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魚心あれば水心  作者: 天宮 りほ
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はじまり

「片瀬りなです。よろしくお願いします。」


 快晴とは言えないけれど、いい天気。

 優雅なクラシックの流れるロビー。

 程よい間隔のテーブルに素敵な調度品。

 流れるような動きのウェイターに上品な笑い声。

 なかなかいいホテルのラウンジをセレクトしてくれたようで。


 目の前に座っている、同い年とは思えない落ち着きのある大人の男性。

 うん。

 第一印象は良さそう。

 今日はわりとあたりかな?


「森本樹希(いつき)です。今日は来てくださってありがとうございます。」


 思ったより声は若いかな?嫌いじゃない。

 イケメン!ってわけじゃないけれど、笑顔が優しい感じの人かな。

 初めからよさそうって思える、面会って意外と少ないから良かった。




 一時間ほど簡単な自己紹介や趣味、雑談をしながらいい感じに盛り上がった。

 初めての面会で、良さそう!って思うことが意外と少ないから、ちょっとときめいたな。

 好きな映画やよく見る番組、好きな食べ物もよく似てた。

 きっとデートしたら楽しそう。


「その映画気になりますよね!」

「CMとか結構気になる内容出してくるので、あれはずるいですもん!!」

「あのCMずるいですよね。」


 最近話題のミステリー映画は、気になるキーワードだけCMで流してくるから、つい見たくなっちゃうよね。

 ミステリーと恋愛の両面で楽しめるなんて・・・見なくちゃ!


「僕映画の半額券持ってるんですけど、よかったら片瀬さんもらってください。」


 おもむろに財布の中から映画のチケットを渡してきた。


 ふむ。

 森本さんのお財布は高すぎず、安すぎず、有名過ぎないが知ってる人は知ってるブランドだ。

 いいセンスしてるなぁ。


「いやいや、それは悪いですよー!」

「実は貰い物で、家にあと10枚もあるんです。周りがあんまり映画見ない人たちなので、ちょっと困ってて。」


 苦笑いの森本さん。


「しかも、有効期限があと3ヵ月なんですよ!さすがにそんなに映画見れないですし。」


 まぁ10枚はちょっと多いかも。


「せっかくなら映画の好きな片瀬さんにもらって欲しいんです。・・・ご迷惑ですか?」


 苦笑いと、見捨てられそうな犬みたいな目で見られる。

 そんな顔されるとこちらが悪いような気持になる・・・。


「そういう事情なら、ありがたく頂きます。」


 森本さんの手から一枚映画のチケットをもらう。


「もちろん、僕と一緒に行っていただいたら嬉しいですからね。」


 少し艶のあるような瞳をしてこちらを見る。

 これは、誘われてるの?


 森本さんって優しくて話しやすいけど、こんな艶っぽい表情もできるんだ。


 映画に誘われるくらい、こんな場面ではよくあるのに、その表情にドキドキした。




 あっという間に時間が過ぎ、そろそろお終い。

 初回は1時間から2時間がベストだもんね。


 支払いはスマートに森本さんがすましてくれていた。

 お手洗いに立ったわけどもないのにいつしたんだろ?


 少し名残惜しいと思ってくれたのか、ホテルのエントランスまで見送ってくれることになった。

 なかなかそこまでしてくれる人いないよね。



「そうだ、変な質問してもいいですか?」

「変な質問ですか?答えれることなら答えますよ?」


 お互いに軽く笑いあう。


「片瀬さんは西宮高校でしたか?」


 え?


「僕も西宮高校で、同じ名前の方がいたので気になって。」

「森本さんも西宮高なんですか?じゃあ同級生・・・。」


 同級生の森本なんていたっけ?

 それより、まさかの同級生!?


 さっと冷水をかけられた気分になる。


「片瀬さん2-Aですよね?」

「ええ。」

「やっぱり!同じクラスだったんですよ。僕たち。」


 嬉しそうに笑いかける笑顔に引き攣った笑顔しか返せない私。

 偶然の出会いを運命だなんて思いたくなかった。






 -*-*-*-



「えー!?さっちん結婚するの??」

「おめでとうー!!やったね!」

「いつプロポーズされてたの??」


 みんな興味津々でテーブルに身を乗り出して聴いている。


「ついにさっちんも結婚かぁー。あとは、私とりなだけになるね。」


 30代も過ぎれば6人の友達グループの半分は結婚してしまう。

 この時代に「結婚してないのはありえない!!」だなんて叫ぶのは上の年代の人だけだけど。

 それでも、なんとなく焦ってザワザワする気持ちは隠せないものでして。

 久しぶりの集まりの飲み会も楽しい半分モヤモヤ半分で終わってしまった。




 さっちんが結婚する。


 ずーっと彼氏がいなかったさっちんが結婚する。

 正直油断していた気持ちもあって、驚いたなぁ。

 いつの間にって思ってしまう。


「ふぅ。」


 心地よいバスタブに浸かりながらも思うことは、さっちんと結婚のことばかり。


「結婚相談所かぁ。」


 さっちんは結婚相談所で出会い結婚を決めていた。

 今時、結構相談所なんて!!!なーんて思いは無いけれど、無意識に選択から外していたのか考えたこともなかった。


『一番若いのは今だから、後悔したくなくて、思い切って入会してみたの。』


 そう、照れながら言っていたさっちんは可愛かった。


 そう、今が一番若い。

 今だって若いつもりだけど、実際は32歳。

 30代はおばさんだと思っていた昔の自分が馬鹿だった。

 今は40代でも結婚できるし、キャリア女子だっていっぱいいる。

 でも、結婚したいなら、あとで後悔したくないなら・・・。


「よし!後悔先に立たずだもんね!!」


 こうして私は結婚相談所に入会したのだった。




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