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少年と少女の六日間   作者: 雨時 時雨
4/6

<四日目>

今日も少年は二人分の弁当を作り、丘の上のベンチへと向かった。

 自転車の揺れで弁当の中身が崩れないように慎重に、しかし出来るだけ早くペダルふんでいると、普段は見られないような人混みを見かけた。全員が黒い服を着ている。

 ――なんだろう。

そう思いながらも少年は速度を緩めることなく通り過ぎ、坂を上った。

「おはよう」

「おはよう」

 少年があいさつすると少女も振り向きあいさつを返す。

 ベンチに空けられた一人分のスペースに腰掛ける。

「今日は悲しい色だね……」

 ふと、少女がそんなつぶやきを漏らす。

「どういうこと?」

 少年が疑問を口に出すが少女はそれに答えることはせず今まで動かしていた手を止めると、リュックサックの中から別のスケッチブックを取り出し、鉛筆で線を引き始めた。

 少年は黙って少女の手元を見る。

 少女は黒い線で簡単な下絵だけを描くと、今度は色をつけ始めた。

 今日は快晴といえる青空が広がっている。

 だが、少女はその空を紫、藍、黒などの明度の低い色で染める。

 街にも赤や黄、緑といった実際のものとは異なる色を使う。

 そして最後に、街のある一点から空に向かって白い線を伸ばして、

「……出来た」

 完成した。

出来上がった絵は悲しさや寂しさ、悔しさのようななにかが含まれた、とても目の前の晴れやかな風景を描いたとは思えないものだった。

「君にはこの空はどう見えてるの?」

 もし他にこの場に居合わせる人がいたとしても同じ質問をしただろう。

 それほどまでに少女の描いた絵は異質ともいえるものだった。

 その質問に対して少女は、

「わたしには今の空はとても暗くみえるの」

 と、雲の少ない青空を見上げながら答えた。

「わたしは色が見えるから」

「色?」

「わたしの目には感情に色がついて見える。怒りの色、嫉妬の色、喜びの色、悲しみの色。全ての感情に色がつく」

 少女は空へと手を伸ばし、話を続ける。

「そこに描いたものがわたしに見えてる世界。今日の空はそんな色をしてる」

「感情の色……」

 少女の言っていることを理解するのに少し時間がかかった。

 感情の色が見えるというのは一種の超能力のようなものだろうか。

 だとすると彼女の目には、空だけでなくこの世界全てが数十種類もの色で染められているようにうつっているだろう。

「この色は前にも一度見たことがある。あれは、お葬式のときに見た色。……だれかが死んでしまったときに見えた色」

「死んだって……。なんでそんなことが――」

 分かるのか、と言おうとしたところで少年の脳裏にある光景が浮かび上がる。

 それはこの丘へ来る途中に見た黒い服を着た集団。

 もしもあの黒服が葬式のために着る喪服だとしたら……。

「これは何を表しているの?」

絵に描かれている細長い線を指し示しながら少年は問いかける。

その答えとして少女は街の方を指差した。

すると、二人のいる丘の上から見えたのは空へと昇る一筋の白い、

――煙だった。

「もしかしてこの白い煙は……。お葬式で遺体を焼いた時の煙……」

 そしてその煙は少女が先にスケッチブックに描いていた場所に現れた。

 この小さな街には葬儀場のようなものは存在せず、死者が出た場合は各家庭の庭や近くの公園などで葬式をするのが習わしとなっているので、遺体を火葬する位置を的中させることはほぼ不可能に近い。

 しかしその煙は、少女が絵に描いた地点と寸分の狂いもなかった。

「なんで煙が出る場所が分かったの?」

「そこに色が集まってたから」

「……すごいね。本当に見えてるんだ」

 少年が瞠目していると、少女は少し驚いたように少年の顔を見た。

「どうしたの?」

「……なんでもない……」

 少女は少年の顔から目線をそらし、手元のスケッチブックへと移した。

 少年はその少女の行動に疑問を抱きながらもあまり追及はしないことにした――――。

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