1-1 何故か戦国時代へ
新連載よろしくお願いします。
はじめての歴史物にチャレンジです。
まえがきにも書きましたが、
当時の習慣とは違い、ほぼ武将名は現在一般的に使われている名称を使ってます。また会話が現代調なのは主人公の異言語会話スキルでわかりにくい言葉が勝手に翻訳されるためってことにしておいてください。
時代考証は、ほぼ気にしてません。
勇者ショウタは仲間たちとついに魔王を追い詰めた。二時間に渡る激戦の末、ショウタの剣は魔王の心臓を貫いた。
ここでの二年に及ぶショウタの異世界の旅は終わりを迎えたのであった。
魔王の滅びた後には旅の扉が青く光っている。
「皆、長い間ありがとう。
俺はこれで元の世界に戻ることにする」
ショウタが仲間にそう告げた。
「どうしても行ってしまうの?
この荒れ果てた世界の復興にあなたの力はまだ必要なのよ」
仲間の女性僧侶が、さびしそうに俺に語りかけてきた。
「それはお前たちの役目だろ。
俺はあくまでよそ者、魔王なんていう常識はずれの存在に対抗するために召喚されただけの存在だ。
俺みたいな強すぎる力は、これからの時代には不要だよ。
これからの時代はお前たちの当たり前の力で作っていくべきだ」
「わかってはいるんだけど、さびしいの。ショウタがいなくなるなんて」
「なんだかんだと言って二年間生死を共にしてきたお前たちと別れるのは、俺だってさびしいとは思うけどな。
だが、お前たちはこれから、そんなこと言ってられない厳しい時代が続くぞ。
俺は元の世界で楽させてもらうけどな」
「最後まで憎まれ口ばかりたたいて」
「しんみりした別れは俺には合わないからな。
じゃあな」
これ以上話してると、見せたくない涙とか見せちまいそうだ。
俺は別れを告げると旅の扉に飛び込んだ。
☆
そうして俺は元の時代に……って、ここどこだよ?
確かに今までの中世ヨーロッパ風の景色から、日本風の町並みになったけどさ。
これなんだ?
道は舗装してないし、家は平屋建ての木造ばかりでなんか地味、電柱とかも見当たらないな。
どこの田舎だよ。
人影がいないのは、もう夜のせいかな。
だが家々には電灯とか灯ってないし、どうなってるんだ。
む、遠くから物音がするぞ。
耳をすますと、どうやら無数のヒヅメの音のようだ。
馬かよ、とりあえず、行ってみるか。
音のする方向へ駆けていくと、一騎の馬を追いかけ十騎の馬が迫っている。
逃げている馬は坊さんのように見える。どうやら小さな子供を抱えているようだ。
そして追いかけている十騎の姿を見ると……
侍かよ。
江戸時代かそれ以前の時代に迷いこんじまったようだな。
そんなことを考えてるうちに後続の侍の一人が矢を放ち、逃げている坊さんは落馬した。
そして、追いつくとすぐに切りかかった。
どちらが悪いとかはおいといて、これは見過ごせないな。
弱めの風魔法で後続を吹き飛ばして、とりあえず坊さんと子供に回復呪文を。
そして坊さんの前に瞬間移動。
「いきなりで事情はわからないが、大勢で小さい子供連れに対してちょっと乱暴がすぎるんじゃないか?」
「ジャマするんじゃねぇ。そのガキを生かしておくわけにはいかねえんだ。」
んー、なんか勝手にスキルが一部翻訳してる気がするが、向こうも日本語っぽいのを話してるようだな。
ってことは、日本の過去の時代ってことで間違いないのか。
落ち着いて分析してたらいきなり切りかかって来やがった。
元の時代から来たばかりの頃だったらビビっちまったかもしれないけど、二年以上乱暴なところで暴れてきたばかりだからな。
いろいろ考えるより前に手が出て、全員斬り殺しちゃったよ。
うーん、俺ってずいぶん物騒になってるな。
「おい、坊さん。
大丈夫だったか?」
「斬られたはずがなんともないぞ。なんだ、これは」
「俺が治しておいた。
まぁあの程度の斬り方で即死はありえないからな。
血が結構出てたから体力が減ってると思うが、ちゃんと飯食って一晩寝ればそれも治るはずだ。
そっちの子供もびっくりして気絶してるだけだな。
ちゃんと傷は治してある」
「どのような力かはわかりませんが、助けてもらったことは間違いないようだな。
ありがとう。
私は前田玄以と申す。
助けてもらっておいて厚かましいのはわかっておるが三法師様を岐阜か清洲まで無事にお送りしたくご助力を」
前田玄以……三法師……なんとなく聞いたことがあるような名前だなぁ。
うーん、それほどメジャーじゃないんだろうな、思い出せん。
「悪いんだけど、いろいろ事情がさっぱりわからない。
すっごく初歩的なことから聞いて悪いんだが、今って何年?」
「すまぬが、次の追手がくるやもしれん。
できれば早めに行動したいのだが」
「そうだな。
じゃ、とりあえず……そうだ、そこの寺の境内にでも」
二人を連れたまま近くに見えた寺の境内に瞬間移動し、そのまま三人の姿を透明に変えておいた。
「な、なんだこれは。
バテレンの魔法か」
「たぶんバテレンの人もこういうことできないと思うぞ。
まぁ俺だけが使える法力だと思ってくれ。
一応俺も人間だが、天狗とか役行者とかそういったあたりの力があると思ってくれていい。
音も遮断してあるから、これで誰にも見つからずゆっくり話せる」
「……わかった。というかちっともわからんが、火急の際だ。何か優れた行者だと思っておく。
それで、今が何年と聞いたな。
若く見えるが何十年も山で修行でもしていたか?
今は天正十年だ」
天正……うー、わからん。和暦使ってるのは当たり前か、西暦とか聞いても知らんだろうなぁ。
「すまん、わからんから、まぁそこはいいや。
何があったのか簡単に教えてくれないか?」
「そうだな、妙覚寺におったところ、惟任日向守の謀反により岐阜中将様が討たれ申した。
たぶん、右府様のところにも同様に。
ここにおわす三法師君は岐阜中将様の嫡男にございます」
「惟任日向守……!
明智光秀か!
そうだな?」
「さようにございます」
ということは、本能寺の変ってことか。
時代の激動期だな。
あれ?
この坊さんはよく知らないけど、三法師ってたしか後々、清州会議で秀吉が利用してなかったっけ?
記憶が微妙だけど確かそんな流れだったと思う。
でも、さっき俺が助けなかったら、三法師死んでたよ。
変じゃない?
これどうなってるんだよ。
※本能寺の変の際、前田玄以が三法師を連れて脱出したという話は間違っているという説もあるようです。
というか、すでにこの時点で歴史はいろいろ歪んでいるため、元の歴史の事象と1つ1つ比較してもあまり意味はないと思うので気にしないでください。
夜、もう1話投稿予定です。