表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会執行部!  作者: 神山叶花
1/1

《act.1 巻き込まれ台風にご用心!》

《act.1 巻き込まれ台風にご用心!》


私立此花学園しりつこのはながくえんは、お金持ちのご子息ご息女が通う事で有名な、少し偏差値の高い学校である。

幼児部から大学まで、エスカレーターで通える上に敷地も広大。

お金持ちの生徒が約8割を占めているせいもあるのか、学園設備は最高峰。

教師陣も優秀な人達が多く、学べる分野も多種である事から、子供を入学させたい父母は多数。

さらに、奨学生制度も充実していて、富裕層だけでなく、一般家庭でも知らない人はいないという程に知名度のある学園だ。

喉から手が出る程に通わせたい学園、とも称されている。

まさに非の打ち所がない、学園なのだ。


ーーーーーーーーーーそこに通うわたし、森下ほのか、高校1年生。ちなみに一般人です。

なぜかわたしは、今絶望の淵に追いやられていた。

ちらり、と目線を上げると腕を組んでわたしを見下ろす視線が痛い。






「さて…オマエ達は、何で呼び出されたかわかるか?」






皆目検討つかないです!

…と、素直に言えたらいいんだけど。


腕を組んで、いかにも怒ってますという態度を見せてくるのはわたしの担任である城井一馬しろいかずま先生。

教師としては、まだ若いのに色々と任されてるとても優秀らしいな先生だ。

この何もかもが上品で堅苦しい雰囲気の学園になぜ、こういうフランクなノリの人がいるのかわからないけど。






「いや、わからないですね。唯一わかるのは、オレも森下も“奨学生”だ、って事くらいです。あとは…日直だった、とかですか?」






同じく呼び出されたらしい隣に座る男の子は、同じクラスの朝比奈蓮夜あさひなれんやくん。

短い髪をガシガシと掻きながら答える態度は、このお金持ちの人達が集う学園には不釣り合いだ。

城井先生は、わかりやすく盛大な溜め息を漏らして肩を落とす。






「あのなぁ…ホントに理由、わかんねぇか?1回、自分達の“行動”振り返ってみろよ」






城井先生の口調も、この学園の雰囲気に似合わない気がするけれど。

行動を振り返ってみろ、と言われてわたしも朝比奈くんも、暫し回想してみる。



ーーーーーーーーあ。

“普通”だと思っていた事だけど、もしかしたらこの学園では、違うのかもしれない。






「「バイト…?」」






2人して口に出してしまうと、城井先生はお腹を抱えて笑いだした。

…失礼極まりない人だな、この人。






「ほーんと、オマエら共通点ありすぎだろ!同じクラス、同じ奨学生、でもってバイト先は近所…って仲良しか!少女漫画でも今時こんな事ないだろー?見つけたのがオレでホント良かったよなー…感謝しろよな!」






そう、踏ん反り返って言う先生はとても偉そうだ。

なんでも、奨学生のルールの中に“アルバイトの禁止”というものがあるらしい。

一応、これはルール違反として“ペナルティ”があるそうでこれが学園側に知られると、奨学生の資格を失ってしまう可能性があるとの事だ。






「そんな、それは困ります!知らなかっただけなんです!なんとかしてもらえないですか!?」






わたしがバイト始めたのは、母の手助けがしたかったからだ。

知らなかったわたしも悪いけど、この学園に入学出来ることを知って喜んでくれた母を悲しませてしまうのも本末転倒。

それは、どうやら朝比奈くんも同じだったみたいでわたし達は2人とも先生に詰め寄っていた。






「そんな事だろうと思って、用意はしておいた」






先生がさっと、見せてくれた二枚の紙。

そこの表題には“アルバイト申請書”と、大きく書かれていた。






「本来ならこういうのを出す事自体、滅多にないんだが…オマエらの家庭環境を知っていてなおかつ、理事会にツテのあるオレが作成してやった。これを記入し、速やかに提出すればお咎めはなしだ」





「「ありがとうございます!」」






城井先生、普段はやる気ないのになんていい人なんだろう!

受け取ろうと、手を伸ばすとなぜか、その手は空を切った。

ん?と首を傾げていると、先生はにやりと口角を上げていた。






「誰がタダでやるって言った?物事はギブアンドテイクで成り立つんだぜ?これをやる代わりにオマエらにはオレの“お願い”を聞いてもらおうーーーーーーーー“中央棟の三階”に行け。出来るな?」





そういう先生の表情は、もう自信に満ちた挑発的な笑みが浮かんでいて。

わたしも朝比奈くんも、こくりと首を縦に振って承諾してしまっていた。

部屋から出て、お互いに唖然。

流れるように話は終わって、わたし達はどちらからともなくお互いの顔を見合わせた。





「偶然が重なりすぎるのもすごいよな」






さほど、気にしていないのか朝比奈くんはけらけらと笑いながらそう言ってきた。

つられて、わたしの頬も緩んでしまう。






「本当だね?とりあえず…行ってみる?中央棟の三階」



「そうだな…奨学生じゃなくなるのもマズイけど、親に連絡されるのはもっと勘弁」



「確かに」



「「……」」







まさか、朝比奈くんも奨学生だとはわたしも知らなかったけど。

これはこれで新鮮だ。

わたし達は当たり障りのない会話をしながら、足を進めた。






「朝比奈くんは、どうしてこの学園に?」



「ウチ、まだ下に弟妹が3人いるんだよ。極力家族に負担をかけないようにちゃんと自立して、安定した収入のある仕事に就きたいって漠然と考えてたのがきっかけ。まだ何の仕事、とか決めてないけど…とりあえず勉強したい」



「わ、すごい。あ、すごいっていうのは失礼か…でも色々考えてるんだね」



「森下は?」



「わたし?わたしは…母子家庭で。母さんを助けたかったから中学卒業したら働こう、って思ってたの。そしたら…母さんに泣かれちゃって。“ほのちゃんはあたしみたいになったらだめー!”って進路面談でも泣くから。だから担任の先生にここの奨学生受けてみたら、って言われてね」



「泣くとか、お母さん可愛い人だな?」



「喜怒哀楽がすぐ顔に出るの。わかりやすくて助かるけど…妹がまったく逆」



「妹いるのか…いくつ?」



「4歳。すっごく大人しいの。あまり話さないし」



「うちのチビ達と同い年だな…オレも一番下の妹が双子で4歳なんだよ」



「双子ちゃんなんだ?可愛いだろうなー」



「まさか。毎日うるさいくらいだ」



「あはは」






なかなかに話が弾む。

久しぶりに楽しい、だなんて思ってしまう。

正直、この学園に来てからは孤独だった。

ここの奨学生制度というのは、“特殊な決まり”があるらしい。


その決まりに該当する生徒ならば入学可能、というよくわからない仕組みでわたしの中学からは、どうやらわたしだけの入学だった。

お金持ちの子供の集まりで成り立つクラスメートと、一般家庭のそれも母子家庭でちょっと貧乏なわたしとでは、気があうわけがなく。

入学してからもう2ヶ月がたつというのに、わたしは、クラスでひとりぼっち。


今回、こんな事がきっかけではあるけど、同じ価値観を持っている人と話せて嬉しかった。

朝比奈くんも、教室じゃあまり誰かと話をしてるようではないし…クラスの雰囲気に気後れとかしてるのかもしれない。






「あ、ここだ」






和気あいあいとした雰囲気で、ようやく目的地へと辿り着く。

中央棟には初めて来たけど、ここは部活動とかのエリアだったハズ。

部活入ってないから、入学式で貰った学校案内パンフレットで得た情報だけど。

でも、棟というよりも外観はまるで、外国の貴族が住むような洋館だ。






「ここ…本当に棟、なのかな……」



「少なくともオレ達が知ってるのとは、違うだろうな」






わたし達が想像しているのは、ドアがいくつも並ぶアパートみたいな建物だと思う。

普通、アパートにホテルみたいな看板はないし、口から水を出すライオンの像もいない……!!






「城井先生、ここで何しろっていうんだろうな…」



「とりあえず、3階に行ってみよう?」






がちゃ、と音を立てて金色のドアノブを押すとそこに広がる景色にわたしも朝比奈くんは絶句。


何で床に赤い絨毯があるのか。

脇に見える高価そうなソファとテーブルは何に使うのか。

ああ、突っ込んだらキリがない…!


とりあえずわたし達は、恐る恐ると中へと進んで行く。

螺旋階段を一段、また一段と上がる。

2階までは、同じような扉が広がっていたから一応、部室としての役割は担っているようだった。






「あ」






階段を進む足が止まった。

どうやらここがゴール地点らしい。

先を歩いていた朝比奈くんが、なかなか前に進まないのでわたしはこそっと覗き込む。


そこには一際大きく、立派な扉が1つしかない。

どん、と構える扉の真上には“生徒会室”と書かれた表札。

しかも金色の字。

……後付けされたのかな?






「生徒会室に入ればいい…のか?」



「そこしか、部屋…ないもんね」






恐る恐るがさらにゆっくりした足取りになる。

何で生徒会室?意味がわからない。

扉の前に立つと、階段から見た時よりもずっと重みを感じるくらい立派だった。


朝比奈くんが扉を押すと、それはすんなりと開く。

目の前に広がっていたのは、ちょっと高価そうな机が8つ。

そして、一際大きな机には大量の紙が無造作に積まれていた。






「失礼しまーす…」






とりあえず中に入ってみる。

いつの間にか、わたしが先頭になっていたけど生徒会室には机と椅子、何かの資料の入った棚しかなかった。

と、書類の山で見えなかったけど、椅子に人の気配を感じる。

息を呑んで、それに近付くと机に突っ伏して寝ている人がいた。

誰だろう?

突っ伏されてるから、顔が分からないけど…男の子だ。

このピシッとした制服にそぐわないフードが襟足から出ている。






「森下、むやみやたら近付くのやめた方がいいんじゃないか?」



「え、でも…もしかしたらこの人が何か知ってるかもしれないし……」



「だとしても…“そいつ”はやめといた方がいいぞ」



「??」






朝比奈くんは、こちらを向きながらも後ずさりしている。

いやいやいや。

ますます意味がわからない。

と、椅子にいた男の子がピクリと動いた。

ゆっくり体を起こすと、こちらを振り返る。

あれ?この顔、どこかで見た気がする…どこだったっけ?





「オレのきちょーな時間…じゃま、すんのはだーれだぁ……?」



「へっ?」





あら、意外にイケメンだ。

寝ぼけ眼で、焦点が定まってないけど赤茶色の髪が派手な事以外に気になるところはない程。

ずいぶん整った顔をしてるなぁ…

と、ミーハーな事を考えていると。






「なら…覚悟は出来てんだろうなぁああぁぁああっ!!!!」



“バキッ!!!!!”



「あ?…誰、あんた」






訂正。

カッコいい人だけど、無茶苦茶怖い人だ…!!

机が真っ二つに割れたんだけど!

書類散らばってるし!

なんで!?目が据わってるんだけど!

え?えっ?どういう事!?

しかもとんでもなく不機嫌な声だ。

なんとか答えようと唇を動かすけど、声が出なかった。

目の前で起きた事が、あまりに衝撃的過ぎて腰も抜けてしまってる。





「やっぱ“氷の狼”の名は健在だな」



「はっ!?朝比奈くん、知ってるの!?」





あ、声出せた。

淡々と答える朝比奈くんに驚きが隠せない。

わたしの気持ちに気付かないのか、朝比奈くんはさらに続けた。






「ヤツの名前は、久我帝くがみかど。入学式の時に式辞、読んでただろ?めちゃくちゃ頭いいんだよ。でもって、元不良。武闘派で、絡まれたケンカは全て勝ち越し。最強だと謳われていた。誰とも群れないままに不良として頂点に上り詰めていったけど、中学卒業と同時にぱったり引退したっていう伝説の人。あげくについた通り名が“氷の狼”っていう、この学園じゃ異色の経歴の持ち主」



「誰だ、オレのはっずかしー過去をペラペラ喋ってんのはー…って、客?」






赤茶色の髪をがしがしと乱暴に掻いて欠伸しながら、彼は机をきちんと立て直して、書類も元に戻す。

ーーーーーーーー何、この台風みたいな人。

いや、例えるなら嵐?


わたしが訝しげに視線を送っていると、渦中の人はさっきとは打って変わってにっこりと笑っていた。






「ごめんねー?オレの寝起きって、ゲキ悪らしいんだけどさー…自分じゃわっかんねぇんだよね!記憶にないし。ケガとかしてない?」



「あ、はい…」






なんだ、意外と紳士ですっかり拍子抜けだ。

差し出された手にそっと手を伸ばすと、わたしを立たせてくれた。






「オレ、久我帝!1年で…生徒会長やってます、よろしく!」



「ああ、同い年…よろしーーーーーーーーって会長ぉぉぉおお!?」






1年で生徒会長!?

どういう事?何それ何それ!?

え?どういう事なの?






「とりあえず、そっちに来客用のソファあるから…そこに座れよ」






そう言われて朝比奈くんは、素直に従って入口の近くのソファに腰掛ける。

…どうして朝比奈くんはそこまで冷静なの?

もうこの空間にはツッコミどころしかないのに。

わからないものは、聞くしかない。

だって、そうやって育ってきたし…それしか方法が思いつかない。

わたしも、朝比奈くんの隣に腰を下ろした。






「やー…すまんすまん。ちょうど全員出払ってるから茶菓子の1つもある場所がわかんねぇや。いつもならこういうの得意なヤツがいるんだけど」



「お構いなく」



「あの!何で生徒会長なんですか?」






色々ツッコミどころが満載すぎて頭の中が整理出来てないけど、一番の驚きだった事をわたしは問いかけてみた。



この学園には生徒会が存在しない。


理由はよくわからないけれど、その代わりに“規則の番人”やら“学園警備隊”やらとても穏やかではない通り名を持つ“風紀委員会”が全委員会の統率と学園の風紀を守っているとかで、事実上の学園の組織トップは“風紀委員会”である、と入学前のオリエンテーションで聞かされた。

それが、どうして。


わたしが聞くのを待ってましたと言わんばかりに久我くんは、ニヤリと笑う。






「簡単な話だ。聞いた事あるだろ?最近起きてる“不審者による盗難、盗撮事件”ってヤツ」



「最初は用務員の私物がなくなった事がきっかけで徐々にエスカレート。極めつけは3日前に起きた女子更衣室の盗撮事件…ってのだろ?」



「へー…オマエ、詳しいじゃん。何?実は新聞部で取材とか?」



「家がここから近いからな…噂は色々と耳に入るんだ」



「ふーん…」






いやいや、何2人だけでわかる会話してるの?

っていうかわたしの疑問は無視?

わたしが不服そうにしていると、久我くんは悪びれた様子もなくさらりと告げる。






「ま、そんな事件があったにも関わらず、風紀委員のアタマのかったーい奴らが使い物にならないから、もっと具体的に権力の持てるヤツを集めて事態の収拾をしよーって事で…お呼びがかかったのがこのオレ」



「1年生なのに?」



「かず兄ーーーーーーーー城井先生からの命令には逆らえねーからなぁ…あの人、実は生徒会顧問なんだぜ?学園理事とは、幼馴染みだとかなんとかだし」






存在しない生徒会の顧問って何?

というか、城井先生は一体何者なの?

久我くんは、この学園にとってどういう存在なのよ。

もう意味がまったくわからないんだけど…突っ込むのもだんだんキツくなってきた。






「ま、そんなわけでまだ結成されて3日とかしかたってねぇんだけど…だいたいシッポはつかめてきてるんだよなぁーーーーーーーーで、オマエらは何しに来たわけ?“目安箱”は空っぽだったし…“依頼人”ってわけじゃないよなぁ?」



「オレ達は城井先生にここへ行け、と言われただけだ」






朝比奈くんの言葉に、わたしは何度も頷く。

何をやらされるのかは検討がつかないけれど、バイトの事を早く承認して貰うためには仕方がない。

ここは、潔く任されてみようじゃないか。

例え、ツッコミどころが多い場所でも。






「かず兄が?ーーーーーーーーああ、そっか!」






何かを思い出したのか、久我くんは書類の山をかき分けて、見つけたらしい書類をわたし達にに見せてきた。






「オマエら、かず兄が寄越した“庶務”だろ!ちょうど2人分あるし!」



「「……」」






突き出された書類に目をやると、それには仰々しい字で“任命状”と表題に記され、わたしと朝比奈くんの名前が書かれていた。

ーーーーーーーーご丁寧に“断ったらバラす”と走り書きされたメモ付きで。


わたしと朝比奈くんは、顔を見合わせるとため息を1つ漏らして同時に言葉を発した。






「「その通り、です……」」






城井先生には、絶対逆らわないでおこう…

そう心に固く誓った。






「なんだ、もう来ていたのか帝」



「みかくーん、ひめお腹空いちゃったんだけどぉー…帰っていい?」



姫乃ひめのちゃん、まずはお仕事をちゃんと終わらせてからにしましょう?今日は、茶道部から美味しい水羊羹もいただいた事だし…ね?」



「わぁい、じゃあまだかえらなーい!陽汰ようたもいいよね?」



「……構わない」






話が丸く収まった所で、ぞろぞろと見知らぬ生徒達が生徒会室にやって来る。

なんていうか、見た目から派手な人達だ。

制服改造してる人もいれば規則に則ってちゃんと着てる人もいるし。

……でも。

ちゃんと着こなしてるというか、だけど立ち振る舞いが優雅というか、華があるというか。

ーーーーーーーーやっぱり、お金持ちのセレブさんは見た目から滲み出るオーラが違うんだなぁ…

それにひきかえ、ちんちくりんで平凡なわたし…うわ、猛烈に帰りたい。

そして、今泣きたい気持ちでいっぱいだ。






「おい…馬鹿帝、オマエまた机を破壊したな…?」



「お?こわしてはねぇよー?ちょっと寝ぼけただけー」



「誰だ、帝を1人にしたクズは!!また修繕費がかかるだろうが!」



「えー?ひめ、寝てるみかくんに近付くのだけはイヤー…まるでおなかをすかせたオオカミみたいで怖いんだもーん。陽汰、もう一口ちょーだい」



「姫乃、もう3つ目だぞ…水羊羹」



「いいじゃん別にー!帰ったらシェイプアップするもーん!陽汰のばぁーかばぁーか!!」



「姫乃ちゃん、それなら飲み物を常温のお水に変えてみたらどうかしら…それなら少しはカロリーが抑えられるわよ?」




「さっすがみぃちゃん!美人さんが言うと説得力あるぅ!」



「あら、ありがとう」



「顔“だけ”美人のアドバイスね…」



「郁人くん、何かおっしゃいまして?」






ーーーーーーーーとてもお金持ちの人達がするような会話に聞こえないけれど。

わたしは、小さくため息を漏らす。

ああ、早く帰りたい…帰ってほたる(妹)と遊んでたい。

そんなわたしの様子に気付いたのか、久我くんがおほん、とわざとらしく咳払いをする。






「さて…新しい仲間が来た事だし、ちゃっちゃと自己紹介してーーーーーーーー“本題”に入るぞ」






ニヤリと笑う久我くんは、まるで新しい玩具を見つけた“子供”のようだ。

……なんで、この人が生徒会長なんだろうか。






「ここは“役職的”にいくなら新入りからが妥当だろう…君からどうぞ」



「1年の朝比奈蓮夜だ」



「も、森下ほのかです…1年です」






そして朝比奈くんは、順応早すぎ!!

なんでそんな冷静でいられるの!?






「ふむ…庶務の次は、じゃあ次は俺」

「まぁ、大変!せっかく来てくださった方達におもてなしもせずに…よろしければ、こちらのお茶菓子をどうぞ?このお茶、私の家で祖父が育てた茶葉なの。私は、“会計”の逢坂美鶴おうさかみつるです…同じ1年生しかいないですから、敬語なんてものは使わなくても大丈夫ですわ」



「は、はぁ…」






さらさらの黒髪をなびかせてお上品な仕草でお茶を出してくれる和風美人さんーーーーーーーー雰囲気としては、美鶴様って呼びたくなる。

わたしの隣で、朝比奈くんは知ってか知らずか出されたものを黙々と食していた。

あまり物事に動じないタイプ、なのかな……






「おい、この二重人格女…普通、順番でいったらこの西園寺郁人さいおんじいくとが先だろうが……」



「あら嫌ですわ、天下の西園寺コーポレーションの御曹司がそのような余裕のない発言をなさるなんて…まるで女性の事を、非難しているかのようにとらわれてしまいますわよ?」



「オマエのその人をやんわり陥れようとする発言が腹が立つんだ!!同じ役職なのも本当に腹が立つ!!」



「私はとーっても楽しませていただいてますわよ?」





同じく、黒髪の男の子。

美鶴さんの綺麗な微笑みに“会計”の西園寺郁人くんは、地団駄を踏む。

思わず“さん付け”せざるを得ない雰囲気を纏っていらっしゃる微笑だ。

ーーーーーーーー美鶴“様”というのは間違いないかもしれない。





「はーい!ひめは“書記”でーす」



「姫乃、ちゃんとやれ」



「これでじゅーぶんでしょぉー!?ひめは、ひめって呼ばれたいしー」



「…“書記”の天宮姫乃あまみやひめの鳳凰院陽汰ほうおういんようただ。こう見えて姫乃は、天宮総合病院の娘だ。オレは…普通」

「陽汰は、鳳凰院建設っていうちょーカッコいい空間デザインと、洋服ブランドやってる会社のむすこじゃーん!!」



「...姫乃、頼むから黙って菓子を食べていろ」



「えぇぇぇー…ひめ、ほのちゃんとお話したぁい」



「後にしろ。優先すべき事をちゃんとしてから言え」





この2人が一番派手に見えたのは、そういうことか…

デザイナーの息子さんなら、服を自分好みに着たりするのあるかもしれないし。

それは、天宮さんも同じだけど。


天宮さんの制服にはレースやらフリルやらがついてて髪を結ってるリボンが頭より大きくて髪よりも、長い。

どこかの大型テーマパークの着ぐるみがつけてそうだ。

一方の鳳凰院くんは、シルバーのアクセサリーが至る所にくっついている。

チェーンだったり、ピアスだったり…いくつか校則違反だったような気がしたけれど、奨学生のルールを詳しく知らなかったわたしでは、もしかしたら何か知り得ないことがあるのかもしれない。





「で、オレがさっきも言ったけど生徒会長の久我帝、な?リーダーなり、好きに呼んでくれりゃいいからーーーーーーーーーーじゃ、ここからは本題」






久我くんの目付きが、変わった。

なんというか、据わってるというか冷たくなったというか…そういう目付き。

話してるとお調子者なのかなーなんて、失礼だけど思っちゃうけど、なんとなく。

この人が生徒会長、っていうのが少しだけ垣間見えた気がする。






「聞き込み、どうだったか報告あげろ」






そう言って立つのは、天宮さんと鳳凰院くん。

いつの間に取り出したのかわからない書類を読み上げだした。






「んー…今日は学園からちょっと遠い郊外まで出てみたよ!みかくんの言う通り、あの辺りは街頭の少ない民家ばっかりだったけど…おはなしがだぁいすきなおばさま達が多かったからわりと情報ははいってきたかなー」



「陽汰、要約!」



「…帝の言う通り、郊外まで調査範囲を広げてみたら怪しいアパートが一件、見つかった。それらは郊外の住宅街に住む主婦層からの情報で、そのアパートには人の気配がまったくないらしい。でも日中、フードを被った男の目撃証言が多かった。街灯の少ない道を1人で夕方から夜にかけてフラフラしているらしい」






天宮さんのあの簡潔な発言からどうやってそこまで話を広げられるんだろう…謎すぎる。

というか、どんな方法でそんな調査が出来るの?






「やっぱりそうか…じゃあ他には?」



「盗難、盗撮の被害を受けた生徒達に話を聞いてみましたわ?もっとも…風紀委員会に、尋問といった感じに根掘り葉掘りを聞かれたそうであまり話をしたくなさそうでしたけど…」



「この俺のおかげで、色々と聞けた!感謝しろ」



「嫌ですわ、郁人くんのおかげではなく…郁人くんのお父様の会社のおかげ、ですわよ?」



「茶番はいいからさっさと報告しろー」





半ば呆れ気味の久我くん。

美鶴さんと西園寺くんのこういうやり取りは、日常的によくある事なのかもしれない。

こほんと、西園寺くんがわざとらしく咳払いをすると続けた。





「被害者には“共通点”がある。それは間違いない!」



「ええ。もっとも…気弱そうな方ばかり、狙っていたみたいですけどそれだけではないようですわ」



「最初の被害者の用務員には話が聞けなかったが、目撃者からの情報によると犯人は、学園の部屋の位置を覚えてるみたいだそうだ」



「まるで学園に“協力者”がいる…と言いたいみたいでしたわね」



「部屋の数、人気のなくなる時間帯、教室の場所…念には念を入れて計画を立てて、覚えたんだろうなーーーーーーーーで、今回こんなのを見つけた」






そう言って西園寺くんが、見せたのは大量の写真だった。

ゆうに50枚程あるだろうか。

どれもこれも隠し撮りなのか、微妙にぶれていたり、映りが悪いものが多い。






「これは?」



「写真部が新聞部に売ろうとした写真を買収した」



「へー…そりゃよくやったな!うちの写真部と新聞部は、際どい事ばっかしてんのはウワサで聞いてたけど」



「“共通点”は、その中にありますわ」





美鶴さんの言葉にみんなが写真を手に取る。

朝比奈くんも、自然に交じってたからわたしもそれに習って見てみた。

わたしが見たのは、用務員さんらしい人の写真だ。

真面目に掃除をしているみたいで、大きめの竹箒を持って掃き始めた所らしかった。

なんだ、普通に掃除してるだけじゃない…






「あぁああーっ!?」



「天宮、騒がしいぞ!!」



「だって見つけちゃったんだもん!この写真の中にある“共通点”に!」



「ほー…姫乃、珍しく冴えてるじゃん。言ってみ?」



「ふっふっふ…いつもはこーんな話し方してるからバカだバカだ、って言われるけどひめはやれば出来る子なのよ!」



「おう」



「…頑張れ」



「そういうのはいいから早く言え!」





だめだ、どこに突っ込めばいいのかわからない。

この人達が、どう考えても風紀委員会より優秀だなんて思えないんだけど…わたしがおかしいのかな?


えっへん!と、得意げに胸を張る天宮さん。

でも、誰一人として信用していないのか反応が適当に聞こえる。


椅子の上に立ち、天宮さんは声を高々に告げた。






「この写真、可愛い子がどこにもいない!!」



「郁人、この辺りは関係ないよな?猫の仕業ごときで、かず兄が動くわけない」



「ああ。だが、この猫…用務員室に住み着いているらしい」



「風紀委員会の名が聞いて呆れますわ…猫を住み着かせるだなんて、衛生面や環境改善の事を考えてないですわね」



「……みんなしてイジメっ子になんないでよーっ!うわぁあああぁぁぁんっ!!!!」






この阿吽の呼吸。

突っ込んだら負けだ。

華麗に天宮さんをスルーする皆さんも皆さんだけど、鳳凰院くんに泣きつく天宮さんもこうなる事予測できたんじゃないかと思う。

日常的にあるみたいな口ぶりだし、なんというかこの人達はとてもじゃないけど即席で選抜されたメンバーじゃない気がする。

ーーーーーーーー今日からこの中でやっていかなきゃいけないなんて、毎日大変そう…

考えただけで、ゾッとする。

わたしは、写真に集中する事にした。


なんて事のない、用務員さんの掃除してる所。

ーーーーーーーーーーあれ…掃除、してるよね?






「どうして、ゴミがないんだろう…?」







疑問は、音として漏れて。

わたしの独り言は、がっつりとみんなに聞かれていた。






「ーーーーーーーー新入りその1、それはどういう意味?」



「森下ほのかです!この写真の束を見ていたんですけど…用務員さん、箒を持っているんですよ。掃除してるのかな、って最初は思ったんですが何枚かを追っていくと…ちりとりの中身、まったくないんです。この写真も…ほら、これもです」






わたしは、もう全員の名前覚えたのに…!

なんか屈辱だ。

とりあえずわたしは、気付いた事を述べてみる。

わたしが見ていた写真の束を進めていくと、みんなは確かに、と頷く。






「で、この写真なんですけど…用務員さん、誰かと会ってるんですよ。お子さんかなーって思ったんですけど…学園のいくら裏庭とはいえ、私服の人を招き入れるのかな、と思いまして」



“ガタンッ!!!!”





久我くんが写真をバサバサっと机の上に広げた。

そして、各自に渡していた写真のを数枚ずつ並べて見せる。





「この私服のヤツ、顔は映っていないがーーーーーーーー全部の写真に必ず、同じ格好で存在していやがる」





久我くんの言葉に、美鶴さんはパチパチと小さな拍手。

そして何故か偉そうに胸を張る西園寺くんだ。






「さすがリーダー…正解だ」



「お見事ですわ、帝くん」



「まぁなー!やれば出来るリーダーだからな?」



「もっと早い段階でお気付きになるかと思いましたけど」



「美鶴、笑顔で言うなよ…」



「それは失礼を致しましたわ?謹んで謝罪致します。申し訳ございません」



「帝、騙されるなよ…こいつは反省なんて出来るような性格じゃないからな!?」



「郁人は黙ってりゃインテリ系の頭良さげな人間に見えるのになぁー…一言余計だぞ」



「お前が言うな!!寝起き最悪野郎!」






脱線するのか真面目にやるのかどっちよ。

なんかもう、つっこむのも疲れてくる…

会話のテンポが早すぎてついていけない方が悪い気がしてくる不思議。





「となると…用務員、怪しくないか?」





この騒動の中にいるとは思えない程、静かに突っ込む朝比奈くん。

冷静にいられるあなたがわたしは羨ましいよ!!

でも、それはわたしも思ってた意見だった。





「確かに…用務員さんにはあんまり距離を取ってないというか…仲が良さそう?だからわたしもお子さんかと思ったわけだし」



「……」






久我くんが顎に手を当てて黙ったままなのを、わたしと朝比奈くん以外が固唾をのんで見守っている。

ーーーーーーーーーー普段からこういう風、なのかな?






「この用務員…グルだな。仲間でもない限り、フード野郎がすんなりと学園に入り込めるわけがない。守衛が校門前で守ってんだからな」






久我くんの、落ち着いた声音はもうそれは確信だと言わんばかりのトーンだった。

みんなそれぞれに頷く。






「決まり、だな」



「ええ」



「てっけんせーさい!しないとね?」



「不逞な輩は、早々に排除すべきだからな」



「ーーーーーーーーよし、行くぞ!カチコミだぁあぁあぁぁぁっ!!」



「「「おーっ!」」」






ついていけないついていけないついていけない…!!!!

待って待って。

何この、少年漫画とかにありがちな一致団結!勝利をみんなで掴む!!みたいな空気。

わけがわからない!!!

っていうか、カチコミって何!聞いた事ないんだけど!?


それぞれが、そのままの勢いで部屋から出ていくと残ってた久我くんがこちらをくるっと振り返る。





「何してんだよ、お前らも行くんだよ!」



「ちょっと展開についていけないんだが…どこに行くんだ?」



「お前ら、自分達で言ったじゃねぇか…用務員が怪しいって。んなもん、用務員がいるとこに決まってんだろ?」






ああ、そっか。

この時間なら用務員さんは、学内にいるはずだもんね…

あれ?じゃあカチコミって…どういう意味だろう?

そもそも、用務員さんは怪しいだけで犯人とは限らないし…

しかも、この広い学園の中でどうやって作業してる用務員さんを探すんだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ