスラム街に向かって走り始めた。



 ジルが現場の近くの井戸の広場に付くと、大柄な冒険者が井戸の水位計から魔導回廊に繋がっていた。あの新人冒険者の仲間だろう。

何処かで見た顔だが思い出せない。ジルは手軽に魔道回廊に繋がれていた間に、彼らの依頼表を細かく参照しておかなかった事を悔いる。

すると、その冒険者が商業地区の方向へ戻っていく。ジルは慌てて裏路地の角へ姿を隠した。


 仲間二人が別行動をとったのは、ジルにとっては好都合だった。冒険者の足音が遠くに消えた事を確かめると、ジルは急ぎ足で接続の切れた"ダンジョン"に向かった。



 「手を上げて武器と魔導具を地面に置きなさい」



 シジフォスがのんびりとカヌーを待っていると、突然銃を持った兵士が現れ、シジフォスに銃を向けてきた。

兵士は女性だった。使い古されたローブを羽織っていたが、隙間から覗く鎧と制服の着こなしには几帳面さが感じられた。


 そして彼女の足はまだ魔導回廊の接続の中に残したままだ。

カヌーが戻って来たとしても、先に気が付く可能性は女性兵士の方が高いだろう。

シジフォスには争う気は無かったが、仮にこの女性兵士を倒したとしても、その履歴は魔導回廊へ一気に広がり、応援の兵士が駆けつけて来る。


 手を上げたまま装備を外すのは初めてだったが、シジフォスは兵士の目を見ながら、理力の短剣と隠蔽の外套の留め金や形状を付与魔術で変形させ、装備は地面に落ちた。さらに靴も脱いで素足になり一歩後ろに下がる。


「器用な奴ね。名前は?ここで何をしていたの?」


「えーと、今日から初級冒険者になりましたシジフォスです。今は破損したミスリル線の調査依頼を友人と二人で行っていました。」


「その友人の名前は?」


「カヌーです。苗字は無いと思います。」


 兵士は名前を聞き、大柄な冒険者の素性を思い出した。


「苗字はあるわよ」


「え?」


「まぁ良いわ。奴隷に関して何か思う事は?」


「…王都の恥ずべき過去の産業…って感じですかね…ごめんなさい、学校で習った事しか知りません。」


 兵士はシジフォスの目を見た後、全身の気脈の動揺を探る。


「嘘は言ってないようね。」


 そしてシジフォスの奥で崩れたバルコニーに、一瞬視線を動かすと、もう一度シジフォスの目を見つめ銃を下した。


「ダンジョンで取得した物は、基本的に冒険者の物にして良いけど、今回に限っては手に入れた物があれば全てギルドに提出してちょうだい。軍が買い取るわ。」


「解りました。」


「良い返事ね。私は南軍区で軍医をやってるジル。捜査の協力に感謝します。」


 シジフォスが呆気にとられていると、軍医のジルさんは立ち去ってしまった。

短い会話だったが、シジフォスはジルに良い印象をもった。



 カヌーがドワーフの技術者を連れて帰って来たのは、その直ぐ後の事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ