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少年と少女の六日間   作者: 雨時 時雨
6/6

<六日目>

 少年の家では、クラスメイトの中でも特に仲の良かった人たちによる、送別会が行われていた。

 少年と母親が腕をふるった料理を並べ、友人が持って来たボードゲームなどで遊んで、賑やかな時間を過ごした。

 もちろん送別会は楽しかった。少年と離れるのが寂しいのか、泣いてくれる人もいた。  

 だが少年の頭の片隅にはずっと、絵を描く少女の姿が映っていた。

 四時頃に送別会は終わり、友人たちが家に帰った後、少年は自転車にまたがり、力の限り足の裏でペダルを踏み込む。

 少年の額に玉のような汗がにじむ。それでも少年は足に力を込める。

 ベンチへ続く階段の前に自転車を捨てて、荒い息をしながら階段を駆け上がる。

 目的地に着いたのはちょうど太陽が欠け始めたところだった。

「お、おまたせ……」

 肩で息をしながら声をかける。 

 少女はスケッチブックの上で動かしていた手を止め、振り返った。

「よかった。来てくれた」

「ごめんね。遅くなっちゃって」

少年は息を整えながらベンチに近づき、立ったまま街を見下ろす。

夕陽が街を照らす光景はあまり長くは続かないようだった。 

「最後にもういちど、この景色をよく見ておきたかったんだけどな」

「本当にこの景色が好きなんだね」

「うん。いろんな景色を見てきたけど、これだけは格別だって思う」

「そう」

 少女も少年の隣に立つ。

「わたしも好き」

 夕陽が見えなくなるまで二人はそうしていた。

 それも沈み、残光のみが世界を照らすようになったとき、少女は一枚の絵を差しだした。

「あげる」

 絵を受け取った少年は目を見開く。

「これは……」

 それは、いつも少年が好きだと言っていた、赤く輝く街の風景だった。

「いいの⁉」

「うん。あと、これも」

 続けて少女が見せたものは様々な色が混ざり合っている、色彩豊かな一枚の絵。何も知らない者が見れば、一体何を見てこんなものを描いたのか、と思うだろう。しかし、少年はそれがなんなのかを瞬時に理解した。            

 その絵は少女が実際に見ている世界の絵。

 ――感情の色で彩られた世界の絵だった。

 明確な景色というものは描かれておらず、色だけですべてが作られている。

それでも、とてもあたたかい、見た者全てを幸せにするような、そんな絵だった。

「…………」

「わたしの絵が好きって前に言ってくれたことがあったから。…………迷惑だった?」

 絵を見たまま動かない少年に、少女が不安げに聞いてくる。

 少年はそれを晴れやかな笑顔で払拭する。

「すっごい嬉しい‼ ありがとう‼」

 少女は少年の声に少し驚いた後、ほっとしたような表情を浮かべた。

「よかった、よろこんでくれた……。でも自分で渡しておいてなんだけど、そんなにいいものでもないと思う気がする」

「そんなことないよ!」

 今まで少年は、少女と景色を眺めたり、一緒に弁当を食べたりしていたが、なにしろ表情の動きがほとんどないため、拒絶されているのではないかと心配になることがあったのだ。

 だが今こうして少女は、少年に心を開いた証をくれたのだ。これを喜ばずにいられるだろうか

「これはどんなときに描いた絵なの?」

「妹が生まれた時の家族と看護師さんの色。とても優しい色だったから、スケッチしてたの。私が一番好きな絵」

「それを、ぼくがもらってもいいの?」

「うん。お弁当のお礼と、引越祝いに」

 そう言って少女は二枚の絵をくれた。

「じゃあ、ぼくからも」

 貰うだけでは悪いなと思った少年はカバンからあるものを取り出し、少女に渡した。

「ネックレス?」

「夕日に透かしてごらん」

 それは昔、この丘で拾ったビー玉に専用の工具で穴をあけて、糸を通したものだ

 ただそれだけのものだが、少年はお守りのようにいつも持ち歩いていた。

 少女はビー玉を、微かに残っている夕陽の光に透かして中を覗く。

「きれい……」

 ビー玉を通った橙色の光が、分散されて少女の瞳に映る。

「こんな簡単なものしかなくてごめんね」

「ううん、うれしい。ありがとう」

 それは少年が初めて見た、少女の満開の笑顔だった。少年もそれにつられて自然と笑顔になる。

 一週間に満たない時間だったが、それでも引っ越し前に充実した時間を過ごせたと思っている。

 少年はこの夕陽と、このときの少女の笑顔を忘れることはないだろう。

 二人を包んでいた暖かい残光が地平線に沈んだ。








 


「やっと、終わった~」

 高校生になり初めての春休みで課題を終わらせた少年は、椅子の上で大きく伸びをする。

 席を立ち、部屋を何気なく見回すと、壁に貼られた二枚の絵が目に入った。

 一つは少年が住んでいた街が夕陽に染められるのを、丘の上から見たときの絵。

 そしてもう一つは、丘の上で出会った少女が見ていた世界の、ある一日の空の絵だった。

 少女と出会い、別れたのはちょうど一年前の今頃だった。

 今も彼女はあの丘の上にあるベンチに座って、昼食もとらずに絵を描き続けているのだろう。

 一心不乱に絵を描く少女を想像して苦笑した少年は、窓に近づき空を見上げる。

 あのとき出会った少女の目には、今日の空はどのように映っているのだろうか。

「少年と少女の六日間」いかがでしたでしょうか。

この小説は私が出来心で書き始めたものなのですが、どうせ書くなら誰かに読んでもらって感想をもらおう、と思ったのがきっかけでこうして投稿してみました。

まだまだ初心者なので拙い部分もあると思いますが、そこはコメントなどで指摘してくだされば糧としますので、ビシバシ言ってください。

それでは、また出来心が芽生えるその日まで。

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