6話 手紙と課題
扉のノックで目を覚ます。太陽の光が眩しい。扉からエミリーがを出てくる。
「お嬢様、おはようございます。今朝はよく眠れましたか?」
「おはよう、エミリー。ええ、昨日の鍛錬で体を動かしたからかよく眠れたわ。」
「それは良かったです。本日のお召し物はどれにいたしましょう?」
エミリーはクローゼットを開き、引き連れた他のメイド達と共にドレスを取り出す。ベッドに並べられた様々な色や柄のドレス達。こんなの絶対に着ないだろ...と思う悪趣味なドレスが多い。
「(好みのモノと似合うモノは違うよね)じゃあ、これで。」
私が選んだのは薄い藤色のドレス。シンプルなデザインだが、所々に小さな宝石の花が散りばめられていて程よい可愛さを出している。
「(本当は美しい華麗な黒や赤等のドレスが着たいけど、子供の私にはまだ早い。似合わないわ。それだと服が可哀相。)」
王道のピンクのフリフリのドレスも着たい。だが、ザ悪役令嬢の顔にはどうも似合わない。
「(もう少し痩せて、髪型とかをアレンジしたらいけるかも...)」
筋肉が増えたからか、少し体が太って見える。増えた分脂肪を減らしたほうがいいかもしれない。
「あぁ、そうですお嬢様。」
エミリーが何かを思い出したらしい。一通の便箋を取り出した。
「それは誰から?」
「アレク家のリアン様からです。おそらく以前送った文通の返事かと。」
「(全員に断られる、もしくはスルーされたと思っていたけど違ったのね。)見せて。」
今まで個人から手紙をもらったことがない私は少しドキドキしながら封を開ける。
「僭越ながら、手紙の封を開けるのは私の仕事でございます。ましてやご自分で読まれるなど...私共が要約して話します。」
エミリーが少し慌てて私の手を止める。
「いいえ。例えどんな内容でも、手紙は差出人の思いが込められたものです。自分で読むわ。」
「...承知しました。」
少し不満そうにしながらも紅茶を入れに行ってくれる。彼女は本当に私の良き理解者だ。私の性格が歪む前からずっと側に居てくれる。とても大切な存在だ。
彼女の紅茶を入れる後ろ姿を少し見て微笑む。そして、手紙に目を移す。
「ええと......ふぉ?!」
なんと、そこには
"私も是非貴女と文通をしてみたいです。いや、文通だけでなく失礼を承知で実際に会ってみたいのですが、来月の我が家の御茶会に来て下さりませんか?"
と、書かれていた。
「よっしゃぁぁぁ!!」
思わずガッツポーズをする。もう駄目かと思っていた。どうせ今回も断りの手紙だろうと諦めていた。でも、違ったのね!!
「お嬢様。はしたないです。」
エミリーが紅茶を静かに机に置く。
「しかし、お嬢様がそのように成ってしまうという事は、余程良いものだったのですね。」
彼女は少し呆れながらも嬉しそうに優しく微笑んだ。
「えぇ!ここを見て頂戴!やったわ!」
ついに死亡フラグを折る道が開けてきた!まだ婚約なんて話出てきてないけど!
私は急いで服を着替える。鏡で自分の姿を確認する時、私は課題が多くある事に気付く。
「(こんなゴワゴワで油ギュッシュな髪、絶対に駄目だわ!肌もテカっててなんか...その....うん。)」
匂いがちょっと...。
理由は明確。この世界のお風呂事情だ。
1つ目は複数のメイド達が肌をゴシゴシとでうこと。ゴシゴシと洗うと体臭がキツくなる。また、洗う時に使う水は私が入っている大きな樽のようなお風呂に溜まるので、落とした汚れが結局肌につく。
2つ目は、石鹸が無いこと。石鹸が無いってもうコレ致命傷じゃないかしら。石鹸が無いから脂が落ちない。正直言って気持ち悪い。勿論シャンプーやリンスも無い。
「(よし...作るか。)」
前世では植物が好きな友人から石鹸の元になる植物を教えてもらった気がする。それがあればいいけど...。
でも、その石鹸には欠点があった。食べると毒になるのだ。
「(まぁ、石鹸は苦いから普通食べないよね。)」
この課題、来月までに何とかしなければ!
★★★
「え?来月のアレク家の御茶会に?」
朝食を食べながら、早速お祖父様とディランに手紙のことを話す。(勿論婚約の事は話していない。)
「ええ!とても楽しみです!」
「へぇ、アレク家か...いいんじゃないかな。」
「うむ。社交界デビューへの練習として良さそうだな。クリエラ、行っておいで。」
「ありがとうございます!」
ワクワクするなぁ...。仲良くなれるよう頑張らないと!
「クリエラ。その御茶会僕も参加するからね。」
ディランがニコリと微笑む。なんでお兄様が?!お兄様が居たら逆に動き辛いのだけど...。聞いたら怖そうだから言わないけど。
「分かりました。でも別に行きたくなかったら来なくても大丈夫ですよ?」
「全然知らない家の御茶会に行くのだから、僕がいた方がいいと思うよ。」
彼の笑みが深くなる。怖い怖い怖い。
「そ、それは確かに。ありがとうございます、ディランお兄様。」
引きつった笑みを彼に向ける。何故こう彼は私に対して黒い反応をするのだろう。正直めちゃくちゃ怖い。
「それは良かったよ。来月が楽しみだね。」
「うふふ...。」
やっぱ怖ぇ〜。