<二日目>
昨日と同じように少年は夕方に丘の上に登った。
ベンチにはすでに少女が座っており、スケッチブックに鉛筆を走らせていた。
「ずいぶん遅かったね。もう来ないのかと思った」
「昨日と同じ時間に来たつもりなんだけど……。君はいつ頃来たの?」
「朝からずっとここにいたよ」
「そ、そうなんだ……」
「とりあえず座ったら。足、疲れると思う」
少女が自分の隣をぽんぽんと叩く。
少年は促されるままそこに少し距離をあけて座った。
「今日はずっと絵を描いてたの?」
「うん」
「どんな絵を?」
「見る?」
少女が絵を描いていた手を止めて、数冊のスケッチブックを差し出した。
少年はそれを受け取り、中を見る。
描かれていたのは全てこの丘の上から見ることができる街の風景だった。
完全に素人目線ではあるが、それでも少年が掛け値なしに素晴らしいと断言できる作品だった。
朝、昼、夕、夜に限らず春夏秋冬。果ては晴れや雨などの天候に至るまで。三六五日の丘の上からの景色が描かれていた。
だが、少年は絵の多さよりその中身に疑問を感じた。
「ねえ」
「なに?」
「君がここで絵を描き始めたのって三か月前からなんだよね?」
「うん」
「でもこのスケッチブックには夏や秋、冬の風景も描かれている。これはどうやって描いたの?」
「写真を見たの」
「写真?」
「うん」
「写真を見ただけでこれらの絵を描いたって言うのかい?」
「うん」
少年は絶句した。正確には、少年が驚いたのは少女が写真を見ただけで絵を描いたことではなかった。少女が創りだした風景が、実際に丘から見えるものと完全に一致していたからだ。
写真で見るのと実際に景色を見るのとは少なからず誤差が生じる。それでも少女の描く風景画は実際のものを見て描いたとしか思えない出来だった。
「へ、へえ~。すごいね」
少年はその言葉を口に出すことしかできなかった。
スケッチブックを返してもらった少女は描きかけていた絵のページを開くと、景色に目を向けた。
そして五秒ほどじっと眺めると、再び鉛筆を動かし始めた。
先刻少女が見ていた風景とは変わっているはずだが、修正がきく範囲なのだろう。
そして絵を描き終える頃にはすっかり日が沈んでいた。
「明日も来るの?」
昨日と同じように日が沈み、少女が昨日と同じ質問をする。
「うん」
少年も昨日と同じ答えを返す。
「なら、またあし……」
「あ、その前にさ」
「なに?」
「明日も朝から来るの?」
「うん」
「わかった。じゃあ、また明日」
「また明日」




