私とワタシたちの物語
体育館から声が流れて来る
暗い階段をゆっくり登っていく
職員室から撮った屋上の鍵を差し込む
屋上のフェンス越しに靴を脱ぎかけた時に
私は気づいてしまった
三つ編みの先客に
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どうやって入ったのとかそういうことの前に私は言ってしまった。口をついて出ただけだった。思ってもいなかったのに。全然言える立場じゃないのに
『ねぇ、やめなよ』
三つ編みの子は振り向いた。
「ワタシに言ってるのそれとも自分に?」
三つ編みの子は力なさげに言った。
私はその見透かしたような物言いに少しカチンときた。しかし実際見透かされてるのだ。お互いやろうとしていることは同じなのだ。どんな気持ちかは、痛いほどわかるだろう。
ここにきてようやく普通の質問が浮かんできた。
「それにしてもどうやって私より先に入ったの」
そうなのだ。鍵はこの手に握られてる。ピッキングでもしたのだろうか?
「そんなのどうだっていいでしょ。それより目的アレれでしょ、理由は何よ?」
またも見透かされた。その上私の質問はスルーされた。
「そんなのどうだっていいでしょ。」
私もスルーしてやった。
「そう、ワタシはねちゃんとした理由と覚悟を持って来たの。」
「何それ私がなんの理由もなく覚悟もないみたいじゃん。私だってそれなりの覚悟と、理由を持って来たはよ!!」少し強がったかもしれない。理由はあっても覚悟はあまり持ってなかった。
「そうなの。ワタシの理由はね・・・」
やめろ、他人の自殺理由語りとか聞きたくない。そんなの聞いたら私がちっぽけになるじゃないか・・・
「運命の人だったの。」
「え、」
「初恋だとかそういうのではなかったけど、どうしても愛されたかったの。でもそれは叶わなかった。」
(ちょっと待て、今私の目の前の三つ編みのこいつは恋一つで自殺しようとしてるのか?なんという・・・そんな理由で・・・)
私は酷く自分がバカバカしくなるのと同時に怒りが湧いてきた。口から出てきた言葉は、怒りに満ちていたと思う。
「ふざけんな!!」
三つ編みの子はあからさまに驚いた
「そんな理由で私より先に逝こうだなんて私が許さない!もっと生きて新しい運命探せよ!それに・・・ここにはもっとみじめな私がいるんだから。」
三つ編みの子は少し苦笑した後ゆっくりと立ち上がった
「そうね。もう少し生きてもいいかもね。あなたの理由は知らないけど、その口ぶりだとそれなりな理由っぽいはね。じゃあ待ってあげるアナタが逝くまで。それになんか話したら楽になったし、今日は興が覚めちゃったし、帰るね。」
三つ編みの子は少し明るい表情で階段の暗闇に消えてった・・・。
「私も帰るか」
三つ編みの子が消えてしばらくして私も階段を降りてった。体育館からの声はもう聞こえない。代わりに生徒の声が廊下から流れてきてる。もうすぐ放課後だ・・・。
ーーーーー次の日ーーーーーー
音楽室からだろうか?歌が流れてくる
前回は放課後目前だから人がいたと推測し、午前中の授業を抜け出してきた。
そういえば学校では屋上のカギが盗まれたと少し騒ぎになっていた。そのせいか、扉の前には物々しいバリケードが作られてる。
まぁ私には関係のないことだ。それにしても窓のない暗い階段にバリケードとはなんとも怪しげだ。
そのバリケードを無理やり撤去して私は屋上に入る。
フェンスの前で靴を脱ごうとする。そのとき私は見てしまった。自分の斜め後ろで同じように靴を脱ぎ掛けてるー背の低い女の子をー
『『あっ、』』
またか。口には出さなかったが心のなかで確実につぶやいた。
背の低い女の子はなぜかびくびくしている。飛ぶ前は皆三つ編みの子のように肝が据わるわけではないみたいだ。ここは先手必勝と私から声をかけた
「その様子だとアナタも飛びに来たの?私も飛びに来たの。だからさ、今日は帰ってくんない?一人で逝きたいの。」
「そ、その、ね、願いはワタシは聞けません。なぜならワタシはそれなりな覚悟を持って今日は来たんです!」
覚悟とかなんか、三つ編みの子と同じようなこと言い出したぞこの背の低い子。それにしても背は小さくても度胸は大きいと来たか、なんかいじめられそうな体質だな。と、私は思った。
「私だって今日こそ飛ぼうとそれなりな覚悟を持って来たよ」
自分で流れを着くっておいてアレだが、やばいこの流れはアレだ。飛ぶ理由を語って相手を納得させて帰らせるやつだ。この背の低い子も三つ編みの子と同じくくだらない理由だったら突き落としてやろう。と、心の隅で私は謎の決心をした。
ここで背の低い子がつぶやいた。
「ワタシには・・・もう、居場所がないんです・・・」
「・・・え、」
「アナタにわかりますか。無視されて、自分の居場所が奪われて、どこにも居れなくなったワタシの気持ちが」
やばい、これは実にやばい。言葉は少ないが明確に解った。この子はいじめられてる。
三つ編みの子と違いかなりヘビーだ。それでも・・・それでも私はこの背の低い子を追い返さなきゃいけないんだ。追い返せなきゃ今現在の私自身の飛ぶ理由が揺らいでしまう。
追い詰められた私は、三つ編みの子の時と同じことを言おうと決めた
「ふ、ふざけんな!!」
三つ編みの子は、かなり驚いていた。そりゃそうだろう。一発KOなみのパンチを当てたと思ったら、突然相手が反撃してきたのだから。
私は優しくそれでも、口調は強く続ける。
「それでもアンタは家では優しくされてるんでしょ。温かいご飯もあるんでしょ!?ならそんなことくらいで私の先を越そうだなんて、許さない!!」
「ワタシは・・・」
「もう一回頑張れよ。私の知ってる奴は話したら楽になったって帰ってたぞ・・・」
背の低い女の子は少しうつむきがちに、ワタシおなかがすいた。と、言い階段の暗闇に消えていった。・・・
(キーンコーンカーンコーン)
3時間目終了の鐘が鳴った。私もおなかがすいてきた。
「飛ぶのはまた今度にするか。」
独り言を言い私は教室に戻ろうとした。
グラウンドには遊びに来た男子生徒がいた。廊下からは生徒の声が聞こえてきた。暗闇溶ける寸前無限に広がるかのように思える空に一本の飛行機雲が見えた。闇に溶けながら次こそ飛べるといいなと、私は心にもないことをつぶやいた。
ーーーー次の日ーーーーーー
学校中から音が消え去っている。
静寂で耳が痛い。
足音がやけに響く。
私のせいでできたバリケードも今では学校名物だ。
そして今回も私は屋上に飛びに来てる。
まぁたぶん今回も先客が居てくだらない理由を言われて飛ぶのは延期だろう。
と、思っていたのに・・・
今回の先客は黄色いカーディガンの女の子だった。
一目でわかったこの子は違う。
それでも私は声をかけずにいられなかった。ホントはどうでもよかったのかもしれない。また思ってもいないことを口走ってしまった。私はなんてお人好しなのだろう。
『ねぇ、やめなよ』
「誰に言ってるの?」
黄色いカーディガンの子は真顔で聞いてきた。
「私たち二人しか屋上にいないんだから、あなた以外ありえないでしょ。」
「それもそうね。でもなんとなくワタシにではなく自分自身に言い聞かせるような物言いだったから。」
私はカチンときた。三つ編みの子にも似たような風に見透かされた覚えがある。
黄色いカーディガンの子が続けて言った。
「ワタシね、飛びに来たんじゃないの。」
私は驚いた。今までのパターンと違う。
「なら何しにここに来たんだよ。私は飛びに来た。」
覚悟があるとは言えなかった。なぜか言えなかった。黄色いカーディガンの子に気後れしたのか、はたまた今までの女の子たちを止めてきたせいなのか・・・
「ワタシはね私と私の痣を消し去ってしまうためここに来たの。だからワタシは飛ぶんじゃないの。パソコンのデリートキーを押すようなものなの。そう、ただの消去よ・・・」
だめだ。私にはわかる。この子は今までの子とは違う。私と似てる。それで追い返さなきゃ。じゃないと・・・じゃないと・・・もう・・・ああ・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!・・・・・・
ああ、どうしよう・・・この子は私には止める資格がない。そして多分止められない。
それでも・・・それでも!!
「今日は私が・・・飛ぶんだ。だから・・・ここからは消えてよ。君を見ていると苦しいんだ。最後位楽に逝かせてよ。」
私は力なさげに言った。
黄色いカーディガンの子は、 「じゃぁ、今日はやめておくよ」
あっさりそう言い残して消えてった。この時点で私には
ー死ぬ理由しかなくなったー
ーーーー当日ーーーーーーー
今日は学校は休みで静寂に包まれている
先生たちは驚いていたがそんなの気にしない。
雲一つない晴天で絶好の飛行日和だ。
いつも暗い階段も珍しく明るい。
カツカツ音を立てながら階段を上る。
今日は誰もいない。私一人だけ。
誰にも邪魔されない、邪魔してはくれない。
飛ぶ前にワタシたちに感謝しなければ。
ワタシたちのおかげで今日まで生きられたのだから。
扉を開けたとき 黄色いカーディガンをぬいで
フェンスの前で 三つ編みをほどいて
校舎のふちで 背の低い私は、
『『今 か ら と び ま す』』
最後に見えたのは一筋の飛行機雲だった・・・
END
私と3日間を一本にまとめてみましたぜひ読んでみてください