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8話 夜の森で龍を探す~別に乳をバカにしてる訳じゃない~

 

 日は暮れかけている。1人は紅い瞳の残光を残し、1人は短い金髪をはためかせ、1人は影に溶けるように駆ける。

 

 俺とシェフィとクラムは暗い森を走っていた。先頭はクラム、後ろにシェフィ、真ん中に俺。これだけのスピードで走っていればクラムの胸は相当揺れるだろう。やましい気持ちはないが、その光景が見れないのは少し残念だ。


 森に突入する前にクラムにも強化魔法をかけておいた。脚力を強化しただけだがクラムは驚いていた。


『こんな強化倍率が出せるなんてあんた何者?』だとさ。まあ俺にだって理由は分からないんだから答えようがないんだけどね。



 今、俺の前を走るクラムが手に持っているのは剣ではない、銅鑼だ。もう片手のバチでじゃんじゃん銅鑼を鳴らしながら彼女は走っている。


 別にイジメている訳ではない。森に住む生き物も、魔物も好戦的なものは少ない。こうやって爆音を響かせていれば無駄なエンカウントを減らせるというわけだ。


 まあ当然クラムは嫌がっていた。しかしシェフィが無言で穴を掘り始めると素直になった。埋められたくなければ最初から素直にすればいいのに。



 そうこうしている内にも日が暮れてゆく。瘴気もかなり濃くなっている。もう10メートルほど先までしか見えない。そろそろ松明を点けるべきだろう。


「クラム、松明を出して点けてくれ。2本だ」


「はいはい了解」


 2本の松明に火が点いた。周りの木々がボゥと光に舐められる。視界は20メートルほどまで広がったかな。


「これでいい? さあ出発しましょう」


「おいおい、クラム。そこの銅鑼はどうするつもりだ?」


「どうするって、背負って持っていくしかないでしょ。手は塞がってるんだし。それともあんたらのどっちかが銅鑼を叩いてくれるの?」


「イヤだ」


「私もイヤ。恥ずかしいし」


「ああもう! やっぱり私が背負うしかないじゃない!」


「いや、大丈夫だ。俺にアイデアがある」




「ほら、松明も装備できたし銅鑼も叩けるぞ、良かったな」


「うわー、クラムさん可愛いですねー、プッ」


「今笑ったでしょあんた!」


 クラムは頭に縄で松明をくくりつけて、両手に銅鑼とバチを持っている。 炎は上に昇るのだから松明は頭に装備すればよい。非常に合理的だ。俺はやりたくないけど。


 日はいつのまにか落ちていた。あたりは真っ暗。松明だけが頼りだ。


「よし、出発だ。お前はどんどん銅鑼を鳴らしとけ」


「り ょ う か い。あれ? まだ強化魔法が残ってる。普通なら1時間も続かないのに」


「ふっふーん、リリの魔法はすごいのだ。」


「いや、本当に凄いよ。私よりも遥かに高い強化倍率と持続時間、あんた本当にどうやってその力を手に入れたの? 私にも教えなさいよ」


「俺の才能だよ。いいからまた走るぞ」


「イヤ! こんなのどう考えてもおかしい! 教えてくれるまで離さないから!」


 クラムが俺の腕を強く抱き締める。おお!こんなにおっぱいを感じたのは生まれて初めてだ。柔らかくて温かくて、布越しに俺の腕に吸い付いてくるみたいに感じる。


 彼女のそれは特別大きいから、腕は谷間にすっぽりと飲み込まれてとろけそうになる。うむ、世の男性たちがおっぱいに夢中になる気持ちが少し理解できた。



 それにしてもこいつは邪魔だ、早く離して欲しい。俺は腕を振るがおっぱいが衝撃を吸収し、彼女は全力でしがみついているので中々離れない。ヤバイぞ、この状態が長く続きすぎるときっと......


「その薄汚い腕と穢らわしい胸をリリから離せ」


 やっぱり。シェフィの長い銀髪が風もないのに浮き上がる。なんで魔法使えてるんだこいつ。


「誰がリリに触れることを許可した? 本来なら指先一つ触ることも許されない立場だということを理解してないのか?」


 俺に触るにはシェフィの許可がいるらしい。初耳だ。


 シェフィがハンマーをゆらりと振り上げる。どうせ俺は殴られてもノーダメだがクラムは、多分死ぬ。はあ、俺はドラゴン退治にきたんだぞ。俺の周りにはドラゴンよりも面倒な女しかいないのかよ。


 シェフィのハンマーが降り下ろされた! 本気のスピードだ。それを俺は掴まれていない方の片手で止めた。凄まじい音。俺の後ろ180度の木が砕ける。


「おいおいシェフィ、仲良くしろよ。一時的にとはいえ俺たちはパーティーなんだから」


「リリが言うなら...... でも早く離れてー!」


「ひゃ、ひゃい。ユートさん、ありがとうございましゅ」


 クラムがぼてっと地面に座り込む。どうやら腰が抜けたらしい。


「ほら、早く立て。それと俺の『アレ』を出してくれ。出発するぞ」




「うーんやっぱり森で食べるなら海の幸だよな」


 走る俺の手には串刺しの焼き魚がある。両手で合わせて4匹。俺のチート魔法で魚を凍らせ、焼き上げた一品だ。


「ちょっと意味が分からない」


「ずるいー! 私にも1本ちょうだい!」


「欲しければ自分で焼け。もう魚はないけどな」



 そんな無駄口を叩きながら、俺たちは夜の森を踏破していく。瘴気も濃度を増してきた。銅鑼の音のお陰か、まだ敵には出くわしていない......?


「止まれ」


 前後の2人がピタッと動きを止める。


「獣が1匹。かなり近い。魚に気を取られて気付かなかった。俺たちの音には気づいていたはず。ということはかなりの強敵だ。出るぞ!」


 前方から巨大な熊が現れる。体長は5メートルほど。噂で聞いたことがある。この森のヌシは熊で、おとなしい性格をしているのだと。


 しかしその熊は今、ヨダレを垂らしながらのっそりと近付いてくる。これも瘴気の影響なのか?熊は俺を、正確には俺の手元を見ている。


「ねえリリ、あいつ魚が欲しいんじゃない?」


「なんだ魚か。これは俺の魚だ、絶対にやらん! クラム、やっちまえ!」


「ひゃいっ!」


 俺はクラムの胸をわしづかみにする。彼女が変な声をあげる。黙ってろ、強化魔法をかけてやってるんだから。別に触らなくてもかけられるのは秘密だ。


「え? なんだこれ体が軽い、神経が

 研ぎ澄まされる、力が溢れてくる!」


「剣も必要ないだろ。やれ」


「今なら魔王だって一撃で倒せそう。 熊なんて私に任せなさい」


「ありがとよ。ほらシェフィも1本魚食え」


「わーい、モグモグ自然の香りに白身の淡白な風味が合わさって中々に乙ですね」


「分かってるじゃないか!」


「ハアッ!」


 クラムが熊に正拳突きを繰り出す。熊は巨木に叩きつけられ、ノックアウト。


「熊肉にしていこうかな」


「ユート様、今は先にドラゴンを倒しましょうよ」


 クラムが俺に提案してきた。正論だ。


「そうだな。先を急ごう」




 それからも森を走った。そろそろ真夜中だろうか。森の中心に近づくと共に瘴気も濃くなる。


 突然、瘴気がなくなった。なぜだ? 分からん。ただ代わりに大きな存在感が空気に満ちている。


「2人とも、ドラゴンが近いみたいだ。ここからは歩こう」


 シェフィとクラムが無言で頷く。彼女たちも存在感に気付いたらしい。俺たちは足音を忍ばせて、耳を澄まし、夜の森を歩く。

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