7話 騎士選抜大会再び! あの巨乳も再び!
「リリが騎士になってからそろそろ1年になるんだね」
「もうそんなに経つのか、早いもんだな」
シェフィは俺の作った料理をパクつきながら喋る。結局こいつが自分で料理を作ったのはここにきた初日が最初で最後だった。まあギルドの依頼で戦うのはシェフィばっかりだから文句はないけどな。料理するのは好きだし。
「ならそろそろ騎士選抜大会もあるんだよな?」
「うん、毎年の恒例行事だからね。最近告知のポスターをたまに見かけるよ」
「俺が決勝で戦ったあいつは今年も参加するのかねぇ」
そう、俺がおっぱいを揺らして勝った相手だ。もう顔は覚えていないが、巨乳だったことだけは覚えている。
「そりゃあ参加するんじゃない? 私でも全く手に負えなかった相手だよ? リリがいない大会なら優勝確定だもん」
「あっそうだ。お前もまた大会に参加したらどうだ? 去年より相当レベルアップしたし、経験も積んだしさ」
「えー? 今の私なら去年の彼女に勝てると思うけど、今の彼女がどれだけ成長しているか......」
「大丈夫大丈夫、俺に任せとけって」
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怒号、歓声が轟くコロッセウム。俺は観客席にいる。シェフィには限界ギリギリまで強化魔法をかけておいた。今の彼女に勝てるのは俺くらいのものだろう。
「皆さんお待ちかねの賭け優勝予想だよ。さあさあお爺ちゃんもお婆ちゃんも、お兄さんもお姉さんも、1枚くらいは買っときな。政府公認だよ」
賭けなんてやってるのか。去年は俺に賭けたやつがしこたま儲けたんだろう。今のオッズを見てみる。
クラム=フェン=パコールが1.1倍、ああ思い出した、こいつが去年決勝で戦った巨乳だ。ずいぶん期待されているらしい。
対してシェフィ=タミル=アマルガムは30倍。あんまり賭けられていないと言えるだろう。
「おい」
「はい! 毎度あり! 誰にいくらです?」
「シェフィ=タミル=アマルガムに金貨1000枚だ」
「せ、せ、せ、1000枚!?」
「駄目か?」
「い、いえ。お客様の提示を断ることは禁止されています。それではこちらを」
「うん、ありかとう。そろそろ試合が始まるな」
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簡潔に述べればシェフィもクラムも決勝までなんの問題もなく勝ち進んだ。そして問題の決勝が始まった。
「レディィ、ゴゥ!」
クラムが気合いと共に地面を踏みしめる、青い瞳が炎のように輝く。コロッセウムが揺れた。すげえ力だな。普段のシェフィと同じくらいの筋力か。
俺は買ってきた焼き鳥を食べながら戦いを眺める。ネギのパリッとした焦げ具合が絶妙だ。
クラムが剣を掲げると炎がほとばしった。元々の4倍ほどの大きさの炎剣が形成される。
俺は油が染み込んだ口に、酸味の効いた野イチゴジュースを流し込む。野性味のある香りが鼻にまで抜けた。
鎧をきた少女が飛びかかった! 金髪をなびかせ、風に巻き上げられるように飛び、空中で突然軌道が低く速く変化する。
総合するとクラムはこの1年で相当の修行を重ねたようだ。そして野イチゴのジュースは肉料理全般にマッチするだろう。
我らがシェフィはハンマーを空振りした。空中を駆けていたクラムは衝撃波に囚われ、コロッセウムの外へ吹っ飛んでいった。俺とシェフィの倒し方はどっちが親切だろう? 僅差で俺のような気がする。さあ帰ろ帰ろ。
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「リリのおかげで私まで騎士になれちゃったー!」
「俺はシェフィのおかげで金貨3万枚儲けた」
「なにそれ? 私の戦いはどうだった?」
シェフィがハンマーを構えるフリをする。
「野イチゴのジュースが旨かった」
「......なにそれなにそれ?」
大会も終わり、俺とシェフィで家に帰る道でのことだった。
「やっと見つけた! あんたら2人組!?」
騒がしい声と走ってくる音が後ろから聞こえる。
「うん? お前は、ああ、クラムさんですか。去年も今年も、決勝は残念でしたね」
「そうそうそう!って違ーう! いや変わらないけど!」
何言ってんだこいつ。1人コントを始めたぞ。頭おかしくなったのか?
「ユート! それにシェフィ! あんたら何か不正してるでしょ!私には分かるんだからね!」
おっ、流石だな。俺のチートに薄々気付いているらしい。
「うーん、シェフィ。変な人は無視しようか」
「うん、そうする」
「......無視するな! そ、そんなことしたって私は諦めないからね!」
しばらく歩いた。クラムは色々喚きながらついてくる。こいつに自宅を知られたら面倒そうだ、毎日遊びに来られても困る。俺は行くあてもなく歩き続ける。
「うう、無視しないで......」
割とすぐにクラムの心は折れた。メンタル弱いな。それでもトボトボとついてくるのは面倒だ。
あ、目の前にギルドがある。ここでこの女を引き取って貰えるかもしれない。俺はギルドの扉を開ける。
「すいません。ちょっとお願いがあるんですけど」
「ああ! ユートさんですか?! ちょうどお呼びしようかな、と思っていたんですよ」
こちらから頼むつもりだったのだが、あちらが先に何かを頼むつもりらしい。
「俺を呼ぶほどの用事とはなんです?」
「最近森の瘴気が濃くなっている、ということで森に調査隊が派遣されていたんです。そうしたらなんと最奥部でドラゴンが発見されたんです! 龍ですよ龍!」
「災厄に繋がるという龍ですか」
「確かにそうです。ですが問題は調査隊が壊滅したということ。生き残りは1名のみ。この連絡を受けてギルドはドラゴン討伐を最緊急依頼としました。いつこの街まで『食事』をしにくるか分かりませんから」
「分かりました受けます。今日中に済ませましょう」
「では登録はそちらの3人でよろしいですね?」
「3人?」
俺は後ろを振り返る。俺に、シェフィに、ニッコリと笑ったクラム。
「いやこいつはメンバーじゃありません」
「加えてくれたっていいじゃない!」
既にクラムは涙目だ。涙は床でなく胸に落ちた。
「申し訳ないのですが、この緊急依頼は最低限のパーティー構成である戦士、魔法使い、僧侶の3名以上でないと受けられないんですよ」
俺はまた後ろを振り返る。またクラムがニッコリと笑っている。なんかムカつくぞ。
「そちらはクラム=フェン=パコールさんですよね? 彼女も実力者ですし問題ないのでは?」
「ああ、うん、はい。分かりましたこの3人でお願いします」
「よっしゃ! あんた達のチートの秘密をこの目で目撃してやるんだから!」
ううう、面倒だ。バレて困るもんでもないけれど。
「ねえねえリリ、この女どうする? 森に入ったらどこかに埋めようか?」
目が据わっているシェフィは怖い。今、恐ろしい計画が彼女の頭で練られているのが分かる。
「ま、仕方ないだろ。ヤるのも可哀想だし、荷物持ちでもさせとこうぜ」
「リリがそう言うならいいけど......」
俺史上、最高にヤバそうな冒険が始まろうとしていた。いや、ドラゴンには楽勝だと思うぞ。