作戦3:告白
ども。
猫が好きです。
『ナシア』
この国が半世紀近く前に併合した“下等民族“の地を指す言葉で、
ナシア人は生まれながらにして最底辺階級の民というわけ。
生かして貰えるだけありがたーい、っていうのが国民のナシア人に対する一般的な見方なんだねー。
「まさかナシア人部隊の生き残りがうちに来るとは思ってなかったな」
「五十嵐さん、デリカシーが足りない」
「あっ、すまん」
「…」
今の五十嵐の発言はリンにはきつかったみたいだな。
って、当たり前か。
ナシア人は国民とは違って、軍に徴兵されて本当に本当の最前線に送られる。
敵の戦車隊への切り込みをさせられたり、
地雷原を肩組んで横隊で歩かされたり、
シャベルだけ持たされて敵要塞の機銃へ突撃させられる。
そうやって敵の弾薬を消費させるし、国民兵の肉の壁にもする。
ナシア人は減らせるし純国民は減らさないですむ。
一石多鳥って感じだね。
って、それよりも五十嵐のせいで空気が重くなったぞ…。
あいつ本当に空気が読めないよな。
と思ってたら酒巻が歓迎会を提案してきた。
「錦織さん錦織さん、リンが新しくうちに加わった事だし飲みに行きません?」
酒巻、ナイス。
「いいね~、久々に『あさひ』に行こうか」
「いいですね!どうせすぐ前線に戻されますから早く行きましょう!」
「おやっさん元気だといいな!」
「五十嵐は飲み過ぎ禁止」
「寺門くんもセクハラだめよ~」
「俺はモテるからいいの」
「うわ~自分で言った~」
「ナルシストめ」
「事実なんだけどな~」
皆すっごい笑ってて楽しそうだ。
内地にいる兵隊には分からないだろうけどな、
“酒を飲みに行ける“っていうのはそれだけで有難いことなんだよ。
こんな世の中じゃ酒ぐらいしか娯楽ないから前線勤務は辛いんだぞ…!
俺は前世だとそんなに飲まなかった方だけど、
なんてもったいない事をしたんだと今も後悔してる…!
うまいビールが飲めるのは贅沢なことだったんだ…!
「あの…皆さんって…364小隊なんですよね…?」
「そうだけど?」
「申し訳ありません…ただ、聞いていた話と色々違ったので…」
「なんだいそれ」
「ほら、“ゴミ虫“っていうアレですよ隊長」
「あー、子供でも思い付くアレねー」
「そうそうあの不名誉なアレですアレ」
「5の364でゴミムシ。最初に言い出した奴ぜってーシメるわー」
子供でも思い付きそうな安易なゴロのせいでうちの隊は不名誉な事ばかり起きるんだ。
本当に迷惑千万だぜちくしょう。
「いや、私が言いたかったのは…皆さんの雰囲気と言いますか…とても帝国軍人とは…」
「あー…まあーもともと俺達は」
雰囲気の話ね。
うち上下関係薄いから兵隊っぽくないってよく言われるんだよね。
でもそれには理由がある。
俺達全員に共通してること。
軍の規律とかどうでもよく感じるレベルの体験。
“普通“が本当は“普通“じゃないって思い知らされる感覚。
“本当の自分“と“世界“を真に理解することができた存在。
そう、俺達は
「死人の集まりだからね」
ども。
犬も好きです。