1-10 茶々が可愛い
清須へは迷わずについた。
城門で小一郎から預かった書状を見せると問題なく中に入れてもらえた。
案内もないようなので適当に城内を歩いていると、ちょっと迷子になったようだ。
「何者です?」
振り返ってみると女の子がいた。まだ若そうだな、中学生くらいの年齢かな?
「この城で会議があるというので来たのですが、初めてなもんで迷子になったかな」
「会議? 重臣だけの会議と聞いてますが見ない顔ですね。
どなたかの子息でしょうか?」
「いや、ちょっと縁あって呼ばれただけで……」
なかなか知らない人に自分の身分とか説明しにくいな。
それにしても物怖じしない子だな。高そうな着物着てるし、織田家の姫様かなんかか?
「菅原翔太って名乗っても知らないよなぁ」
「菅原……つい最近聞いたような……そう思い出した!
山崎の戦いで奇妙な羽根の生えた獣に乗って空を飛んだとかいう噂の」
「それ!
そんな噂になってるの?」
「もう城内はその噂で持ち切り。
ねぇねぇ、その獣って見れたりする?」
「ん、見たい?」
「見たい見たい」
「じゃ、ちょっと庭へ……ってどっちだ?」
「こっち」
女の子の後について俺は庭へ出た。
「召喚!グリフォン」
グリフォンの姿を見て女の子は俺の後ろに隠れたが、そっと顔を出し興味深げにグリフォンを眺めた。
「ねぇ触っても大丈夫?」
「俺といっしょにいるときになら問題ないぞ」
女の子はそっとグリフォンの首筋をなでた。
本当に怖いもの知らずだな。
ちょっと調べてみるかと、ステータス確認。
名前:茶々
職業:なし
茶々!
たしか後の淀殿だよな、秀吉の側室で秀頼を産んだ。
なんかすっごく高慢ちきなおばさんってイメージだったけど、そりゃまぁ娘時代はあるわぁな。
すっごく可愛いじゃん。
とか一人感慨にふけっていたら、茶々がグリフォンをモフりまくってた。
「うわ、思ったより柔らかい」
うんうん、こいつモフるのすっごく気持ちいいんだよな。
「茶々、なんなら乗ってみるか?」
「あれ、名前教えたっけ?」
いけね、まだ聞いてなかったな。
「まぁいいや。乗りたい!」
茶々の目がすごくキラキラ輝いてる。
「でもその着物じゃムリか」
「うー、着替えてくるのは大変……そうだ!
抱っこして乗せて!」
「……抱っこ?」
「いいでしょ、ね、お願い」
「そりゃまぁいいけどさ」
俺は茶々を抱きかかえたまま、グリフォンにまたがった。
やわらかいな、こいつ。
女の子に触れること自体がひさびさだから、結構やばいな。
「暴れたりするなよ、危ないからな」
そのままゆっくりとグリフォンは飛び立った。
茶々は俺に必死にしがみついてる。
お嬢さん、そんなに無邪気にしがみつかれると俺の理性がやばいんですが。
「うわぁ! すごーい。本当に飛んでる」
城の上空を一回りしてまた元の位置に降り立ち、茶々を庭に降ろした。
「ありがとう。すっごく楽しかった。
また乗せてもらえる?」
「いつでもいいぞ」
「わーい。
あ、お母様に呼ばれて行く途中だったの。あまり遅いと怒られちゃう。
またね」
茶々は建物の中に駆けていく。
んー、なんかいいな。
気に入っちゃったかもしれない。
☆
会議までの数日間、知り合った茶々とのデートで過ごした。
こっちに来てからずっと野郎にばかり囲まれてたからな。
可愛い子と話してるだけで潤いがあるってもんだ。
どうやら、茶々は十四歳とのこと。
女子中学生ってところなのね。
まだ子供と思ったが、この時代はもう普通に結婚とかする年齢らしい。
そういう話もすでにちらほら出てるとか、けしからんことだ。
なんとか潰そう。
そのまま会議の日を迎えたが、どうやら官兵衛の台本通りに上手く行ったようで俺の出番はないままに終わった。
面倒がなくて大変結構なことだ。
柴田勝家にちょろっと挨拶しただけで俺の出番は終わった。
柴田のおっさん、すっごく不機嫌そうだったがな。
会議の結果はこんな感じらしい。
織田家の後継者はこちらの主張がとおり三法師に。ただし後見として織田信孝がつくことになった。
織田家の旧領のうち美濃は織田信孝に、尾張は織田信雄に分割し、残りの領地を三法師が相続することになった。
また明智領は山崎の合戦で功のあった各将が分割することに。
具体的には、近江の旧領を丹羽長秀に、摂津の旧領を池田恒興に、丹波と河内の旧領を小一郎に、淡路の旧領を小六に、播磨の旧領を官兵衛に。
そして山城の旧領をなんと俺にということになった。
領地とかもらってもしかたないから、いらないって言っておいたのに。
俺は出来る限り表に出ないで裏方ってことしておきたいんだけどなぁ、そのために小一郎を前面に出してるのに。
なかなかそうはさせてくれないようだ、困ったものだな。
まぁ山城といっても領地は半分以下の八万石、主に南東部となる。
京から摂津や河内へ行くには俺の領地を通らなければいけないってことか。
どうせ官兵衛の悪巧みに使うんだろうな。
それより、会議のついでに決まったことが唯一の気がかりだ。
柴田勝家が信長の妹お市の方と再婚することになったようだ。
お市の方は茶々の母親。
ってことは、柴田勝家が茶々の義父ってことになったのか。
妙な具合になってきたものだ。
第1章 完