照明
真っ暗な空間で私は目覚めた。
誰もいない、何も聞こえない。かすかに聞こえるのは水の流れる音だけ。
どこにつながっているかもわからない真っ暗なコンクリートの通路。遠くのほうで左右に揺れる光が見えた。
「誰かいるの?」
そう声をかけるが、何の返事もない。
私は裸足のままで恐る恐る進んだ。ここにずっといるのも怖いがそれ以上に闇に包まれているのが嫌だった。早く光のあるほうへ、そこに希望があると信じながら一歩ずつ歩いた。
足の指に激痛が走る。よく見ると私の足は両方とも爪がはがれていた。
「なんでこんなことに気づかなかったの……」
できるだけ指先に負担がかからないようにかかとを軸に歩く。それでも足の指から血が流れているのがわかった。
「痛い、痛い」
なんで私は光を目指して歩いてるのだろう。
ここにいれば、せめて歩かなければこれほどの痛みを味わうこともない。それでも私の足は止まらない。
少し苔の生えてた壁に手をつきながら、肉体を引きずるように歩く。
全身の毛穴から脂汗がだらだらと流れ全身が重い。
あれ、そういえば……左手がない。
私、よく見たら全身が包帯でぐるぐる巻きにされていて、まるでミイラ男のようだった。
「ああ、あああ……はぁ」
右手がなくて両足の爪がはがれている。もしかしたら包帯の下は…… 、なんとなく見なくてもわかったから私はそのまま光に向かって歩くことにした。
なんだろう、気づけば涙が頬を伝っていた。
私って誰なんだろう、誰かにつかまって拷問でも受けたのかな。何もわからない。ここに来るまでの記憶がない。
「私が何をしたっていうのよ‼」
今の理不尽を叫んでみたものの、虚しくもあたりに反響するだけだった。誰も助けてくれない。それどころか今の叫び声で私を拷問した奴が来るかもしれない。
そう思うと怖くて痛みを忘れて駆け出していた。
「はぁ、はぁ」
息が苦しい、口の中に血の味が広がる。
自分の体は思った以上に走れなかった。それどころか走ったことにより全身に悪寒が走り、ひどい頭痛に襲われた。腹筋が軽く痙攣している。息が、苦しい。あの光にたどり着ければ。
長い髪が視界を遮る。ないはずの左手で髪をかき上げようとしてまた涙があふれる。
ここから出られたとして、私は生きていけるの?
そもそも外の世界ってなによ、どこに希望があるっていうのよ。
考えても答えなんてない、黙ってあるけと言わんばかりに足はヒタヒタと前へ進もうとする。結局私の体は生きることを望んでいる。ここにいても私が生きる道なんてない。
だから今は前に、ただ、ひたすらに前に。
光に近づくにつれて水の音が近くなる。口の中も気持ち悪いし、水道でもあるなら口の中を洗いたい、喉もかわいた。
やっとの思いで水の音の近くまで来た。音はするのにどこに水があるの、やっとここまで来たのよ。
「あった!」
私は見覚えのある水道を見つけると必死に蛇口を捻った。なのに水はぽたぽたっとしか出ない。
「なんでよ、さっきまでもっと鮮明に」
私は蛇口の下で両手で皿を作り水がたまるのを待った。焦れったいこの時間、一雫ずつポタリポタリと落ちてくる
「ああ、あああ」
ある程度溜まったことを確認すると、一気に口に注ぎ込んだ。私の喉はそれがどんな水なのかなんておかまいなしに一口で飲み込んだ。
「泥臭い」
混み上がってくる吐き気を何とか抑えながらまた歩き出した。揺れる照明まであと少し......。
そう思うとまた涙が溢れてきた。
「はぁ、はぁ」
もう全身の痛みなんて関係ない、ただ、あの照明までたどり着ければそれでいい。
あともう少し、あと少し......。
光の下まで来た時に私は自分が這いつくばって血まみれなことを知った。
「もう、助からない」
そこで私は力つきた。