1-5 木下秀長と黒田官兵衛に賭けてみよう
さて、神戸から岡山までどのくらいかかるんだろう?
確か新幹線だと一時間かからなかったよな。
グリフォンの飛行速度って、これどのくらい出てるんだ?
馬よりは速そうだけど、時速百キロメートルも出てないよな。
まぁ二時間くらいで着くかな?
☆
うーん、そろそろかもしれないけど、ぜんぜん地形がわからん。
海岸線沿いに飛んできてるけど、細かい日本地図が頭にあるわけじゃないからなぁ。
あ、あの海上に見えるのは小豆島だろ。
ってことは、もうそろそろか?
小豆島過ぎたあたりから北西にってことだったよな。
☆
お、なんかやたらと人が集まってるし、あれが備中高松城だろ。
ほー、秀吉いなくても水攻めしてるんだ。
ってことはあれは秀吉のアイデアじゃなかったってことだな。
黒田官兵衛あたりか?
手前が織田で、向こう側が毛利か?
間違えて降りたらえらいことだからな。
んー、なんかやたらと下で騒いでやがるな。
このグリフォンのせいだろうな、まぁ。
俺は織田の本陣だろうと見極めたところに着陸した。
「池田恒興殿の書状を持ってきた。木下殿はおられるか?」
「わたしだ。まずはその書状とやらを見せてもらおう」
ステータス確認。
名前:木下秀長
職業:武将
間違いないようだな。
なんかひょろっとした感じの武将だ。秀吉の弟と聞いていたから小男を想像していたが、そういう雰囲気ではない。
あ、たしか異父兄弟だっけ?
俺の第一印象では、こいつは信用できる。いや、それよりももっと強い印象があるな。
そう、異世界で仲間たちと初めて会った時に受けた印象と同じだ。
こいつだ。こいつとなら何でもやっていける。
家康を見た時には受けなかったこの感じだ。
こいつがキーパーソンに違いない。
俺は書状を木下秀長に渡して読み終えるのを待った。
「なるほど、そなたが菅原翔太殿か。
書状ではすべてそなたから聞いてその指示に従えとあるが」
なんだって、池田のおっさんめ。
すげぇ手抜きしやがって。
全部俺におまかせかよ、初めて会ったやつにそこまでまかせるとはいい度胸じゃねぇか。
「木下殿から見て絶対信用のおけるものだけ残して人払いしてくれ。
全軍の命運にかかわる話だ」
「わかった。黒田殿と蜂須賀殿こちらへ。
虎之助、市松、二人で見張りをしておれ。
誰も近づけるでない」
蜂須賀っていうと、蜂須賀小六かな?
虎之助に市松は確か、加藤清正と福島正則だろうと思ってステータス確認してみたら正解だった。
俺の適当な歴史知識もなかなか役に立つな。
本来秀吉の配下となる面々は秀長に仕えているって感じのようだ。
陣幕の中で、秀長に黒田官兵衛と蜂須賀小六の二人を紹介された。
さっそく俺は話を始めた。
「京でのこと何か情報は来ていますか?」
「いや特に何も。そろそろ上様の援軍とともに明智殿が京を発つ頃かと」
まだ使者も来てないようだな。グリフォンで直行したおかげですべて追い抜いたのであろう。
「織田信長は明智光秀の謀反により亡くなられたぞ」
三人の反応を見ると、普通に驚いているな。そして俺の情報を疑っている。
態度に嘘はなさそうだな。
続けて、俺は実際に見聞きしてきた情報をすべて隠さずに三人に伝えた。
情報にリアリティがあるからな。どうやら疑いの気持ちは薄れてきたようだ。
木下秀長に現れている感情は、戸惑い・悲しみ・怒り。こいつはやはり信用してよさそうだ。
黒田官兵衛に現れている感情……こいつはいろいろ感情が読みにくいな。
すでに戸惑いはない、憤りの感情が強いな。そしてすごい勢いでいろいろ考えているようだ。
反応に嘘はないから明智とグルだったってことはなさそうだが、なかなか扱いの難しそうなやつだ。
こいつを如何に使うかが勝負の分かれ目って感じか。
蜂須賀小六のほうと見れば、ひたすら戸惑いの感情に支配されているようだな。
信用することはできそうだが、あまり当てにはできなさそうだな。
ここはどう切り出すべきかな?
やはりバクチではあるが黒田官兵衛を使うか。
「黒田殿にいろいろ考えがあるように見えるのだが、ここはその腹の中にあるものをすべてぶちまけて見てはどうであろう」
「いや、わたしは何も……」
黒田官兵衛は俺の言葉をあせって取り消した。
「それでいいのか?
今は絶好の時ではないのか?
ここで逡巡していてはもう二度と機会はないと思うぞ」
ここは煽らせてもらうとしよう。
黒田官兵衛は俺をじっと睨んでいる。俺を見定めようとしているようだな。
いいだろう、存分に俺を見定めてもらおうか。
「木下殿、蜂須賀殿、そして菅原殿。
よくお聞きくだされ。そして決して他言なきように」
どうやら、腹が決まったようだな。
この時代のやつらは気持ちいいな。
人生の大事をこの僅かな時間で決めやがる。
「これ天が与えたまたとない機会に違いありません。
今、天下は主なき状態となっています。
明智光秀を倒した者は、その天下を掴む機会が与えられるでしょう」
さて、皆黙り込んでしまったか。
ここは俺が口出ししないと進まないか?
「その天下は黒田殿が取るのか?」
「いや、私ではダメでしょう。まだ織田家に仕えてまもないため誰も私の言うことなど聞いてはもらえません。
ここは重臣の皆にも信用が高い木下殿にお願いするしかないと」
「私が?……私に天下などは……」
「俺も木下殿がいいと思う。
今ここで初めて会ったのだが、木下殿になら俺は最大限の協力をしよう。
蜂須賀殿はどう思う?」
「俺も木下殿で依存ない」
秀長は俺の目をじっと見ている。
今度は秀長が俺を見定めようというわけか。
いいだろう、俺もお前に賭けてみる。だからお前も俺に賭けてみろ。
「死んだ兄の言葉を思い出したよ。
この乱世は誰かが天下を統一するまで続く。だから自分は信長様が天下を統一するために全力で補佐すると。
私もその言葉を継いで、こうしてやってきたんだった。
上様が亡くなった以上、誰かがそれをやらなければならないのだな。
私にどこまでやれるかわからないが、やるだけのことはやってやろう。
菅原殿、黒田殿、蜂須賀殿、よろしく頼む」
「こちらこそよろしく頼む。
だが、その菅原殿ってのはよしてくれないか。
あらたまった場ではともかく、俺たちだけのときは翔太と呼んでほしい」
「わかった。
私のことも小一郎と呼んでくれ」
「同じく官兵衛と」
「小六と」
どうやら天下取りのための仲間が集ったようだ。