2-10 お市様とニ人でスローライフとか悪くないっしょ
柴田勝家を北ノ庄城へ追い詰めることができた。どうやら、この戦いも最終盤を迎えたようだな。
「俺にすべて任せてくれないか?」
小一郎や官兵衛との軍議の際、俺は頭を下げて願った。
「翔太にお任せするのは構いませんが、柴田殿が素直に従うとは思えませんよ」
官兵衛がそう言うが、柴田のおっさんの気性は十分にわかってるつもりだ。
「それもこれも引っくるめて任せてくれ」
「わかりました。何も言わずにすべて翔太に任せましょう」
小一郎がそう言ってくれた。
「恩に着るぞ」
俺は北ノ庄城の天守閣に瞬間移動した。
「そろそろ来る頃だと思っていたぞ」
柴田のおっさんはお市様を横にして、酒宴の用意をして待っていたようだ。
「最後にキサマと飲みたいと思って待っていたぞ」
お市様が俺に酌をしてくれた。おれもおっさんに酌を返す。
「娘たちのことはまかせていいんだろうな」
「あぁまかせてくれ。茶々は俺が幸せにするし、下の二人も幸せにしてくれるような嫁ぎ先を探すことにする」
「お願い致します。今連れてまいります」
お市様も俺に頭を下げ茶々たちを連れに行ったようだ。
「なぁ、おっさん。あくまで念のために聞いておくんだが、俺たちとともに天下を目指すって気はないんだよな」
「あぁそれは俺の生き方とは違うようだ。このまま消え去らせてくれ」
「そうか……」
やはり説得とかはムダだろうな。
「翔太!」
茶々たち三人がやってきた。
「さぁ、お行きなさい」
お市様が厳しい顔で娘たちにそう告げた。
「でも……」
茶々たちもそう素直に行く気にはなれないようだ。
「翔太殿、お願いします。もう別れは済んでいますので」
「そうだな、じゃ行くか」
俺は茶々たち三人を連れて居城へ瞬間移動した。
「翔太、ひどい!
もうちょっとくらいお別れさせてくれてもいいじゃない」
茶々が俺の胸を叩いて泣きながらそう言う。
「別に今生の別れってわけでもないし」
「え?」
「俺にすべて任せておけ」
俺は茶々たち三人の面倒を留守居の三成にまかせて、再び北ノ庄城へ瞬間移動した。
「なんだ、戻ってきたのか」
「お市様と二人で最後の時をなんて、かっこいいことはおっさんには似合わないよ」
「なんだと」
「それじゃ、行くぞ」
「待て、何をする」
俺は柴田のおっさんとお市様を捕まえると、強引に瞬間移動した。
「ここはどこだ?」
「んー、伊勢の南の端かな。その山を越えればすぐに紀伊だ」
「こんなところへ連れてきてどうするつもりだ」
「このあたりはいいぞぉ。冬でもそこそこ暖かいし、少し行けば海もある。田畑を耕してもいいしな。
そこにあるのは、俺が一人になりたい時に使ってた家だ。食料の備蓄もそこそこある。
そしてここにたっぱり銭も」
「この銭はどうしたんだ」
「さっき北ノ庄城から、かっぱらってきた」
「泥棒じゃないか」
「どうせ、この後おっさんが火をつける予定だったんだろ? 少しくらい持ち出したって罰はあたらないってもんだ」
柴田のおっさんは呆れた顔になってる。
「それでこんなところに連れてきてどうするつもりだ?」
「北ノ庄城はこの後、焼け落ちる。織田信長の家老だった柴田勝家も、織田信長の妹だったお市の方も、そこで焼け死んだってことだ。
ここにいるのは、ただのおっさんとおばさんだな」
「なんだと」
「いいじゃないか、もう。やるだけやったんだろ?
あとはここでのんびり暮らしたって文句を言うやつはいないよ」
「しかしな……」
「いいじゃありませんか、あなた。
農民の真似事ができるかどうかわかりませんが、気楽に体を動かしてみるのも面白そうですよ」
「そうかな?」
いい感じになってきた。あとは二人にまかせて俺は消えるとしよう。
「じゃあな。茶々たちも時々連れてくるから、仲良くやりなよ」
「こら待て、まだ話が」
「じゃあな」
うまくいくかどうかとか、知ったことじゃない。
俺もいろいろ終わって元の世界に帰ったら、ああやってのんびり暮らしてみたいと思ってたんだ。