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0562

作者: 岡田 夢生

不意に自分が自分ではない感覚に陥ることがある。


僕は一体誰なのだろうか?

何の為に生まれてきたのだろう?


その質問に僕は答えることが出来ない。


目覚ましが僕の夢の邪魔をする。


そして、今日も一日が始まる。





「真里、起きなさい」


一階から母親の声が聞こえる。


僕はベッドから起き上がり、階段を下りる。

洗面所で顔を洗いリビングへと向かった。


「おはよう」


今日の朝第一声を発すると

両親からおはようと返ってくる。


キッチンでは母親が僕と父親の弁当を作っている。


「もうご飯出来てるから早く食べなさい」


「うん」


椅子に座りテーブルに並んでいるご飯に手をつける。


目の前には父親が座っていて新聞を読んでいる。




朝起きて顔を洗ってご飯を食べて二度寝。

やばいと飛び起きて歯を磨いて支度をする。


そして玄関を出て車に乗り込み、会社へと向かう。


これが毎日続いている。


僕がこの生活を始めて

もう六年と二ヶ月が経っていた。





昼休み、僕はぼんやりと空を見上げる。



もしかしたら僕は宇宙人なのかもしれない。


僕は宇宙からこの地球へと派遣され、

地球人の監視をしているのだ。


しかし今僕は仲間の宇宙人からの暗号や

何かの信号も受け取ってはいない。


そうなると僕は宇宙からのスパイとして

この地球に派遣されてきたのだが

何かの手違いでスパイではなくなり

地球人として生きているのかもしれない。


もしかしたら僕はもう用済みで

新しいスパイの宇宙人がスパイ活動をしているのかも。


仕事を終えて家へと帰る。


家には両親と住んでいる。

兄弟はいない。


ご飯を食べてお風呂に入ってテレビを見る。


今日も宇宙からの交信は無かった。


僕の一日はこうして終わる。






ある日、僕は車で運転中に事故をした。


朝の通勤途中のことだった。


交差点で右折しようとしたところ

直進してくる車と正面衝突した。


見通しの良い交差点のはずが僕には車が見えず

その時の記憶も曖昧だった。


あれは何なんだったんだろうと今になっても分からない。


自分が自分でない感覚がまた再びやってくる。


救急車で運ばれた僕だったが幸いほぼ無傷であった。

病院で検査をしたが骨も折れていなかった。


その代わりと言ってはなんだが車は廃車となった。

そこそこ気に入っていたのでそれは悲しかった。


全身打撲で全治一週間。


しかし仕事で穴は開けられないと休んで三日程度で

会社に出勤した。


また変わらない一日が始まる。


宇宙からの交信を待ち続ける日々がやってきたのだ。





僕が宇宙人だったとしたら

僕の周りにいる人は何者なんだろうか?


この人達も僕と同じで宇宙人なのだろうか?


僕の両親も宇宙人で家族共々

宇宙からのスパイなのだろうか?


でも生まれてこの方そんなことを聞いたことはない。


もしかしたら生まれた時に僕は両親の子供と

すり替えられたのかもしれない。


そうなったら本当の両親の子供は

今どこにいるのだろうか?






事故を起こして四ヶ月が経った頃、

その時は突然訪れた。




僕は何かを感じて家の外に出た。

外出ると正装をした白髪の紳士が立っていた。


僕の姿を見てにこやかに微笑む。


「久しぶり、0562」


まぁ君には耳馴染みのない名前だと思うがと続けた。


僕はこの状況を不自然だと思わなかった。


「君は非常に優秀だ」


「ありがとうございます」


そう言って頭を下げる僕。


「もう分かっていると思うが君は宇宙人だ」


「そこまでは分かっているんですが

僕が宇宙人になった経緯を教えて欲しいのです」


そう言うと紳士は僕を見て笑う。


「今から話すからそんなに焦らなくていい」


僕は宇宙人なのは間違い無さそうだ。


自分が宇宙人だったと分かり

嬉しいのか悲しいのかよく分からなかった。


でも今までの胸のモヤモヤが消えていく。


「君は二十五年前、この星にスパイとして送り出された」


地球人の監視役として送り出された僕は

ある赤子の肉体に乗り移った。


「そこまではよかったんだが」


肉体に乗り移り、スパイ行動をすることは

その時代初めてだったそうだ。


「君のことをちゃんと見ていたはずなんだが

見失ってしまったんだよ」


僕が乗り移ってから少しの間は

交信が出来たそうだが

ある日突然途切れてしまったらしい。


「そこからずっと君のことを探し続けた」


「すぐ分かるものじゃないんですか」


「宇宙人としてこの地球に来ている人物を

特定することは簡単だ。


でも地球人の中に入り込んでしまうと

難しいところがあって」


詳しいところは分からないが

なんとなく分かるからやっぱり

僕は宇宙人なのだと思った。


「でも君はやはり君は優秀だった」


僕は知らず知らずのうちに

宇宙との交信をしようとしていたらしい。


僅かだが宇宙からその波動を感じることが出来たそうだ。


「一つ君に謝らなければならないことがある」


「何でしょう」


「四ヶ月前、君は大きな事故を起こしたね。

あの事故はこちらが君を見つけ出す為に起こしたものなんだ」


僕の記憶が曖昧だったのもそれが関係するのだろう。


「大きな衝撃により君の居場所を確定することが出来た」


これまでのことも全て僕の脳データから分析をしたらしい。


「君にはとても感謝している」


僕の脳データは宇宙での研究に役立てられるそうだ。


「僕はこれからどうするんですか」


「君はこのままこの地球に残る」


てっきりこのまま宇宙に行くことになると思っていたが

ここに来て裏切られた。


「このままスパイ活動をするということですか」


紳士は首を振った。


「二十五年間の君を見てきて、君の両親の愛を凄く感じた。

君は凄く大切に二十五年育てられた」


そう言われてもピンと来なかった。


「だって事故を起こして病院に駆けつけた

君の両親の姿、見たかい?」


あの日、僕の両親は病院まで向かいに来てくれた。


「真里!」


「無事で良かった」


そう言って泣いて僕を抱き締めた。


「君の両親の愛を見て思った。

このまま君はここに残るべきだと」


私的には君は優柔だから連れて帰りたいんだがと

紳士は少し残念そうにしている。


「だから今日限りで君は地球人だ。

今までお疲れ様。ありがとう」


そう言うとまた紳士はにこやかに微笑んだ。


「君の両親は素晴らしい。

どうか、大事にしてくれ」


「あの」


「なんだい?」


「ありがとうございました」


そう言って頭を下げる。


「君はやっぱり優秀だ」


優秀な人材を失うのはやはり惜しいなと笑う。


「こんなに立派に育ててくれた両親に感謝するよ。

さようなら、0562」


にこやかに微笑んだ紳士の顔が段々とぼやけてくる。









気がつけば僕はベッドに横になっていた。


目を開けるといつもと変わらない

天井が見える。




「真里、遅刻するわよ」


一階から母親の声が聞こえる。


いつも通りの朝がやって来た。






しかし時計に書かれている日付を見てびっくりする。


「戻ってる…」



日付は事故の前の日だった。


「あの紳士…」


なかなかやるなと思いながら

自室を出て階段を下りる。


「ちょっと遅いわよ」


「ごめん」


「何で笑ってんの?」


「別に何もないよ」


そう言って椅子に座る。


いつも通りテーブルに並ぶご飯に安心する。


目の前には父親が座っていて新聞を読んでいる。


顔が緩んで仕方がない。


「何してんのよ、早くご飯食べなさい」


「はーい」


当たり前だと思っていたことが

こんなに幸せだと感じたことはなかった。





「お父さん、お母さん」


これからは地球人として僕は生きていくよ。


「いつもありがとう。

これからもよろしく」


両親は少し驚いてでも少ししてから

おかしな子と笑っていた。


いつものように玄関を出て車に乗り込み、

会社へと向かう。


それだけでも凄く嬉しくて堪らなかった。







昼休み、僕はぼんやりと空を見上げる。


僕が宇宙人であろうとそうでなかろうと

この地球で生きていくんだ。





僕は天に向かって言った。


生きてやる、と。


もしかしたら貴方は宇宙人かもしれない。

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