1-8 決戦、山崎の戦い
目が覚めたら決戦の日だった。
昨夜のうちに、小一郎らが書状で近畿在住の武将たちを呼び集め、ほぼ布陣が終わっているようだ。
「おはよう」
小六が目についたので声をかけてみた。
「よく眠れましたか。昨日は大活躍でしたからな」
小六と話していると、小一郎や官兵衛も集まってきた。
「もうまもなく、織田信孝殿と丹羽長秀殿が到着しますので、そうしたらすぐ開戦予定です。
そろそろ起こそうかと思っていたところですので、ちょうどよかった」
「すぐ開戦って軍議とかはしないのか?」
「もう終わってます。
まぁお二方を無視する形になってしまいましたが」
官兵衛はこう言っているが絶対わざとだろ。
参陣はさせるが口出しはさせないってことだな。
「俺はどうしたらいい?」
「最初は本陣で様子を見ていてください。
遊軍って形でお好きなところへ攻めいってもらって結構です」
「よしわかった。
好き勝手に暴れまくらせてもらう」
そこへ、池田恒興が現れた。
「菅原殿、いったいどういう手品を使ったんだ。
昨日、備中へ行ったと思ったら、すでに摂津で布陣完了とか」
「ふふふ、兵は迅速を尊ぶってところですよ」
「迅速すぎるだろ。
明智がかわいそうすぎるぞ。
それでもたいした奴だな、明智も。
二万近い軍勢を集めたようだ」
「ほー、こちらの軍勢は?」
「木下軍二万に俺のところが五千、近畿の諸大名が合わせて一万、それに四国遠征軍五千で合わせて四万ってところだ。倍の軍勢だな」
「四国遠征軍は五千ですか。
二万ほどいたはずなのに、せっかくの軍勢が」
「まぁ今更言ってもしかたがない。その五千もかき集めのようだからあまり期待もできん。
おっと、噂をすればようやく到着らしい。
わしも自分の陣にもどるが、お主の活躍、楽しみにしてるぞ」
「まかせてください」
池田恒興が去ってまもなく、法螺貝の音が鳴り響いた。いよいよ開戦だ。
こちらが倍の軍勢というのに明智は頑張っているようだ。戦況は一進一退というところか。
どうもこちらの軍勢が上手くその戦力を活かせてないような気がするな。
敵に要所を上手く抑えられているためにせっかくの数が遊んでいる感じだ。
「ちょっと行ってくるぞ。
召喚!グリフォン」
グリフォンにまたがり、空中から要所と思われるポイントへ特攻をかける。
俺の特攻で敵の前衛が崩れたところに、味方が押し入りそのまま敵の一翼を崩すことに成功した。
このまま押し切れるかと思ったが、いつの間にかさらに左に敵の一隊が現れ囲まれそうになったため、少し退くとそのまま元の位置まで戻されてしまっている。
思ったより難しいな。ひたすら攻めていけばいいってものでもないようだ。
一旦俺も本陣に引き返した。
「なかなか難しいな。
敵がなかなか強いか?」
「さすが明智というところでしょうか。
敵にしてみるとこれほど戦いにくい相手とは」
官兵衛もなかなか苦戦しているようだ。
「なぁあの山って何ていうんだっけ?」
ふと思い出して、俺は左手に見える山を指差して尋ねてみた。
「天王山ですね」
「余ってる兵であの山を抑えると攻撃に幅が出ないか?」
「どうでしょう? あまり効果はなさそうな」
「そうか」
いわゆる天王山っていうくらいだから、どうかと思ったがあまり関係ないか。
適当な過去知識じゃイマイチ役に立たないな。
そんな時に池田恒興が本陣にやってきた。
「わしの手勢で川沿いに迂回して本陣を突いてみたいと思うのだが」
「良い策かもしれませぬが、敵に備えがあれば池田殿の部隊は非常に危険と思われますが」
「まぁ危険なのはわかっておる。
このままでは硬直しそうだからな。
幸い、わしの部隊は今遊んでる状態でいなくとも大勢に影響はない」
「なかなか面白そうだな。
俺もそこに混ぜてもらっていいか?」
「菅原殿が来てくれたらありがたい。
ただ目立つので例の化け物はなしで頼みますぞ」
「おふたりはすっかりその気になってますね。
しかたありません。
十分注意の上、敵の備えがあるとわかったらすぐに引き返してくださいよ」
官兵衛の許しが出たようなので、俺は馬を借り受け池田隊に合流した。
そのまま隠密行動で川沿いを進む。どうやら敵の部隊はいなそうだ。
「何と言っても明智は小勢。
ここまで部隊を配置する余裕はなかろう」
池田のおっさんは上機嫌だが、油断は禁物だろう。
幸いなことにそのまま敵の伏勢に遭遇しないまま、敵の本体の姿を確認することができた。
池田恒興の号令の元、俺を含めた部隊は突撃を開始した。
俺は先頭を駆け、そのまま敵の数人を切り払う。
俺が錐の先端となって空けた穴を、後続の部隊が押し広げていく。
あっという間に敵は混乱して崩れたった。
それを確認した味方の部隊の突撃が始まり、明智の全軍は総崩れとなった。
膠着していたように見えた戦いも崩れだすとあっという間だな。
もうこうなっては誰が指揮をしていようと立て直すのは不可能であろう。
俺はそのまま敵の本陣まで突っ込んだ。
といってもすでに本陣は混乱をきたしており、まともに機能していない。
俺は逃げゆく武将の一人に目をつけた。
あれだろ、敵の総大将は。
ステータス確認。
名前:明智光秀
職業:大名
ビンゴ!
俺は素早く追いつくと逃げゆく光秀を一撃で斬り倒した。
「総大将、明智光秀討ち取ったり!」
俺のスキルで拡張済みの音声にまわりから大歓声が聞こえた。
声を数キロ四方に届かせたからな。